250711_LOBA_00

ライカカメラ社(以下:ライカ)によるライカ・オスカー・バルナックアワード(LOBA)は、世界的な権威を誇る写真コンテストとして2025年度で45回目を迎える。

このたび、厳正な審査を経てファイナリスト12名が選出された。選ばれたのは、深いメッセージ性と印象的なビジュアルで見る者を魅了する傑出した写真作品である。ファイナリストとその作品は、LOBAのウェブサイトで見ることができる「。今後、各作品には解説テキストや詳細情報が順次追加される予定だ。

2025年度ライカ・オスカー・バルナックアワードの審査員は次の通りである。

  • ジェーン・エヴリン・アトウッド(米国/フランス):写真家、1997年度LOBA受賞者
  • シリル・ドルエ(フランス):「ル・フィガロ」誌撮影副部長
  • フェリックス・ホフマン(オーストリア):フォト・アーセナル・ウィーン 芸術監督
  • クルト・ホルツ(ドイツ):プレステル出版 写真・建築担当編集長
  • カリン・レーン=カウフマン(オーストリア):ライカギャラリー・インターナショナル代表兼アートディレクター

ライカは1980年からLOBAを通じて優れた写真家の活動を称えている。例年通り、審査員が世界約50か国120名以上の専門家により推薦された写真家の作品を審査、ファイナリストを選出した。各推薦者は、自身の見識と経験にもとづいて最大3名の写真家を候補者として推薦している。また新人部門の賞である「ライカ・オスカー・バルナック・ニューカマーアワード」については、世界17か国20の国際機関および高等教育機関との協力のもとで選出される。

最終的な受賞者は、一般部門・新人部門ともに10月9日にドイツ・ウェッツラーにあるライカ本社で開催される授賞式当日に発表される。

「ライカ」誕生から100年となる本年は、授賞式を「100 years of Leica: Witness to a century | ライカの100年:世界を目撃し続けた1世紀」をテーマとした記念イベントの一環として、大規模なセレモニーとともに開催予定である。一般部門の受賞者には賞金40,000ユーロと10,000ユーロ相当のライカカメラ製品が、新人部門の受賞者には賞金10,000ユーロと「ライカQ3」がそれぞれ贈呈される。

10月9日の授賞式の後には、2025年のファイナリストたちによる写真展が、WhiteWall社協力のもとエルンスト・ライツ・ミュージアムにて開催される。また、受賞者とファイナリストの全作品および解説を紹介するカタログも出版される。この写真展を皮切りに、LOBA 2025受賞者とファイナリストの作品は世界各地のライカギャラリーや写真フェスティバルでも順次展示される予定である。

2025年度ライカ・オスカー・バルナックアワード ファイナリスト

(一般部門/新人部門、アルファベット順、敬称略)

リンゼイ・アダリオ:"Mom, I Want to Live" – A Young Girl Battles War and Cancer

250711_LOBA_01

アメリカ人写真家リンゼイ・アダリオ(1973年~)は、2020年、2歳で希少な眼腫瘍が見つかったウクライナの少女の運命を中核に据えた写真シリーズを制作している。 治療可能とされるその病は、戦争の影響で中断を余儀なくされた。戦火に引き裂かれた国で、諦めることなく必死に生きるための闘いを続ける幼い少女とその家族の胸を打つ物語である。

アルレット・バシジ:Beyond Numbers

250711_LOBA_02

コンゴ民主共和国(DRC)出身のアルレット・バシジ(1999年~)は、自身の手掛けるプロジェクトで、現地における反政府勢力と軍隊間の紛争が残す傷跡を、写真を通じて発信している。同国では600万人以上のコンゴ人が避難を強いられた。バシジは、2021年以来、戦火に苦しめられるコンゴ東部の北キブ州の日常を、自らも住人の一人として記録している。カメラによる記録を通じて、バシジは統計の中の「数字」としてしか扱われない人々に顔と名前を与えている。

アレハンドロ・セガラ:The Two Walls

250711_LOBA_03

かつて、亡命希望者にとって安全が保証される避難先として知られていたメキシコ。しかし近年、本国へのさらなる流入を阻止しようとする米国の移民排斥政策を支える形で、その立場は大きく変わった。ベネズエラ出身で現在はメキシコに住むアレハンドロ・セガラ(1989年~)はモノクローム写真のシリーズで、メキシコ国境地帯で厳しい現実に翻弄される人々の運命を描いている。

セルゲイ・ドゥヴェ:Bright Memory

250711_LOBA_04

「明るい記憶」というロシア語の表現に込められた感情を、写真というかたちで捉えたシリーズ。日常のひとコマに「郷愁」や「分断」の記憶が滲む作品である。モルドバ生まれのドイツ人写真家セルゲイ・ドゥヴェ(1999年~)は、ロシア政府の支援を受ける国際的に未承認の地域トランスニストリアにルーツを持つ家族の視点から、同地域との繋がりを写真で表現している。トランスニストリアは1990年、モルドバからの独立を宣言した。

ギデオン・メンデル:Deluge

250711_LOBA_05

南アフリカ出身の写真家ギデオン・メンデル(1959年~)は、世界的な気候危機をテーマとした写真シリーズによって、気候変動の影響が富や階級、人種、地理的境界を超えてすべての人に及んでいることを伝えている。2007年からは気候変動による洪水被害をテーマとするプロジェクトを展開、世界13か国で洪水の現場を記録してきた。メンデルは、被災者の人々の姿をダイレクトに伝えるポートレート写真に、抽象的に表現された風景写真を組み合わせることで、新たな気候変動の類型を描き出している。

スタニスラフ・オストロウス:Civilians. The Gray Zone

250711_LOBA_06

容赦ない砲撃にさらされるウクライナのドネツィク、ヘルソン、ハルキウ。逃れることのできる人々はすでにその土地を去り、貧しく、年老いた人々だけが今もそこにとどまっている。店は閉まり、電力の供給も不安定な毎日。人々の運命は、ぎりぎりの状態が続く地帯で支援を続けるボランティアの手にかかっている。ウクライナ人写真家スタニスラフ・オストロウス(1972年~)によるモノクローム写真シリーズは、戦争の厳しい現実、絶望に満ちた状況下に暮らす人々の姿を伝えている。

彭祥杰(シアンジエ・ペン):The Rise of Queer Underground Party Culture in China

250711_LOBA_07

中国人写真家彭祥杰(1961年~)は、2017年から中国のさまざまな都市でLGBTQ+コミュニティを撮影してきた。モノクローム撮影によるポートレート写真には、オープンな環境で独自のアイデンティティを存分に謳歌できる「自由な場」が写し出されている。モノクローム写真のシリーズは、クラブやパーティー、コンテストといった、LGBTQ+コミュニティへの国家規制が続くなかで文化的なムーブメントとなった現場で撮影されたものである。国が徐々に国際的な影響を受け入れ始めるなか自由はアンダーグラウンドで確かに広がっている。

アイヴァー・プリケット:War on the Nile – Fragmented Sudan

250711_LOBA_08

世界の注目が届かぬところで、スーダンでは2年以上にわたり苛烈な内戦が続いている。11万人を超える人々が避難生活を強いられ、死者の数は15万にのぼる。アイルランド人写真家アイヴァー・プリケット(1983年~)は「The New York Times」誌の取材のため、昨年、戦火で荒廃する国を訪れた。プリケットによる記録は、世界最大級の人道的危機のひとつとされるスーダンの悲惨な実態を伝えている。そこには、国で繰り広げられる悲劇の数々だけでなく、絶望の中にある避難民たちの現実も切り撮られている。

フレデリック・リューガー:I Am a Stranger in This Country

250711_LOBA_09

イギリスとアイルランドのトラベラー(移動型民族コミュニティ)の人々と2年にわたって生活を共にした。彼らの伝統的な暮らしは、時代とともにますます維持することが困難になっている。英国のEU離脱とナショナリズムの高まりにより、移動型民族コミュニティに対する排斥と差別はますます強まり、またソーシャルメディアによって流布される誤情報と悪意的コメントが彼らの自由を脅かしている。写真は、自身の文化の解放が許される最後の場である馬市の様子を捉えたものである。

アナスタシア・テイラー=リンド:5km from the Frontline

250711_LOBA_10

イギリス人写真家アナスタシア・テイラー=リンド(1981年~)は、ジャーナリストのアリサ・ソポワと共に、10年にわたりウクライナの戦争を取材してきた。彼女が主に記録してきたのは、東部ドンバス地域に暮らす人々の運命である。2014年に戦争が始まった同地域は、特に動乱が激しく、破壊的な状態に陥っている。強いメッセージ性を持つこの長期プロジェクトは、軍事的な暴力と脅威にさらされながら毎日を生き抜くとはどういうことかを、世界にダイレクトに訴えることを目的としている。

ジョディ・ウィンドフォーゲル:Life Under Occupation – Cissie Gool House

250711_LOBA_11

南アフリカ共和国出身の写真家ジョディ・ウィンドフォーゲル(1992年~)による写真シリーズは、ケープタウンの住宅プロジェクト「シシー・グール・ハウス」を取り上げている。元病院だったシシー・グール・ハウスは、2017年、都市計画に対する抗議として始まった社会活動「Reclaim the City(リクレイム・ザ・シティ)」によって占拠され、住宅危機に直面した2000人以上の人々が暮らす避難の場へと変貌した。このシリーズは、アパルトヘイト時代から排他的な都市計画や社会的不平等に対抗して築かれたコミュニティの姿を描き出している。しかし、その暮らしも昨年の強制退去によって終わりを迎えた。

詹友斌(ジャン・ヨウビン):Migrant Workers in China’s Assembly Line

250711_LOBA_12

成長を続ける中国の経済は、300万人を超える出稼ぎ労働者によって支えられている。彼らはより豊かな地域で働くために地方から都市部へとやって来る。 人口100万人を超える都市・東莞(ドンガン)では、住民の70%以上がこうした出稼ぎ労働者である。詹友斌(1973年~)は、自身も出稼ぎ労働者として30年にわたり現場に身を置きながら、独学で写真を学び、彼らの過酷な労働と限られた自由を記録し続けてきた。選出された作品に収められた写真の多くは過去2年以内に撮影されたものだが、なかには16年前のものも含まれている。

2025年度LOBA審査員の言葉

カリン・レーン=カウフマン氏:本年度のライカ・オスカー・バルナックアワードの審査は、写真が持つ社会的な力に対する深い理解と鋭い眼差しをもとに行われました。

クルト・ホルツ氏:審査員は、写真に関わるあらゆる分野の専門家によって構成されています。編集者、キュレーター、写真家といった面々が、カリン・レーン=カウフマンおよびライカカメラ社の担当部門と協力、非常にバランスのとれたチームとなっています。審査に関わる準備もスムーズで、プロ意識の高さをうかがわせる一流の仕事ぶりでした。ライツパークでの審査という特別な環境もまた格別な体験となりました。

フェリックス・ホフマン氏:LOBAはここ数年で、より強く国際的な舞台へと位置づけられるようになりました。推薦作品は世界中から寄せられています。欧州的な視点が確かに存在しつつも、それが多様でグローバルな文脈の中に自然に溶け込んでいるのを見るのは嬉しいことです。文化的視点が、より多様になってきているのを感じます。その意味で、LOBAはかつてなく重要なコンテストになっています。

シリル・ドルエ氏:LOBAは、写真に関するトレンドやテーマを把握するうえでの重要な指標です。写真家としての評価だけでなく、本来なら注目されにくい才能にスポットライトを当てる場でもあります。LOBAは、質の高さ、多様性、社会妥当性の代名詞として、写真に関わるさまざまなシーンで確かな国際基準となっています。

ジェーン・エヴリン・アトウッド氏(1997年度LOBA受賞者):OBAは非常に高く評価されている賞で、トップレベルの称号であることは広く知られています。もし運と実力が伴って受賞できたならそれは素晴らしいことです。LOBAを受賞することで注目を受け、人々は作品をこれまでとはまったく違う目で見てくれるようになります。