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txt:鈴木佑介 構成:編集部
Sony α1レビュー前半の連写編に続いて、後半は動画機能のレビューをしていきたい。果たしてソニーのフラッグシップカメラは動画カメラとしてはどうなのであろうか?
α7S III+8K=α1の動画機能
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結論から言うと、α1の動画機能はかなり優れている。目玉としては8K撮影(10bit 4:2:0内部収録)ができる事だが、4K撮影は最大4K120fps(10bit 4:2:2内部収録)とα7S IIIと同等の性能を保持している。またS-CinetoneがPP11としてデフォルトで搭載されている。
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8Kが撮れ、4K120pのS&Q(ハイスピード)が撮れ、S-Cinetoneが使える、という事だ。アクティブ手ブレ補正(使用時には1.1倍のクロップ)ももちろん使用できる。評価が高いα7S IIIの動画機能に8K撮影がプラスされたと思ってもらって良い。さらに4KでSuper35mmモードが使用できるのがα7S IIIよりも優れたところであろうか。
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長回しができる8K。そして高解像度の価値
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8K動画機能、と聞くと「どうせ熱停止するんでしょ?」と思われる方が多いはず。もちろんα1も熱停止はする。ただし30分以上は間違いなく撮ることができる(メニュー「自動電源オフ温度を「高」に設定)。筆者がテストした結果、冬の暖房を付けた室内で45分~60分は回す事ができた。数回再現できたのでそのくらいは連続撮影ができるという事であろう。
実際の現場で長回ししてみたが、特に停止することは無かった。ただ、ボディがかなり熱を持つ。バッテリー運用よりもカプラーを使ってVバッテリーなど、外部から電源供給した方が長持ちする印象だ。確実に長回ししたい方は外部電源を使用した方がよいだろう。
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そして、なんとSDカード(SDXC V60以上)で記録ができる。Long GOPという高い圧縮形式なので当たり前と言ってしまえばそれまでだが、8K動画がSDで収録できるとは驚いた。400Mbpsと200Mbpsが選べるが見た感じあまり変化は感じない。200Mbpsでも運用できそうな印象だった。
ただ、我々映像制作を長年営んでいる者にとってはLong GOP形式は毛嫌いする傾向が強いと思う。筆者もその一人だが、編集時にProResに変換かければなんてことはない。一手間だが、それさえ行えば普通にラップトップでもサクサク作業ができる。普段レギュラーでRED Helium 8Kを使用しているコンテンツ撮影(タレントさんが1カットで喋ってFHDベースでトリムズームするような内容)で代わりに使用してみたのだが、クライアントの評判も上々。同じライティングでのS-Cinetoneでの撮って出しで十分満足してもらえる結果となった。厳密にREDと比較すればさすがにREDに軍配はあがるが、最近の動画コンテンツ系であればこれで十分なのではないかと真面目に感じた。
瞳AFを使用でき、フォーカストラッキングもでき、S-Cinetoneでルックもある程度できている。さらに圧縮はキツいがSDカードで収録できる。また、REDだと毎回500GB以上の収録容量となるが、α1ならば70GB程度で済んだ。そういう利点もある。さすがに「無制限で収録」が確約されていないので、まだオマケとして考えた方が良いかもしれないが、現状、一番実用的な8K動画撮影機かもしれない。
α1の動画機能をまとめたテスト映像を作ったのでご覧頂きたい(4K動画)。レンズはFE24-70mm F2.8のGMをメインに16-35mm F2.8GM、70-200mm F2.8 GMを使用した。基本手持ちでノーライトにて撮影。カメラの純然たる画が分かると思う。
全部で2分程度の映像になっていて前半が8K30p、後半が4K30p・120pの素材になっている。モデルは鈴木作品でよく参加してもらっている遥野さん(@teddy_haru)にお願いした。テスト映像は一部S-Cinetoneでの撮影したものを除き、S-Log3で撮影。LUTは使わず、自分でノーマライズした。セカンダリグレーディングは施していない。
10bitなのでバンディングなどの心配はないが、クロマサンプリングレートが4:2:0なのでクオリファイアなどや色相の細かい変更を避ければ特に問題はない。また、8K撮影時はアクティブ手ブレ補正が使用できない。
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8Kで表示できるものが手元に無いのでその本当の美しさは見えてはいないが、動画からの切り出しでもこれだけ美しい。「写真画質が動く」時代がついにやってきた。
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8K素材であれば4Kのタイムラインでリサイズができる。頭でわかっていても実際に目にすると感動する。
■ノーライト環境でのS-Log3とS-Cinetoneの比較
以前FX3のレビュー記事でもお伝えしたが、S-Cinetoneの特徴はミッドトーンからシャドウにかけては通常のビデオガンマと同様でミッドトーンからハイライトにかけての階調がビデオガンマに比べてなだらかになる。シャドウ部がほんの少し青くなり、肌(スキントーン)の発色が鮮やかに。少しだけ赤みが増す。撮って出しで十分良い感じのトーンで収録ができる。ドキュメンタリーやイベント、ウェディング撮影などにも使えそうだ。
成熟された4K動画性能
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4K撮影に関してはα7S IIIと同じ感じで扱える。成熟された4K動画機能なので、安心して使ってもらっていい。最大4K120p撮影ができ、10bit 4:2:2の内部収録。Long GOPのほかにAll-Intraを選択できる。アクティブ手ブレ補正に超高速なAFは動画撮影でも瞳AFが使え、合焦速度も超高速な上、トラッキングもできる。普通に仕事でゴリゴリ使える仕上がりだ。「フラッグシップ」は動画機能も妥協しなかった。
α7S IIIと同様、S-Log3も最適化されている印象だ。ノーマライズ時の発色も良い。ベース感度はISO800スタートとなっている(α7S IIIはISO640スタート)。後述するが、どうやらα1もα7S III(FX3)やFX6のように二つのベース感度を持っているようだ。
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α7S IIIと違う点は4K撮影時にSuper35mmモードが使用できる点だ。さらに5.8Kのオーバーサンプリングになるため、解像度が上がる。パっと見の比較だけでは伝わらないかもしれないが、拡大するとその違いがわかる。映像制作者にとっては嬉しい機能だ。
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優秀な暗所性能
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高解像度のセンサーとなると暗所性能は苦手だと思われがちだが、α1をそんな予想を覆してきた。最大ISO32000までなのだが、総じて良好な結果だった。上の写真はISO32000でノーマライズした結果の写真だが、ノイズリダクションはかけていない。拡大して粗を探せばノイズは見つかるが、この結果は意外であった。こちらも高感度テスト映像を用意したので是非ご覧になっていただきたい。
さらりと前述したが、α1はS-Log3撮影時において低感度側、高感度側2つのベース感度を持っているようだ。テスト映像ではISO800から徐々にISOを上げていくのだが、3200から4000へと変わった瞬間、ノイズが無くなる(α7S IIIはISO640とISO12800で切り替わる)。
デュアルネイティブISOと謳っていないのは一般的なデュアルネイティブISOのように上下のStop数の割合を変えてノイズレベルを一定にするものと違い、S-Log3で定義されている15stop(上6下9Stop)を担保するために二つの基準感度が用意されたと予測されている。きちんとダイナミックレンジを確保したい時これは知っておくと良いだろう。なのでデュアルネイティブISOではなく「二つのベース感度」を持っているという言い方が正しい気がしている。
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どうであろうか。動画・映像制作だけを行う人にとってはこのフラッグシップ機は価格の割に満足できない人が多いかもしれないが、「写真も動画も」撮る人にとっては、全てが詰まったカメラになっていると言えるであろう。
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α1がもたらす「映像表現」は写真と動画の交差点。何を使うか、よりも何をするかが更に問われる事になった気がしている。そして2021年αがまた面白くなってきた。
WRITER PROFILE
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