展開し続けるAppleシリコン
IntelプロセッサからAppleシリコンへの完全移行のスタートを切った2020年11月から1年半。着々とM1チップ搭載型のMacが登場し、使った人からの高評価の声がその人気を加速させているApple。他社アプリケーションも徐々に対応し、2022年現在、大枠での最適化が済み、本コラムを執筆している間にM2プロセッサも発表され、さらなる注目を浴びている。
かくいう筆者も今現在、IntelプロセッサのMacを主軸に使用していたが、各方面からのM1 Macの高評価を聞き、ラップトップのサブ機として今年の春にM1 MacBook Airを購入した。実際使用してみると、口コミと同様驚くほど快適で、バッテリーの持ち具合、発熱の少なさ、アプリケーションの機敏な起動と動作に感動。毎日持ち歩くくらい愛用している。その高評価に心から頷ける。
春に四国へ出張撮影に行った際、ソニーFX3で撮影した4KのXAVC-I素材が、M1チップ搭載のMacBook Airで驚くほどサクサク編集でき、帰京する頃には粗編集が終わっていた、という思い出がある。MacBook Airのスペックを全部盛りにしていた影響もあるかもしれないが、この軽さで軽快に作業できたことに感動を覚えた。
感覚として「すごい足並みの取れたチームワークのよい会社」みたいな印象で、データの読み出しと書き出しが軽快というのがM1の印象。普段はIntelプロセッサのMacBook Pro 16(スペック全部盛り)を所持しているが、この一件以降外に持ち出すことが激減。M1プロセッサの良さを実感してしまったら、元に戻れない。「軽い、速い」は正義だ。
さて、そんなM1チップもMacBook Pro 14/16インチを皮切りに、いよいよM1 ProやM1 Maxと、上位種が登場。そして2022年3月に登場したMac Studioには、さらなる上位種M1 Ultraと上位のチップが登場。「無印のM1プロセッサですら感動しているのに、Ultraなんてどうなってしまうのだろう?」とAppleシリコンの展開が止まらない。
Mac Pro 2019 vs Mac Studio
私的な話ではあるが、筆者は2021年の7月に少し遅れたタイミングで、現行のMac Pro 2019年モデル(通称、摺り金おろし)を導入。M1チップの台頭は意識しながらも、確実なパワーを求めて欲しいタイミングで、おそらく最後になるであろうIntelプロセッサのMac Proを選択、購入した。カスタマイズしておよそ200万円弱。しばらくは前線で戦えるだろうと思ってはいるものの、「この未知のMac Studioと比較するとどうなのだろう?」と気になっているのは筆者だけではないはずだ。
しかもこのMac Studio、そのスペックからの期待値と世界情勢の影響もあって、今注文しても数ヶ月待ち。「どこかで試してみたいな」と思っていたら本レビューの依頼を頂き、今に至る。筆者の仕事柄、あくまで実写映像の編集ベースとなるが、DaVinci Resolveを使用しての動作に関して、筆者所有のMac Pro vs Mac Studioで比較検証してみた。YouTubeやレビュー記事では見つけにくいリアルな情報をご提供できればと思う。
(1)UHD書き出しテスト
ちょうど進行中案件のUHD完パケの1分45秒の映像があったので、Mac StudioにDaVinci Resolve Studio 17で編集作業を行い、書き出しをMac Studio/Mac Proで同条件になるようにして書き出し速度のテストをしてみた(一応数回書き出して確認)。Mac Studioでの編集作業自体は所持しているMac Proと変わらない体感で、「あれ?もうMac Proの時代は終わり?」と一瞬思ってしまったほど。
DaVinci Resolveのデリバーページで、書き出しにかかった時間が表示されるが、念のため手元でもストップウォッチで計測(誤差はなかった)。ソニーFX6で撮影されたXAVC-Iの4K素材を、中間コーデックに変換せずにネイティブで編集、UHD ProRes 422で書き出し、タイムラインの一部クリップにノイズリダクションの中でも強力な「空間的ノイズ除去」を使用(結構負荷がかかる)している。
結果としてMac Proは5分24秒、Mac Studioで10分50秒とMac Proが勝利。時間にしてMac Proが2倍速く書き出す事に成功。筆者としてはホっとする結果となったが、とはいえMac Studioはかなり早い印象だ。ところが、これを覆すまさかの大どんでん返しが起きる。
なんとなく手元にあったIntel MacBook Pro16インチ(2019年モデルの全部盛り)/M1 MacBook Air(全部盛り)ではどんなものだろうかと、同じ条件で書き出しテストをすることにした。
Intel MacBook Pro 16で25分24秒に対して、割と早いだろうが、最下位かなと思っていたM1 MacBook Airがなんと7分34秒!何かの間違いと思って2回書き出し直したが数秒の誤差の範囲。Mac Studioに勝ってしまったのだ。
M1 UltraにDaVinci Resolveが最適化されていないのか、何が原因か分からないが、この書き出し速度のテストは、
Mac Pro 2019 > M1 MacBook Air > M1 Ultra Mac Studio >Intel MacBook Pro 16
という結果となった。デコードにCPUを要するソニーのXAVCコーデックとの相性もあるかもしれないが、同じ編集作業をした際の部分レンダリングや操作感はMac Studioの方が体感として上だったが、書き出しではMacBook Airが勝ったという事実に複雑な気持ちになった。
(2)ノイズリダクション時 再生速度テスト
今度は意地悪をして、DaVinci Resolveでおそらく最も負荷がかかる、「空間的ノイズリダクション」を「時間的ノイズリダクション」に重ねる形で「最高品質」で当てて、レンダリングなしで再生させてみた。素材は先ほどと同様、ソニーFX6で撮影したXAVC-Iの4K60P素材だ(タイムラインは24P)。
Mac Proは6〜8フレームで再生できたのに対し、Mac Studioは1フレーム程度の再生しかできなかった。Mac Studioを陥れるわけではないが、Mac Proの面目が立った(筆者としては、またホっとした)。ちなみに写真にはないがM1 MacBook Air/Intel MacBook Pro 16はMac Studioと同様0〜1フレームの再生だった。要するに「そのままではほぼ再生出来ない」という話だ。もちろん、再生タイムライン上でレンダリングをすればスムーズに再生できる。
(3)8KRAW素材の動作・書き出しテスト
最近ではミラーレス一眼でも、8KのRAW素材が撮影できるようになってきた。これから当たり前のように8KのRAW動画も普及していくことだろう。筆者のアシスタントが最近キヤノンEOS R5 Cを購入したので、8K60PのRAW素材を提供してもらい、テストしてみることにした。
まずはMac Proにて。8K60Pのタイムラインでの編集作業はカクつくことを知っていたので、8K24Pのタイムライン(30pでもあまり変化はない)を作り、その上で8K60PのRAW動画素材を配置。ディゾルブをかけたり、ビデオトラックを重ねてみたり、初歩的な動作確認をしてみた。こちらも中間コーデックへの変換はなしに、ネイティブのままの素材だ。
Mac Proでのテストは特に問題なく、ビデオトラックを重ねてワイプ表示するといった作業は、2トラック程度であれば普通に24Pでリアルタイム再生できた。さすがに3-4トラックを重ねると、リアルタイム再生は厳しく、8〜9フレーム程度で動く。実際そんなにトラックを重ねることはないので、基本的には普段筆者がRED(HELIUM 8K)素材の編集をしている感覚で特にストレスなく、サクサク作業できた。
ちなみにノイズリダクションをかけると、「時間的ノイズ除去」で秒間8フレーム程度の再生。共通4Kや「空間的ノイズ除去」を加えると、秒間0〜2フレーム程度となった。かけ具合によってプレビューは難しい感じだ。ちなみに書き出し速度は45秒尺の8K24P ProRes 4444書き出しで52秒という実尺に近い速度だった。
次にMac Studioで同じ状況を再現し、同様に作業してみた。カット編集、2ビデオトラック程度であれば、特に何のストレスもなく作業できる。3~4個のビデオトラックになると、重なっている部分は再生速度が12~14フレーム前後と落ちるものの、Mac Proよりも少し速い結果になった(これはフラッシュストレージ自体の速度とプロセッサ、GPUとの組み合わせの影響もあるかもしれない)。ノイズリダクションも軽い「時間的ノイズ除去」で6フレーム程度。Mac Proと比べてもそんなに差はない。そこに「時間的ノイズ除去」を加えると0フレームとレンダリングしないとリアルタイム再生はできなかった。書き出しに関しては同じく45秒尺の8K24P ProRes 4444書き出しで1分5秒。わすか13秒程度の差だがMac Proに肉薄。
それではXAVC-Iの書き出し時に、まさかのMac Studio越えを果たしたMacBook Airではどうだろうか?同じ条件で動作、書き出しテストをしてみたが、すでに8Kというタイムラインでは、1つのビデオトラックの再生すら出来ず(2~3fps程度)。そして編集動作の足取りは重い。書き出しにはかなり時間がかかり、結果45秒尺の書き出しに対して、28分35秒もの時間がかかった。そもそも無茶がある実験だったが、M1 MacBook AirのCanon RAWとの相性はXAVC-Iほど良くないのかもしれない。
ちなみにIntel MacBook Pro 16でも、編集操作と書き出しをテストしてみた。一つのビデオトラックでのリアルタイム再生は11fps。書き出し時間は12分10秒とM1 MacBook Airと大きく差を付け、「腐ってもPro」としての爪痕を残してくれた。そもそも、一概に比較できることではないのだが、「プロセッサ、グラフィックボード、ストレージの速度のバランスが整ったものと、扱うコーデックとの組み合わせによるのかもな」と感じた。
Mac Studio+Studio Displayという新しいデファクトスタンダード
今回の私的環境におけるテストの結果は、なんだかんだMac Proの面目躍如ということになったが、Mac Studioは決して悪くない。値段的にもMac Proの半額で、半分くらいの能力を持っているわけだ。そして「とにかく静か」というのが、好感度が高い。Intel Mac Proが本気を出したときのファンの音は、かなりの騒音が出るのだが、それに比べてMac Studioの静けさは、本当に動いているのか不安になるくらい静かである(でもきっちり動いている)。
今回の実験で、M1 Ultraの性能がきちんと最適化されて発揮されているのか、コンピューター周りの知見が乏しい筆者では正直分かりかねるところがあるが、普通に映像系の仕事をする上で、Mac Studioという選択肢は多いにアリだとは感じる。
これは筆者の作業領域ではない上、不確かなのでなんとも言えないが、M1 Ultraは3Dの制作などの方がその実力を発揮するかもしれない。というのも触っていて、Mac自体になんとなく余力がある感じがするのだ(これは誰かに検証してもらいたい)。
なににせよこのMac Studio。iMac以上、Mac Pro以下の立ち位置で、最初に選ぶ仕事用デスクトップ型Macとして良い選択肢な気がしている。ラップトップにモニターを繋いで、デスクトップがわりにしているクリエイターも最近多いが、やはりデスクトップはデスクトップ。前面・背面に備わっているたくさんのポートは、ラップトップユーザーのストレスを見事軽減してくれるであろう。そしてモニターに何かトラブルがあってもすぐに対応できるのも魅力だ。
そして純正のStudio Displayも便利だ、久々のApple純正の標準ディスプレイだ。上位機種のXDR Pro Displayには、輝度をはじめとして届かない部分があるが、ケーブル一本で接続できる上、さまざまなカラーモードが扱えるMac Studioとの組み合わせは、これからのMacを使うクリエイターのデスクトップPCとして、デファクトスタンダードとなっていくのではないだろうか。
そして、これから展開されるM2チップ、いつかは登場するだろうAppleシリコン搭載型のMac Proの登場が楽しみだ(筆者的にはIntel Mac Proにもう少し頑張ってほしいと思っている)。