txt:鈴木佑介 構成:編集部

FX6はさまよい続ける「映像制作系α難民」の受け入れ先になりうるか?

今から数ヶ月前だったであろうか。“Cinema Line”と名付けられ、VENICE、FX9と並んで、突如発表されたソニーの「FX6」。FS7からFX9への変化のようにFS5クラスのカメラもいよいよフルフレームへと進化することは想像できた人も多いだろう。筆者も以前のコラムでFX9について触れた時にも書いたが、最近のソニーの業務機はαの良いところを取り入れている。その証拠にFX6にはそのボディにしっかりと「α」の刻印がされている。

FX9を触ったことがある方ならピンとくると思うが、「αのオートフォーカス(瞳AFを含む)」がシネマカメラで使えるようになっている。またデュアルネイティブISOなどの採用なども含め「高感度性能」に対してもかなり前向きに取り入れてくれている。

最近のソニーのカメラはα7S IIIを含め、業界全体の流れから見た時に少しばかり面白みにかけるが、真新しさやキャッチーな機能よりも、「着実・確実な熟成された4Kカメラ」を作ろうとしている印象を持っている。そんな「堅実姿勢」の中、FX6がどういう立ち位置で登場するのか注目を集めていた。

今年はオンライン開催となったInter BEE初日の2020年11月18日に合わせて世界同時にそのスペックが発表された。もうご存知の方も多いだろうがその特徴を記しておく。注目すべきポイントは、同じEマウントのフルフレームセンサーのカメラとして先日発売されたα7S IIIを超えられるか、そしてFX9にどこまで肉薄できるか、という点だ。そして何よりもFX6が筆者をはじめとしてさまよい続ける「映像制作系α難民」の受け入れ先になれるのかどうかだ。

発売前に1ヶ月強使用した結果、FX6の購入を決めた筆者

筆者が感じたFX6の10の魅力

今回筆者はソニーのInter BEE ONLINE登壇のためFX6を1ヶ月強お借りしていた。その期間の中で作例の撮り下ろしはもちろん、日常業務にも使用して感じた、スペックレビューだけでないリアルな実感を皆さんにシェアしていきたい。先に伝えておくと、すでに購入の意思は販売店に伝えてある。つまりFX6は「良いカメラ」であるという結論だ。

α7S III in Cinema Camera(手ブレ補正は除く)

FX6が気になる人にとって一番重要なのはα7S IIIと比較してどうか?であると思う。一言でFX6を語るとしたら「シネマカメラの形をしたα7S III」と言うのが一番手取り早いだろうか。実際良いカメラなのだが、発表から発売までの2ヶ月の間でα7S IIIがイマイチ盛り上がらなかった原因をFX6が綺麗に解決してくれた気がしている。

スペック表

筆者を含め、α7S IIIを手にした時に「スチルカメラのカタチの意味」を見出せた人は少ないと思う。語弊があるといけないので、その前に「α7S IIでキャリアアップした我々にとって」と付け加えておこう。スペックなどを並べてみると、パッと見、α7S IIIと類似しているが、FX6は「映像を撮る」ことに特化している。

ボディ・トップハンドル・サイドハンドルとFS5を踏襲したカメラ構成

FX6には、電子式の可変NDフィルターが内蔵され、長時間撮影ができるバッテリー、熱問題から開放されたボディXLR端子付きのトップハンドル、角度を変えられるサイドハンドル、12G-SDI(HDMIだけでは現場で辛い)やTC入力装着位置を変更できる液晶モニターなどスチルカメラにはない「ビデオカメラ」の形をしている強みにあふれている。

そして12G-SDIからは16bitのRAW信号が出力でき、AtomosのShogun7を使って最大4KDCI/60pの12bit ProResRAW記録ができる。

最近はどのメーカーもRAW出力を機能として加えてくれていて、とても良い傾向だとは思うが、問題はなぜProRes RAWなのだ?ということだ。というかProRes RAWは何が良いのか?

何人ものクリエイターと出会ってきたが、少なくともProRes RAWをワークフロー含め、使いこなす人はおろか、使っている人に会ったことすらない。レビュー記事や動画もたまにあるが、ProRes RAWの有用性も含めてまったく訴求されていない。実際、使いこなし含め、有用性を訴求できる人がいるならばぜひ一度教えを乞いたいくらいだ。

露出や色温度をいじったり撮影時の失敗の補填ではなく、カラーをきちんといじるためにRAWで撮影したいのだ。DaVinci Resolveで使えない段階でProRes RAWの存在意義は見出せない(もういい加減DaVinciも対応してあげて欲しい。無理だろうが)。

「とりあえずProRes RAWで外部収録させればいい」みたいな風潮はもうやめてBlackmagic RAW対応が嫌ならば、CinemaDNGにしてほしい。その方がよっぽど価値があると真面目に思う。ソニーを含めProRes RAWを選択するメーカーは一度考えて欲しい。

トップハンドル、サイドハンドルがなくても撮影は可能。スタイルは自由だ

ボディ自体は0.89kgと軽量

今回カメラ内蔵マイクがボディ側に搭載されているため、ボディだけでも音声が記録できるが、XLR端子は2つともトップハンドルに搭載のため、きちんと音声収録する際はトップハンドルの使用が不可欠。またトップハンドルはボタン類が増え、かなり使いやすくなった

慣れるまでは戸惑うのがメニューだろうか。一回押すとクイックメニューが表示され、長押しする事で従来のメニュー画面となる

FX6のバッテリーはFX9/FS7/FS5と同様のBP-Uシリーズ

イチガンで動画撮影を始めた人にとってビデオカメラの形は異形のものに見えるかもしれないが、映像制作を行う上で必要最低限のものと使いやすさが詰まった形であることは間違いない。スチルカメラをケージやトップハンドル、マットボックスなどを付けて「使いやすさ」を求めるのであればはじめから「使いやすい」方が良い。特に映像制作に必須なNDフィルターが内蔵されていることは被写界深度やガンマのコントロールにおいてスチルカメラの形をしているα7S IIIよりも大きなアドバンテージになる。

収録メディアはα7S IIIと同様、CF Express Type AとSDカードを採用。デュアルスロットになっている

4K120pなどの高フレームレートで撮影する場合はCF Express TypeAが必須となる。メディアの転送速度は50GBが2分程度で済むので申し分ないが、専用のカードリーダーが別売で約15000円するのが少々ネックだ

また、収録メディアはα7S III同様、CF Express TypeA(両カメラともにSDカードも使用できるが、高フレームレート、高品質設定で撮る際は前者が必要)を採用しているが、FX6はFX9と同じXAVC-IのMXFでの収録が可能。α7S IIIのXAVCS-Iでのmp4収録より、ネイティブで編集する際のPCへの負荷は少なくて済む(DaVinci Resolveで編集を行なっている筆者の環境下では特に)。

FX6の唯一の残念な点は「ボディ内手ブレ補正がない」事くらいであろうか。せめてα7S IIIで搭載されている電子式の「アクティブ手ブレ補正」は搭載して欲しかったのは正直なところだ。手持ちでFX6を使用する際は極力手振れ補正付きのレンズを使うのが良いだろう。

また、残念かどうかはユーザーによると思うが、FS5と違ってEVFがない。FX9のように取り外し可能な格納式の液晶フードは備わったが、晴天下の中では正直心許ない。EVFを使用したい場合は外部接続でEVFを接続するか、FX9のようなルーペを液晶モニターに付けるかだ。ちなみにFX9のルーペは装着できるらしい。であればルーペをオプションで構わないから発売してほしいと思う。

ついでに言うとFX9のようなサイドアームのようなものもあると撮影に幅が広がるはずだ。このあたりはソニーの業務機のマネジメント部署は融通が効かない印象があるので実現してほしい。

さて、α7S IIの時のFS5と違うのは、今回のFX6が「フルフレーム」ということ。センサーサイズが大きいということ。明るく、被写界深度のコントロールがしやすいということ。大は小を兼ねるが、小は大を兼ねない。映像制作者にとってSuper35mmは扱いやすいかもしれないが、αと同様の感覚で扱えるのはイチガンからステップアップを考えているユーザーにとっては違和感なく使えるであろう。

S-Log3に最適化された15stop+のダイナミックレンジ

色々な意味で苦労しなくなったS-Log3(当たり前の話だが)

今回FX6もα7S IIIと同様にS-Log3/S-gammutでの撮影に最適化されている。S-Log3で提唱している上6ストップ、下9ストップをきちんと出せている印象で15stop+とされているダイナミックレンジになるほど、と説得力を感じる。

また、言い方が正しいかどうかわからないがカメラ自体のカラーサイエンスがFX9(VENICE系?)系と同じようなチューンナップがされていてこちらもα7S IIIと同様、S-Log3をノーマライズした際に良い意味でソニーらしくない「すっきりとした」ノーマルルックを作れるようになっている。

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筆者がいつも通りの言葉で話すなら「気持ち悪いマゼンダ」が出にくくなっていてDaVinci Resolveでノーマライズした際に「マゼンダを抜くためのノード」がひとつ減る分作業効率が上がったと言えるだろう。

そのおかげもあってかα7S IIIとのカラーマッチングが大変やりやすい。能書きよりも画で比べてみるのが一番だと思うので、同じライティング下のインタビュー撮影をFX6とα7S IIIでマルチカム撮影をしてみた。撮影は4K S-Log3 10bit 4:2:2の内部収録で、カラーグレーディングを施した。

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α7S III+Planar T* FE 50mm F1.4 ZA
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FX6 + FE 135mm F1.8 GM
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いかがであろうか。元画は微々たる差はあるかもだが、カラーでかなりすんなりとキャラクターを合わせることができる。前述だが「やっと10bit 4:2:2内部収録」が実現したことによりカラーグレーディングを行う際のボトムラインとなったので安心してカラー作業ができる。

とはいえ、12bitフルRGBないし16bitフルRGBなどに慣れてしまっていると10bitの限界をすぐに感じるであろう。もちろん8bitよりはいじれる幅が多く、破綻が少ないがポストで何かをするのではなく撮影時にできることを全部しておくことが幸せなカラー作業ができるのは間違いない。「現場が全て」なのは不変である。

ちなみに、FX6はS-Log2が選択できない。S-Log3への最適化がここにも裏付けされている気がする。筆者も含め、今までの8bitだったが故にS-Log3に対して懐疑的な人が多いと思うがきちんとチューンされているので怖がらずに使っていただきたい。逆に言うと今まで8bitS-Log3で苦しんできた人たちにはこんなに破綻しないのか、と実感していただけるだろう。

Fast Hybrid AF+4K120p(FHD240fps)撮影が内蔵ND搭載で無敵になる

FX6はα7S IIIと同じFast Hybrid AFを搭載している。顔認識、瞳AFも使用できる。そしてAFを有効にしたまま収録メディアと電源の続く限り、時間無制限で4k120p(FHD240p)撮影ができるのはα7S IIIでも可能だが、FX6でないとできないことがある。

それは「前玉にNDフィルターが付かない超広角レンズをそのままの画角で使用できる」ということだ。後ほど紹介するが、今回の撮り下ろしの作例でDJIのRS 2にFX6を搭載して、12-24mm F2.8 GMで撮影したカットがある。

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超広角レンズでのダイナミックな美しい画がカメラとジンバル任せで撮れる
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どんな晴天下でも基準感度のISO800で欲しい絞りで撮影できる。これも可変式内蔵NDフィルターのおかげだ

FX6と12-24mm F2.8 GMをRS 2で運用

フルフレームセンサーであることで、Super35mmセンサーでは使えなかった超広角域のレンズを使用でき、かつNDフィルターの装着が難しい前玉が出たレンズも内蔵NDがあれば何の問題もなくシャッタースピードや欲しい露出は保ったまま、オートフォーカス任せで被写体は捉えたまま、ジンバル操作をするだけで美しい映像を手に入れることができる。夢のような話だ、と冷静に思った。今これが実現できるのはFX6だけであろう。

また、晴天下においてどんなに明るい単焦点レンズでもNDフィルターの濃度を1/4~1/128の濃度でボディ側で調整するだけで、欲しい絞りで使用することができるというのは快適そのものである。基準感度が高くなるLog撮影において(FX6はISO800/α7S IIIはISO640)内蔵NDフィルターの価値は何モノにも変えられないであろう。それでもボディ内手ブレ補正は欲しかったが(しつこい)。ちなみに4K120p撮影時には1.1倍にクロップされるが私的にはフルフレームセンサーが故、そこまで気にならない。

「S」ばりの高感度性能がもたらす映像制作における真の価値

α7Sシリーズの「S」は「Sensitivity(高感度)」を表していた。しかしもう、Sensitivityはαだけのものではなくなった。FX6は「二つのベース感度」を採用。ここでデュアルネイティブISOと言いたいところだが、なんでもデュアルテイティブISOは「ノイズレベルが同じ」事が前提らしくFX6に採用されている「二つのベース感度」は感度によってノイズレベルが変わる独自のチューンナップとなっている。低感度側のベース感度は800(α7S IIIは640)、高感度側のベース感度は12800となっている。

ここは私的な意見というか感想なので、もしかしたら違うのかもしれないがデュアルネイティブISOの場合、ベース感度となる感度で撮る事で18%グレー(適正露出)を基準に上下何Stopとそのカメラで決められたダイナミックレンジを担保する形になっていて、感度を上げ下げした際、ノイズレベルを保つために上下どちらかのダイナミックレンジを犠牲にしているようなイメージだが、このFX6は感度ごとにノイズレベルが変化する代わりにどの感度でもS-Log3のガンマカーブを表現するのに適した上6stop、下9stopを保とうとしてくれているのではないか?と思う。

高感度がどこまで使えるのか?というのが気になるのは人のサガだろう。簡単にテストをしてみたが、撮影下の光源にもよるが誤字ではなくISO80000~100000くらいまではポストでのデノイズをかければ使えなくない印象だ。実際問題、参考写真のようにF1.4で映像を撮影することは少ないと思うので、数段絞ることを考えてもNoise Reduction次第ではISO25000~32000あたりくらいまでが実際使える範囲であろうか。

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F1.4で映像を撮ることはないだろうが、テストでISO80000にて撮影。デノイズしてもディティールは保っている。実際25000~32000くらいであれば使えそうな印象だ

ところで「高感度」という言葉を聞くと「暗いところでも撮れる」という考えに行きがちだが、高感度のメリットは他にもある。それは、同じ照度のライティング下で「絞れる」ということだ。低感度側で800、高感度側で12800という事は5段分の絞りの違いがある。例えば低感度側800で5.6の絞りになるように作ったライティングでマクロ撮影などの際に絞りが必要になった場合、高感度側ベースに変更する事で照度は保ったまま、絞りだけを入れることができるのだ。

暗所テストをした際の素材からの切り出しの写真を見ていただきたい。

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低感度ベース側の都合でF1.4の開放絞りにしてあるが800のF1.4と12800のF1.4にNDを入れた状態で比べてみた。NDで5段分減光しないといけないので、1/19NDを入れてある(本来は1/18だが、なぜかこの時19にしかならなかったので厳密に言うとほんの少し暗い)。低感度側・高感度側ベース感度でのダイナミックレンジは見た目差がなく感じるであろう。撮影設定がS-Log3なので、さすがに高感度側になるとノイズは見えてくるがノーマライズした際にはデノイズする想定なので特に問題はない。

次の写真は今回の作例の一部のシーンを抜粋したものだ。同じライティング下で低感度から高感度側へ切り替えて、レンズを2段絞り、内蔵NDで3段分絞ったものだ。

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Planar T* FE 50mm F1.4 ZA ISO800 F5.6
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FE 90mm F2.8 Macro G OSS ISO12800 F11 + ND1/8
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2枚を見て比べていただきたい。同じ照度レベル、トーンを保っている。これが示す事はFX6が選択されるであろうローバジェットな現場において「数少ない照明機材で撮影できる」という事に加え「セッティングチェンジに時間がかからずに撮れ高を増やせる」と言う事だ。そこに前述の高性能なAFが加わる事によって、「フォーカスによるNG」が激減する。タレントなど有名人を撮影する際、現場がスムースに回るのは言うまでもない。

S-cinetoneでプライマリグレーディング要らず

FX6には「S-Cinetone」が搭載されている。今し方見て頂いた2枚のスタジオでの女性の写真はS-Cinetoneで撮られている。そしてカラーグレーディングはほぼ施していない。S-Cinetoneは「VENICEの開発を通じて得られた知見を元に作られたルック」という事だが、簡単に言うと「イケてるビデオガンマ」だ。FX9で実際に使用してからの大ファンで、FX6でも使える事を知った時には心が弾んだ。

通常のビデオガンマ(709)と同じライティングで比較するとその違いがよくわかる。中間からハイライトにかけて滑らかになり、スキンが血色良くなる、というか少し赤っぽくなる。特徴としては、その他の傾向として、暗部が少し青色に転ぶ傾向もある。

中間からハイライトにかけて滑らかな階調スキントーンが良くなる(肌色の出方は被写体次第でポストで調整)

肌色の出方は被写体次第なので、ポストでの調整は必要になるかもだが、基本の「ノーマルルック」としては申し分ないはずだ。これが示すことはカラーグレーディング作業における「プライマリ」をすっ飛ばしてすぐさま「セカンダリ」へといける事だ。

S-Cinetoneなら撮って出しでイイ感じになる

作例編集中のカラーページより。S-Cinetoneの素材であれば、ほぼセカンダリの作業だけで済んでいる

本編での編集はさすがに若干の「カラコレ」は行うが、実際問題、スキントーンの調整や図形でマスクしてのセカンダリ作業程度で済む。S-Cinetoneを使用すると「ノードが少なくて済む」のだ。クオリファイアなどカラーマスクなどをする際も「腐っても10bit」。ある程度のことはできるので、無理しなければきちんとフッテージが応えてくれる。

話はそれるが、DaVinci Resolveが市民権を得て数年。カラーグレーディングが当たり前の所作になってきた昨今だが、実際問題どうであろう?本当にカラーをやりたい人はどれだけいるのであろう?

若輩者ながら筆者もトレーナーとして、数多くの講座やプライベートレッスンでカラーを教えているが「プライマリ」ができない人が多い。それは技術的にではなく感覚的にだ。簡単にいうと「適正なコントラスト」がわからない、という人が一定数いる。コントラストはカラーにおける全ての基礎だ。Logガンマで撮影しておいて、あとで弄る余白を残すにしても現場で「撮影時にルックが決まっていない」事が問題だ。

それであれば「ビデオガンマ」で撮る方がよっぽど良い。S-Cinetoneなら「人間が思うキレイ」を見せてくれるので現場でのクライアントプレビューの際にも依頼主はイメージしやすく、ポストでのセカンダリの話だけで合意が取れるだろう。つまりは現場がクイックに動く、ということだ。

S-Cinetoneのおかげで照明、ヘアメイク、依頼主とのコンセンサスが取りやすく、現場・ポストがスムーズに回る。昔のように「出てきた画が全て」なのでイメージの共有がしやすいと言うことだ。作りたいものに現場で近づけておく、この辺りもBack to basicsなのかもしれない

FX6なら何でも撮れる

今回の撮り下ろし作品をご紹介したい。内容は「ハンドメイドアクセサリーブランドのコンセプト紹介とイメージ映像」だ。2本分の映像がリレー式に続いて総尺2分半の作品だ。前半がいまや定番となった「ダイアログベース」の映像でS-Log3にてFX6とα7S IIIで撮影している。後半がFX6をS-Cinetoneで撮影した「ビジュアルベース」の映像となっている。グレーディングはほぼセカンダリのみ。BTSもあるので興味がある方はそちらもどうぞ。

Tapis Rouge PV

Tapis Rouge PV BTS-1

Tapis Rouge PV BTS-2

ご覧になって頂いて、どう感じるかは見た方の現在の立ち位置やこれからどうしていきたいか、というスタンスによって変わるであろうが、本作例は「チープをディープに」がテーマになっている。これはクライアントというかブランド主とも話したことだが「ハンドメイド」というとどうしてもアットホームとか手作り感、という柔らかいイメージに偏りがちになる。そこを映像でリッチに変えるという挑戦だった。

このFX6がメインカメラとして選ばれる現場は、お世辞にもハイバジェットの現場ではなく、ローバジェットの現場が多いはずだ。予算が限られている、と言うことは撮影の時間的制約やスタッフの人数的制約、編集をいかにクイックに行うかなど条件が色々と厳しくなってくる。

ローバジェットだから映像がチープになるのではなく、ローバジェットだからこそ、適切な機材を選んでチープをディープに変えることが受注する我々の価値を高めることになるのではないだろうか?このFX6はドキュメンタリー、ウェディング、イベントやライブ、記録や配信ミュージックビデオ、イメージ広告まで、幅広いスタンスで活躍できるカメラだと感じている。言い方は難しいがαのように「手軽な動画」も「仕事としての映像」も楽に撮れるのがFX6の魅力だ。

ハイバジェットになった場合、FX6を選ぶことは少ないかもしれないが内容と場合によっては、リッチな画が撮れるシネマカメラ1台よりもFX6を数台、もしくはα7S IIIとの組み合わせの方が良い場合があるかもしれない。

特にαを使ってキャリアップしてきた、またはこれからしていくであろう映像制作者の皆様が掴むチャンス下において「失敗できない現場」に立ち向かわなければいけないことが必ずでてくるはずだ。そうした「勝負の時に確実に撮れる」カメラの存在は重要になってくる。特に映像制作を生業とするならば、必要なのは「仕事の確実な遂行」であり「自己表現」は二の次である。

かくいう筆者もRED Helium 8Kを主力のカメラに、Blackmagic Pocket Cinema Camera 6Kをサブにしているが、FX6の存在は「仕事を遂行する」上で必要だと判断し、購入を決めた。よく言っていることだが「カメラは使い分け」だ。そのカメラは使い分けの中で筆者のようなα7S IIに夢を託し、αと一緒にキャリアップを果たしてきた者たちにとってもはや「イチガンのカタチ」をしているものの役割は終わったと感じている。

α7S IIIは良いカメラである。ただ、それは大人になってしまった我々のものではなく(使うな、という意味ではない)これからの時代を作っていく、若いキャリアの世代のものかもしれない。そう、カメラには対象年齢ならぬ「対象キャリア」が存在するのだ。

シネマカメラに引き継がれる「α」の称号。FX6が「フルフレーム・スタンダード」として新しいαの伝説が生まれるのか?

一眼で動画を撮れるようになって10年。そのイノベーションによってキャリアアップさせてもらった我々世代がステップアップする時が来ていることをFX6で実感した。とはいえ排他的な考えでなく、共存すれば良いと思っている。FX6とα7S IIIは良いタッグチームになる。どちらかを選ぶ、のではなく両方を使うというのも選択肢の一つだ。お互いの短所を埋め合えば良い。

カメラに70万が払えない、という声をたまに聞くがビデオカメラとしての値段は20年さほど変わっていない上、安くなっているのは事実で、スチルカメラで40万の方が、筆者はよほど高く感じる(笑)。動画が撮れるようになったスチルカメラの恩恵にあやかり続けるのも良いが、キャリアを積んだのであれば、その鎖を断ち切って、きちんとビデオカメラで映像制作に勤しんで欲しいと思っている。

そんなギャップを感じる今、新しい世代(α7S III)と共存しながら「α」を冠したFX6を手にした我々はどんな物語を紡いでいくのか。α7S IIによってたくさんの映像クリエイターが生まれたようにFX6による新しい「α」の伝説の一部を作るのは貴方かもしれない。

WRITER PROFILE

鈴木佑介

鈴木佑介

日本大学芸術学部 映画学科"演技"コース卒のおしゃべり得意な映像作家。専門分野は「人を描く」事。広告の仕事がメイン。セミナー講師・映像コンサルタントとしても活動中。