コミュニケーションが進行の全て-制作現場におけるインカムの重要性
撮影現場で円滑な進行を支えるのが、コミュニケーションだ。撮影が香盤通りに進むかどうかは、まさに現場の意思統一にかかっている。
場当たり、リハーサル、本番といろいろなシチュエーションで、それぞれの役目の人たちの「今、何が行われているのか」「次、なにをするのか」という確認が非常に大切だ。監督、撮影監督、カメラマン、音声エンジニア、照明エンジニア、アシスタント、スタイリスト…全員が一つの作品制作に向けて仕事を効率的に行えれば、時間通りに進行するだけでなく、スタッフのストレスもなく、作品作りに一丸となって集中できるというわけだ。
今回はそんなコミュニケーションを支えるインカムシステムについて紹介したい。撮影現場で使用したのは、Hollyland社から発売になっているワイヤレスインカムシステム「Solidcom M1」という新しい機材だ。
レンタルが常識だったワイヤレスインカム市場に一石を投じるシステム
今回導入したSolidcom M1は、8式のセットになっている8-BELTPACK PACKAGE。Hollylandは最近HDMIなどのワイヤレス映像伝送機材で話題になっているメーカーであるが、以前からインカムシステムをラインアップにあげていて、その性能や使い勝手が少し気になっていた。
従来のワイヤレスインカムシステムは非常に高価で、「レンタル」するしかなかったが、このSolidcom M1は安価で安定したシステムとして購入することができる。また従来のシステムに比べて、バッテリーの持ちや小型化など随所で技術的な進化がみられると言っていいだろう。
放送業務から生まれたインカムのすばらしさ
通常インカムシステムは放送業務で使われる。最近ではインターネット配信も多くなり、オンエアという特殊な時間の中で、物理的に離れている人たちがコミュニケーションをとる手段こそがインカムの原点だ。
私も長年放送局に勤めていたが、インカムシステムは現場の通信手段としてなくてはならない存在である。最近はスマホをつかったものなどもあるようだが、やはり盤石なワイヤレスインカムがあれば、現場の安心感はかなり大きいと言える。
Solidcom M1は、まず音質が素晴らしい、そしてよく届く
インカムの特徴は、4Wで通信できることだ。つまり、トランシーバーのように一方通行の会話ではなく、常に誰でも会話に参加できる、いわゆるパーティートークにその価値がある。電話感覚で話せるため、聞き漏らしや言葉頭が切れたりなどのない、大切な「言葉のやりとり」を行える。
Solidcom M1の一番の特徴は正にその音質にある。ノイズゲートのかかり具合が絶妙なため、8名がTALKモードにあっても、ノイズが上がらず、誰がしゃべってもしっかりと聞き取れるというのが、最初に感じた印象だ。
今回は市街地での撮影で使用し、監督、撮影監督、カメラマン、プロデューサー、アシスタントなどがインカムラインを常時使用した。撮影現場となる場所を見計らって、大体の中央部分にBase Stationを設置。Solidcom M1の通信距離は非常にいいと感じる。
公式ページでは、見通し1300フィート(約400m)の距離となっているが、実効300mは見通しで問題なく使えた。当然遮蔽物があるとその距離は一気に縮んでしまうのではあるが、いわゆるBase Stationをどこにどの角度で置くかというのが重要になってくる。どの範囲で人が動くのかを把握して、その中央に向きを合わせてBase Stationを設置することがポイントとなる。
完璧なバッテリーのシステムとグループ機能
またバッテリーの持ちが非常にいい。朝から6時間連続の使用であっても、バッテリーは残っていたため、予備でセットとなっているバッテリーを使うことはなかった。
Solidcom M1のバッテリーシステムはとてもよく考えられていて、バッテリーは取り外して充電できるようになっている。充電器も8台のインカムを本体ごと挿せるだけでなく、予備も別途一気に充電できるので、現場で電池切れになることはほぼ無いと言っていいだろう。Base StationもLバッテリーで運用ができるし(当然電源もある)、ホットスワップも可能だ。屋外で使用するにあたり、このバッテリーシステムは実に満点の仕様だと思う。
Solidcom M1の面白い機能が、グループ機能だ。A、B、Cのグループを8台のインカムにアサインすることができる。このマトリクスは自由自在に組めるため、Aだけ参加するインカムやAとBに参加するインカム、全部に参加するインカムなど、ワンタッチでグループ分けをすることが可能。
制作ライン、技術ラインと分けられるだけでなく、両方に参加するなどのことも簡単に設定できるので、現場に合わせた設定が一つのシステムで直感的にできるのが魅力だ。LANケーブル一本で2台のBase Stationをカスケードできるとのことなので、16台のインカムをグループ分けするということも出来るということ。いやはや、可能性は無限大だ。
注目のサイドトーン機能
また自分の声を聴く「サイドトーン」の機能がついているため、非常に使い勝手がいい。インカムシステムで非常に重要な機能ともいえる機能で、このサイドトーンがあるかないかで、コミュニケーションの力が大きく変わる。なかなか文章で伝えるのは難しいところではあるが、自分が発している言葉が耳に入ってくるだけで、会話に参加している意識がぐっと上がるだけでなく、相手にちゃんと伝えているという確認が行えるのだ。サイドトーンの音量も調整できるので、自分に合った音のMIXを手元で行えるという優れモノだ。
とにかく簡単で堅牢、安心のシステム
まだまだ特徴は沢山ある。堅牢な作りも素晴らしいし、クリップも縦横変えられるので、使い勝手が最高だ。LEMO式のコネクターも頑丈で、ヘッドセットもしっかりとした作りだ。インカム本体のLCDディスプレイも視認性が非常によく、設定の項目や仕様もわかりやすい。電源を入れれば勝手にペアリングするし、1.9Gなので、ワイヤレスマイクなどとの混線もない。
Base Stationにつけるダボのアダプターも同梱で、専用のキャリーケースもついているので、一気に運搬できる。特になんの知識もなく、電源を入れればすぐに使えるという、とにかく簡単で堅牢で、安心のシステムだ。
そして冒頭でも述べたが、なんといっても価格が安い。放送業務も多く行う弊社では、日々活躍してくれている。カメラや照明機材ももちろん大切ではあるが、今回の撮影ではSolidcom M1がなかったら、撮影はうまくいなかっただろう。特に市街地となれば、物理的な距離だけでなく、声も通りにくい。「もうワンテイクいこう」「足元バミッて」「南から車両通ります」「次のシーンのグリーンバック用意しておいて」「モデルさん呼んできて」などなどの声が怒鳴らずとも300mを超えて行き来する。このインカムシステムは、人と人の距離を一気に縮めてくれるため、本当に欠かせない機材だと感じた。