映像インフラの現在地を俯瞰できる展示

Interop 2026の併催イベントであるデジタルサイネージ ジャパン(DSJ)2026で、ジャパンマテリアルのブースを訪れた。

ブースにはMatrox、BrightSign、Apantac、MuxLab、VNS、PureFi、IPGARDなど世界各国のブランドが集結している。しかし単なる代理店展示ではない。それぞれの機材が現場のどの課題を解決するのかという視点で整理されており、ブース全体を見て回ることで映像インフラの潮流そのものが見えてくる。

その中で特に印象に残ったのがIPネットワーク上で高品質な映像や音声を伝送するためのオープンな標準規格「IPMX」関連の展示である。

近年、放送設備のIP化といえばSMPTE ST 2110が中心的な存在となっている。しかし実際の現場では、高度なネットワーク設計やPTPによる厳密な同期管理が求められるため、導入のハードルは決して低くない。

一方で、企業の会議室やイベント施設、ホール、教育機関、監視センターなどでは、放送局レベルの厳密さまでは求めずとも、高品質なIP映像伝送を実現したいというニーズが高まっている。

そこで存在感を高めているのがIPMXである。

ジャパンマテリアルのブースでは、HDMIやSDI、HDBaseTといった既存の映像信号をIPMXへ変換するMatroxのConvertIPシリーズが展示されていた。IPMXはST 2110やAMWA NMOSの考え方をベースにしながら、よりプロAV市場で扱いやすい形へ発展させた規格である。

展示されていたConvertIPシリーズは、送信機としても受信機としても利用できる構成となっており、運用に応じて柔軟に役割を変更できる。さらに圧縮伝送や非圧縮伝送、冗長構成への対応など、実運用を見据えた選択肢も豊富に用意されていた

興味深かったのは、単に新しい規格を紹介するのではなく、「既存設備を活かしながらどうIP化へ移行するか」という現実的な視点で提案されていたことである。

ConvertIPは、用途に応じてHDMIやSDIといったインターフェースのほか、冗長性の有無、RJ45あるいは光モジュールへの対応、さらには圧縮・非圧縮の選択など、幅広いラインナップを揃えている

さらにブースでは、ネットワーク上のIPMX機器を統合管理するConductIP、IPMXベースのIP KVMエクステンダーであるAvio 2、そしてIPMX、SRT、RTSP、NDIなど異なる映像規格を相互変換するVionも展示されていた。

映像制作の現場では、すべての機器が同じ規格で統一されているケースは少ない。放送設備、配信設備、会議システム、サイネージなど、それぞれ異なる規格が共存している。だからこそ重要なのは「どの規格が勝つか」ではなく、「どう共存させるか」である。

ジャパンマテリアルの展示からは、その現実解を提示しようとする姿勢が見えてきた。

もちろんブースの見どころはIPMXだけではない。

MatroxによるIP映像伝送やビデオウォール構築、BrightSignを中心としたデジタルサイネージ、ApantacやMuxLabによるKVMやオーディオネットワーク機器など、多様なソリューションも展示されていた。

中でもBrightSignの展示は興味深い。従来の映像再生プレーヤーという枠を超え、Nexmosphereの各種センサーやGPIOを活用した外部機器連携によって、来場者の行動に応じてコンテンツを変化させるインタラクティブなサイネージ環境が提案されていた。

商品を手に取ったことを検知して関連情報を表示したり、人の位置や動きに応じてコンテンツを切り替えたりといった仕組みは、単なる情報表示ではなく、施設運営や店舗DXのためのプラットフォームへと進化しつつあることを示していた。

BrightSignは、世界トップシェアを誇るサイネージプレーヤーメーカーだ。会場には多彩なモデルが展示されているが、左端に位置する「XCシリーズ」は、メッシュ状の筐体を採用した最上位機種である。4Kや8Kといった高解像度再生にも対応するスペックを誇る。一方、右端に並ぶ「LSシリーズ」は、最も機能を絞ったエントリーモデルであり、筐体サイズも非常に小型である
Nexmosphere(ネクスモスフィア)のRFID・キットを活用した展示も行われている
重さセンサーを利用する手法もある。棚の下にセンサーを設置し、そこから取り出された製品を重さの変化によって識別し、関連する情報を表示させることが可能である。これも、NexmosphereのセンサーとBrightSignを組み合わせたシステムとなっている
BrightSignは駅のホームなど幅広い場所で導入されているが、GPIO端子を備えることで、さらなるインタラクティブな運用が可能となる。例えば博物館において、ボタンの押下をトリガーとした映像の再生や言語の切り替えを行う際、GPIOを活用するのが最も簡便な手法となり得る。USB接続のボタンを利用する方法もあるが、あらゆる設置環境において汎用性が高く、シンプルに実装できるという点では、GPIOが最も使い勝手の良いインターフェースといえる
LiDARセンサーにより360度全方位の人物位置を感知し、指定エリアに応じてコンテンツの切り替えを行う

一方で、今回の展示で感じたのは個々の製品の優劣ではない。

映像伝送、サイネージ、KVM、オーディオネットワークといった異なる領域を横断しながら、それらをどのように組み合わせて運用するかという視点である。

ジャパンマテリアルブースを見て感じたのは、映像インフラの世界が大きな転換点を迎えているということだ。

放送設備だけの話だったIP技術が、プロAVや施設運営、企業システムへと広がり始めている。そして、その中心にはSMPTE ST 2110だけでなくIPMXという新たな選択肢も存在する。

映像制作や配信の現場では、カメラやスイッチャーだけでなく、信号をどう運び、どう管理し、どう見せるかがますます重要になっている。今回のブースで見えてきたのは、「ST 2110かIPMXか」という単純な規格競争ではない。既存設備を活かしながら、いかに現実的にIP化へ移行するかという視点である。