キヤノンのレンズおよびコンパクトカメラの新製品を直接確認する機会を得た。今回の発表でまず印象に残ったのは、インナーズーム方式を採用したフルサイズ対応魚眼ズームレンズと、VCM駆動による新世代の大口径広角単焦点という、静止画と映像制作を意識したレンズ群の存在である。
7mmが描き出す未知の視界。RFマウントならではの革新的フィッシュアイ
会場でひときわ注目を集めていたのが、キヤノンが世界初とする、フルサイズ対応インナーズーム魚眼レンズ「RF7-14mm F2.8-3.5 L FISHEYE STM」だ。
オンラインストア価格で税込258,500円という設定は、スチル用の魚眼レンズとしては高価に感じられるかもしれない。しかし、ジンバル運用やワンマンでの動画撮影を前提に考えれば、その価値は一変する。ズームしてもレンズの全長が変わらず、重心移動を最小限に抑えたインナーズーム構造。この設計こそが、動画撮影における安定したオペレーションを支える最大の武器となるからだ。
2026年2月20日発売予定
キヤノンオンラインショップ価格は税込258,500円
実際に試写して驚かされたのは、フルサイズ対応で190°という全周魚眼を実現している点である。ワイド端7mmでの撮影時には、付属のレンズフードを装着したままだとフード自体の映り込みが発生するため、フードを外して運用することが前提となる。
開放F値F2.8-3.5という明るさを確保しながら、重量を約476gに抑えた設計は、動画運用において大きな利点となる。ジンバル搭載時の総重量を軽量に保てるため、バランス調整に余裕が生まれ、撮影前のセットアップや現場での微調整も格段に容易になる。数値上の軽さ以上に、「魚眼レンズをためらうことなく撮影プランに組み込める」ことの意義は極めて大きい。
静寂と高速AF。RF 14mm F1.4 L VCMの実力
新たな広角L単焦点レンズとして登場したのが、「RF 14mm F1.4 L VCM」である。 本製品は、フィルター径Φ67mmをはじめ、外形や操作系を共通化した「RF F1.4 L VCM」シリーズの一角を成す一本である。オンラインショップ価格は税込36万8,500円と、決して安価な部類ではないが、静止画のみならず動画撮影においても極めて心強い選択肢が加わったといえる。
2026年2月20日発売予定
キヤノンオンラインショップ価格は税込368,500円
重量のあるLレンズのフォーカスユニットを、瞬時かつ高い静粛性で駆動させるその挙動は、動画撮影を強く意識した設計であることを物語っている。一方で、こうした性能は価格やサイズにも反映されており、日常的なスナップ用途や軽快さを最優先するユーザーにとっては、ややオーバースペックに感じられる可能性もある。本レンズは、撮影現場での確実性や操作精度を重視するユーザーに向けた一本と捉えるのが適切だ。
光学性能についても、ガラスモールド非球面レンズ3枚を適切に配置することで、諸収差を抑制し、画面周辺部まで高い解像性能を確保している。
さらに、キヤノン独自の特殊コーティングである「SWC」や「ASC」(Air Sphere Coating)を施すことで、逆光環境下でもフレアやゴーストを最小限に抑え込んでいる。
こうした高度な技術的進化とは別のアプローチで、市場へのメッセージを発していたのが、EOS R50の新色ホワイトモデルである。
「持ち出す動機」をデザインする。EOS R50 ホワイトが提示する“ファッション”としての価値
レンズ群とは別の軸で、市場に対する提案として分かりやすかったのが、ミラーレスカメラ「EOS R50」の新色ホワイトモデルである。スペック自体は既存モデルと同一だが、実機は「持ち出す動機」をデザインで作りにいく意図が明確だった。
価格はオープン。オンラインストアの価格は税込148,500円
発売日は2026年2月20日
EOS R50 V(ホワイト)・ダブルズームキット
価格はオープン。オンラインストアの価格は税込178,200円
発売日は2026年3月下旬
SNSで発信する若年層にとって、機材が日常に溶け込むかどうかは、撮影する機会の多さに直結する。カメラを単なる「道具」としてではなく、ファッションのように「身につけるもの」として提案する、戦略的な狙いが見て取れる。
コンパクトデジカメの代名詞が見せる到達点。PowerShot 30周年の歴史と現在地
今回の発表で興味深かったのは、コンパクトデジカメの代名詞である「PowerShot」が、30周年という節目に改めて主役として登場したことだ。スマートフォンのカメラが進化し、「わざわざデジカメを持つ理由」が問われる今、キヤノンはPowerShotを単なる小さなカメラとしてではなく、撮ることそのものを楽しむための道具として位置づけ直そうとしている。
たとえば、1996年に発売された「PowerShot 600」は、当時12万円もした。今の感覚では驚くほど高価だが、それは当時のこのブランドが、プロも認める「本気のカメラ」を目指していた証しでもある。PowerShotはこれまで、時代の変化に合わせてコンパクトカメラの可能性を常に塗り替えてきた。
ここで重要なのは、今回の30周年が単なる思い出話ではないという点だ。過去を懐かしむのではなく、「今の時代にPowerShotが果たすべき役割は何なのか」を、もう一度はっきりさせる。そんな決意を示すための大きな節目として、今回の発表は提示されているのだ。
その節目を象徴する製品が、「PowerShot G7 X Mark III PowerShot 30th Anniversary Edition」だ。メタリックグレーの「グラファイトカラー」や、コントロールリングの「綾目(あやめ)」クロスパターンは、限定モデルならではの特別感を丁寧に作り込んでいる。ストロボ上部の30周年ロゴも控えめながら効いており、国内販売分には本革仕様のグレーソフトケースが付属する。機材としての実用品質に加え、“所有する体験”まで含めて設計したパッケージだ。
希望小売価格はオープン。オンラインストアの価格は税込148,500円
発売日は2026年4月下旬
「性能」よりも「使いたくなる」工夫。キヤノンが提案するカメラの新しい価値
最新のRFレンズ群は、静止画と動画のどちらでも高い操作性を発揮できるよう設計されており、撮影現場でのスムーズな運用を支える工夫が随所に凝らされている。一方で、ホワイトカラーのEOS R50やPowerShotの30周年モデルなどは、スペックの数値には表れない「持ち歩く楽しさ」や「愛着」といった感性的な価値を重視しているのが特徴だ。
特にRFレンズ群において特筆すべきは、単なるスペック競争に陥るのではなく、実際の現場でいかに役立つかという実用性を最優先に開発されている点である。今回の発表は、単なる新製品の紹介という枠を超え、キヤノンがこれからの映像制作のあり方をどう捉えているのかを、誠実に提示するものといえる。