2026年7月、世界各国のメンバーで構成される審査員団によって、2026年度ライカ・オスカー・バルナックアワード(以下:LOBA)のファイナリスト12名が選出された。今年で46回目を迎えるLOBAは、厳正な選考を経て優れた写真家たちの活動を称える。
ファイナリストの作品シリーズは公式ウェブサイトで公開されており、今後数週間にわたって詳細情報が順次追加される予定だ。また、2026年は新設された「LOBA Women Grant」の受賞者が初めて選出された。受賞プロジェクトの作品は来年発表される。
2026年10月8日にドイツ・ウェッツラーのLeica Weltにて授賞式が行われ、一般部門と新人部門、およびLOBA Women Grantの受賞者が発表される予定だ。
1980年に創設されたLOBAは、人間と環境の関係に焦点を当てた写真シリーズを対象としている。今年も世界約48カ国の130名以上の専門家から推薦された作品を審査し、ファイナリストを選出した。新人部門(ライカ・オスカー・バルナック・ニューカマーアワード)は、世界18カ国28の国際機関や高等教育機関との協力で選出される。
2026年度の審査員
(敬称略)
- ジェーン・ジョンソン(アメリカ):ニューヨーク近代美術館(MoMA)キュレーター兼研究者
- セリーナ・ランズフォード(ドイツ):フランクフルト写真フォーラム芸術監督兼キュレーター
- パオロ・ペレグリン(イタリア):写真家
- グ・ジェン(中国):上海・復旦大学ジャーナリズム学部教授
- カリン・レーン=カウフマン(オーストリア):ライカギャラリー・インターナショナル代表兼アートディレクター
賞と写真展
一般部門の受賞者には賞金40,000ユーロと10,000ユーロ相当のライカ製品、新人部門の受賞者には賞金10,000ユーロと「ライカQ3」が贈呈される。授賞式後、受賞作品とファイナリストの作品は、エルンスト・ライツ・ミュージアムでの大規模な写真展(2027年2月4日まで)を皮切りに、世界各地のライカギャラリーや写真フェスティバルで順次展示される。
2026年度LOBAファイナリスト(アルファベット順)
2026年度ライカ・オスカー・バルナックアワード(LOBA)のファイナリスト12名の作品概要は以下の通り。
- サヘル・アルゴッラ:Witnessing Gaza
パレスチナ人フォトジャーナリストのアルゴッラ(1997年-)が2025年に発表した作品シリーズだ。ガザ戦争の多面的で複雑な全体像を描き出している。物資不足や飢饉から暴力や喪失にいたるまで、国際的なニュースの見出しを飾った光景だけでなく、報道機関では取り上げられることのなかった人間同士の交感の瞬間も捉えている。
- トッド・アントニー:Buzkashi
ニュージーランド人写真家アントニー(1975年-)は、モノクローム写真シリーズを通じてタジキスタンで古来より続く伝統的競技「Buzkashi(ブズカシ)」をドラマチックな写真で記録している。作品名でもあるペルシア語「Buzkashi(ブズカシ)」は、文字通り訳すと「山羊の引っ張り合い」を意味する。この競技は頭のない山羊の死骸を巡って争われる。中央アジアの遊牧騎馬民族の間で生まれ、今日でも、力強さと乗馬技術は、競技に参加する選手たちのアイデンティティを形づくる重要な要素となっている。
- アヌーシュ・ババジャニャン:The Aral Sea and the Battered Waters of Central Asia
かつてアラル海は世界で4番目に大きな内陸水域であったが、ソ連時代の灌漑事業の影響によって現在ではその表面積の90%以上が失われている。アルメニア人写真家ババジャニャン(1983年-)の作品シリーズは、環境危機を記録するだけでなく、ウズベキスタンやカザフスタンの地域社会が生き残るためにどのように適応してきたかを明らかにしている。地域の住民たちはラクダの飼育や塩水エビの収穫、養蜂を行い、コカラル・ダムの建設によって再生したアラル海北部で漁業を営んでいる。
- ダミル・ファイズリン:Preserving Nature as Preserving Ourselves
ロシア人写真家ファイズリン(1986年-)は、ロシア南部の北コーカサスに位置するダゲスタンの山々における自然や生活環境に焦点を当てている。その地に住む人々と自然との間にある危うい均衡が直面する危機を、ファイズリンは自身の写真を通じて浮き彫りにしている。彼の作品は現代における変化、ツーリズムの台頭、近代的な建造物の拡大、さらには長年にわたり築き上げられてきた構造や文化が顧みられなくなる状況を捉えつつ、同時にこの地域の美しさを称えている。
- ウィリアム・ケオ:Extramuros
現在のフランスを見つめるフランス人写真家ケオ(1996年-)の作品シリーズは、大都市郊外に住む若者たちを主題としている。都市の外縁部は、社会構造に根ざした暴力、経済危機の痕跡、そして1960年代から1970年代にかけての住宅政策の影響を色濃く感じさせる。しかし同時に、創造性と政治的革新の中心地でもある。ケオは、ポストコロニアル時代において変化するフランスを、社会的、文化的、そして政治的な岐路に立つ姿として描き出している。
- スラヴァ・リュウファ:Inner Distance
サハ共和国の北極圏に位置するニジネコリムスク地区は、地理・時間・インフラのいずれの点から見ても、周囲から切り離された状態にある。ロシアの最北東端にあるこの集落は、「人々、記憶、そして生き延びることの必然性によって結びつけられた、脆弱なシステムの一部である」と、ロシア人写真家リュウファ(1989年-)は説明する。リュウファはこの作品シリーズで、同地区の様々な土地の姿を紹介している。そこでは、漁師であれ研究者であれ、誰もが等しく気候と経済の変化に影響を受けながら、日々の暮らしを営んでいる。
- ヴァレリー・メルニコフ:Mariupol – Open Wounds
ロシア人写真家メルニコフ(1973年-)による作品シリーズでは、ウクライナの港湾・工業都市マリウポリに住む人々が主題として描かれている。2022年2月末から始まったロシアによるウクライナ侵攻と都市の包囲に伴い、容赦ない戦闘が続き、民間人にも甚大な犠牲者が出た。メルニコフが現在取り組んでいるドキュメンタリープロジェクトは、戦争が街に残った住民たちに与える、耐え難い人道的影響に焦点を当てている。
- ベネディクト・レンチ:Cairo
チェコ人写真家レンチ(1982年-)は自身の作品シリーズで、エジプトの首都と、そこで劇的に進む変化に対する独自の視点を提示している。彼の目標はありのままの日常を捉えることにある。「この荒々しく手つかずの現実をいまだ生きる最後の世代を記録したいと思いました」とレンチは語る。「今、埃と石に囲まれたこの場所にいて、カイロが見分けのつかないほど変貌する中で失われてゆくひとつの雰囲気を、自身の手でとどめておきたいと思いました」
- エリオット・ロス:A Question of Balance
米国最大の先住民族保留地ナバホ・ネーションでは、水は決して当たり前のものではない。米国南西部が史上最悪の干ばつに見舞われる中、台湾系アメリカ人の写真家であるロス(1990年-)は民族的な境界線によって分断された水供給の物語に光を当てている。一人当たりの水使用量という点で見ると、ユタ州ワシントン郡で裕福なコミュニティが過剰な量の水を消費している一方で、その対角線上に位置するナバホのコミュニティは、日常生活に必要な水を欠いている。
- アニー・サッカブ:We Used to Watch the Rivers Go By
ヨルダンにおいて水は単なる物理的資源ではなく、石や土、さらには歌のなかに現れる「記憶」でもある。「ある資源への好奇心として始まったことがやがて自分自身の歴史と受け継いできたものをより深く探求する営みへと変わり、何世紀にもわたる変化と困窮によって形づくられてきたこの国における、自らのルーツを探す旅となりました」。パレスチナ・ヨルダン系写真家サッカブ(1969年-)は、「これは単なる水に関する研究ではなく、人々についての物語でもあるのです」と語る。
- デイヴィッド・スラーデク:People of Šumiac
旧チェコスロバキアで生まれ、イギリスとアイルランドを拠点に活動する写真家スラーデク(1976年-)は、20年近く前にスロバキアの小さな山村シュミアツに第二の故郷と呼べる場所を見出した。それ以来、スラーデクはこの村の人々の生活や日常、そして伝統を記録し続けている。彼にとってこのモノクローム写真シリーズは、地元住民と、同じくその地に住みながらも、一本の小川によって物理的に隔てられているだけでなく、社会的にも完全に疎外されているロマという、二つの集団をつなぐ一種の架け橋となるものだ。
- ライラ・アンマリー・スティーブンス:Clayton Sisterhood Project
祖先を追憶したいという切なる思いに着想を得たアメリカ人写真家スティーブンス(2001年-)は、自身の作品シリーズを通して、規範にとらわれない現代の親族関係や、力強く自信に満ちた黒人女性たちが後に続く世代へと残す遺産を探求している。作品の中心に据えられているのは、写真家の2人の姉妹と4人の姪たちが自ら築き上げた生き方だ。彼女たちはニューヨークのクイーンズからノースカロライナ州クレイトンに購入した一軒家に移り住み、共同生活を送っている。
LOBA Women Grant
今年から新設されたこの賞は、数多くの女性候補者から1名を選出し、プロジェクトの実現を支援するものだ。選出されたアイデアは翌年のLOBAで作品として初披露される。
審査員のコメント
審査員のカリン・レーン=カウフマン氏とグ・ジェン氏は、次のようにコメントしている。
レーン=カウフマン氏:ライカ・オスカー・バルナックアワードは、卓越した写真表現の質を評価するだけでなく、社会の変化を映し出し、人々を結び付ける写真の力を称えることも目的としています。LOBAは、こうした場がなければ十分な社会的認知を得ることが難しかったであろう長期プロジェクトに光を当てています。
グ氏:LOBAは、何よりもまず現実に真正面から向き合い、グローバル化のなかで見過ごされがちなコミュニティの暮らしや生活環境を可視化するとともに、さらに重要なこととして、人間性の複雑さを明確に示すことを重視しています。こうした姿勢により、LOBAは国際的な写真界において極めて重要な役割を果たしています。