txt:井上晃 構成:編集部
気になるATEM Television Studio Pro 4Kの実力とは
NAB Show 2018を目前にした米国時間の2018年4月9日、Blackmagic DesignはBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kなど多数の新製品群を発表したが、その中で従来機の正常進化と思われる操作パネル一体型ビデオスイッチャー「ATEM Television Studio Pro 4K」を発表した。
2017年に登場したATEM Television Studio Pro HDから1年を経て登場した本機は、見た目は従来機と同じながら、内部的には2月に登場した新世代フラッグシップ機ATEM 4 M/E Broadcast Studio 4Kに準じた大幅なアップデートが行われており、まったく別物の製品として生まれ変わっている。
この羊の皮を被った狼的なATEM Television Studio Pro 4Kのより深く進化した機能を中心にレビューしてみよう。なお、以前筆者が寄稿したATEM Television Studio Pro HDの記事も参考にして頂きたい。
外観から見る概要
映像入出力は12G-SDIに、ほぼ統一された。HDMIはMulti View出力のみだ
従来機種のATEM Television Studio Pro HDは、HDMI4系統+3G-SDI4系統の8入力でHDまでの対応であったが、ATEM Television Studio Pro 4KはHDMI入力を廃し8系統の12G-SDI入力を搭載して、2160p60までのUltra HDを扱えるHD/Ultra HD対応モデルとなったのが、外観上での最大の違いとなる。
映像出力もほぼSDIのみで、Programx1、Auxx1、Multi Viewx1、リターン用outx8(Program固定)、HDMIでの出力はMulti Viewのみとなる。アナログ音声入力はXLRx2。他に内蔵トークバック用のマイク、ヘッドフォン端子などを備える。バックパネルのスペースの都合とは思うが、HDMI入力、HDMI Program出力を廃したのは賛否が分かれるだろう。
その他、幅423mm×奥行き302mm(高さ不明)の高剛性金属製ボディ、パネル面の自発光式ボタン155個、14本のロータリーノブ、1個のトラックボール、1個のロータリーエンコーダー、1個のLCDパネル、1本のトランジションスライダーに従来機との違いはなく、操作感もまったく同じである(パネル面の詳細についての記事はコチラへ)。
このパネル面の違いの無さは、本機が従来機のマイナーバージョンアップ機であるように見せてしまうが、内部を探ると本機の大幅な進化が見えてくる。次項から新世代機の片鱗を見せる内部機能を探ってみよう。
Teranex品質のフォーマットコンバーター搭載
従来ATEMスイッチャーは各入力にスケーラーコンバーターなどは搭載せず、入力のフォーマットは本体のシステムフォーマットに忠実である必要があったが、本機では入力に低遅延のフォーマットコンバーターが搭載されたのが、最初のトピックスである。しかも特定の入力に限定されておらず8系統の全入力で有効なのも嬉しい。これによってビデオフォーマットであればカメラの設定を揃えることなく入力が可能になりフォーマット対応度は大幅に向上した。
Blackmagic Designホームページより引用
ただ残念ながらコンバート出来るのはビデオ系のフォーマットのみであり、1280×1024や1366×768などのPC用グラフィックフォーマットには対応していない。PCからプレゼンテーション用画面の入力はよく求められるものであるので、今後のアップデートで可能となることを期待したいものだ。
MacBook Proでは、HDMI-SDI変換のみで入力が可能
ただ、MacBookなど720p、1080pなどのビデオ出力に対応した機種では、HDMI-SDI変換しただけで入力が可能であった事は報告しておく。
プロ仕様のFairlightオーディオツールを搭載
6バンドパラメトリック・イコライザー設定パネル
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従来のATEMスイッチャーの2chオーディオミキサーは、入力した各チャンネル音声のOn/Off/Audio-Follow-Video、レベル、Panなど基本的な機能のみを提供していたが、ATEM Television Studio Pro 4Kでは、その優れた品質で定評のあるFairlightオーディオツールを、ATEMスイッチャーとしては初めて搭載した。
ツールの種類は、Fairlightオーディオエンハンサー(コンプレッサー、ゲート、リミッター、6バンドのパラメトリック・イコライザー)、XLR入力のみディレイラインおよびステレオシンセサイザー。これらのツールは各チャンネルそれぞれに個別の設定でかけることも可能で、コンプレッサー・ゲート・リミッターとパネル上に配置された各チャンネルのゲインボリュームによって、各チャンネルの音声管理が容易になっただけでなく、XLR入力だけではあるが、ディレイがかけられるようになって、スイッチャー使用時のリップシンクのズレを本機のみでも補正出来るようになった。
マスター・ダイナミクス設定パネル
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ライブストリーム配信などでは、スイッチャーからの音声出力が最終段となる場合も多いため、コンプレッサー・ゲート・リミッターなどダイナミクスが有効であれば、より安定した音声が提供できることだろう。
各ツールの使い勝手は特別な使い方ではなく、一般的なコンプレッサー・ゲート・リミッターなどの使い方に準じており、その使い方に迷うことは少なかった。
次世代のATEM Advanced Chroma Keyerを搭載
従来型のATEMでのクロマキーヤーのヌケ具合、および使い勝手は、正直十分な品質であるとは言えず、ある意味お試し的なカンプ用の品質であり、ATEMの最大の弱点と言ってもよいものであった。ATEM Television Studio Pro 4Kでは、2月に登場したハイエンド機「ATEM 4 M/E Broadcast Studio 4K」で初お目見えした、全く新しい次世代のATEM Advanced Chroma Keyerが搭載され、従来型ATEMのクロマキーヤーと比較すると、驚くようなクロマキーイング品質の向上がもたらされた。
最初に白状しておくと筆者の印象では、「完璧に使える」クロマキーヤーに変貌し、そのクロマキーライブプロダクションは「完全に使える」ものとなったと、筆者を唸らせる品質であった事を、まず報告しておきたい。そのATEM Advanced Chroma Keyerの設定は一種独特だが、ほぼオートマチックに設定は完了する。
その設定方法は、本機のメニューから「Upstream Key」もしくは本機に接続した別PCでソフトウェアコントロールパネルの「アップストリームキー」パレットを開き、キーの種類のバーから「クロマ」を選択するところから始める。
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この設定パネルの「Croma Sample」チェックをオンにすると、マルチビューのPreview画面にはボックス型の、クロマサンプリング用色範囲選択およびサイズ変更可能なオンスクリーン・コントロールが現れる。
ここで適当な範囲を設定するだけで基本的なクロマキーイングの設定は完了するが、その設定は絶妙でほぼ一発で良好なクロマキーイングが得られるのが素晴らしい。またコントロールパネルの「Preview」をオンにすると、マルチビューのPreview画面では実際にクロマキーイングされたプレビューが表示されるので、設定の試行錯誤も簡単だ。
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設定のコツとしては、抜きたいクロマバックが均一でない場合には、最初に暗い部分をサンプリングしてから、サンプルボックスのサイズを大きくすることが推奨されているそうだ。このプレビューはボックスの変化をリアルタイムに捉えて、クロマキーイングの状態は変化するので、良好な結果を得るための様々なトライも容易である。
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また、さらに設定を追い込みたい場合には、フォアグラウンド/バックグラウンド/エッジのキー調整コントロール、スピル/フレア抑制用のクロマ修正ツールも搭載されているので、更なる微調整も可能だ。この場合、まずフォアグラウンド/バックグラウンドのキー調整コントロールによって、フォアグラウンド/バックグラウンドの不透明度を調整することで基本的なヌケを調整し、エッジ調整コントロールによってエッジの抜け方を微調整するということになる。
更に特徴的なスピルによって、フォアグラウンドのエレメントのエッジから色かぶりを取り除き、フレアによって、フォアグラウンドのすべてのエレメントから色かぶりを均一に取り除くことによって全体の色かぶりを抑制するという、調整手順となる。
ここまででも十分なクロマキーイングは可能なのだが、更に「Color Ajustments」コントロールによって、フォアグラウンドイメージの明度、コントラスト、彩度、カラーバランスを調整してバックグラウンドとなじませることで、エフェクトの仕上がりが自然になるという。これはもう「完璧」なクロマキーイングと言えるのではないだろうか。
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Television Studio Pro HDと異なりATEM Television Studio Pro 4Kはメディアプールも拡張されている。90フレームのUltra HD、360フレームの1080HD、あるいは1440フレームの720HDビデオを保存して2系統のメディアプレイヤーで使用することが可能だ。スチルイメージ容量は20ファイルと同じである。
メディアプールはフラッシュメモリーを使用し自動保存されるので、電源を切ってもイメージが保存されるのは、前作から引き継がれる美点の一つだ。電源をオンにするだけでメディアプールへ自動的にロードされるので、素早いセッティングにも貢献することだろう。
まとめ
その他、本稿では紹介出来なかったATEM Television Studio Pro 4Kの機能をまとめてみると、
- 放送スイッチャーとプロ仕様のハードウェアコントロールパネルを一体化
- 8系統の12G-SDI入力。各入力に自動再同期、フォーマット/フレームレート変換機能を搭載
- HDから2160p59.94のUltra HDまでのあらゆるビデオフォーマットに対応
- 8つのソースおよびプレビュー、プログラム出力に対応した内蔵マルチビューx1
- 内蔵メディアプールストレージは、90フレームのUltra HD、360フレームの1080HD、または1440フレームの720HDビデオを保存可能
- ボーダー、ドロップシャドウ対応の内蔵DVE
- カット、ミックス、ディップ、SMPTEワイプなどの多彩なトランジション
- クロマキーヤーを含む1系統のアップストリームキーヤー、2系統のダウンストリームキーヤー
- 1系統のAux出力。Aux切り替えボタン、確認用LCDスクリーンを搭載
- 内蔵オーディオミキサーで、すべてのビデオ入力のエンベデッドオーディオおよび独立したオーディオ入力からのオーディオをライブミックス
- バランスXLRのステレオアナログオーディオ入力
- ブラック、カラーバー、2つのカラージェネレーター、2系統のメディアプレーヤー出力などの内部ソース
- コンピューター接続用のイーサネット接続
- MacおよびWindows対応のソフトウェアコントロールパネルを同梱
- すべてのATEMコントロールパネルと互換
- ブラックバーストおよびHD3値シンクゲンロック入力で、大規模なシステムに統合
と、なんとも盛り沢山である。しかもその内容の充実度は、従来機の単なる4K化とは言えない充実ぶりでありながら、価格は税別339,800円と、相変わらずの納得価格である。
今年2月に発表されたフラッグシップ機ATEM 4 M/E Broadcast Studio 4Kから続く、ATEM Television Studio Pro 4Kは、ハッキリと新世代ATEMへ生まれ変わったと言えよう。またその進化は従来のATEMにあったマルチフォーマットに弱いとか、クロマキーがイマイチという弱点を克服する内容であることは、誠にアッパレ!な進化だ。特に本機は4K化されたのにも関わらず、動作ファン音も静かでどのような現場へも持ち込む事は可能であろう。
機能向上を考えれば既設スタジオの代替にも良い。また、1 M/Eなど旧機種を所有するユーザーの代替としても、十分考慮の対象となり得る製品であると思う。実際筆者も1 M/Eの代替を本気で考え始めた。
新世代ATEMは、どれも今すぐ購入しても後悔は無いと断言できる。またより深く進化した機能は、従来機では得られないライブプロダクションを実現するだろう。相変わらず電源コードは同梱されていない。電源コードは別に用意して、本機の購入ボタンをポチろう。