txt:伊藤格 構成:編集部

夢のモータライズトジブ「JibONE」、スマホでコントロール

 

写真01:JibONE

エーデルクローンといえば最近スマホでコントロールできるスライダーやパンチルトヘッド等、手軽で先進的な特機製品を発売している。そのエーデルクローンの新商品が「JibONE」(写真01)である。JibONEは軽量小型なだけではなく、なんとスマホで制御できるモーターを内蔵。また、独自の構造で縦、横、斜めと22.5°ごとの斜度で9つのポジションでジブの傾斜を設定できるなど、エーデルクローンらしいアイデア満載の製品である。早速紹介していこう。

写真02:DVカメラ用バッグに収まったところ

まず小型ジブとして予測する大きさは、三脚程の長さが普通だが、JibONEはエーデルクローンらしい驚異のコンパクトさである。なんとHDV用のビデオカメラバッグに収まってしまうのだ(写真02)。例えば三脚をGitzoのSystematic三脚などにすれば軽量で持ち運び可能なモータライズトジブということになる。この大きさであれば、カメラ構成にもよるが、電車やバス移動も不可能ではない(写真03)。 

写真03:持ち出し用機材をまとめたところ

さて、JibONEの許容重量は5kgである。ただ一般的なジブのスペックで5kgではなく、5kg以下のカメラか、カメラと雲台、カメラとパンチルト雲台の総重量で、カウンターウェイトを含めた重量ではない。モーターへの負担や、取り回しを考えると、あまり無理して重めのカメラを選択すると、コンパクトで軽量なこのシステムを台無しにしてしまうので、SIGMA fpを選択して検証してみた(写真04)。

写真04:SIGMA fp

SIGMA fpはコンパクトなボディではあるが、フルサイズセンサー、RAW収録ができるので、普段REDで撮影を行っている自分にも画質的に納得のいくコンパクトカメラのチョイスだ。結論から言うと同社のFlexTILT Head 2と兼用するのが一番しっくり来そうだが、執筆時手元にはなかったので、今回は直付け、ならびにフラットマウント雲台と組み合わせて検証した(写真05、06)。 

写真05:直付けの様子

写真06:雲台を取り付けた様子

組み立て

写真07:ソニーNP式バッテリーのプレート

まずはモーターを動作させるバッテリープレートの取り付け(写真07)。今回はソニーNPバッテリー用のプレートを用いたが、キヤノンバッテリー用のプレートもある。

次に三脚を準備する。筆者は様々な三脚を所有しているが、スライダーやジブを利用する場合は、ボールマウントよりもフラットマウントを使うことが多い。なぜなら、レベレージが掛かってしまうジブやスライダーの用途だと、ボール部分がてこの力によってずれてしまうことがあるからである。特に一人でオペレートする場合は、余計な要素で心配したくない。

写真08:Gitzo Systematic三脚をフラットマウントにした様子

JibONEの取り付けもフラット式なので、Gitzo Systematicのように、フラットとボウルと切り替えられる場合はフラット式にしておく(写真08)。JibONEは取り付ける際大きめのマウンティングホイールで固定するので、工具なしにしっかり三脚に取り付けることができる(写真09)。この効果は絶大で、ジブ本体を回さなくても三脚に取り付けられるので、他のメーカーも見習ってほしいアイデアである。また撮影時にもこのマウンティングホイールを緩めて、角度を変えた後にまた固定する際に便利である。

写真09:大きいマウンティングホイール

三脚にJibONEを取り付けたら、セイフティロックが施されていることを確認しよう(写真10)。その後NPバッテリーを取り付ける。NPバッテリーはカウンターウェイトの役割も果たすので、あまりカメラが軽量過ぎるとバランスが取れないことも考えられる。次はエクステンション(写真11)にカメラ周りを取り付ける。

写真10:セイフティロック

写真11:エクステンション

ここも大きめのマウンティングホイールを採用しており、ツールレスでカメラや雲台を取り付けられるようになっている。JibONEにカメラを取り付けるには、直付け、雲台、パンチルトヘッド等の方法があるが、今回はJibONE単体でどこまでできるかをテーマにしたいので、パンチルトヘッドとの組み合わせの事例はまたの機会にご紹介したい。

次にジブのバランスを取る必要があるが、付属のカウンターウェイトを使う方法と、カメラが軽い場合はカウンターウェイトは使わず、モーターに搭載するバッテリーの重さと伸縮するジブのアームの長さで調整する方法もある。JibONEのカウンターウェイト機構はとても画期的で、後部アームに取り付けたカウンターウェイトは後部アームを前後させることによって、カメラの重量に合わせた調整ができる(写真12)。

写真12:カウンターウェイト

また、重量を追加したい場合は、これもツールレスで追加していくユニット式だ。この方法は本当にスマート。通常のジブで面倒なのは、重量挙げ用のウェイトのハンドリングや、その重いカウンターウェイトを載せたままのバランス作業である。軽量のもの(一般的にはDSLR)に対するマーケットの認識と、それを使い倒すためのアイデアを徹底するのがエーデルクローンというブランドの特徴で、このJibONEのカウンターウェイトシステムも例外ではない。

またカメラを直付けする場合は、バランスを取らなければならない対象が軽くなるため、カウンターウェイトをつけるとバランスが取れないことも発生するので、その場合はジブアームの伸縮で調整する。しかしカメラがついた状態で、この伸縮を調整するのはエクステンションのネジを緩めた時点でカメラがお辞儀してしまうので難しい。

なので、軽いカメラを使う場合でもJibONEのカウンターウェイトシステムが利用できるよう、カメラ側の重量を調節した方が現実的だろう。それには例えば外部モニターを取り付ける、軽量の雲台を取り付けるなどするといいだろう。何れにせよバランスを取ることはとても大切なので、最重要事項として覚えていてほしい。

モーターオペレーション

さて実際に撮影する際の使用方法だが、大きく分けて手動で操作する方法と、搭載されたモータをスマホで制御して操作する方法が2つある。モーターを使ったスマホ操作のオペレーションがJibONEの本来の使い方だ。モーターオペレーションでは動画用のモード、ストップモーション(写真13)、そしてタイムラプスモード(写真14)の3種類が用意されている。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/04/ong00_edelkroneJibONE_13-14.jpg 写真13、14:アプリのストップモーションモード(左)、アプリのタイムラプスモード(右)
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ストップモーションはコマ撮り対応のモードで、コマ撮り撮影時にジブの動きとシャッターを切る動作を一コマ一コマ、任意で進めていくモード。そしてタイムラプスモードはスチルカメラを使ったタイムラプス撮影の設定をジブとカメラの制御で可能になる。2つとも対応できるカメラのシャッター制御ができれば、利用可能だ。対応しているカメラは表15の通りだ。

■表15:シャッターリリース対応表

Canon、Contax、FujiFilm、Hasselblad、Kodak、Leica、Minolta、Nikon、Olympus、Panasonic、Pentax、Samsung、Sigma、Sony

そして動画モード(写真16)。使い方としては上部のジョイスティックを使ったスイング操作と、3つのポーズボタンによる位置記憶、そしてイーズインアウトの設定ができるランピング設定スライダーとスピード調整スライダー、そしてモーターのパワーオンオフボタン、以上である。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/04/ong00_edelkroneJibONE_15-16-3.jpg 写真16:Edelkronアプ初期画面
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スイングコントロールはよくできていて、外側に向かってスイング操作が速くなり、中心に向かって遅くなるようになっているし、ジブの設定角度によって動く方向が切り替わるようになっている(写真17)。検証ではSIGMA fpに24-70mm F2.8 DG OS HSMのLマウントレンズを装着し、Tilta Nucleus-Nanoフォーカスモータを装備。約2kgの総重量で撮影してみた。3つのPOSEボタンにはそれぞれのポジションを登録できる。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/04/ong00_edelkroneJibONE_17.jpg 写真17:ジブ設定角度がそれぞれ横、縦、斜め
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早速POSE 1とPOSE 2にポジションを設定。それぞれをダブルクリックするとそのポジションに移動する。移動したポジションのアングルの目安にスマホのカメラ機能を使ってそれぞれのポジションの写真が登録できるようになってる。これは便利。それぞれのポジションに移動したい場合、それぞれのPOSEボタンをクリックするとイーズインアウト、スピードスライダーの設定を反映してスムーズに動いてくれる。この機能を使って2つのPOSE設定間で反復させたいのだが、JibONEのみのアプリの認識ではその機能は無いようだ。

またスイングコントロールを使った動作はとても信頼性が高く、屋外で撮影した際も動画18、動画19でみられるような安定した映像が得られた。動画18は雪の中、フォーカスは置きピンで画角を決めて、ジブの角度を垂直、横、斜めにしたりして雪の中の満開の桜を表現してみた。動画は翌日DIT仲間の前川達彦さんにお手伝いいただいて、設置のお手伝い、オピニオン、スイングコントロールの操作をお願いして、筆者がフォーカス操作を行った。

動画18:カメラを直付け、フォーカスコントロールなし、ワンマンオペレーション Special Thanks to Taizo Sayama

動画19:カメラを直付け、フォーカスコントルールあり、2人でオペレート Special Thanks to Tatsuhiko Maekawa

こんな軽量なシステムでパッと行ってパットとモーション付きの映像を撮影できるのはとても威力絶大。今まで様々な仕事でいろいろなところに行って風景を撮影する上でKessler Second ShooterやRonin-MXなどを利用して撮影してきた。それもRED Weapon Helium 8Kなどを工夫して軽量化し、結構時間のない中、フランスでの葡萄畑の撮影、北海道屈斜路湖の夕景、屋久島での撮影等。

高精細RAW収録でなければ得られないダイナミックレンジ、そしてそのカラーグレイディング処理を経験してしまっているので、スチルのタイムラプスはまだしも、圧縮系のフォーマットで動画を撮影するなど、あまり考えられない筆者だが、ダイナミックレンジは低くなるものの、SIGMA fpやBMD Pocket Cinema Cameraなどのコンパクトなカメラを使って、REDカメラではできないコンパクトさを利用した移動カメラの映像は自分の求めるものである(RED Komodoはその中間に当たるか)。

特にSIGMA fpで得られる35mmフルセンサー4Kの映像はとても解像度感が高く、かつそのコンパクトさにはJibONEやRonin-Sに載せたり、Ronin-Sごともう少し大きめのジブに載せてリモートヘッド付きのジブとして使うときにも、セッティングが非常に楽になる(写真20)。

JibONEはさらにパンやチルトがJibONEで使うアプリで制御可能なHedONEやHeadPlus 2を使って高度なジブモーションを実現できる。パンやチルトをJibONEのジブモーションと併せてプログラムが可能で、さらにFocus ModuleやLaser Moduleと組み合わせると、複雑なカメラワークにフォーカスワーク、そして、位置データなどを使った動きの中での被写体スイッチやシークエンスの構築ができるようになるという。

JibONEを使った映像。3アングルの比較

マニュアルオペレーション

次にマニュアルオペレーション。マニュアルオペレーションではテンションコントロール(写真21)を解除する。マニュアルで操作する際は特に雲台内でもバランスの取れる雲台を使うと良いだろう。雲台上のバランスをきちんととって、動作させる上でのフリクションを最大限無くした方が、ジブが動いているのと同時にパンチルトが可能になる。

写真21:テンションコントロール

雲台的なものがなく、カメラを直付けにした場合は、被写体に対してのフレーミングに制限が出てくる。例えば、ジブを縦方向の動きに設定して、真下に向けて被写体の俯瞰や仰視で寄っていく、離れていく、またはジブを横方向に設定してパンやチルトを操作するなどのカメラワークが必要だったら雲台抜きでは不可能なので要注意。使うカメラが少し重くて雲台の重量が現実的じゃない場合は、同社のFlexTILT Head 2を利用するのをお勧めする。

まとめ

エーデルクローンは、プロ用のジブやスライダーも羨むような特徴を持ち、徹底したDSLR向けのマーケティングを行なっている。今回撮影できた桜の映像でもみられるように、そのコンパクトさ、軽量さは撮影する機会を逃さず、ただの撮影ではなく表現力の高い映像を得ることに貢献できることを意味する。SIGMA fpの登場でDSLRように作られているエーデルクローンの各製品がRAW動画で撮影できるようになったのは画期的である。

ちょっとカメラの形状に問題があるBMD PCCに比べて、コンパクトなボディはJibONEなどの製品と組み合わせると考えられない威力を発揮する。筆者としてはもう少しカメラ取り付けのExtension部分をもっと安全なものにしてほしいと願う。しかし、その特徴は他のジブやスライダーでは得られない映像が容易に得られることは確かだ。

■長所
  • コンパクトさ、軽量さ
  • ジブの角度設定機能など他のジブにはみられない機能
  • 拡張性
  • アプリからコントロール
  • カウンターウェイトでのバランス機構が秀逸
  • ラージホイールによる三脚へのジブ固定、エクステンションへのカメラ固定
■短所
  • 縦軸に設定している際、横へ振りたい時は三脚へのマウントが回転に対応していないので、緩む可能性があるので注意。手で押さえてもいいが、気をつけないとジブに指を挟まれる。三脚の接地面がスムースならば三脚にドーリーを取り付けて対処
  • 基本縦でも横でも斜めでも、少し弧を描くので、被写界深度が浅い場合は、フォーカスに注意。寄って離れてという映像にしたくない場合はポスプロで処理できるように少し広めに撮る必要がある
  • カメラを搭載するExtension機構が重いカメラでは心配
  • 平行モートしかなく、オートチルトするにはHeadPlusのようなものが必要
  • スピードの設定が早いとイーズインアウトの設定を最大緩やかにしても最後穏やかに動きが止まらない
伊藤 格|プロフィール
テクニカルプロデューサー。撮影、DIT、カラーグレイディング、編集も手掛ける。Red Weapon Helium 8K、Epic Dragon 6K、Epic-MX 5K、BMPCC4Kなどを所有している。

WRITER PROFILE

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。