txt:大田徹也(株式会社デジタルエッグ) 構成:編集部
リファレンスモニターにハードウェアキャリブレーションを搭載
我々ポスプロにとってEIZO ColorEdgeと聞いて思い浮かべるのは、質の良い制作用モニター、ということだろう。普段使用しているColorEdge CG279Xを始め、ColorEdgeシリーズはキャリブレーションセンサーを内蔵しており、社内のスタジオ移動や他社スタジオ出張でも違和感なく作業が行え、オペレーションや、Web展開作品の視聴確認などに重宝している。
そのEIZOがColorEdge PROMINENCEとして新たなHDR対応リファレンスモニター「CG3146」を発売した。リファレンスモニターと言うとピンとこないが、我々でいうマスターモニター、要はマスモニだ。
CG3145の後継機種にあたる本機だが、旧機種とは異なり標準でSDI入力に対応。さらにHDRリファレンスモニターとして世界初のキャリブレーションセンサーまで搭載してきた。
価格においてもEIZOダイレクト販売価格で税別298万円と、ほぼ旧機種の据え置きだ。これはEIZOが本気で映像業界の覇権を狙いにきた形だ。運良く発売直後の本機に触れる機会を得たので、カラリストだけではなく、コンポジターなど多様な目線で確認していこう。
SDI入力が可能で12G-SDI対応。BNC一本で4K60Pの入力が可能に
さて本機だが、31.1型 DCI 4K HDR国際標準規格に準拠しており(PQ、HLG両方式に対応)IPS液晶、高輝度バックライト搭載で1000cd/m2の高輝度、100万:1の高コントラスト比と、スペック上何ら問題は見当たらない。
本体の作りは厚みもあり、かなりしっかりしている。重さは約26.5kgと一人で移動するには無理があるが、スタジオに設置して使う分にはむしろ安定する重量だ。そしてこのモニター上部のでっぱり部分がCGシリーズでお馴染みのキャリブレーションセンサー機構だ。
本体への入力は、HDMI、DisplayPort、そしてSDI。本機は旧機種と異なり変換器を介さずダイレクトにSDI入力が可能となった。しかも12G-SDIに対応しているので、BNC一本で4K60Pの入力が可能だ。これは撮影などでケーブルを多用しかつ移動の伴う現場や、スタジオのシステム構築においてもケーブル本数が少なく済むのは非常にありがたい。SDI-OUTからはアクティブスルー出力されている。
もちろん12G-SDI非対応機器との連携を考えてQuad Link 3G-SDIでの接続も可能だ。ただしQuad Link 3G-SDIは2SI(2 Sample Interleave)のみの対応なので、この点だけは注意が必要だ。
背面のSDI出力端子とSDI入力端子の様子。SDI 1は、12G/6G/3G/HD-SDIに対応。SDI 2、SDI 3、SDI 4は、3G/HD-SDIに対応
本体正面は余計な装飾もなく全体的にスッキリとまとまっている。パネル表面はアンチグレア(ノングレア)を採用して反射を拡散しているので、撮影現場などでは重宝するだろう。
メニューボタン数は少なめだが、その中でも目を惹くのは調整ダイヤルだ。メニューの移動やパラメータ変更に使用するのだが、アナログ感覚で入力できるのでこれは非常にスムーズだ。またボリュームスイッチとは違いダイアルスイッチのため、カチカチと確かな感覚で移動し過ぎることがない。
前面の筐体に配置されたボタン
モニターの電源を入れると入力信号のステータスが表示される。カラーモードやカラーフォーマット、解像度、フレーム周波数などが一覧で確認できる。
今は4K仕上げでBT.2020やBT.709、HDRをPQ方式なのか?HLG方式なのか?DCPにDCI-P3で仕上げて、さらにはSDRも納品してと、この信号乱立の時代に入力信号を目視で確認できるのはありがたい。このステータス画面だが、メニューからいつでも呼び出し可能だ。
ステータス画面では、SDI信号のビデオペイロードIDから得られる入力信号の情報に加えて、最上段には現在設定しているカラーモードも表示される。入力信号の特性とモニターの表示設定が合致しているかの確認にも利用できるメニューボタンだが、SIGNALボタンでSDIやHDMIなどの入力切り替えができ、MODEボタンでカラーモードの変更ができる。これはプリセットで1~6にBT.2020やPQ、HLGなど主要な設定が登録されているからだ。BT.709等の色温度設定はグローバルスタンダードなのでD65だ。
残念なのは色温度設定に9300ケルビン「D93」のプリセットが存在しないこと。日本国内オンエアというニッチなニーズだが切っても切れない以上は、国内販売仕様だけでもD93を入れて欲しかった。プリセットの中に「D65(CRT)」などマニアックな設定は入っていたのだが。
もちろんD93が使用できないわけではない。輝度や色温度、ガンマ、色域などをカスタムに設定して、7~9のCALに登録可能だ。10-SYNC_SIGNALは、ビデオペイロードで自動的にモードが切り替わるのでこれも便利。
MODEボタンを押し、カラーモードの一覧を表示したところ
S-GAMMA、EOTF、BRIGHT、BLACKボタンはクイックチェックとして設定と異なる数値でプレビューが可能だ。BRIGHT、BLACKボタンなどは、コンポジターのマスクや合成チェックなどで多用している。
クイックチェック時は青ランプが点灯するので戻し忘れの心配もない。またこのメニューボタンの発光だが、光量の調整が可能で、グレーディング作業などの邪魔にならない消灯設定も可能だ。消灯設定時でもダイヤルやボタンに触れると自動点灯するので、操作に困ることもない。
Quick Check機能を使うと、輝度などを一時的に変更して確認が可能になる
この前面ボタン以外にも、ブルーオンリーや、マーカーも当然搭載されている。またマスターモニターでは珍しい、BT.709色域外警告や、輝度警告も搭載されており、撮影現場やグレーディングなどで重宝しそうだ。
前面ボタンにないこの設定だが、クイックチェックで使用した4つのボタンに登録してF1~F4のカスタムキーとして入れ替えることもできる。
1000cd/m2の高輝度表示が可能で、高輝度域でもパネル抑制なし
さあ、肝心要の映像を映してみよう。素材はHDRを堪能できるネイチャー系だが、4Kの高精細な映像に、ダイナミックレンジによって奥行きや質感をも感じさせている。本機は1000cd/m2の高輝度表示が可能なので、ダイナミックレンジを余すことなく映し出している。
素材の中に雪原の映像があったのであえて高輝度域に調整したが、パネル抑制もなく高輝度域が正しく表示されている。これは液晶パネルならではの強みだろう。
映像は最後に黒バック白ロゴで終わるが、黒が締まっており、今までの液晶であった黒浮きがなく、まさに0%の黒。白ロゴの周りにもオーラの様なハロー現象もなく非常に綺麗だ。
最初にケースから出した際、アンチグレアパネルの影響で黒が浮いているように感じたが全くの杞憂だった。この圧倒される映像表現には、ただただ凄いという感想しか出てこない。本機は31.1型だが4K映像を判断するには、やはりこのサイズは欲しいものだ。
とはいえこれだけで満足するわけにはいかない。あえて普段使い慣れたマスターモニターと並べてみた。並べてみたのだがこれは甲乙付け難い。4K高精細の表示力、ダイナミックレンジの表現力、そして黒の締まり。パネルの種類が違うのでわずかに癖の差はあるが、これは知らぬ間に入れ替わっていても気づかないのではないだろうか。
(左)普段使用のマスターモニター、(右)CG3146
もちろんCG3146にも苦手な部分はある。液晶パネルを採用しているので、ロールスーパーの様な動きには、どうしても残像が出てしまう。これは液晶である以上避けることはできない。
またモニターに近づき過ぎるとパネルの構成と視野角により、視野外ギリギリのエリアを正しく視ることができない。この視野角の問題は、液晶に限らず、有機EL含め、正面と同等で見える範囲は公称値ほど広くないのが現状だ。どんなモニターも少なからず弱点は持っている。
内蔵キャリブレーションセンサーを搭載
リファレンスモニターといえ、経時変化により定期的なキャリブレーションが必要だ。HDRのキャリブレーションはターゲットが多様なため、知識や技術が必要となる。社内スタッフで行うにも当然時間が掛かる。だからと言って専門業者に任せるのは台数や頻度次第で膨大なコストがかかる。その問題を本機は内蔵キャリブレーションセンサーで解決できる。
自動キャリブレーションはそこまで時間が掛からないが、予約設定できるので深夜や休日などを使用して、不在時間帯を登録しておくと便利だ。
もちろん200時間ごとのキャリブレーションは内蔵キャリブレーションセンサーに任せ、年に1回専門スタッフに任せるなどの選択もできる。日常的に使うものだからこそ安定して使いたい。
この内蔵キャリブレーションセンサーは、カラリスト目線からするとわずかながら気になる部分がある。モニターの光がセンサーの構造部分に反射してしまうのは構造上仕方がないとはいえ、今後の改善に期待したい。
モニター全体の様子
内蔵キャリブレーションセンサー部のアップ
CG3146は、モニター性能、キャリブレーションセンサー内蔵、価格など、HDRリファレンスモニターとして非常に魅力的な製品だ。
これはポストプロダクションにおけるマスターモニターの選択肢の一つと言えるだろう。リファレンスモニターとして様々なメーカーが競い合うことにより、メーカーならではの魅力が生まれる。今後も各メーカーの切磋琢磨に期待したい。
大田徹也
デジタルエッグで長年コンポジターとして活動、2011年カラリストに転向しCMやMV、映画などを手掛ける。株式会社デジタルエッグは、1992年にノンリニア編集に特化したポスプロとして設立。東京・銀座にオフィスとスタジオを構え、TVCMを中心に映像作品全般のフィニッシュワークを行なっている。 ▶株式会社デジタルエッグ
■ColorEdge PROMINENCE CG3146
発売:2020年6月25日
価格:オープン(EIZOダイレクト販売価格で税別298万円)
EIZO株式会社