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グローバルスタンダードとは異なる「独自の生態系」

2026年初頭のISE(バルセロナ)で、AVとIT融合そして放送とライブエンタメが交差するグローバルなエコシステムを目撃した(特集:ISE2026)。しかし、北京で開催された「InfoComm China 2026」の会場は、ISEとは全く異なる独自の活気に包まれていた。

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欧米のメジャーブランドが主役を張るグローバル市場とは切り離され、巨大な内需の中で自己完結し、急速な進化を遂げている中国市場。会場の展示機材から読み解ける、中国ProAV市場の「3つの現在地」をレポートしたい。

日本が語る「Physical AI」は、ここではすでに"現場のインフラ"である

ここ数年、日本のテック業界やAV業界では「AIが物理空間にどう作用するか(Physical AI)」という概念が盛んに議論されている。しかし、InfoComm Chinaの会場を歩いて思い知らされたのは、中国市場においてそれはもはや「概念」ではなく、実装を終えた「現場のインフラ」であるという事実だ。

ハードウェアを自律駆動させる「コマンドセンター」と「スマート空間」

例えば、会場で存在感を放っていたHYNAMIC(嗨动视觉)の「TAISHAN」という巨大なハイパーコンバージド筐体。その上部には「全AI・真智能 分布式指揮(フルAI・真のスマート 分散型コマンド)」と明記されている。 余談だが、HYNAMICはLEDプロセッサー大手Novastarの子会社であり、マトリクススイッチャーやメディアサーバー、音響機器までを網羅する。グローバル市場で「PixelHue」として展開されている機材も、中国国内ではこのHYNAMICブランドで流通している。

また、DIGIBIRD(淳中科技)のブースでは「AI音声文字起こし(AI语音转写)」や「AIセントラルコントロール(AI中控)」といった機能が、コマンドセンター(指揮統制室)のソリューションとして完全にハードウェアと統合されていた。

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さらに、セキュリティ大手のHIKVISION(海康威视)の展示では、このAI実装がより身近な空間へと拡張されている。「キャンパス放送エリア(校园广播展区)」では、教室内を俯瞰するAIカメラとネットワークスピーカー、統合プラットフォームが連動し、空間全体をデジタルで管理・最適化するソリューションが実働していた。

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日本の展示会でよくあるソフトウェア上のAI処理ではなく、AIがカメラ、マイク、巨大なLEDウォールといった物理的なハードウェアの挙動を直接支配するシステムが当たり前のようにパッケージ化されている。中国のProAVは、バズワードとしてのAIを卒業し、「AIを使って物理空間の機器をどう無人化・最適化するか」という実務フェーズに突入している。

インフラの極限化:大規模ルーティングの「圧倒的なスケール」

AIによる空間制御を支えるインフラも、勝負の土俵は「いかに巨大なシステムを、高解像度のまま低遅延で処理するか」という次元に完全に移っている。

8Kマトリクスと1280チャンネル光伝送の衝撃

会場でひときわ目を引いたのが、大視(Mviewtech)のブースに鎮座していた「MM8000 星辰 8K拼接」と名付けられた巨大なビデオウォールコントローラー(マトリクス)のラックだ。無数のI/Oカードが挿入されたその筐体は、スマートシティの監視センターなど、中国国内のスケールの大きな案件で求められる膨大なトラフィック処理能力を体現している。

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さらにその「極限」を見せつけていたのが、CREATOR(快捷)のブースに展示されていた巨大な黒いラックだ。そこには太い光ファイバーの束が這い回り、「1280路(1280チャンネル)」という驚異的なスペックが掲げられていた。「非IP 光纤坐席管理系统(非IP 光ファイバーKVMシステム)」として展開されるこのシステムは、超巨大な交通ターミナルや指揮統制室における、一切の遅延と帯域不足を許さない強靭なハードウェア・ルーティングの結晶だ。

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インフラのIP化が進む一方で、ミッションクリティカルな巨大施設においては、FPGAによるハードウェア処理と光ファイバーを用いた「力技」とも言える圧倒的な物量でインフラを構築する。この規格外の実装力とスケール感こそが、中国ProAVの恐るべき強みだ。

「自主可控」とグローバル標準のハイブリッド生態系

InfoComm Chinaのもう一つの特徴は、出展メーカーの「パワーバランス」だ。会場の大部分を占めているのは、強烈な国内競争の中で成長した中国の地場メーカーである。

PTZカメラを展開するTelycam(特力科)のブースに掲げられた「国産高端自主可控(国産ハイエンド・自主可控)」という言葉通り、あらゆるハードウェアを「自国技術で作り完全にコントロール可能であること」を目指す国産化の波がシステムの細部にいたるまで徹底しており、人間とのインターフェイスである無数のカメラやマイクメーカーがあるのも納得である。

ただ10社以上もグースネックマイクを扱っているのを見たり、中国だけで使われているであろうデジタルミキサーの専業メーカーを見ると挑戦という意味で世界中のどの国よりも挑戦しているとより感じられた。また会議用マイクなどでの過当競争がある一方で、特定のニッチ領域や最先端技術において、すでに「世界トップ」を自称し、実態を伴っている企業が多数存在する。

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例えば、LOPU(洛普)のブースには「LED DOME全球市占率第一(LEDドーム世界シェアNo.1)」と誇らしげに掲げられ、中国国内42ヶ所、海外16ヶ所に及ぶ導入実績マップが展示されていた。

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さらに、VISTAR(辰显光电)のブースでは、「全球首款8K TFT基Micro-LED(世界初 8K TFTベースMicro-LED)」という次世代の超大型ディスプレイが堂々とデモンストレーションされていた。

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しかし、これは「完全に閉じたガラパゴス」ではない。会場にはAUDINATE(Dante)やGENELECといったグローバルブランドも単独ブースを構えていた。 映像処理やKVM、会議端末といった「国産化」が重要な領域は独自に進化させつつ、Danteのような業界標準プロトコルや、ノウハウの蓄積が必要なハイエンド音響についてはグローバルスタンダードを積極的に取り入れる。この極めて合理的なハイブリッド戦略が、中国独自の強固な生態系を作り上げている。

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おわりに:独自の進化を直視する

InfoComm China 2026を歩き終えて感じるのは、日本のProAV業界が持つべき客観的な現状認識の必要性だ。
「自主可控」の下で進化するPhysical AIの社会実装。8Kを前提とした巨大な映像ルーティングとクラウドの融合。そして、必要なグローバル標準を巧みに取り込みながら完成された強靭なエコシステム。 彼らが国内の厳しい競争で鍛え上げたこれらのソリューションが、世界市場へ本格的に波及していく時、我々はどう向き合うべきか。北京の展示会は、その現実を冷静に見つめ直す機会を与えてくれた。