txt:新田みのる 構成:編集部
907Xスペシャルエディションよりも購入しやすくなった907X 50C登場
ハッセルブラッドから、Vシステムにデジタルバックとして機能するCFV II 50Cデジタルバック(以下、CFV II)と907Xカメラボディがセットになった「907X 50C」が2020年9月中旬より発売予定だ。
限定版の907Xスペシャルエディションは、税別84万5,000円で2020年5月29日に発売。一方、レギュラーモデルの907X 50Cは市場想定価格税別73万5,000円前後と、907Xスペシャルエディションよりも購入しやすいのが特徴だ。ハッセルブラッドジャパンから907X 50Cとレンズ2本をお借りできたので、インプレッションを紹介しよう。
上品な仕上がりの造形と質感
6年の歳月を経てIIにアップデートされたCFV IIのその仕上がりはどうだろう?ボディ自体の建付けや質感は間違いなくハッセルクオリティ。大変上質な仕上がりだ。握り心地も大変よく、907Xと合わせたそのサイズのコンパクトさはロケハンにも持っていきたくなるサイズである。
筆者はミラーレス中判デジタルカメラ「X1D II」ユーザーだが、もしX1D IIとCFV IIが同時に発売されていたら、CFV IIの方を選んでいたかもしれない。その佇まいが程よくクラシカルで、どこか温かみを感じるものだからだ。半面X1D IIは現代然とした解釈のデザインで、すべてが合理的にできている。これはもう好みで選ぶ領域である。
CFV IIはVシステムとの互換性を持ったデジタルカメラバックだ
CFV IIのもうひとつ大きな特徴がチルトするスクリーン部分。スクリーンをチルトさせて、上から覗き込むとVシステム特有のウェストレベルファインダーのごとく、カメラを構えることができるのである。
CFV IIはVシステムに特有のウエストレベルの撮影スタイルが可能
ちなみに503CXにCFV IIを装着すると、かなりスチームパンクな趣である
一方、ボディと呼ぶにはあまりに薄い907Xは、Hasselblad XCDレンズマウントを備えており、Xシステムのレンズと共有できる。薄いからといって、安っぽい印象は皆無である。この部分も抜かりなく良質でオーナーの持つ喜びを満足させてくれるものだろう。このアダプターのようなボディによってオートフォーカスという大きな恩恵を受けることができ、モダンなワークフローが実現できる。
907Xのボディに注目。ボディというよりは、レンズとセンサーのアダプターである
HシステムのH6D-100C(左)、X SYSTEMのX1D II 50C(中央)、907X 50C(右)。907X 50Cはとにかく薄い
X1D IIと完全に同スペック
一足先にリリースされたX1D IIとCFV II。両者のスペックはまったく同じになっている。
- CFV II:CMOS、5000万画素(8272×6200ピクセル、5.3×5.3µm)
- X1D II:CMOS、5000万画素(8272×6200ピクセル、5.3×5.3µm)
なんとバッテリーまでまったく同じで、本当に中身は寸分たがわず同じもののようだ。試しにX1DとCFV IIを同時に起動してみると見事に同着。ファームウェアのバージョンも1.3.0と同じである。違う点といえば背面のスクリーンサイズと電子ビューファインダーの有無、チルト背面ディスプレイの有無による撮影スタイルということになる。
しかしこの微妙なスクリーンサイズの違いが、かなり目が衰えてきた筆者にとって少しチャレンジングだということが、撮影を初めてすぐにわかった。最初のうちはマニュアルフォーカスで撮影していたが、小さな画面ではフォーカスのピークが判断しにくい。結局本格的な撮影はすべてAFで行った。
中身は同じだが、液晶モニターのサイズは微妙にCFV IIが小さい
それと、もうひとつの決定的な違いはストロボシューの有無である。CFV IIにはストロボシューがないので、シンクロケーブルを使う必要がある。ケーブル端子はボディ背面のカバーの下にある。
少し脱線するが、今回まじまじとボディを観察して意外だったのがHシステムのデジタルバックとのサイズ比較。CFV IIのほうはバッテリー込みとはいえ、なんとほぼ同じなのである。
HシステムのH6D-100C(左)とVシステムのCFV II(右)。マガジンマウントに互換性はないが、ほぼ同じ大きさだ
操作性はX1D IIと一緒
ファインダーがない907X 50C、とにかくファインダーを覗きたい筆者にとって、かなり慣れが必要な撮影スタイルだった。シャッターボタン位置の事情も手伝って、自然と背面のスクリーンをチルトさせてウエストで構えてVシステムのようにカメラを構えるスタイルになるが、老眼の筆者だとどうもフォーカスのピークがわかりにくい。光学のファインダーと比較するのは少し酷かもしれないが、そのボディの大きさの制限なのかX1D IIより少し小さい画面でフォーカスを合わせるのは少し慣れが必要かもしれない。そして、そのスクリーンに表示されるインフォメーションもX1D IIとまったく同じものであった。
このような状況下では、おのずとオートフォーカスに頼るようになるのだが、そのオートフォーカスの手順や性能もまったくX1D IIと同じである。中判にしては満足のいくスピードといった感じだ。言い換えると日本のメーカーに比べてしまうと決して速くはないが、問題の起きるようなスピードではないし、慣れればイライラすることはないというレベル。
今回は主にポートレート撮影をしてみたが、CFV IIにはストロボシューがないのでストロボはシンクロケーブルで接続する必要がある。手元にケーブルがなかったので、レフ板を使って夏の海でモデル撮影を行った。
まずはXCD 3,5/120 – Hasselblad。かなり大柄な120mmを装着すると少々アンバランスではある。
しかし実際のあがりのディテールや肌の質感は素晴らしく文句のつけようがない。日差しが強い中でもフリンジもかなり少なく、撮って出しでもかなり良好な結果を得ることができた。やはり苦労したのはフォーカス。背面スクリーンをチルトさせてピントを合わせたいところをタッチする。
すべての操作をこのスクリーンで行うためにシャッタースピードなどはスクリーンの表示を切り替えて操作する必要がある。露出はシャッターの周りに配置されたダイヤルで変更することが可能なので、露出は直感的に調節することができた。
スナップレベルとまでは言えないが、慣れてくるとある程度身軽に撮影することもできるようになってきた。このレンズ、バストショットのポートレートでの無敵感がハンパではない。
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撮影中は終始、ないファインダーを探してしまう。とは言え、慣れてくるとチルトしたスクリーンをタッチしてAFポイントを設定、シャッター半押しでAF、撮影とリズム感をもって撮影することができた。
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パネル操作が多いことは前述したが、反応の速さも感覚的にもX1D IIと変わりない。もさもさした印象はなかった。ただし連写して良いカットを後で選ぶという方法はハッセルには通用せず、それはどのハッセルブラッドシステムを選択しても同じである。撮影する瞬間を逃してはいけない、基本一発勝負である。
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もう一本試したのがXCD 3,5/45。
こちらも仕上がりは良好である。
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小柄になった全長で取り回しも軽快。両手で握ったコンパクト感がなんとも良い感じである。言ってみればデジタルバックに直接レンズを装着しているようなものなので、コンパクトなのは当たり前なのだ。もしかしたらさらにコンパクトなXCD 4/45Pがベストマッチかもしれない。
クラシカルでありながらモダン、上質なのが魅力
かなりの撮影スキルを要求してくるカメラであることは間違いない。Vシステムの資産を活かしたい方々は当たり前のようにCFV IIはオススメであるし、ハッセルの沼にはまりたい方々は是非907 X 50Cのセットでオススメだ。なんと言っても佇まいが他のカメラにはない特有なものだし、クラシカルでありながらモダン、そして圧倒的に上質である。
業務用に導入するかというと、フォトグラファー・グラフィックデザイナーの筆者にとっては、ちょっとはてなマークがいくつか出てくるのも否定できない。内部的にはX1D II同等で現代然としているものの、907Xのボディ特性上、制約がつきまとう。解像度を求めたら、Hシステム一択になるし、スムーズなワークフローを考えるとXシステムになる。Vシステムのオーナーにデジタル撮影のオプションを提供したのが、今回の907X 50Cという機種なんだと実感した。そして既存のVシステムボディとレンズを精細なデジタル画像で残すには最良のソリューションであることは間違いない。
■ハッセルブラッド907X 50C
価格:希望小売価格オープン。市場想定価格 税別73万5,000円
ハッセルブラッド・ジャパン
新田みのる
株式会社ジェットセット代表。グラフィックデザイン・フォトグラフィー・モーショングラフィックを主な業務として広告、テレビ番組、Webサイトなどの創作を30年ほど続けている。 ▶crft
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