「お茶会」が示した、直営店の変化

2026年1月18日、ソニーストア 大阪にて動画クリエイターのうえでぃー氏を招いた交流イベントが開催された。公式には「動画クリエイターとα/FXシリーズユーザーによる交流会」と銘打たれた催しだが、SNS上では「お茶会」という親しみ深い通称で話題を呼んでいる。その穏やかで緩やかな響きが、多くの人々の関心を集める一因となった。

なぜこのイベントが、単なるトークイベント以上の関心を集めたのか。そこには、直営店という場の使われ方が、少しずつ変わり始めている兆しがあった。

ソニーストア 大阪は、中古カメラの名店が立ち並ぶ梅田の「ハービスプラザエント」にある。まずはアクセスの良い店内に足を運び、全体の雰囲気を確認した。本題は、ここが「ユーザーの集まる場」としてどのように機能しているかだ。機材の説明そのものではなく、人々の交流や関係性に注目し、イベントを通じてその実態を確かめてみた。

ソニーストア大阪は、大阪・梅田のランドマークであるハービスプラザエントの4階に店舗を構えている
住所:〒530-0001 大阪市北区梅田2-2-22 ハービスプラザエント 4F
ソニーストア 大阪はワンフロアでありながら広大な面積を有しており、横に長い空間の奥にはαアカデミーの講座用教室も併設されている

店舗運営の転換点と、その設計思想

今回のイベントは、思いつきの単発企画ではない。背景には、大阪店がここ数年かけて向き合ってきた課題と、その試行錯誤がある。その手応えと迷いの両方を確かめるべく、ソニーストア 大阪のスタッフ3名に話を聞いた。

5枚目
長年店舗を率いる土谷壮一店長(中央)、カメラ担当の磨井知穂マネージャー(右)、そして元映像クリエイターで現在はスタイリストとして活動する西玲央氏(左)

――改めて、ソニーストア大阪の特徴について教えていただけますか。

土谷店長:

ソニーストア 大阪は歴史が古く、同じビルで21年以上営業を続けている、全国でも歴史の長い店舗のひとつです。そのため既存のお客様とのつながりが非常に強いのが特徴です。現在、売上の6割以上がカメラで、まさに「カメラの店」と言えます。
高単価なGMレンズなどを買い足してくださるファンの方に支えられていますが、これからは「新規の動画ユーザー」をどう増やしていくかがミッションです。

ソニーストア 大阪は、ソニーのデジタル一眼カメラ「α」のレンズ展示が非常に充実している

――動画への強化は、具体的にどう動かれたのですか?

土谷店長:

正直に申し上げまして、数年前まで我々スタッフは動画にそれほど詳しくありませんでした。製品知識はあっても、実際に制作している人間が皆無だったんです。そこで、西さんのような元クリエイターの人材を迎え、会社の方針として動画軸の強化をスタートさせました。

磨井マネージャー:

今回のクリエイターによるトークショーやワークショップ「CREATORS HUB BASE」というイベントも、我々とクリエイターが、あるいはクリエイター同士がつながるコミュニティ作りをテーマにしています。まずは動画をやっている方々にソニーストア 大阪を知ってもらうことから始めています。

1月5日よりソニーストア 大阪にて、クリエイターの繋がりと挑戦を広げる「CREATORS HUB BASE」が始動

――梅田周辺は中古カメラ店や量販店も多いですが、その中でのソニーストアの立ち位置はどう考えていますか?

土谷店長:

どこで購入されても、ソニー製品を愛していただけるなら嬉しいことだと思っています。ただ、ソニーストアが提供するのは単なる「モノ」ではなく「体験価値」です。エントリーの方への使い方講座や、手厚い延長保証、そして専門スタッフである「スタイリスト」によるソリューションの提供ですね。

西氏:

スタイリストには、カメラやオーディオ、ゲームなどそれぞれの得意分野があります。「動画マスターEX」という社内資格を持つスタッフもいますし、量販店とは違い、その場で買わなくてもじっくり試して、長いお付き合いができるのが強みです。

――たとえば「第5世代のα7 VとFX3、どっちがいいの?」といった相談にも乗ってもらえるんですか?

西氏:

もちろんです。単に回答するだけでなく、一緒に比較したり、スタッフ個人が撮影した作例を見てもらって判断材料にしていただくこともあります。

土谷店長:

大阪店には現在、写真や動画のあらゆるジャンルに詳しい「カメラレンジャー クリエイターV」という5人の専門スタッフがいます。西さんもその一人で、彼らはそれぞれ自分で考えた講座を開いています。どの講座も満席になるほど人気で、スタッフ自身にファンがつくようなお店作りを目指しています。

――西さんはソニーストア公式チャンネル「ソニーストアTV」の制作もされているとお聞きしました。

西氏:

はい、撮影から編集まで担当しています。最近はショート動画(縦型動画)も取り入れていて、それによって少しずつ20代の方にも見ていただけるようになってきました。

――映像業界も今、独学の若い世代と、テレビ業界出身のベテラン世代で「基礎」の捉え方が違ったりして、難しい時期ですよね。

西氏:

それは現場でも感じますね。ケーブルの「八の字巻き」ができるかとか、SDカードの渡し方といった「作法」の部分です。最近は現場を知らなくても映像は撮れてしまうので、そこで摩擦が起きることもあります。
でも、今の若い人たちは学ぶ場がないだけなのです。現場に入らないと分からないような作法や知識を、ソニーストアがオフラインで学べる場所として提供できれば、業界への架け橋になれるんじゃないかと思っています。

――確かに、「八の字巻き講座」みたいなものがあったら面白いですね。

土谷店長:

面白いですね! そういう座談会や、他メーカーさんと協力した講座も積極的にやっていきたい。ソニー製品だけでなく、リグやフィルター、周辺機器も含めた「豊かな使い道」を提案できる場にしたいんです。

西氏:

実は先日、ブラックマジックデザインさんと協力して、音声編集(DaVinci ResolveのFairlight)の講座を企画したんです。映像の勉強はしても、音の勉強をする機会がないという声が多かったので。

――ソニーストアでBlackmagic Designの講座とは、珍しい試みですね。

西氏:

音のクオリティは映像以上に重要だと思っています。実際にやってみるとプロ・アマ問わず非常に反響が良かったです。ソニーはマイクも強いので、映像と音の両面からサポートしていきたいですね。

――交流の入口を作るうえで、大阪店は“触れる機会が少ない機材”も一つの特徴ですね。今日からは話題のシネマカメラ「BURANO」の展示も始まりました。

磨井マネージャー:

関西でBURANOを気軽に触れる場所はほとんどないので、西を中心に資料を作り込んで、しっかりご説明できる体制を整えました。

西氏:

FX6の操作感に近い部分はありますが、メニューが英語表記だったりするので、スタッフ全員が対応できるよう事前に準備しました。BURANOのようなハイエンド機も、気兼ねなく触りに来ていただきたいです。

土谷店長:

我々がハブになって、クリエイターの卵からプロの方までが繋がり、大きなコミュニティになっていく。ソニーストア 大阪を、そういう活動の基盤にしていきたいと考えています。

ひと通り話を聞き終えると、スタッフが座談会のスペースへ案内してくれた。椅子は円形に並び、すでに参加者同士が機材の話を始めている。ここから先は、その“会話が立ち上がる瞬間”を追っていく。

座談会で立ち上がった“実感値”の会話

13時開始の一回目の座談会の様子

13時に開始された第1回座談会は、自己紹介を終えて早々に、α7CRの導入を検討する参加者から「高画素機での夜間撮影におけるノイズ」という意外な質問が投げかけられる形で幕を開けた。

これに対し、うえでぃー氏は即座に「最近のソニー機であれば、高画素だからといって過度に恐れる必要はない」と断言した。実際の撮影経験を踏まえ、「ノイズ耐性は想像しているよりずっと高い」と語るその言葉には、スペック表を見比べるだけでは得られない説得力があった。

座談会に登壇したうえでぃー氏

続いて語られたのは、「せっかくなので、普段の動画ではあまり話さない部分も含めて」という前置きから始まる、現場での具体的な工夫についてである。詳細は省略するが、その内容はいずれも実践的で示唆に富むものだった。

以降、話題はスペックの優劣ではなく、「現場でどう扱ったか」という視点へと自然に移っていった。特に興味を惹かれたのは、機材選定や設定に関する、現場目線の“泥臭い”議論である。このあと“ローリングシャッター”の話が出たとき、会場の空気がもう一段変わった。価格帯の違う上位機種の名が挙がった瞬間、参加者の視線がいっせいに前へ寄った。

うえでぃー氏と司会進行を担ったスタイリストの小林優樹氏(右)

15時開始の2回目の座談会では、より踏み込んだ制作思想が語られた。集まった参加者の顔ぶれは、山岳映像を極めようとするクリエイターから、企業の採用動画を手掛けるフリーランス、趣味のバイクを映画的に収めたいと願うクリエイターまで、多岐にわたる。各自がFX30やFX3、α7 IVといったソニーの機材を手に、それぞれの「現場」で戦っている。

15時開始の2回目の座談会より

後半のQ&Aセクションで印象に残ったのは、うえでぃー氏の極めて現実的な視点だ。ワンオペ撮影における「こだわりと妥協の境界線」という問いに対し、氏は自身の海外ロケのエピソードを挙げた。バリ島やアメリカでの過酷なドキュメンタリー撮影。泥をかぶり、滝をくぐるような状況下で、最終的に選んだのはFX3と標準ズームレンズ一本というシンプルな構成であった。機材の数や種類を増やすことよりも、過酷な現場で「瞳AFを外さない」「誤作動しない」といった道具としての信頼性を最優先する。スペック表の数値だけでは見えてこない、数字や機能表では説明できない“判断の根拠”が、その場で共有されていた。

さらに、フリーランスとしての生き残り戦略に関する助言は、これから業界を志す者にとって残酷なまでにリアルで、かつ希望に満ちたものだった。東京という巨大な市場には、データ管理や機材搬入だけに特化したプロが揃う大規模な制作会社が存在する。個人が組織と同じ土俵で戦っても勝ち目はない。そこで氏が提示したのは、「尖った専門性」と「地方在住の強み」だ。マクロ撮影に特化する、あるいは特定の地域で「映像と言えばこの人」という立ち位置を確立する。この「戦う場所を明確に分ける」という戦略は、飽和状態にある映像業界における生存戦略として、極めて説得力がある。

YouTubeやSNSでの発信についても、単なる綺麗な映像の追求ではなく「エンタメ性」というフックが重要であるとの指摘があった。うえでぃー氏自身、無意識に使っていた関西弁が視聴者にとってのアイデンティティとなり、強力な差別化要因になったという。狙いを定めたコンテンツ制作が6割、残り4割は市場の反応を見ながら変化させていくという柔軟な姿勢は、クリエイティブをビジネスとして成立させるための要諦であろう。

機材の話が尽きた後も、参加者同士の名刺交換が自然に始まり、会場の温度が落ちなかった。その余韻のまま、うえでぃー氏に“対面”の手応えを聞いた。

座談会が幕を閉じた後も、うえでぃー氏を囲む参加者の輪は絶えず、時間の許す限り活発なやり取りが続いた

うえでぃー氏に聞く、対面でしか生まれない価値

最後に、うえでぃー氏に話を聞いた。この日は、司会進行を担ったスタッフの小林優樹氏も同席した。

――本当にお疲れ様でした。すごい盛り上がりでしたね。

うえでぃー氏:

お疲れ様でした。いえいえ、こちらこそありがとうございました。

――映像クリエイターになりたい方が、大勢いらっしゃいましたね。お客さん同士が話し合っている「横の繋がり」ができていたのが印象的でした。

うえでぃー氏:

そこは僕の思惑通りです(笑)。

――まさにシナリオのないドラマでしたね。

うえでぃー氏:

内容をあまり知らされずに来ましたけど、あえてガチガチに決めないほうが楽というか、自然に話せました。

――今回のイベント、感想はいかがですか?

うえでぃー氏:

とにかく楽しかったです。次は1時間半くらい欲しいですね。何回でもやりたい。今回僕自身も勉強になったのは、皆さんの「意外とそこが知りたいんだ」というポイントです。

――具体的にどういうところですか?

うえでぃー氏:

例えばレンズ選びでも、単にスペックの比較だけじゃなくて「70-200mmって実際に持つとどれくらい重いの?」といった、もっと実感を伴うリアルな声が多かったんです。レビュー動画を作る際にもすごく参考になりますね。

小林氏:

実際に購入に繋がった方もいらっしゃいましたね。13時の回に参加された方が、イベント中に「カメラを買い替えるべきか、レンズを追加すべきか」をうえでぃーさんに相談されて。結果、70-200mmのレンズを購入されました。

――うえでぃーさんがお勧めされていましたもんね。

うえでぃー氏:

YouTubeのコメントだと相手のバックボーンが見えなくて答えにくいんですけど、対面だと「ポートレートを撮りたいのか、野鳥なのか」を深掘りできるので、アドバイスもしやすかったです。
さっきトイレに行ったら横にスッと来て「CREATORS’ CAMP行きます!」って言われました(笑)。距離が近くてリアルですよね。

――今回、うえでぃーさんはなぜ今回の登壇の依頼を受けられたんですか?

うえでぃー氏:

小林さんとは最近よくお話ししますし、ガチガチの「仕事」というよりはラフな感覚です。「大阪のストアでもCP+のような面白い空気感を作れたら」という話を、やんわり調理して企画にしてくれました。

小林氏:

うえでぃーさんが本当に「お話のプロ」なので、僕も聞き入ってしまって進行を忘れそうになりました。

うえでぃー氏:

視聴者の目線で言えば、ガチガチの講義よりはフリースタイルのほうが楽しいと思うんです。Inter BEEのようなプロ向けの場とは別に、もっとお祭り的な、コミュニケーションが取れる場にしたかった。

――大阪のクリエイティブシーンを盛り上げたいという想いもありますか?

うえでぃー氏:

大阪はクリエイターの繋がりがまだ少ないと感じます。東京に比べて、職種ごとの垣根が強いというか。でも、MV制作でも音響の人や全く別の分野の人と組むことで刺激になる。こういうストアが垣根を超えた発見の場になると面白いですね。

小林氏:

ストアなので「販売」も大切ですが、その前にまず人が集まって意見交換できる場所であることが、結果として購入に繋がる一歩目だと思っています。終わった後に皆様が名刺交換やSNS交換をしている姿を見て、実現できてよかったなと感じました。

うえでぃー氏:

僕は家も近いんで、こういう「集合場所」がストアにあるのはありがたいです。
それにしても「BURANO」が置いてあるのは面白いですよね。僕も今日初めて知りました。

2026年1月18日から2月8日までの期間限定で、「BURANO」の特別展示が開催されている

小林氏:

事前に言おうと思ってたんですけど(笑)。福岡で期間限定で展示して、次が大阪なんです。

うえでぃー氏:

普通はシステムファイブさんのような業務用ショップに行かないと触れないですからね。三脚なしでポーンと置いてあるのが、夢があっていいです。

――最後に、今回「お茶会」という言葉がSNSで出ていましたが。

うえでぃー氏:

勝手に言っちゃったんですけど(笑)。元々はYouTubeの企画で仲良いクリエイターとやっていたのが定着したんです。でも、お菓子をつまみながらのほうが会話のキャッチボールもしやすいし、喉も楽でいいですね。

小林氏:

次はうえでぃーさんお勧めの紅茶を用意しておきますね(笑)。ぜひ第2回もやりましょう。

うえでぃー氏:

次回は机の配置を輪っかにして、もっと顔が見えるようにしたいですね。楽しみにしてます!

直営店は「表現のハブ」になれるか

今回の座談会で見えたのは、直営店が「売る場所」から「判断が生まれる場所」へと重心を移し始めている姿だった。機材を並べるだけでは生まれない会話が、対面の場では自然に立ち上がる。その中心にストアがあるという構図は、これからの直営店の一つの可能性を示している。

「お茶会」という緩やかな言葉が定着した理由も、そこにあったのかもしれない。