AIインフラが主役となったInterop 2026

幕張メッセの展示ホールを歩いていて感じたのは、Interopが明らかに新しいフェーズへ入ったということだ。かつてはネットワーク機器や通信技術そのものが主役だった会場に、今年はAIインフラ関連の展示が大きな存在感を示している。生成AIそのものではなく、それを支えるデータセンター、高速ネットワーク、冷却技術、セキュリティ基盤に注目が集まっている点が象徴的だ。

2026年のInterop Tokyoは、「AIとインターネットの次章」をテーマに開催された。主催者であるナノオプト・メディアの大嶋康彰代表によるブリーフィングでは、AI時代の社会基盤をどう構築していくかが大きなテーマとして語られた。会場ではInterop Tokyoに加え、デジタルサイネージジャパン、AI NATIVE EXPO、画像認識AI Expoなどが同時開催され、展示エリアも拡大した。出展社数は627社、展示規模は2147小間に達し、昨年から大幅に拡大している。

その中で特に存在感を増していたのが、通信、データセンター、サイバーセキュリティといったインフラ関連分野である。近年のAIブームによって注目されるのは生成AIの活用事例だが、実際にはその背後で膨大な計算資源とネットワークが稼働している。会場全体からは、AIを支えるための基盤整備が本格化していることが伝わってきた。

PRONEWSの視点で今回のInteropを見ると、最大の関心事はAIそのものではなく、それを支えるインフラの変化にある。映像制作の現場では、リモートプロダクションやクラウド編集、生成AIの活用が急速に進みつつある。その実現に欠かせないのが、高速ネットワークと大規模な計算資源であり、今回の展示はまさにその未来像を示していた。

Interopの象徴「ShowNet」が示す未来

Interopは1986年に米国で始まり、日本では1994年から開催されてきた。名称の由来である「Interoperability(相互運用性)」は、現在もイベントの根幹にある考え方だ。異なるメーカーやサービスを実際につなぎ、動作させながら検証することに価値がある。その精神を最も象徴しているのが、Interopの代名詞ともいえるShowNetである。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

がれていく。ShowNetは、会場内にゼロから構築される巨大な実験ネットワークだ。会期中は実際に運用され、終了後には解体される。しかし、そこで得られた知見は次世代ネットワークへと受け継がれていく。

今年のShowNetには849名のスタッフが参加し、約2600の製品・サービスが投入された。使用されたケーブルはUTPが28.5km、光ファイバーが8.5kmに及ぶ。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

ラックの前に立つと、複雑に張り巡らされたケーブル群と稼働中の機器が圧倒的な存在感を放っている。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

ShowNetの魅力は単なる展示ではない。ここでは最新技術が実際に接続され、運用され、問題が発生すれば現場のエンジニアたちが解決する。その過程まで含めて公開されている。理論だけでは見えない実運用の課題とノウハウが凝縮されている点こそが最大の価値だ。

AI時代を支えるデータセンター基盤

今年のShowNetで最も注目を集めていたのは、AI時代を見据えたデータセンターインフラである。

AI処理を支えるGPUサーバーは膨大な電力を消費し、それに比例して発熱も増加する。従来の空冷方式だけでは限界が見え始めており、会場では水冷ラックや水冷スイッチの実装テストが行われていた。チラーを持ち込み、複数のラックへ冷却水を循環させる様子は、次世代データセンターの現実的な姿を先取りしている。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

世界初展示となる水冷スイッチ「QFX5250」も稼働していた。1.6Tbps級の大容量リンクが実際に動作している様子は、AI需要がネットワーク性能を急速に押し上げていることを示している。さらに800Gbps回線やIOWN APN、IP over DWDMなども投入され、未来の通信基盤が幕張の会場内で実証されていた。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

バックボーンではルーター間リンクからIPv4を排除し、IPv6ベースのネットワークが構築された。SRv6やVXLAN over IPv6など、これまでデータセンターで先行していた技術が実環境で本格運用されている。インフラの世界では、すでに次世代への移行が始まっていることを実感する。

5Gが変えるリモートプロダクション

映像メディアとして特に興味深かったのは、5Gネットワークを活用した映像伝送の取り組みだ。

ShowNetでは東京と大阪を結び、放送ストリームやPTPによる時刻同期を5G経由で伝送する実験が行われていた。放送用途ではジッターや同期精度に厳しい要求が課されるが、ネットワークスライシング技術を利用することで高品質な映像伝送を実現している。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

これは単なる通信実験ではない。リモートプロダクションや遠隔制作が一般化しつつある映像業界にとって、無線ネットワークを活用した高品質伝送は大きな可能性を持つ。これまで専用線が必要だった環境が、将来的にはより柔軟な構成へ移行する可能性を示している。

Media over IPが描く放送制作の未来

さらに大きな関心を集めていたのがMedia over IPエリアである。

今年のShowNetでは、日本各地の放送局と接続し、遠隔地から映像素材を集約して再配信する実証実験が行われていた。全国13の放送局が参加し、各局が持つ映像・音声リソースをIPネットワーク上で共有、活用する試みである。異なる回線やフォーマット、プロトコルをまたぎながら、放送TSやSRTを変換し、PTPによる時刻同期を維持する。

会場内のラック群では複数の映像信号がリアルタイムで処理されており、ネットワーク上で映像制作が完結する未来を具体的に示していた。映像制作の現場が物理的な場所から解放されつつあることを実感させる展示である。

GPU over APNがもたらす制作環境の変化

AI時代を象徴する展示として興味深かったのが、GPU over APNの実証だ。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

IOWN APNを利用し、各地に分散したGPUリソースと幕張を接続する。低遅延・広帯域のネットワークを活用し、遠隔地のGPUをあたかも一つの計算基盤のように利用する試みである。

映像業界に置き換えれば、レンダリングやAI処理など重いワークロードを遠隔地の計算資源で実行する未来につながる。制作拠点と計算資源を物理的に分離できる可能性を感じさせる展示だった。

AIによるネットワーク運用の自動化

AIは運用の領域にも入り込み始めている。

ShowNetではMCPサーバーを介してAIエージェントとネットワーク機器を連携させる実験が行われていた。チャット上でAIへ問い合わせると、AIが実際の機器状態を確認し、調査結果を返す。

さらにセキュリティ分野では「Security for AI」という新しい考え方も紹介されていた。AIを活用するだけでなく、AIを守るための仕組みづくりが始まっている。プロンプトインジェクション対策を含め、AI時代ならではのセキュリティ技術が実装されつつある。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

監視システムも進化を続けている。SyslogやSNMPだけでなく、OTDRや温度センサー、フローデータなど多様な情報が統合され、ネットワーク全体の状態を可視化している。さらにAI推論性能を評価するための新しい指標も導入されており、応答速度や処理完了時間などが測定されていた。

AI時代のインターネットが向かう先

会場ではAI NATIVE EXPOやデジタルサイネージジャパンも開催されていた。AIを前提とした開発環境や画像認識技術、フィジカルAIなどの展示が並び、AIが単なるソフトウェアではなく社会インフラへと浸透していることを感じさせる。

また、宇宙とインターネットをテーマとした取り組みも紹介されていた。月面インフラ構想や宇宙空間へのネットワーク拡張は壮大なテーマではあるが、インターネットの活動領域が地球規模を超えつつあることを示している。

ShowNetを支えているのは機材だけではない。若手エンジニアや学生が参加するチームメンバープログラムには、今年37名が参加している。巨大なネットワークを実際に構築し、運用する経験は、次世代のエンジニア育成という意味でも大きな価値を持つ。

映像制作を支える新たなインフラの姿

会場を歩き終えて強く感じたのは、映像制作の未来はカメラや編集ソフトだけで決まるものではなくなっているということだ。AI、データセンター、高速ネットワーク、Media over IP、GPUコンピューティング。それぞれ別の分野として語られてきた技術が、いま一つのインフラとして結びつき始めている。

Interop 2026は、その変化を最も分かりやすく体感できる場所だった。ここにあるのは未来予測ではない。実際に機器が接続され、稼働し、検証されている現場そのものである。

「Interopに来ればわかる」という言葉は今も有効だ。AI時代の映像制作や配信を支える基盤はどのような姿になるのか。その答えの一端が、幕張メッセに構築された巨大なShowNetの中に確かに存在していた。