txt:松本和巳 構成:編集部
■デジタル一眼カメラ
α1
ソニーストアの価格:税込880,000円(希望小売価格はオープン)
問い合わせ先:ソニー
ソニーαシリーズのフラグシップモデル登場
筆者自身は、前回の「OnGoing Re:View Vol.127 MF+AFを実現したソニーのハイブリットシネマレンズ「FE C 16-35mm T3.1 G」を検証」からの繋がりで、今回はボディー側のレポートである。
筆者もカメラ関係ニュースを毎日チェックし、最新情報をゲットしている。今年はソニーから早々に「α1」と「FX3」と2つも発表され、ちょっと急速充電されているような感じで気持ちは急激に高まってきた。既にこの記事が出る頃には両雄が手元に届いている方もいるだろうが、迷っている方は本当に迷っていると想像できる。
今回レポートするのはその1つであるα1である。これはα9 IIの後継かと思っていたのだが、まだα9 IIはカタログに載っているので、別物の最高峰機種の誕生と捉えておこうと思う。
α7S IIIのリグの継承ができる
実はソニーのもう一方の雄「FX3」の話もあったのだ。その時のやり取りで、自分からFX3が気になると切り出しながらも、実はα1も相当気になっていたので、こちらの実機体験ができるとの報が入った時にはちょっとニマっとした。その気持ちを抱きながら送られてきた箱を開けると、第一印象は「あれ、α7S III?」と思うくらい手にした感覚が同じだった。
見た感じもトップにダイヤルが増えているくらいでほぼ同じに見える。厳密に言えば録画スタートボタンの位置や、モニターの形状などが違うが、正面から見たらバッヂでの識別以外できない。録画ボタンの位置変更で直感的に思ったのが、これは動画寄りではなくスチルメインのカメラかもしれないと。ローアングルでのスタートがカメラ背面だと位置確認をしなくてはならなくなり、瞬時性を損なうからだ。ただシャッターボタンに録画スタートを割り当てられるので解決してしまう。となると、そもそもトップへの録画ボタンが無意味?だったのか…。
α7S IIIをサブカメラとして使っているので、手の感触が既にその形状を覚えているからの印象だ。そこで直ぐに考えてしまうのが、貧乏性というか、その記憶を確かめるにはα7S IIIのリグが付けられるか試してみようと。まずはボタンや機能面を確かめるのが先でしょ、と言われそうだが、買い替えを考えた場合、今使っているものが使いまわしできるのかも重要である。
そう思うと同時に既に手にはドライバーを持ち、α7S IIIからリグを外している。そしてそれを恐る恐るα1にはめ込もうとしているのだが、気持ちが妙に慎重になっている。その理由は、だって80万円以上もするカメラなんですもの…。これってKOMODOより高いじゃん、と思いながら手が慎重になっている。そして定位置にセットできた時に「おお!」と思った瞬間、ネジ穴が大事!と覗き込んでみるとビンゴ!。気持ちが良いほどにピッタリはまって、使い回しができることが確認できた。
自分の物ではないのに喜んでしまっているわけだが、α7S IIIからの買い替えを考えている方々にはちょっとした朗報かもしれない。買い替えた場合、アクセサリー類で細かく細かく出費が出ていくもので、使えなくなった残ったパーツを眺めながら、「ああ、こんなにも買ってたのね…」と落胆することは数知れず。
もしくはα7S IIIを飛び越えて、最初からα1を購入しようと考えている方もいるかもしれないが、大方新機種に対してはアクセサリーが間に合っていないことが多い。実際に手元に届く頃にはボディを少し傷つけてしまったりの経験もある。その意味でも他機種のものが代用できるのはありがたい話であり、これからの設計ポイントでも考慮していただけるとお財布事情は改善される。それがビジネスモデルと言われてしまえばそれまでだが、サステイナブルな時代にはぜひ。
8K映像の凄さとは
α1のスペックやメーカーの打ち出しからしても画質への期待は高まる。スチルカメラの視点からすれば、中判カメラのHasselblad X1D II 50Cより実売価格が高い位置づけになってしまっているので、「写真を撮る」ということだけを考えたらHasselbladを選ぶであろう。有効画素数を比較しただけでもX1D II 50Cは5000万画素、8272×6200ピクセル(4:3)であり、片やα1は約5010万画素、8640×5760ピクセル(3:2)である。α1は一般的な写真のアスペクト比であるが、X1D II 50Cはいわゆる中判カメラのアスペクト比になっており、縦方向の豊かさが表現できるので、写真という作業では中判カメラ仕様のX1D II 50Cを選択するだろう。
しかし動画を撮るという作業が加わった場合、より横長で画素数が取れているα1が圧倒的に優位になってしまう。動画でよく使われる16:9に置き換えた場合、X1D II 50Cは8272×4653、α1は8640×4860になり、8Kのより高精細な映像を意識するとα1に軍配が上がる。ただそれ以前に動画撮影のクオリティからしてα1が圧倒的に勝ってしまっているので、動画も撮ることを前提とした場合は迷わずα1の選択になるであろう。
そこで気になるのが8K画質のクオリティである。8K映像の精細さは言葉に出すまでもなく美しく、圧倒でしかないことは一番にお伝えできる。さらにはAF/AEが追随しながら最高30コマ/秒での高速連写は映画も撮れてしまうほどである。映画は1秒間に24コマの仕様なので、理論上は圧倒的に余裕を持って撮り切れてしまう。
実際に実験してみた。確かにもの凄い速さでシャッターが切られているのだが、途中コマ飛びをしているのではと思う感触があった。シャッター音が追いついていない?感じでの音飛びをしていた。気になり確認しようと思ったのだが、動画でのプレビューは出来ないので、最後まで飛んでる?感が拭えなかった。昔のフィルムと同じで、現像してみなければわからない世界観だが、これが現場であれば不安でしかないだろうと思う。しかしクオリティは写真(静止画)ベースなので、より鮮明になっている感はある。
その原因は今回のレポートでは追求できていないが、もしかしたら書き込み速度の問題かもしれない。CFexpressのメモリーは驚くほど早いのはMacへの取り込みでも実感しているのだが、やはり8KのRAWデータを1秒に30コマで書き込んでいくのは、容易ではないことは想像できる。10秒の動画をコマ撮りで撮った場合、8K RAWの写真が300枚である。実験では25秒くらい回していたので800枚近い枚数になっており、無理あるなぁ…と撮りながら思っていた。
なぜかと言えば、その前に8Kでの動画モードで撮影したフッテージをiMac Proで取り込みチェックと簡単な編集でのプレビューテストを行ってみたのだが、スムーズなプレビューができなかったので、連写でのエラーっぽいのもすぐに理解出来たのかもしれない。
ただ実験以外はこの静止画連写で映画を撮ることは無いだろう。仮にそのようなオーダーがあったとしたら、即効でお断りするであろう。だって編集ができないですから。ここはメーカーサイドにも考えていただきたいところだが、8Kの映像がHDや4Kより美しいのは疑いようはなく、そこをポイントに製品を開発していくのは仕方のないことだとは思う。
しかし撮った後の処理が加速度的に難しくなっていくのは買わない一因にもなり得るということである。メモリーの高速化、容量アップはコスト増、8K動画を編集するのにパソコンを買い替えて行くものコスト増、さらには編集時間も処理待ちで大幅に拘束されていくのはストレス増になって行く。サステイナブルな視点からもいただけない。品質を損なわないデータ圧縮技術などを期待したい。
ソニーはその点では独自フォーマット(XAVC HSなど)を作り頑張っているが、それでも8Kでは重い。また様々なフォーマットが存在しており、それがやり取りをしづらくしていると思うので、業界全体で規格統一と圧縮技術の横断的開発ができたらと思うが、無理だろうなぁ、と呟くのみ。ユーザーサイドからすれば、ProRes RAWだとDavinci Resolveだと使えないとか、Logだと心許ないなどの無用なお悩み作業から開放されたいものだ。
使えるAFと手ブレ補正
このカメラの美味しいところは連写と8K動画撮影なのだが、それに勝る点がAFの信頼性とカメラ本体側での手ブレ補正だと個人的には思っている。
特に手ブレ補正はイメージセンサーにスタビライザーを効かせ、ちょっとした振動は吸収してくれる。もちろん激しい動きや望遠よりの撮影に対しては追いつかないが、広角側で補正の特性を頭に入れつつ流していくショットなどでは、もはやジンバルは要らないのではと思うほどである。α7S IIIも同じイメージセンサーシフト方式5軸補正なので、実際に現場でのジンバル率が低くなっている。
個人的な嗜好もあるのだが、もともとブレを活かす映像を好むのでなおさらである。しかもα1は8Kであり、手ブレの影響は4Kの比ではないにも関わらず抑えられている。解像度が高くなる、または望遠に寄っていくほど手ブレの影響が画に出るが、広角側であれば実用レベルでも使えるところは率直に凄いと思う。
参考動画は何も考えずにサラッと撮ってしまったものだが、全て手持ち状態である。使える補正処理を行うとかなり滑らかになるし、手持ちでの自動車の中からの撮影でも補正が効いているので、やりようかと。
※参考動画
秀逸すぎるビューファインダー
α1でもう一つご紹介しなければならないポジティブポイントは、ビューファインダーである。なかなか動画撮影で一眼タイプのビューファインダーを覗き込んでの撮影はしないであろうが、外光が強すぎてモニターでのチェックが出来ない時には助かる。特に輝度が足らずモニターではピントのポイントが取りづらい時は、ビューファインダーが有る無いではストレスが変わってくる。ただそのビューファインダーの性能(解像度や滑らかさ)が低ければ、ピントどころの話ではなくなり、逆に気持ち的には要らない長物的な扱いになってしまう。
それを踏まえて覗き込んでみると、電子ビューとは思えない自然な見え方に目を擦ってしまう。あれ、これは電子ビューだよなぁ?と一瞬戸惑いすら覚えたほどだ。とは書きつつも、厳密に言えばモニター感はあるが、今までのものと比べたら月とスッポンの言葉しか浮かばないくらい綺麗である。これはスチールベースでは快適だろうと羨ましくなるほどだった。
と言うのも、外側のモニターがα7 III(α9 II)と同じタイプに戻っており、α7S IIIで進化したバリアングル液晶モニターではなくなっていたからだ。これだと縦方向の自由度しかなくなり、動きやポジション取りの制限を受ける。ここは残念。作業性を考えたら、モニターの自由度に加え、秀逸なビューファインダーでの攻めが満点ポイントではないだろうか。
と、さらに書きつつ、この電子ビューで凄いのは美しさだけではなく、ブラックアウトフリー撮影で完落ちと相成る。とにかく連写でもシャッター音と擬似的なフレームワークだけで、画面が途絶えないのである。いわゆる動画を見ているが如くの自然感なので、シャッター音が無かったら撮れているのかも疑うであろう。
ビューファインダーの覗き込み動画差し込み
ATOMOS NINJA Vとの組み合わせは?
そしてリグだけだはなく、α使いであれば外付けモニターも使用している確率は高いと思う。特にProRes RAWやProRes 422で記録できるATOMOS NINJA Vと組み合わせて使っている方は多いと思う。実際、筆者もその組み合わせでα7S IIIは運用している。そこで気になるのは、α1でも使えるのか?
α1はソニーの最新ミラーレスハイブリッドカメラだ。8K30Pの記録が可能で、フルサイズのHDMIポートを介して16ビットのRAW信号を出力することもできる。この機能によりATOMOS NINJA VモニターレコーダーでProRes RAWレコーディングが可能になるはずだ。仕様ではα1からの16ビットRAW信号は圧縮され、最大4.2K/60pで12ビットProRes RAWとしてNINJA Vに記録される。
ただし現時点(3/12現在)では制限が掛かっており、1080pにしか対応していないようだ(原稿執筆後、AtomOS 10.63が公開された)。そこで実際に撮ってみたのだが、8KだとATOMOS側で信号をキャンセルされ、α1側でRAWでの出力が自動でキャンセルされる。しかし仕様とは違い4K ProRes 422で収録されていた。
ATOMOSからα1をProResRAWに対応させるアナウンスは発表されているので、AtomOS10.63で対応されるかもしれない。
熱問題
8K動画撮影と言えば先陣を切ったキヤノンEOS R5を思い浮かべるであろう。最近は在庫状況も落ち着いてきたが、3月初旬までは常に在庫切れが続いていたほどの売れ行きだった。レビューなどが非常に良いのも人気に拍車をかけたのだろうが、一つだけネガティブレビューに熱問題が踊っていたのは記憶に新しい。熱問題で止まってしまうと復旧までに時間がかかり全てが止まってしまう。その記憶があるので、一眼ベースのα1ではどうなのだろうかと気になるのは当然だった。
やはり8K撮影になるとソニーと言えども熱問題は抱えているようだ。どうしてもプロの現場になると、カメラスペック的に綺麗に撮れる点と合わせて、耐久性、持久性も評価しなくてはならない。風景撮などで自己完結系の撮影であれば、誰にも迷惑を掛けることはないが、映画にしろ、CMにしろ、対象者(役者など)+スタッフ、さらにはクライアントが現場にいる中で、「カメラが止まってしまったのですみません」ではすまない。
そこでテストが必要になるのだが、実際はテストを目的に撮影をしていたわけではなく、撮影していたら止まってしまったのだ。そこでキヤノンEOS R5の事象を思い出したので実験してみた。
一度シャットダウンしてしまうとしばらくは再起動しないと思っていたのだが、シャットダウン後に電源を入れたら普通に起動してしまった。なんとも拍子抜けなのだが、その後も直ぐに止まるだろうと高を括っていたら、中々止まらない…。あれ、問題ない?と途中でやめようかと思ったのだが、実験だからもう少し我慢と思い撮り続けると、19分くらいでようやく止まった。ボディの発熱感(バッテリーハウス内、モニター裏、ダイヤル周辺)は思ったよりも触感では熱くなく、バッテリー、メディアも抜いて確認したがそれほどでもない。
もしかしたら、セーフティーネットに余裕を持たせているのかもしれない。それであれば発熱シャットダウン後の速やかな一時的復帰も納得できる。ここに余裕がないと、完全に冷えるまでは立ち上がらないということが起きてしまうだろう。
とりあえず3~4回は立ち上がっているので、短めのショットを抑えることはできるし、プレビューも可能になる。現場ではこの点は意外に大きなポイントになるかもしれない。
■条件:シャッタダウンしてから1分のインターバルで電源を入れ直す
- 1回目:24分くらいでシャットダウン
- 2回目:19分くらいでシャットダウン
- 3回目:1分30秒くらいでシャットダウン
- 4回目:5分くらいでシャットダウン(どういう訳かがんばれている)
- 5回目:撮影不可
- 6回目:撮影不可
これを踏まえて思うことは、8K撮影は非常に大きなデータの処理になるので、演算処理も莫大なものになる。当然エンジンにも相当な負荷がかかり発熱するのは、パソコンで動画のレンダリングをしている時にファンが回りだし、ノートブックであれば触れば相当熱くなっているのを確認できるのと同じ状況である。この時に筐体内の空間に余裕があり、さらに冷却ファンが付いていればある程度の抑え込みもできるが、どう考えても一眼カメラの筐体の中にそのスペースが有るとは思えない。
そして8K撮影の可能性だが、現時点ではプライベートシューティングでは有りと思うが、映画の世界ではまだ早いと思う。画質の劇的な素晴らしさはあれど、機器の熱対応、編集環境が整っていない。それらが負担なく運用できるようになって初めてポピュラーな撮影になるのだろうと思った。ただ保険という意味では使える。手ブレをさせられないショットで、脚やジンバルが無いまたは使えない環境の場合、広角で撮影し4Kクロップするなどすれば使える。8Kモニターやテレビは普及していないのと、現在の納品映像の最高値は4Kだろうから、この使い方はあり得ると思う。
それらを踏まえれば実用レベル(プライベートでも)でチャレンジしているのは素晴らしいことであり、この過程を経なければ次世代の技術には繋がらない。次の技術に繋がるチャレンジ機には、ユーザー側も多少の遊びを持った目で、技術革新に参加している気持ちで使っていくのも良いのではと思う。
松本和巳(mkdsgn/大雪映像社)
東京と北海道旭川市をベースに、社会派映画、ドキュメンタリー映画を中心とした映画制作を行っている。監督から撮影まで行い、ワンオペレーションでの可能性も追求している。本年初夏に長崎の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の劇場公開に続き、広島の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の製作中でもある。また"シンプルに生きる"をテーマに生き方を問う映像から、人に焦点をあてたオーラルヒストリー映画を積極的に取り組んでいる。代表作:「single mom 優しい家族。」「a hope of nagasaki 優しい人たち」「折り鶴のキセキ」など