新製品内覧会から大型プライベートショーへ

ソニー本社で開催された「Creative Solution Showcase 2026」を取材した。PRONEWSに掲載された過去記事をたどると、2018年に開催された新製品内覧会の記事などが残っている。当時は、本社2階の展示スペースに新製品や関連機材が並ぶ、比較的コンパクトな内覧会という印象だった。

しかし、2026年の「Creative Solution Showcase」は、その記憶とは大きく異なる内覧会へと変化していた。展示は複数フロアに広がり、ソニーグループが描く次世代の映像体験、空間演出、業務ソリューション、クリエイター支援までを一望できる大型プライベートショーへと発展している。

製品スペックから体験価値へ

会場を歩いてまず感じたのは、展示の主軸が「製品スペック」から「体験価値」へと移行していることだ。カメラ、ディスプレイ、ライブプロダクション、クラウドワークフローなど、PRONEWS読者にとって関心の高い映像機材の展示も、引き続き重要な柱である。

ただし、今年の展示は機材単体の性能訴求にとどまらない。それらが現場でどのように使われ、どのような価値を生み出し、制作やビジネスの課題を解決するのか。その視点が会場全体を貫いていた。

かつての内覧会が「この新製品で何ができるか」を示す場だったとすれば、今年は「ソニーの技術を組み合わせ、どのような体験やワークフローを実現できるか」を提示する場へと変化している。ここに、ソニーのB2B事業が目指す方向性が表れていた。

ソニーマーケティング株式会社 B2Bビジネス本部の中川一浩氏は、ソニーグループのPurposeである「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」に触れながら、事業の方向性を説明した。

その背景にあるのが、ソニーグループの長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」である。4K・8K映像や3Dオーディオを土台としながら、より没入感の高い体験や自由度の高い制作環境を実現する考え方だ。ウェアラブルデバイス、ロボティクス、ハプティクス、VR/AR、AI、クラウドといった技術は、体験全体を構成する要素として位置付けられている。

二次元映像から三次元空間の演出へ

今年の展示で象徴的だったのは、演出の主戦場が二次元の映像表現から三次元空間へと広がっている点である。映像をスクリーンへ映し出すだけでなく、空間そのものを演出し、来場者や視聴者を体験の中へ引き込む。その考え方が、ロケーションエンタテインメントやアバターパフォーマンス、360度演出、スポーツ観戦体験などへ反映されていた。

ロケーションエンタテインメントのエリアでは、映像、音響、センサー、演出技術を組み合わせ、風や振動も取り入れた没入体験を提案していた。

従来の映像展示は、視覚や聴覚の品質向上が中心だった。しかし今回は、映像を「見るもの」から「体験するもの」へ拡張しようとしている。ハプティクス技術やロボティクスと連動した演出は、新たな映像体験の可能性を感じさせた。

アバターやバーチャルライブに関する展示も印象的だった。海外で展開されているアバターライブのような取り組みを、日本でも実現したいという相談が増えているという。バーチャルとリアルを分けるのではなく、両者を融合させたライブ体験が現実味を帯び始めている。

ソニーが目指す「感動体験」は、未来の構想ではなく、具体的な技術やサービスとして形になり始めている。二次元映像を高品質に届けるだけでなく、三次元空間全体をどう演出するか。その発想が、今後のエンタテインメント制作における重要なテーマになりそうだ。

エンタープライズ領域へ広がる映像技術

今回の展示は、エンタテインメント分野だけにとどまらない。オフィス、店舗、教育、建設、医療など、多様なエンタープライズ領域へソニーの映像技術が広がっていた。

店舗向けソリューションでは、カメラ映像をAIで解析し、ディスプレイやCMSと連携させることで、来店客の動線や視線を可視化する仕組みが紹介された。得られたデータを基に売り場や広告表示を最適化し、店舗体験の向上につなげる。映像機器を表示装置ではなく、店舗体験を設計するためのシステムとして捉える提案である。

教育分野では、オートフレーミングカメラによる講義の自動収録に加え、AIを活用したダイジェスト生成や、小テストの誤答選択肢を自動生成する機能などが紹介された。講義収録から配信、学習支援までを一連のワークフローとして構築する提案であり、企業研修への応用も期待できる。

建設・製造分野では、VR、AR、AI、3D空間再現を組み合わせた遠隔支援が提案された。現場を360度で共有し、離れた場所から状況確認や指示を行うことで、移動コストの削減や作業効率の向上を目指す。人手不足や熟練技術者の不足といった社会課題へ、映像技術でアプローチする内容だった。

医療分野でも、展示の中心は機器単体ではなく、課題解決へと移っている。医療映像プラットフォーム「NUCLeUS」を核に、VRやARデバイスを組み合わせ、映像共有や教育支援など、医療現場を支えるソリューションとして提案されていた。

クリエイターの創造力を解放する共創拠点

コンテンツクリエーションの領域も、今回の展示の大きな柱である。最新の撮影システムやニュース制作、ライブプロダクション、クラウドワークフローなど、制作現場に直結する展示が配置されていた。

その中でも注目したいのが、「クリエイターの創造力を解放する」という考え方である。昨年紹介された国内の共創空間構想が、今年は具体的な施設として姿を現した。

2026年2月には、Digital Media Production Center Japan(DMPC Japan)がソニーグループ本社内に開設され、本格運用を開始した。米国・英国に次ぐ世界3カ所目の拠点であり、日本の映像制作を支える新たな共創拠点として位置付けられている。

DMPC Japanは単なるショールームではない。クリエイター自身が機材を試し、新しい映像表現やワークフローを検証できる実践的な施設である。撮影からカラーグレーディングまで一連の制作環境が整えられ、実際の案件を想定した検証も行える。

開設以来、撮影監督や制作会社の関係者などが訪れ、実制作を見据えた検証が進められているという。機材を提供するだけでなく、クリエイターや制作会社、ソフトウェアベンダーなど、多様なパートナーとともに制作環境を育てようとする姿勢が表れていた。

自由度の高い映像制作環境

ライブプロダクションの展示では、システムカメラ新「Rシリーズ」を中心に、IP制作やソフトウェア化を見据えたシステム提案が行われていた。

映像制作のソフトウェア化が進む一方、ライブ制作では遅延が大きな課題となる。展示では、MXLを活用したソフトウェアゲートウェイの取り組みが紹介され、低遅延運用に向けた方向性が示されていた。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアを含めて制作システム全体を設計する考え方である。

AIを活用した撮影支援では、PTZオートフレーミング機能「球技(バスケットボール)モード」が紹介された。カメラがコートの範囲を認識し、プレイヤーとボールの動きを追跡することで、試合展開を捉えた俯瞰映像を自動撮影する。

スポーツ中継やライブ配信では、限られた人数で品質を保つ必要がある。こうしたAIによる撮影支援は、制作現場の負担を軽減しながら品質を維持するための現実的なソリューションである。

実運用を見据えたスポーツソリューション

スポーツ制作分野では、「HawkREPLAY」と「HawkNEST」に関する展示も注目を集めていた。ソニーマーケティングは2026年、TBSアクトとの戦略的パートナーシップを発表し、両ソリューションの国内展開を本格化している。

HawkREPLAYは、複数のカメラ映像を統合し、決定的なシーンを多角的にスロー再生できるリプレイサーバーシステムである。HawkNESTは、HawkREPLAYなどで生成された映像素材やプレイリストを一元管理し、映像コンテンツの二次利用を支援するアセットマネジメントシステムだ。

リプレイ制作から映像素材の管理・二次利用までを含めた、新しいスポーツ制作環境として提案されている点が特徴的だった。

こうしたソリューションは、完成形を一方的に提示するのではなく、放送局や制作会社の運用に合わせて改良を重ねていく考え方が取られている。現場から得られたフィードバックを次の開発へ反映するサイクルが、すでに動き始めている。

「体験価値」を設計する企業へ

2018年の新製品内覧会と比べると、展示規模だけでなく、来場者へ伝えようとしている内容そのものが変わっている。

製品からソリューションへ。スペックから体験価値へ。単独提案から共創へ。さらに、映像制作だけでなく、教育、医療、建設、小売、スポーツなど、社会全体へ映像技術を広げようとする方向性も鮮明になっていた。

カメラやディスプレイといったハードウェアは、これからもソニーの強みであり続けるだろう。しかし今回の展示では、それらを最終目的ではなく、体験価値を生み出すための構成要素として位置付けていた。

AI、クラウドワークフロー、IP化、人材不足、制作費の高騰など、現場が直面する課題は一つではない。個々の製品だけで解決することは難しく、複数の技術やサービスを組み合わせた提案が求められている。

今回紹介された「IGNITE CONTENT ECOSYSTEM」、DMPC Japan、スポーツソリューション、エンタープライズ向けソリューションは、対象分野こそ異なるものの、「技術をつなぎ、現場全体を支える」という共通した思想の上に成り立っている。

「Creative Solution Showcase 2026」は、新製品発表会という枠を超え、ソニーが今後どのような価値を提供していくのかを示す場だった。

映像制作は、今後ますます個別機材の性能だけでは語れなくなる。重要になるのは、それらをどう結び付け、データやワークフローを設計し、新たな体験価値へつなげるかである。

機材は目的ではなく、体験を実現するための手段へと変わりつつある。製品からソリューションへ、スペックから体験価値へ、単独提案から共創へ。今回の展示は、ソニーが「機材メーカー」という枠を越え、体験価値を設計するパートナーへ進もうとする変化を示していた。