txt:井上晃 構成:編集部
Blackmagic URSA Broadcast専用レンズが登場
ブラックマジックデザイン株式会社は、同社のプロ仕様放送カメラBlackmagic URSA Broadcastに、同カメラ専用に開発されたFUJINON 4K B4レンズ「LA16×8BRM」を組み合わせたカメラレンズセットを発表した。
2018年2月に発表されたURSA Broadcastは、高画質な4Kセンサーに、B4レンズが装着できるレデューサーレンズ組み込みのB4レンズマウントを装備した4Kカメラである。B4レンズを装着したHDカメラが手持ちにあるユーザーにとって、安価かつ堅実な4Kアップグレードパスとして好評を持って迎えられ、世界各地のプロダクションにて導入事例が相次いでいる。
そして2019年3月、そのURSA BroadcastにベストパートナーとなるレンズがFUJINONブランドから登場した。FUJINON LA16×8BRMである。このレンズはFUJINONブランドの富士フイルム株式会社により、URSA Broadcastのために開発された4K B4レンズであるという。
早速、Blackmagic URSA BroadcastにFUJINON LA16×8BRMを取り付け、その使い心地をレビューしてみよう。
なお、Blackmagic URSA Broadcast本体については、筆者が昨年レビューした記事[OnGoing Re:View]Vol.36もご参照頂きたい。
FUJINON LA16×8BRMの仕様
まずはこのレンズの仕様から紹介しよう(取扱説明書より抜粋)。
適用カメラ | 2/3”フォーマットカラーカメラ(プリズム型分解光学系) |
焦点距離 | 8~128mm |
ズーム比 | 16× |
最大口径時F値 | F1.9(8mm)~F2.8(128mm) |
最大口径時T値 | T1.98(8mm)~T2.92(128mm) |
絞り範囲 | F1.9~F16、クローズ |
画面寸法 | 9.59×5.93mm(Φ11.0mm) |
アスペクト比 | 16:9 |
フランジバック | 48mm(調整範囲±0.3mm) |
至近距離 | 0.8m(マクロ操作時:0.05m) |
画角 | 水平:61°52′~4°17′ 垂直:37°14′~2°25′ 対角:69°01′~4°55′ |
至近時被写体範囲 | ワイド端:1023×575mm テレ端:98×55mm |
レンズ有効径 | 前玉:73mm 後玉:23.7mm |
フィルター取付ネジ径 | M82×0.75 |
アイリス操作 | オートアイリスまたはマニュアル |
ズーム操作 | サーボ(作動時間:2~60秒)またはマニュアル |
フォーカス操作 | マニュアル |
マウント | バヨネットマウント |
消費電流(12V DC時) | 120mA(静止時) 420mA(最大) |
質量(レンズフード含む) | 約1.6Kg |
本家FUJINONのホームページを検索してみると、このLA16というズームレンズは掲載がなく、新しいシリーズでありURSA Broadcastために設計されたズームレンズであることがわかる。
8mmから128mmの16倍ズームというスペックは、35mm換算でおおよそワイド端約30mmからテレ端約480mmということになる。URSA Broadcastのセンサーは実サイズ13.056mmx7.344mmであり、本レンズのイメージサークルΦ11.0mmではカバー出来ない。しかしURSA BroadcastはB4レンズマウントにB4レンズのイメージサークルに対応したレデューサーレンズを組み込むことで、B4レンズに対応している。
この倍率は非公表だが、URSA BroadcastにUA16×8BRMを組み合わせた使用感はワイド端が30mm程度という体感に近く、LA16×8BRMのイメージサークルをフルに使い切ってセンサーに対応させていることが伺える。なので本レンズの寄り引きは、ややワイド端が物足りなく、エクステンダーを持たない16倍ズームということもありテレ端もやや物足りない。しかし物足りないというのも昨今の高倍率ズームを使った上での感想であり、ほとんどの領域で事足りるということでもあるともいえる。
Designed for Blackmagic URSA Broadcast
LA16×8BRMは、「Designed for Blackmagic URSA Broadcast」と銘打ち、URSA Broadcastとの組み合せで最大限真価を発揮するように設計されている。2018年にURSA Broadcastをレビューした時には、同じくFUJINONのHA22×7.8BEZDを組み合わせたのだが、このときコンパクトなURSAと比べて大きめのHA22は、前側が重くなる組み合せであった。
そこで、前後長がコンパクトなURSA Broadcastと組み合わせてもベストな前後バランスになるように、UA16×8BRMはコンパクトに、そして軽量に仕上げたという。実際約1.6Kgという重量とコンパクトな前後長は、URSA Broadcastと組み合わせた時、扱いやすいサイズ感と重量バランスとなる。特に肩載せスタイルで使用したときは、肩や腕の納まりもよく、フィット感はさすが「Designed for」という扱いやすさだ。
先進設計のリヤフォーカス+電動式フランジバック調節+マクロ機構
LA16×8BRMは最新の設計を取り入れており、フォーカス調整時にブリージングやレンズ長の変化の起きにくいリヤフォーカス機構を取り入れている。またレンズ取付・交換時に不可欠であるフランジバック調整に電動式機構を取り入れ、スピーディな調節が出来るようになっている。ただこの調節自体はオートマチックではなく、テレ端の調整位置と、ワイド端での調整位置を記憶させる、ようなイメージだ。その調節方法を具体的に示してみよう。
(1)調整モードへ移行
- ズームサーボ切り替えつまみを「SERVO」側に設定する
- レンズグリップ裏のF.fスイッチを3秒以上押す
調整モードに移行すると、F.fインジケーターが点滅し、ズームは自動的にワイド端→テレ端へと移動する。
(2)テレ側の調整
- フォーカスリングをマニュアルで操作し、焦点を合わせる
- F.fスイッチを押す
F.fスイッチを押すと、ズームが自動的にワイド端へ移動する。
(3)ワイド側の調整
- フォーカスリングをマニュアルで操作し、焦点を合わせる
- F.fスイッチを押す
F.fインジケーターが消灯し、調整が完了する。
またマクロ機構も特徴的で、フォーカスリングがどの位置にあっても、フォーカスリングを前方方向に押し出すとマクロモードに移行する。マクロはズームレンズのほぼ全域で作動するが、最短のレンズ前5cmというマクロが動作するのは、ワイド端8mmから、ズーム中域の60~70mm程度の間だ。このフォーカス動作の様子や、フランジバック調節の様子を見ていると、LA16×8BRMは完全なマニュアルフォーカスのレンズではなく、電子的にフォーカスを動作させているようだ。
FUJINONブランドは伊達じゃない使用感
フランジバックの調整さえ済んでしまえば、LA16×8BRMは通常のB4レンズと変わらない使い勝手だ。最新のレンズらしく各部もブラッシュアップされ、ハンドグリップのホールド感はよくフォーカス・ズーム・アイリス各リングの操作感も良い。細かいことだがレンズキャップがレンズフード内側へしっかり填め込まれる構造となったため、着脱感がしっかりしており、よくある脱落して紛失といった心配が少ないのも嬉しい。
最近では小型のハンドヘルドキャメラや、箱形のシネマカメラが映像制作の主役になった感があったが、やはりマニュアル、左手の指に馴染むB4レンズは細かいレンズワークに応えてくれるのが嬉しい。ズームロッカーレバーでの操作は押し心地や押し込む深さに応じての動作など、正しくカメラマンの意のままに動作してくれるところは、さすがFUJINON。使っていても安心感が大きい。
また、LA16はFUJINONアクセサリーシステムMS-X1に対応しており、
- フォーカス・マニュアル・モジュール:FMM-X1
- フォーカス・マニュアル・グリップ:CFH-3
- 自在ケーブル:CFC-12-990
- ズーム・デマンド・コントローラー:SRD-92B
といったオプションのアクセサリーが用意されており、スタジオ用のカメラとしてビルドアップすることも可能だ。
LA16×8BRMの画質については、本格的に4K及びHDに対応するレンズということで、URSA Broadcastの4Kセンサーの性能を十二分に発揮させてくれてると思う。
細かく言及すれば周辺部にややパープルフリンジが見受けられるなど、画質などはもう一息頑張って、とは思うが、Blackmagic URSA Broadcast + FUJINON LA16×8BRMの希望小売価格は税別847,800円。URSA Broadcast本体の価格が税別¥397,800であることから、LA16×8BRMの実質的な価格は税別¥450,000円だ。これはB4対応の16倍ズームレンズとしては、破格のコストパフォーマンスであると思う。
そのLA16×8BRMの持つ画質はお値段以上であり、しっかり4K解像度を満足させてくれるものであることは間違いなく、特にスタジオ内でのライブプロダクション用途としては、省コスト機器として唯一無二の存在となるパフォーマンスは十分に持っている。画質については本記事の巻末にサンプル映像を添付しておくので、皆さんのその目で確認して頂きたい。
更に熟成したURSA Broadcast
2018年2月の登場時にVer5だったファームウェアも、2018年11月にはBlackmagic Camera 6.0へアップデート、更に2019年2月にはBlackmagic Camera 6.1へとアップデートされ続けており、着実に機能強化・安定度の向上が図られている。収録CodecもRAW(Cinema DNG)、ProRes、DNxHDと幅広く、Videoモード、Extended VideoモードにFilmモードが加わったダイナミックレンジのモード選択とともに、対応フォーマットも3840×2160の2160pから、1920×1080の1080i(59.94i)まで対応力は申し分ない。
その機能強化が進みつつあるURSA Broadcastだが、主要な各種モードにおいて、組み合わせに制限があることについては、注意が必要だ。録画モードと各種機能の組み合わせについて下表にまとめてみた。
■録画モードとレゾリューション・ダイナミックレンジの組み合わせ
RAW | ProRes | DNxHD | |
Qualty | Lossless, 3:1, 4:1 | XQ、444、HQ、422、LT、PXY | 220x、145 |
Resolution UHD | 〇 | 〇 | × |
Resolution HD | × | 〇 | 〇 |
HD 1080i | × | × | 〇 |
Video | × | 〇 | 〇 |
Extended Video | × | 〇 | 〇 |
Film | 〇 | 〇 | 〇 |
RAW収録を使用するとダイナミックレンジはFilmのみとなり、HD1080iを使用したければ、収録CodecはDNxHDの一択となる。さらに収録時間をまとめたデータとして下表を示しておく。
■収録メディア128GB当たりの収録時間
解像度 | 収録Codec | 収録品質 | 収録時間(分) |
UHD | RAW | Lossless | 9 |
3:1 | 18 | ||
4:1 | 22 | ||
ProRes | 444XQ | 10 | |
444 | 15 | ||
422HQ | 23 | ||
422 | 34 | ||
HD | ProRes | 444XQ | 41 |
444 | 62 | ||
422HQ | 89 | ||
422 | 133 | ||
LT | 197 | ||
PXY | 429 | ||
DNxHD | DNXHD 220x | 89 | |
DNXHD 145 | 134 |
当然のことながら収録には収録モードのデータレートに対応したメディアが必要である。URSA BroadcastはCFast 2.0およびSD/UHS-II用のデュアルカードレコーダーを2機ずつ搭載しているが、筆者が試してみたところUHDでの収録は、SD/UHS-IIだとデータレートが低いモードでは収録可能であったが、最高画質での収録にはやはりCFast 2.0が必須ということであった。
また今回はIDXにお借りしたDUO-C150 Vマウントバッテリーを使って試用したが、URSA Broadcastはなかなかの低消費電力であり、1日のロケにバッテリーは通常2本、心配な時は3本もあれば十分だという印象を持った。なかなかのタフネスぶりであるともいえよう。
まとめ
登場当初からURSA Broadcastはライブ制作とロケ撮影の2種類の撮影に完全対応するカメラとして2種類のカメラの機能が1台になったようなものだと言われてきた。それは登場当初から、ENG用URSA Viewfinder、URSA Mini Shoulder Mount Kitのみならず、スタジオ用途にはURSA Studio ViewfinderとBlackmagic Studio Fiber Converterなどの各種のオプション用品が用意されている事からも、Blackmagic Designの本気度が伺える。そこに本機の純正デザインレンズと言えるFUJINON LA16×8BRMの登場は、まさに残された最後のピースをはめ込んだと言えよう。
さすがBlackmagic Designと言えるようなブロックバスターな価格から、本当に使い物になるのだろうかという心配もあったはずだが、アチコチの撮影現場でBlackmagic Design製カメラが使われたという話しもよく耳にする。そういった少し心配な方は、本稿のサンプル映像を見て欲しい。キリッとした実に色彩豊かな映像であると思われることだろう。
さて残る問題点は明白になってきた。収録Codecであろう。画質と比してデータレートの高さが目につき、収録時間の短さが目立つ。これを解決するためにBlackmagic Designが次に手を打ったのが、URSA mini Pro 4.6K G2に搭載されたBlackmagic RAWの開発だ。このCodecは高画質を保持しながら、12:1といった高い圧縮率まで使える。
ロケ撮影などでは、収録の品位よりも長時間収録出来る効率の良いCodecが求められる場合も多い。効率の良い新しいCodecが搭載され長時間記録が出来るようになれば、さらにURSA Broadcastの活躍する場面は多くなるだろう。今後のBlackmagic RAWの搭載も期待したい。
そして、ベストパートナーと言えるFUJINON LA16×8BRMの登場と組み合わせによって、Blackmagic URSA Broadcastはビデオ制作カメラの新定番と言える位置を獲得しつつあるように思う。興味を持った方はまず本稿のサンプル映像を、先入観無く観て頂き、その後ホームページに掲載された価格をご確認頂きたい。本機の持つコストパフォーマンスにきっと驚く事であろう。その実力は本物だ。
機材協力:株式会社アイ・ディー・エクス