製品単体からシステム提案へ

FOR-A CONNECT 2026の会場を歩いてまず感じたのは、展示の見せ方そのものが昨年までとは大きく変わっていたことだ。

これまでの内覧会では、新製品や個々のソリューションを紹介する展示が中心だった。一方、今年はビデオスイッチャーやルーティングスイッチャーといった個別製品の存在感は残しつつも、それらを単体で見せるのではなく、「放送システム全体をどう構築し、どう運用するか」という視点で展示全体が構成されていた。

背景にあるのは、放送業界が直面する構造的な変化である。

慢性的な人材不足、制作コストの上昇、IP化への移行、設備投資の最適化、そしてスポーツ配信を中心とした新しいコンテンツ需要。こうした課題に対し、単一製品ではなくシステム全体で応える。その姿勢が今回のFOR-A CONNECT 2026を貫くテーマだった。

これまでの内覧会は、製品カテゴリーごとの「縦割り」な展示が中心であったが、今回はそれらを統合し、一連のワークフローとして提示している。この点こそが、従来の内覧会から大きく進化したポイントであるといえる

会場には12G/3G/HDビデオスイッチャー「HVS-Q12」、ルーティングスイッチャー「MFR-5100EX」、ルーティングスイッチャー/オールインワンライブシステム「MFR-3100EX」、IP対応マルチチャンネルプロセッサー「FA-1616」、IP対応マルチビューワー「MV-1640IP」といったハードウェア群が並ぶ。その一方で、ソフトウェアベースのライブ制作、AI、リソース管理、統合監視といったソリューションも数多く展示されており、SDIからMedia over IPまでを一つの流れとして提案していた。

その中心に据えられていたのが、機能統合型ライブ制作ソリューション「FOR-A IMPULSE」である。

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ラックをソフトウェアへ置き換えるという発想

昨年のFOR-A CONNECTでもFOR-A IMPULSEは展示されていた。しかし当時は、ソフトウェアベースの制作環境というコンセプトを提示する色合いが強かった印象である。今年の展示では、その位置付けが大きく変わった。実際の放送設備としてどう運用するのか。その具体像が、これまで以上に現実味を伴って提示されていたのである。

FOR-A IMPULSEは、従来ラックへ実装されていた各種放送機器をソフトウェア化するプラットフォームである。マルチビューワー、ビデオスイッチャー、フレームシンクロナイザー、カラーコレクター、シンクジェネレーターなど、それぞれ独立して存在していた機能をPCサーバー上のリソースとして動作させ、必要に応じて自由に組み合わせる。

デモ画面には入力系統、マルチビューワー、スイッチャーなどがノードとして並び、それぞれを線で接続しながらシステム全体を構築する様子が映し出されていた。物理的なラックに機材を並べ、ケーブルを配線する代わりに、画面上で信号経路を設計する。言い換えれば、これまでラックの中に存在していた放送設備そのものが、PC画面上へ移行したような感覚である。

さらに必要になればスイッチャーを追加し、イベント終了後には別の用途へリソースを振り向けることもできる。設備を固定資産として持つのではなく、用途に応じて最適なシステムへ組み替える。FOR-A IMPULSEが目指しているのは、まさにそうした制作インフラである。

構築から運用へ。「FOR-A IMPULSE MGR」が担う管理機能

FOR-A IMPULSEでもう一つ今回のトピックとなっていたのが、新たに参考展示された運用管理ソフトウェア「FOR-A IMPULSE MGR」である。これまでFOR-A IMPULSEでは、ノードベースの画面上で放送システムを自由に構築できることが大きな特徴として紹介されてきた。入力、スイッチャー、マルチビューワーなどの機能を必要に応じて接続し、用途に合わせたシステムを柔軟に設計できる点が強みである。

一方、実際の放送現場では、システムを構築するだけでは運用は成り立たない。番組ごとに異なるシステム構成を管理し、担当者が必要な環境へすぐ切り替えられることも重要になる。その役割を担うのがFOR-A IMPULSE MGRである。

番組や制作案件ごとに構築したシステム構成をプリセットとして保存し、必要に応じて呼び出すことができる。番組が変わるたびにノードを一から組み直したり、接続をやり直したりする必要はなく、あらかじめ用意した構成へ瞬時に切り替えられる。

展示では、このFOR-A IMPULSE MGRと、朋栄が国内代理店として取り扱うElgatoのラックマウント型コントローラー「Stream Deck Studio」を組み合わせたデモも披露されていた。

Elgato Stream Deck StudioはNFCリーダーを活用し、社員証などのICカードと番組プリセットを紐付ける運用例が示されていた。担当者が出勤後にカードをかざすだけで、FOR-A IMPULSE MGRが該当する番組構成を呼び出し、制作環境を自動的に切り替える仕組みである。

これまでFOR-A IMPULSEは、ソフトウェアで放送設備を自由に構築できるというコンセプトを中心に紹介されてきた。しかし今回の展示では、その先にある「どう運用するか」まで含めた提案へ発展していたことが印象的だった。

システムを自由に構築できるだけでなく、番組や担当者ごとに管理し、必要な環境を瞬時に呼び出す。FOR-A IMPULSE MGRは、FOR-A IMPULSEを実際の放送運用へ近づけるための重要な役割を担うソフトウェアとして位置付けられていた。

リソースを共有するスマートリソースシェアマネージャー「Hi-RDS」

FOR-A IMPULSEと並んで、今回の展示で大きなトピックとなっていたのが、スマートリソースシェアマネージャー「Hi-RDS(階層型RDS)」である。

Hi-RDSを構成するRDS関連技術の一つであるRDS Conductorは、NAB 2024でProduct of the Yearを受賞しているソフトウェアであり、離れた場所にある機器を遠隔で監視し、必要なリソースを各拠点やシステムへ割り当てるための仕組みである。

これまではコンセプトやデモとしての印象も強かったが、今回の展示では製品としての完成度が高まり、すでに導入事例も出始めている段階にあるという。会場では説明員によるデモだけでなく、予約制のハンズオンコーナーも用意され、来場者が実際に操作できる展示形式となっていた。

Hi-RDSの基本的な考え方は、機器そのものを固定的に所有するのではなく、必要なリソースを必要な場所へ貸し出すことにある。

デモでは、まずHi-RDS内のプライマリーRDSへ複数の機器を登録し、その登録された機器情報をローカルRDSへ貸し出す流れが示されていた。NMOS IS-04に基づいて登録・検出される、そこからフィルタリングAPIを使って、各アイランドに必要な装置を割り当てる。

従来であれば、装置側でどのアイランドへ貸し出すかを個別に設定する必要があった。しかしHi-RDSでは、あらかじめ登録されたローカルRDSを選択し、そこへ機器を貸し出すことができる。装置側の設定変更に頼らず、リソースシェアを効率的に行える点が大きな特徴である。

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さらに興味深いのは、16チャンネルの装置をそのまま貸し出すのではなく、必要な端子だけをまとめた仮想的な装置として扱える点だ。

たとえば、ある装置が16チャンネルを持っていたとしても、実際の運用では8チャンネルだけ使えば足りる場合がある。その場合、従来なら残りの端子が余ってしまう。さらに別のアイランドでも同じ装置を使いたい場合、本来はもう1台機器を用意しなければならない。

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Hi-RDSでは、必要な端子だけをまとめた仮の装置をソフトウェア上で作成し、それぞれのアイランドへ貸し出すことができる。これにより、本来2台必要だったシステムを1台でまかなえる可能性が生まれる。機材点数の削減だけでなく、設備投資や運用管理の効率化にも直結する考え方である。

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放送設備は、これまで「必要な機器を必要な場所に置く」ことを前提に構築されてきた。しかしIP化が進むことで、機能や端子を物理的な場所から切り離し、ネットワーク越しに必要な分だけ割り当てる運用が現実味を帯びている。

Hi-RDSは、こうした放送設備のリソース共有を実務レベルへ近づけるソフトウェアである。今回の展示で、来場者が実際に触れるハンズオン形式まで用意されていたことは、同システムが実運用を見据えた段階に入っていることを示していた。

SDIとIPを対立させないという現実的な提案

会場を見渡していてもう一つ印象的だったのは、最新のIPソリューションを前面に打ち出しながらも、SDI製品の存在感を決して薄めていなかったことである。

近年、放送設備のIP化が大きなテーマとなっているが、実際の現場ではすべての設備が一斉にIPへ移行するわけではない。国内はもちろん、海外市場でもSDI設備は依然として数多く稼働しており、更新サイクルも長い。そのため、新旧の設備が混在する環境をいかに効率良く運用するかが、現実的な課題となっている。

今回の展示では、その考え方が随所に表れていた。展示されていた12G/3G/HDビデオスイッチャー「HVS-Q12」、発売予定のルーティングスイッチャー「MFR-5100EX」、ルーティングスイッチャー/オールインワンライブシステム「MFR-3100EX」、IP対応マルチチャンネルプロセッサー「FA-1616」、IP対応マルチビューワー「MV-1640IP」といった各製品は、単独の新製品として紹介されていたわけではない。いずれもFOR-A IMPULSEを中心とした制作システムを構成する要素として位置付けられ、製品同士の連携まで含めた提案が行われていた。

つまり、「IPかSDIか」という二者択一ではなく、それぞれの特長を生かしながらシステム全体を構成するという考え方である。この展示からは、放送設備の現実的な更新プロセスを見据えた朋栄の姿勢が伝わってきた。

その思想を最も象徴していたのが、IP対応マルチチャンネルプロセッサー「FA-1616」である。SDI信号とIP信号の橋渡しを担う存在として、既存設備を活用しながらMedia over IP環境へ移行するための中核を担う製品であった。

一方、IP対応マルチビューワー「MV-1640IP」は、IPベースの制作環境に対応した監視システムを実現する製品である。ネットワーク上の映像ソースを柔軟に監視できるだけでなく、IP制作環境が広がる中でも従来と変わらない操作感を維持できる点が印象に残った。

これら2製品はいずれも、IP化を推進しながらも既存設備との共存を図るという、今回の展示コンセプトを体現する存在であった。

HVS-Q12は、小規模から中規模のライブ制作を意識した12G/3G/HD対応ビデオスイッチャーである。限られたスペースでも高い操作性を確保しており、放送局だけでなく、ライブイベントやスポーツ配信など、多様化する制作現場への対応も意識した設計となっている。

一方、発売予定のMFR-5100EXは、大規模システムにも対応するルーティングスイッチャーであり、高い信頼性が求められる放送設備の中核を担う製品である。

ビデオスイッチャーの「HVS-Q12」(上)とルーティングスイッチャーの「MFR-5100EX」(下)

展示全体を通して感じたのは、これらの製品が単なる新製品として並んでいたのではなく、制作システム全体の中でそれぞれ明確な役割を持って配置されていたことである。

ビデオスイッチャーやルーティングスイッチャー、プロセッサー、マルチビューワーといった各製品は、それぞれが独立した機器として存在するのではなく、FOR-A IMPULSEを核とした制作システムの一部として機能することを前提に展示されていた。

単体製品の性能を訴求するのではなく、それらを組み合わせることでどのような制作環境を構築できるのかを示す――。その展示手法からは、朋栄が製品メーカーという立場にとどまらず、放送システム全体を設計・提案する企業へと軸足を移していることがあらためて伝わってきた。

導入事例が示す「実運用」

その考え方を具体的に示していたのが、導入事例の展示である。ひとつはNHKテクノロジーズの事例だ。

ラック内にはMFR-3100EXを中心としたシステムが構築されており、オプションを組み合わせることでビデオスイッチャーとしても活用できる構成となっていた。

ラックごと持ち運べるコンパクトなシステムでありながら、中継現場に必要な機能を一体化できる点が特徴である。用途に応じて機能を柔軟に組み合わせられることから、仮設設備や移動運用にも適したソリューションとなっていた。

もう一つ興味深かったのが、千葉テレビの導入事例である。ZOZOマリンスタジアムで行われる野球中継では、MFRシリーズをスタジアムへ設置し、操作パネルだけを本社へ置くことでリモート運用を実現しているという。本社ではマルチビューワーを確認しながら操作パネルを使用し、スタジアム側へスタッフを常駐させることなく中継を行う。

リモートプロダクションという言葉自体は珍しくなくなったが、この事例は既存設備を生かしながら運用コストを抑えるという点で非常に現実的である。設備を全面的に刷新するのではなく、ネットワークを活用して運用を変える。今回の展示では、こうした実例が数多く紹介されていたことも印象的だった。

ここまで展示を見てくると、今年のFOR-A CONNECTで朋栄が伝えたかったことが見えてくる。それは、IPへの全面移行を訴えることではない。SDIを残すべき場所にはSDIを残し、IPが有効な場所にはIPを採用する。そして、それらをソフトウェアやネットワークによって一つの制作システムとして統合するという考え方である。

FOR-A IMPULSEを核に据えながら、HVS-Q12、MFRシリーズ、FA-1616、MV-1640IPといったハードウェア群がそれを支え、現場ごとの事情に合わせて最適なシステムを構成する。「IPかSDIか」という議論ではなく、「現場に最適な組み合わせは何か」。

今回の展示からは、その現実的な姿勢が強く伝わってきた。

AIは「制作を置き換える」のではなく、「制作を支える」

今回の展示でもう一つ大きな柱となっていたのが、AIを活用したスポーツ制作支援である。展示の中心にあったのは、日本テレビが開発を進める直感的オンデバイスAIソリューション「viztrick AiDi」だ。

近年、スマートフォンでスポーツを視聴するユーザーは急速に増えている。縦型動画への対応は各放送局や配信事業者にとって重要なテーマとなっているが、その制作には専用のオペレーターや追加設備が必要になるケースも少なくない。viztrick AiDiは、その課題に対してAIによる自動クロッピングというアプローチを提示していた。横位置16:9の中継映像を入力すると、AIが競技内容をリアルタイムで解析し、9:16の縦型映像を自動生成する。

興味深いのは、単純にボールだけを追い続けるシステムではないことだ。野球では投球や打球の流れを判断し、バスケットボールではボールだけでなく選手配置やプレー全体を解析する。フィギュアスケートでは選手同士の距離や画面構成も含めて判断し、見やすいフレーミングを維持していた。

AIはカメラを動かしているわけではない。既存の中継映像から必要な領域だけをリアルタイムで切り出している。だからこそ既存の制作設備へそのまま組み込める。SDI入力にも対応しており、現在のスポーツ中継ワークフローを大きく変えずに導入できる点も実用性を感じさせた。

今回印象に残ったのは、「AIによる自動化」を前面へ押し出すのではなく、「現場をどう支援するか」という視点で展示されていたことである。

より現場へ近づいた「AIスコアボード認識システム」

同じAIでも、もう一つ興味深かったのが参考出展されていた「AIスコアボード(仮称)」である。こちらは派手な映像演出ではない。むしろ極めて地味な機能だ。しかし、現場を知る人ほど、その価値は大きい。

システムは定点カメラで撮影したスコアボード映像から、得点、球速、BSOなどの数字や点滅情報を画像認識で取得し、キャラクタージェネレーター「EzV-410」と連携して放送用テロップとして送出する。球場ごとに表示形式が異なっていても画像認識で読み取るため、専用インターフェースを持たない施設でも利用できる。

近年増えている高校野球や地域スポーツ、クラブ大会などでは、限られた人数でライブ配信を行うケースが多い。そうした現場ではスコア入力専任のオペレーターを配置できず、スコアボードそのものをワイプ表示するだけという配信も珍しくない。AIスコアボード認識システムは、その作業を自動化する。

決して派手な技術ではない。しかし、現場の負担を一つずつ減らしていくという意味では、今回の展示の中でも特に現実的なソリューションだった。

もちろん課題もある。バスケットボールのようにコンマ秒単位で時計が変化する競技では、AI処理による遅延が放送品質へ直結する。その点についても開発陣は課題として認識しており、今後さらにブラッシュアップが進められるという。

放送設備を「見える化」するDataMiner

リソースを効率良く使うためには、システム全体を把握できなければならない。その役割を担うのが、Skyline Communications社の統合運用ソフトウェア「DataMiner」である。DataMinerは放送設備だけを対象にした監視システムではない。

SNMPをはじめ公開されたプロトコルへ対応することで、放送機器だけでなくネットワーク機器やIT設備まで含めて一元管理できる。放送局では近年、ITと放送設備の境界が急速に曖昧になっている。その中で設備全体を俯瞰しながら運用できる統合監視システムの重要性は今後さらに高まっていくだろう。

朋栄がメーカーという立場だけでなく、こうした海外ソリューションを組み合わせながらシステム全体を提案している点も印象的だった。

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Skyline Communicationsの「DataMiner」を使って、Starlink Enterpriseの端末・ネットワークを一元監視している例
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「製品」ではなく「運用」を提案する展示へ

FOR-A CONNECT 2026を通して感じたのは、朋栄が単なる放送機材メーカーではなく、制作インフラ全体を設計するソリューションプロバイダーとしての存在感を強めていることである。

FOR-A IMPULSEによるソフトウェアベースの制作環境。

Hi-RDSによるリソース共有と遠隔管理。

viztrick AiDiやAIスコアボード認識システムによる制作支援。

DataMinerによる統合監視。

そしてHVS-Q12やMFRシリーズ、FA-1616、MV-1640IPといったハードウェア群。

これらは個別製品ではなく、一つの制作システムとして整理されていた。10年前の展示会では、「どの製品が一番高性能か」が主な話題だった。しかし今回の展示で中心となっていたのは、「限られた人員で、どう効率良く制作を回すか」という視点である。

IPかSDIかという議論も、そのための手段の一つに過ぎない。現場ごとに最適な構成を選び、ソフトウェア、AI、ネットワークを組み合わせながら制作システム全体を最適化していく。今年のFOR-A CONNECT 2026は、その方向性を具体的な製品と実運用の事例を通して示した内覧会だった。

なお、同日程で朋栄本社4階では、関連会社・ビジュアル・グラフィックス株式会社による「VGI CONNECT 2026 内覧会」も開催された。映像制作やファイルベース、クラウドを中心とした最新ソリューションについては、本稿とは分けて次回レポートで詳しく紹介したい。