txt:吉田泰行(株式会社アルマダス) 構成:編集部

DJIから2017年10月にリリースされたデジタルシネマカメラ「Zenmuse X7」。空撮専用カメラとしては初めてSuper 35mmセンサーを搭載し、最高解像度は6Kに達する、DJI史上最高性能のカメラである。

DJIは2015年発表のX5シリーズから本格的な空撮カメラの開発に乗り出している。このX7の登場により、一挙にカメラメーカーとしての地位も確立したDJIの今後が非常に楽しみである。今回の記事では従来機種であるX5Sと比較しながら、最新のX7カメラの魅力に迫って行きたい。

スペック

まず気になるスペックであるが、ファームアップによりX7の機能は出荷時に比べ大幅に拡張している。4月6日に発表されたファームアップにより、X7は14bitのRAWに対応(従来は12bit)。地上用のデジタルシネマカメラと比較しても全く遜色がないスペックに引き上げられている。また、Appleから新しく発表されたProRes RAWにも対応しており、RAWに比べ収録時間を延長しつつも、高画質での撮影が可能だ。

なお、筆者は撮影の際に6K RAW(1,925万画素)で撮影をしている。これは地上のカメラで8K RAWで撮影しているのと同じ理由であるが、これだけ解像度が高いと後からクロップをしてフレーミングを変えたり、クライアントに写真としても納品できたりと自由度が大幅に高まるからだ。

特に写真に関してはX5Sからの動画切り出しの場合、若干判別が可能であったが、X7になると動画から切り出した写真か、写真として撮影したデータか判別する事ができないほど解像度が高い。X7を使い動画と写真を同時に納品できるのはクライアント目線からも非常に嬉しい事である。

X5S X7
センサーサイズ 17.3x13mm(4/3MFT) 23.5×15.7mm(APS-C)
23.5×12.5mm(S35モード)
動画 5.2K RAW 12bit 30fps
4K RAW 10bit 60fps
5.2K/4K ProRes 30fps
6K RAW 14bit RAW 23.976fps
4K RAW 10bit 60fps
ProRes RAW対応
静止画 2080万画素 2400万画素

X5Sからの改善点

X5Sからの大きな改善点として1つ挙げるとすればダイナミックレンジ(ハイライトロールオフ)の向上である。X5R、X5Sシリーズはダイナミックレンジが12.8ストップあり非常に優秀なカメラであるが、夜明け・日没などダイナミックレンジをフルに必要とされる現場ではハイライト部分が急激に色飛びする事があった。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2018/06/0529_X7review_06_big.jpg https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2018/06/0529_X7review_05_big.jpg
X5Sで撮影したカット。逆光で非常にダイナミックミックレンジが要求されるシチュエーションである。全般的には非常に頑張っているが、海面付近は照り返しが強く急激に色が飛んでしまっている。色とびが発生するときつい印象を与えるので極力避けたいところではある
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夜明け・日没のドラマチックなカットでハイライト部分が急激に色飛びをするとどうしても作品性が損なわれてしまうが、X7では大きな改善が見られている。ダイナミックレンジも14ストップに拡張しており、ハイライト部分が色飛びするにしても極めてなだらかに色飛びするように改良された。

元々空撮は地上撮影とは違い、照明が使えず現場の状況によりカメラに無理をさせるシチュエーションが多いのだが、このハイライトロールオフの改善は作品性を担保する機能として高く評価したい。

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X7で撮影した素材。X5Sで撮影した素材と同様、完全な逆光での撮影である。太陽部分は色が飛んでいるが、周辺の階調が非常に滑らかに表現されているので、仕上がりの印象も柔らかくなる。なおDJIのX5R、X5S、X7カメラはシャドウ部分の回復力が非常に強く、ダイナミックレンジが要求される現場では暗めに撮影するのをオススメする
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X7は画質の面ではX5Sに比べ大きな優位性を保っている。しかし状況によりX5Sが生きる現場もまだまだあり、筆者もX5SとX7を現場に応じて使い分けている。以下X5Sに軍配が上がる機能を紹介したい。

■ジンバル速度

X5Sはマイクロフォーサーズ規格を採用しているためカメラの筐体が小型で、標準レンズを搭載した場合の重量は461gである。一方X7はSuper 35mm規格を採用しているため、筐体が大型化しており、レンズ込みの重量は約630gである。小型な分、ジンバルのパン・ティルトの速度は同一設定でもX5Sの方がかなり早く、非常に高速で動く被写体や高速でパン・ティルトの動作をしないといけない現場ではX5Sの方が使いやすいであろう。

X7はX5Sに比べ50%近く重たくなっているため、ジンバルの回転速度はどうしても遅くなってしまう

■レンズの柔軟性

画像左から16mm、35mm、24mm、50mm

X7のレンズは全て単焦点のレンズであり、X5Sのようなズームレンズには対応していない。ズームレンズは単焦点のレンズに比べ、画質面では不利であるが、時間がない現場ではレンズの交換をする手間が省けるため重宝している。その点X5Sに対応しているPanasonicの14-42mmはフレーミングを柔軟に決定できるので時間の節約に繋がる。

一方X7の場合は画角を変える場合、一度着陸してレンズを交換する必要がある。時間が限られる現場ではX5Sの方が向いている状況もあり、実際に撮影のタイムスケジュールにより筆者もX5SとX7を使い分けている。

値段

X7を語る上で最後に触れなければいけないのが値段である。下表に風景などを撮影するという想定で最低限必要な構成品をあげるがX5Sのコンボが約130万円に対し、X7は約155万円である。ただし、X7が求められる現場では画角の調整などかなりシビアな設定が求められる。最終的に複数のレンズを揃える必要があり、機体とセットで200万円ほどの投資が必要である。

Inspire 2 X5Sコンボ Inspire 2 X7コンボ
Inspire 2本体:389,000円 Inspire 2本体:389,000円
カメラマン用送信機:65,200円 カメラマン用送信機:65,200円
X5S本体(レンズセット):248,000円 X7本体:349,800円
Cine SSD(480GB)x2:232,000円 16mm DLレンズ:168,400円
ProRes/RAWライセンス:162,000円 Cine SSD(480GB)x2:232,000円
TB50×10本:189,000円 ProRes/RAWライセンス:162,000円
TB50×10本:189,000円
合計:1,285,200円 合計:1,555,400円

また投資はこれで終わりではなく、現場のバックアップ用にSSDを複数用意する必要があり、筆者の場合は地上用のデータも含め16TBのSSDを用意している。ここまでのSSDは必要ないかもしれないが、最低限2TB SSD×2は用意したい所だ。なおHDDは転送速度の関係で、X5S、X7の大量のCinemaDNGファイルを転送するにはオススメできない。

以上のようにX7の運用はカメラとドローンを買って終わりではなく、その先の編集の事まで考える必要がある。空撮を始めたばかりの方に関してはPhantom 4 ProやX4Sで徐々に実績を積み上げて、将来的なアップグレードの1つの道として検討した方が良いであろう。

まとめ

X7は空撮用カメラとしては間違いなく世界最高の性能を有しており、地上のデジタルシネマカメラと比較しても遜色はない。筆者は地上用としてはRED WEAPON 8KとEPIC-W 8Kの2台を運用しているが、REDを大型機に乗せて打ち上げる手間暇を考えれば、映画などの現場でも間違いなくX7を推奨したい。

実際にある映画の現場でRED DRAGON 6K相当での撮影のオーダーが来たものの、運用の手軽さや画質面からX7を強く推奨した結果、採用してもらえた。現在複数の現場でX7を運用しているが画質面でも大きな不満がなく、全体的なシステムが小型になるため現場で撮影できるテイク数も大型機に比べ間違いなく増える。

ただし、今後新規にX7を導入するユーザーはやはりコスト面が気になる所であろう。データを処理するPCやSSDなど付属品を入れると最終的な投資額は300~400万円ほど必要になり、決して安い買い物ではない。しかしながら、その代価と引き換えに、最高級のデジタルシネマカメラと遜色がない画質で、手軽に空撮を行う事ができる。本格的な空撮に向けてステップアップを行いたいクリエイターには、X7は非常に魅力的なソリューションではないだろうか。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。