株式会社ニコンが主催する国際的な写真・動画コンテスト「Nikon Film and Photo Contest」の2025年度授賞式が10月12日に開催され、受賞者および受賞作品が発表された。
このコンテストは1969年に創設され、50年以上の歴史を持つ。プロ・アマチュアを問わず、国籍、年齢、性別、使用機材に制限がないことから、世界中の幅広い層から作品が寄せられる国際的なコンペティションとして知られている。
2024年から2025年にかけて行われた今回は、写真部門として1枚の写真で競う「単写真カテゴリー」と、複数の写真で構成する「組み写真カテゴリー」が設けられた。また、動画部門には、20秒から40秒の「スーパーショートフィルムカテゴリー」と、3分から5分の「5分フィルムカテゴリー」の2つのカテゴリーが設定され、それぞれのテーマに沿った作品が募集された。授賞式の様子を紹介しよう。
主催者と審査委員長が強調する「言葉を超える物語の力」
授賞式では、まず主催者を代表して株式会社ニコン 代表取締役社長 兼 CEOの徳成旨亮氏が登壇した。徳成氏は、現地およびオンラインでの参加者へ歓迎の意を表し、ニコンが長年にわたりビジュアルストーリーテリングの力を信じてきたと述べた。

徳成氏は、1枚の写真や短編動画が持つ、言葉の壁を越えて感情を揺さぶり、変化を促す力を強調。1969年に始まったコンテストが半世紀以上の歴史を重ね、今回で40回目を迎えたことにも触れた。また、昨年デジタルシネマ技術で世界的に評価の高いRED社がニコングループに加わったことを受け、コンテスト名を「ニコンフィルム&フォトコンテスト」に改称した経緯を説明。これは写真と動画、両分野における創造的表現を育成し、新たなストーリーテリングの形式を探求するアーティストを支援する姿勢の表れであると語った。
さらに、今年のテーマ「Inspire(インスパイア)」には、応募作品が前向きな印象を残し、新たな視点をもたらすことへの願いが込められていると述べた。180以上の国と地域から情熱的な作品が集まったことに深い感謝を示し、ビジュアルストーリーテリングが普遍的な言葉であることを改めて気づかせてくれると締めくくった。
続いて、審査委員長を務めたサラ・リーン氏(「Visual Thinking Collective」創設者・編集者、「ナショナルジオグラフィック・パートナーズ」名誉写真ディレクター)からのビデオメッセージが上映された。

リーン氏は、180カ国、2万570名の応募者による4万5412点の中から選ばれた受賞者を称賛。受賞作品は個人的な視点だけでなく、世界全体のビジョンを代表し、喜びと希望を示すものだと評価した。また、ビジュアルストーリーテリングを「文化の隔たりを埋める最も強力で普遍的な言語の一つ」と表現し、写真家は他者の人生に招かれ、敬意をもってその姿を写し取ることが重要であると述べた。
審査については、東京で3日間にわたり活発な議論が交わされ、ビジュアルの美しさ、創造性、物語性など様々な側面から熟慮を重ねて選考したと明かした。素晴らしい作品が多数あったため、選考は決して簡単ではなかったと振り返り、最後に審査員と運営チームへの感謝を述べてメッセージを終えた。
スーパーショートフィルム部門グランプリはイランのHamed Nobari氏が受賞
各部門のグランプリ受賞作品受賞の様子を紹介していこう。
「スーパーショートフィルムカテゴリー」のグランプリには、イランのHamed Nobari氏による作品「The small red, big blue(スモールレッド・ビッグブルー)」が選出された。
授賞式を欠席したNobari氏に代わり、プロジェクトマネージャーのファティナ・アウェディ氏が代理で登壇した。
Nikon Photo Contest 2024-2025
[作品のストーリー]
環境問題と海洋生物について、グローバルな視点から取り組んだ作品です。
子どもたちは魚や海が好きです。その思いを大切にし、自然への敬意を忘れずにいたいと思います。
アウェディ氏は、司会者から作品の着想について問われると、まずニコンへの感謝を述べ、夫であるNobari氏からのメッセージを伝えた。作品のテーマはイランにとって重要な「自然」であり、特に深刻な水不足という気候問題に焦点を当て、自然への敬意と水の重要性を表現したかったと説明した。また、芸術にはブランドはなく、世界中の人々が芸術のために集うことの意義を語った。今後の活動については、Nobari氏が作家に関する短編動画のプロジェクトに取り組んでいることを明かした。

審査員のマイク・フィギス氏は、この受賞作品を「純粋なシネマ」と高く評価。短い時間の中にストーリー、ミステリー、動き、そして結論が凝縮されており、音の使い方も素晴らしいと述べた。ドローンを用いた撮影の難易度を推察しつつ、忘れがたい映像であると称賛。最後に審査員を代表して感謝の意を表し、受賞者の将来の成功を祈念すると締めくくった。
5分フィルム部門グランプリはナイジェリアのAdemola Falomo氏が受賞
動画部門、5分フィルムカテゴリーにおいて、ナイジェリアのAdemola Falomo氏が制作した「Finding Serenity(静寂を求めて)」がグランプリを受賞した。
Nikon Photo Contest 2024-2025
[作品のストーリー]
「Finding Serenity」は、COVIDによるロックダウン中に、ナイジェリア出身のアーティストであるYimeeka氏の詩に深く心を動かされたことがきっかけで生まれました。私は友人たちと共にこの作品を形にし、混沌の中の安らぎや、不確実さの中にある美しさを探求しました。
受賞したFalomo氏は、日本を訪問できたことへの喜びを述べた。作品はナイジェリアの静かな環境下で、優れた制作チームと共に作られたものであると語った。この映像作品は英語の詩を基にしているが、Falomo氏は自身のルーツに基づき、詩をウバン語に翻訳して使用したという。その意図について、ウバン語が持つ表現の力強さを通して「静けさを見つける」というテーマをより深く表現したかったためだと説明した。ナイジェリアの公用語は英語であるが、あえて地域の言語を用いることで、作品に独自の深みを与えている。

また、Falomo氏は最近完成したばかりの新作短編フィルム「FLOWERS」についても言及した。この作品は、父親を亡くした少年が一家の長としての新しい役割を担っていく物語であり、2022年に自身が父親を亡くした実体験が反映されていると明かした。
審査員のマイク・フィギス氏は、Falomo氏へ祝辞を送り、作品を「本当に素晴らしいクールな映画」と評価した。特に、制作プロセスの一部として効果的に使われている音の表現に感銘を受け、詩的であると評した。さらに、照明、音、演技といった映画の持つあらゆる可能性が作品内で表現されていると述べ、より大きなスクリーンで鑑賞したかったと語った。Falomo氏が来年、スペインとナイジェリアを舞台にした長編映画の制作を計画していることを明かすと、フィギス氏は強い期待を示し、「この作品は受賞に値する」と改めて称賛の言葉を贈った。
単写真部門グランプリはフィンランドのTiina Itkonen氏が受賞
単写真カテゴリーにおいて、フィンランドのTiina Itkonen(ティーナ・イトコネン)氏が撮影した作品「Jonas(ヨナス)」がグランプリに選出された。
[作品のストーリー]
Jonasは、グリーンランドで最も孤立した集落のひとつであるサヴィッシヴィクに暮らすイヌイットです。サヴィッシヴィクはグリーンランド北西部、北極圏から千キロメートル以上も北に位置しており、極夜と白夜がそれぞれ4ヶ月続く地域です。
グリーンランド北西部のイヌイットは、世界で最も北に住む先住民族です。グリーンランド北西部では農業が不可能なため、アザラシやセイウチなどの北極の動物を狩ることが長らく生活の重要な活動の一つであり、これらの動物は多くの家庭にとって主な食料源となってきました。しかし近年では海氷がますます薄くなり、海氷上の狩りは危険が増しています。融解する海氷は、イヌイットの伝統的な暮らしに大きな困難をもたらし、やがてはその伝統が永遠に失われてしまうかもしれません。
受賞したItkonen氏は、学生時代から30年以上にわたりニコンのカメラを愛用していると明かし、「このニコンの賞を受賞することができて大変光栄です」と喜びを語った。

この受賞作品は、Itkonen氏が30年にわたり続けているグリーンランドのドキュメンタリープロジェクトの一環として撮影されたものである。撮影地は北極圏から1000キロ離れたグリーンランド北西部で、4ヶ月間太陽が昇らない極夜と、逆に太陽が沈まない白夜が4ヶ月続く厳しい環境にある。Itkonen氏は、現地に長期滞在し、まず住民と信頼関係を築いてから撮影に臨むという手法を長年続けてきた。そうした厳しい環境の中でも、そこに住む人々はユーモアと喜びに満ちた生活を送っているという。作品に写る少年Jonasは、スーパーマンの衣装を着てテレビで西部劇を見ている様子が捉えられている。
審査員の一人である何伊宁氏は、この作品を「非常に強力なパワフルなイメージ」と高く評価した。また、長年にわたるItkonen氏の献身的な制作活動に対しても敬意を表した。
Itkonen氏は、現在「Piniartoq」という、伝統的なイヌイットの家族を追った新しいドキュメンタリープロジェクトに取り組んでいる。
組み写真部門グランプリは楊磊(ヤン・レイ)氏の「Farewell-able」
写真部門、組み写真カテゴリーにおいて、楊磊(ヤン・レイ)氏の作品「Farewell-able(別れ得るもの)」がグランプリを受賞した。
[作品のストーリー]
私たちは引っ越しの際などに「さようなら」や「別れ」を口にしますが、それは人や場所とのつながりを表しています。中国を離れる前に、私は自分の故郷を撮影し、自分にとって「別れ」とは何かを見つめ直しました。
授賞式で楊氏は、「夢のようで信じられない」と、受賞の喜びを語った。この作品は、楊氏が故郷である中国を離れ、日本で写真を学ぶ前に撮影されたものである。自身の故郷である江蘇省塩城市での個人的な記憶を記録したものであり、新しい生活を始める前の過去の人生を表現したという。

審査員の何伊宁氏は、この作品が楊氏の来日前の中国における日々の生活を描写していると評価した。
楊氏は現在、日本で写真を学んでおり、今年卒業を控えている。今後の活動として、故郷の女性に関するプロジェクトと、自身の卒業制作に取り組んでいることを明かした。在学中に国際的な写真コンテストで最高賞を受賞する結果となった。
受賞作品は「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」で展示へ
式の最後に、ニコンの常務執行役員 映像事業部長の池上博敬氏がコンテストの総評を述べた。
池上氏は、まずグランプリ受賞者をはじめとする全ての受賞者へ祝辞を述べ、来場者への感謝を伝えた。その上で、このコンテストは単なる競争の場ではなく、情熱的なクリエイターたちが集い、互いに刺激を与え合うコミュニティとしての役割を重視していると語った。

今年の審査について、受賞作品は美しさや構成だけでなく、写真や動画を通じて語られる物語の力強さが選考の決め手となったと説明した。審査はアジア、ヨーロッパ、南北アメリカから集まった多様な文化的背景を持つ審査員によって、数日間にわたる活発な議論を経て行われた。池上氏は、動画部門を率いたマイク・フィギス氏、写真部門の何伊宁氏、そして審査員長のサラ・リーン氏をはじめとする審査員全員に深い謝意を表した。
また、受賞作品をより多くの人々が鑑賞できる機会として、日本最大級の写真イベントの一つである「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」に協賛する形で、授賞式当日から10月27日まで受賞作品展が開催されることを発表した。
受賞作品は、10月14日よりコンテストの公式サイトで公開されるほか、今後世界各地のニコンの施設を利用した展示会も予定されている。池上氏は、このコンテストが今後もクリエイターを刺激し、映像文化の未来に貢献していくことへの期待を述べ、世界中のクリエイターが映像表現を通じてつながり、表現し続けることを願うとして、総評を締めくくった。