デジコン株式会社 技術部 山本善宣

かつて中継と言えば、長大な機材の元、限られたインフラでのみ行うもので、予算や人的にも簡単にできるものではなかった。しかしUSTREAMの登場でこれまでのハードルはぐっと下がり、ネット配信が一般的になった事は言うまでもない。これを可能にしたのは、インターネットと機材の性能向上があげられる。映像制作やTV中継をメインに扱った放送側ではなく、通信側からのアプローチが増えているのも事実だ。 今回は、デジコン株式会社技術部の山本善宣氏にその取り組みについて伺った。

規模が拡大するネット配信の市場で活躍する映像機材

デジコン株式会社(以下:弊社)もインターネット配信に関わる全般をサービスに掲げています。近年、各方面からの依頼が増えているのも事実です。2年前に議会中継案件にて、マルチカムでの中継作業の必要性から、弊社ではPanasonicのAG-HPX175を複数台導入し、AG-HMX100と共に同様の作業を請け負っています。上記構成を導入するに至ったのは、インターネット中継配信が広まるとともに、HDTVサイズでの中継配信需要が見込まれる事も考慮の上、比較的低予算で構築可能だった事があげられます。しかし、依頼が増えるという事はその分カバーしなければならない要素が増えてきます。

議会中継やインドアなコンテンツの配信は上記構成で賄えていたのですが、当然の事ながら、中継配信のニーズが増え、多様な中継業務を請け負う中で、様々な問題点も見つかりました。

  • 懸案1:インターネット配信と言う形態から、PAL圏のクライアントが元素材納品を要求する。
  • 懸案2:大規模な会場でのセミナーの配信中継依頼

この二点が社内でも大きな検討事項としてテーブルに上がるようになりました。懸案1については、そもそも「PC向け」配信が主流であったことから、TV規格であるNTSCやPALといった周波数に関わる問題とはこれまで無縁だったのですが、クライアントから「中継した内容を、報道資料として別途保存したい」といった要求がありました。そうなると、報道向けとは「TV」で放映する事が前提であり、「PAL」で欲しいとのクライアント要求となる事があったのです。

懸案2では、HPX175の仕様では物足りなく、厳しくなってきました。HPX175は広角よりのレンズを搭載した一体型カメラであり、ズームは13倍と一般的であるものの、「寄りきれない」部分がどうしても出てきたのです。

最小限で最大の効果を得るためには…?

本番に向けての各カメラとの接続チェックは欠かせない

こういった悩みが社内でちらほらしてきたころ、Panasonicから新機種としてAG-HPX250が発表されました。もちろん、この情報に飛びつきました。HPX250はHPX175にくらべて、「PAL」対応だけでなく、「22倍ズーム」とズーム機能が強化されています。頭を悩ます上記の問題をクリアする条件を満たしていました。そこで弊社ではまず、一台を試験的に導入しました。良好な結果が得られましたので、さらにもう一台の導入に至りました。

物事は発展するものです。ちょうど2か月前にこれまでにない依頼を受けました。

「野球イベントの中継配信をお願いしたい」

いままでに無い規模の中継依頼です。これまでの実績として、スポーツ中継に関しては、バスケットボールを請け負ったことはありましたが、こちらはインドアである体育館でのスポーツ。野球場はアウトドアであり、それよりも広いグラウンドでの実施となります。

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バックネット側に設置したHPX175とHPX250

うちにはHPX250が二台しかない…。175ではズームに不安が…。という事で急遽HPX250を1台仮導入。今回は、HPX250を3台、HPX175を1台の合計4台体制で中継作業を実施しました。さてカメラの配置についてですが、クライアントの予算的制約からバックスクリーンからの撮影が無いことから、バックネット側に2台、一塁側に1台、三塁側に1台で対応しました。

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バックネット側では1台を、投手から主審判までを捉え、固定カメラとしてHPX175を、もう1台を打球を追う為のカメラとしてHPX250を使用しました。また、一塁側と三塁側は、投手、打者、走者を捉える為、ともにHPX250で対応しました。3台のカメラマンとはワイヤレスインカムで意思疎通し、なるべくTV中継における中継と違和感無いように画面を切り替え、配信する事が出来ました。通常のTV中継でのカメラワークは台数、スタッフ数も遥かに多い訳ですが、この布陣で十分対応できました。クライアントにも満足頂いたようで、問題なく終了となりました。

さて今回我々の頭を悩ましたHPX175の13倍ズームとHPX250の22倍ズームの違いを見てみましょう。映像の制約上、テスト画面ですが、以下の写真のように、テレ端ではかなりの違いがあります。

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HPX175ワイド端

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HPX250ワイド端


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HPX175テレ端

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HPX250テレ端


どちらともカメラから被写体までは10m

広い会場では、撮影する対象のバストショットが可能かどうかということが重要になってきます。特にスポーツ中継に関しては、「背番号」が見やすいか否かがとても肝心なのです。見事にこのリクエストにHPX250は応えてくれました。

使い勝手の向上としては、「フォーカスアシスト」の見やすさがあります。HPX175の液晶モニタは、カタログ上で21万画素と記載されているのに対して、HPX250の液状モニタは、92.1万ドット(画素)となっているので、そのまま受け取れば、約4.3倍の解像度と言えます。さらにHPX175は4:3のモニタで、HD撮影の場合はレターボックス表示となるため、よりシビアなフォーカスを合わせにHPX250が有利です。その瞬間を切り取る中継は、油断禁物でいつ何が起こるか想定できません。そんな中機能スペックの向上は、我々スタッフの安心材料の一つになりました。

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HPX175のフォーカスアシスト画面

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HPX250のフォーカスアシスト画面


他にもアイリスが、カメラ横の小さなダイヤルから、レンズ側で調整できるなど、HPX250はHPX175より使用感はかなり良いです。使用してみて初めてわかる事も多くありました。ただし、三脚を据えて撮影する場合には、さして問題になりませんが、HPX175が優位な点が一つあり、それは「軽さ」といえます。上記のズーム性能に比例して、レンズが重くなったため、HPX250はカメラの重心が、フロント寄りになり、ハンドヘルドとしては手首に負担がかかりやすくなっています。HPX175は本体重量が1.9kgとかなり軽い部類ですが、HPX250は600g増えています。

今回の中継ではクライアント要求にはありませんでしたが、各カメラの素材提供依頼があった場合、HDTVサイズでは、同じP2カードを使用した、フルHDサイズで提供可能なAVC Intra規格が収録でき、HDMI出力が追加されたことで簡易な外部モニタを利用可能と、このレンジのカメラとしては多くの利点があります。

元々の映像制作やTV中継を行う規模の会社ではない、インターネット中継配信をメインに行う会社であれば、多くの事がカバーできるHPX250はコストパフォーマンスが非常に優れたものであると言えます。

総括

以上から、弊社としては、さらにもう1台、HPX250の導入を前向きに検討しているところですが、この度、Panasonicから新たな発表があり、機能追加版のHPX255が提供されるとの事です。この機種の目玉は「10Pリモート端子を装備」で、カメラコントロールユニット(別売:AG-EC4G)でリモート操作ができることであるといえます。

今回の中継では、カメラマンはアイリスの調整も行ったわけですが、本来、野球の様にスポーツ中継では、カメラマンの負担を軽くする為に、VEさんが一括でアイリス調整を行う方が理想です。このリモート機能を利用すれば、カメラマンの負担は減り、長時間の中継でも集中力が切れにくくなると考えます。また、現場でのカメラの色調整もかなり楽になります。

中継の現場と言えば、被写体への距離や各カメラとの接続などの観点から、レンズ交換可能な大型カメラを利用した、大規模な装備での作業が常態だったと思われます。冒頭に述べたように、インターネット中継配信が増えている昨今、迅速に対応する為の機材のコンパクト化、軽量化は必須の傾向にあり、スモールスタートでの依頼も多いのが実情です。そういった観点からもハンドヘルドカメラでの対応はインターネット中継配信にマッチし、クライアントへの負担減になり得ます。その中でHPX250/255は、非常に有効だと思うのです。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。