txt:手塚一佳 構成:編集部
Sony DMPCがオープニングイベントを開催!
5月30日、Cine Gear 2019の関連イベントとして、Sonyは「DMPC(Digital Media Production Center)」のオープニングイベントを、LA北部にある同センター(2706 Media Center Drive)において開催した。
DMPCは、2012年から米ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)のスタジオ内に「Digital Motion Picture Center」として設置され、シネマカメラをはじめとするプロフェショナル機材のセミナーやイベントを行ってきたが、SPE内にあった当施設をハリウッドにほど近いこの場所に移設し、今回新たに「Digital Media Production Center」としてスタートを切った。
DMPCの看板には「Digital Media Production Center」の文字が。モーションピクチャーのみではなく、静止画やネットも含めた全てのデジタルメディアを扱うためのSony北米拠点だ
新たなDMPCの場所には、元々同社α系のスチルカメラのカスタマーセンターと関連倉庫が置かれていたが、同社のEマウント統合戦略「1 Mount」路線により、業務用映像機器のテストシューティングも可能な映画からテレビ、ネット映像、そしてスチル撮影まで、デジタル光学製品を横断する大規模な設備として生まれ変わったものだ。北米のSony映像・デジタルメディア機器ユーザーは、事前予約によって、機材導入前、あるいは機材の疑問点が出たときにこのDMPCを利用して、実際の機材を試用することが出来る。
今回、Cine Gear2019の前夜にこのDMPCのオープニングイベントは執り行われたが、Cine Gear 2019のSony展示の先行紹介等もあり、また様々な新設備の初お披露目と言うこともあり、大いに盛り上がった。
DMPCオープニングイベントは様々なイベントがひしめくCine Gear前夜に執り行われた
テープカットの様子。いよいよ新しいDMPCのスタート!
新しいDMPCに設置された設備の中でまず注目したいのは、カラーグレーディング設備を備えたシネマ関連のテストルームだ。ここには、見慣れたグレーディング設備が設置され、同社デジタルシネマカメラ「VENICE」などで撮った映像を対象として、ハリウッド標準でのカラーグレーディングを実際に試すことが出来る。マスターモニターはもちろん最新のSony「BVM-HX310」であり、標準品質での確認が可能だ。また、この部屋にスマートフォン「XPERIA 1」も展示され、そのモニター特性が「BVM-HX310」に似せたものであることが明確に示されていた。
グレーディング設備がある点に注目。「VENICE」だけでなく、Sonyカメラと連動したProRes RAW等のテストも期待したい
グレーディング設備の横にSonyのスマートフォン「XPERIA 1」があったのが印象的だった
カラーグレーディング環境があるからには、当然に撮影スタジオも気合いを入れなければいけない。通常、こうしたテストシューティング設備では、部屋の隅のちょっとした撮影ブースで簡単に撮影して、というスタイルが多いが、DMPCではなんとゴージャスにも、本格的なシネマ撮影スタジオを設置して、テストシューティングが出来るようになっていた。照明も、ビデオ向け照明やシネマティックな室内照明だけでなく、屋外光を模した窓の透過照明や、間接照明なども用意してあり、様々な撮影シチュエーションを試せるようになっていた。
筆者の「これ、映画撮れちゃいますね?」という言葉に対してSonyの担当者の方が「規模は小さいですけど、室内シーンくらいなら本当にハリウッドクオリティで撮れますよ」とあっさりと返してきたのが印象的であった。ここまで本格的なテストシューティング環境で機材を試せるというのは、なんと贅沢なことだろうか。
テストシューティングルームは、間接照明や透過光設備のある本格的なスタジオ設備となっていた
新生DMPCがMotion PictureではなくSony製Media Product全体をターゲットとしているからには、当然、スチルのスタジオも用意されている。スチルスタジオルームはかなり広大なもので、ライトやホリゾントなどの設備も充分なものであった。ここで、αシリーズなどのテストを行うことが出来るという。レンズも一通り取りそろえてあり、充分に性能を試すことが出来るだろう。
スチルスタジオルームも大変立派な設備。正直、筆者がよく借りる日本のスタジオよりも広い!
もちろん、ビデオ・TV放送系の設備も用意されていて、スイッチャー設備や音響設備などもテスト環境が設置されていた。単に放送系の音響などにこうした設備を用いるだけでなく、ネット放送対応などへの利用も考えられるだろう。
スイッチャー設備や音響設備もフル対応
このようにしてスタートしたDMPCだが、そのオープニングイベントでは、サプライズがあった。それは、同社シネマカメラ、CineAlta「VENICE」のファームウェアVer.5.0の発表だ。
「VENICE」のファームウェアバージョンアップは、全くの新カメラと言ってもいいくらいの思いきった新機能を搭載してくる事で知られており、そのため、同カメラは発売一年数ヶ月を過ぎてもまだまだ最新鋭のシネマカメラとして業界最先端の機能を搭載している。
今回の「VENICE」Ver.5.0では、2.39:1比率の6K映像での90fps対応、17:9比率の6K映像での72fps対応が盛り込まれ、今までオーバークランクでは4Kに解像度を下げざるを得なかった場面でも、6Kのままの撮影が出来るように機能搭載された事が大きなニュースだろう(ハイフレームレートライセンスやフルフレームライセンスが別途必要)。
こうしたハイフレームレート対応によって、Ver.4.0で対応が盛り込まれた「VENICEエクステンションシステムCBK-3610XS」(通称「ろくろ首」)を装着すれば画質を落とさないままでのアクション撮影が可能となり、今までアクションシーンになると低性能のクラッシュカメラに切り替わって急に画質が落ちざるを得なかった映画映像の世界が、大きく変わることが期待される。
オープニングイベントでは、「VENICE」ファームウェアVer.5.0のサプライズ発表もあった
また、新生DMPCには、インテリアとして随所にSonyのカメラの歴史的機材が置いてあるのも印象的であった。筆者も苦楽を共にした覚えのある機材ばかりで、映像の歴史がSonyと共にあったという実感を抱く事の出来る粋な展示だと言えるだろう。
使った覚えのある機材があちこちに置いてあるのは嬉しい
こうしてスタートした新生DMPCは、前述の通り北米ユーザーであれば予約して利用することが出来るという。日本からの対応についても応相談とのことだったが、映画撮影のメッカであり、PVやイメージ映像撮影の定番でもあるハリウッド・LA近郊でこうしたテストセンターが使えるのは、大きな安心材料となるだろう。
折しも、同社の「VENICE」がハリウッド市場に受け入れられ、いよいよ本格的に日本のデジタルシネマカメラが世界に打って出る時期がやってきている。DMPCの開設は、そうした状況の強い一助となる事だろう。
txt:手塚一佳 構成:編集部