パナソニックLUMIX GHシリーズの新型機「LUMIX DC-GH6」(以下:GH6)を2台使って、フジテレビの深夜ドラマを撮影した。レンズはパナソニック「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm/F1.7 ASPH.」「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 25-50mm/F1.7 ASPH.」をメインで使用し、オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」でワイドと望遠をカバーした。
マイクロフォーサーズのボケ感を活かしたドラマ撮影
フルサイズ一眼での動画撮影が増えてきた昨今、シネマ系のプロ機もフルフレーム対応機種が多く登場している。筆者はソニーVENICEでのフルフレーム映画撮影、ARRI AMIRAやパナソニックVARICAMでのスーパー35センサーでのドラマ撮影、パナソニックLUMIX DC-S1H(以下:S1H)でのフルサイズドラマ撮影をここ数年行っている。
カメラの機種はシナリオの内容に応じて最適解を選び選択しようとしているが、予算の都合もあり、ままならないことも多い。しかし、最近ではフルサイズ機、フルフレームでの撮影はボケ過ぎると思うことが多々ある。被写界深度を稼ぐために絞ればいいのだが、絞ればその分暗くなる。昼間ならいいが、夜の外ロケや電飾を活かした屋内の撮影ではある程度絞りを開放近くで撮影したい。ライトの量を増やすと逆に雰囲気が壊れたり、時間の制約や予算の制約もあり、ただライトを増やせば解決するわけではない。
また最近は、ただ背景をボカしさえすればかっこいい映像になると思われているのか、背景をボカしすぎて背景の雰囲気が伝わらないような残念な映像を散見することもあり、選択肢が増えた今の業界は便利な反面おかしな状況だなと思っている。
今回のドラマは、マイクロフォーサーズのボケ感程度がちょうどいいいシナリオだと思った。例えば、登場人物が多くいるシーンでグループショットを撮った時に、フォーカスが誰かにしか合っていないよりも、ほぼみんなに合った方が芝居が見やすい。フォーカス送りをする手法もあるが、誰かの言葉に対するリアクションはみんな同時に一瞬に表情の変化が起きるからだ。また、今回はシナリオの設定がほぼ夜、あるいは屋内の暗いトーンでの撮影のため、絞りは開放近くで撮りたいけれど被写界深度はある程度欲しいと思っていたからだ。
タイムコード入出力対応で撮影後のワークフローがスムーズに
通常はF2 ISO800で撮影し、開放2.8のレンズの場合はISOをISO1600に増感して撮影。GH6のISO800と1600の差はほとんど感じないノイズレベルだった。LUMIXシリーズのカメラで便利なところは、タイムコードを入出力できるところだ。カメラの外部フラッシュ端子からタイムコードを入出力する機能がある。
今回は2カメ撮影のため、カメラ2台と録音部の音声収録機3台はUltraSync Oneを使いワイヤレスでタイムコードを同期させている。これにより撮影後のワークフローが滞りなく進む。編集ソフトでタイムコードを使ってシンクロするので、カチンコを見て毎回画合わせする必要がない。今回は撮影からOAまでのスケジュールが非常にタイトなため、1台のカメラには音を入れていたが、2台目やジンバル撮影時は入れていない。
LUTの入力機能
S1Hと同じくLUTの入力機能がついている。通常のガンマカーブで撮影するより、Logで撮影して編集でカラーグレーディングをした方が圧倒的に映像の質感がリッチだ。シナリオに応じた雰囲気のLUTをその都度作成し、カメラに取り込むことにより仕上げのイメージを現場で共有することができるのは大きなメリットだ。LUTファイルは1つだけではなく、5種類のLUTファイルをメモリーすることが可能なため、シーンに応じたLUTの使い分けもできてなお嬉しい。
新機能「ファイルナンバー表示」
また、GH6で新たに加わった機能でファイルナンバーを表示させる機能がある。ファイルフォーマット時にシネスタイルを選ぶとリールナンバーとカットナンバーが記録され、例えばA001C001といったプロ機のようなファイル管理ができる。
今回の作品のカジノのシーンだと、随時手元のトランプの映像を挟むようなカット割りになる。通常は感情の流れを優先して撮影するため、先にお芝居を撮影し、手元のトランプやチップは後からまとめて撮影することが多い。つまり、どこの芝居の時の手元なのかを記録しておかないと、編集でどこの素材なのか分からなくなってしまう。リールナンバーとカットナンバーが常に表示されているので、それを記録しておけば素材を見失うことがない。プロのワークフローを滞りなく進めてくれる機能が、このクラスのカメラに搭載されているのは感謝しかない。
シンクロスキャン機能
もはや写真機の形をしているだけの本格的ムービーカメラは、シンクロスキャンという機能も付いている。これは蛍光灯やPC画面のフリッカーが通常のシャッタースピードで切りきれない場合に、小数点以下の数値までシャッタースピードを可変させて画面のちらつきを除去する機能で、これもプロが使うハイエンドクラスのカメラでしか見ない機能だ。今回も、ある現場のLED照明を活かそうとしたら、1/100ではフリッカーがあり、1/60.7という通常のスチルカメラでは設定できないシャッタースピードを設定しフリッカーを除去することができた。
ハイスピード撮影もクリア
特筆すべきは、クリアなハイスピード撮影を実現しているところ。どのカメラもハイスピード撮影をするとノイズのざらつき感が出てしまう。S1Hでハイスピード撮影をした際のノイズは、「ちょっとしんどいなあ」と思っていたところだったが、今回のGH6は時代が変わった感があるくらいのクリアなハイスピード撮影を実現している。ノイズがかなり少なくなっているのが如実に実感できる。GH6用に新規開発されたという新世代ヴィーナスエンジンのおかげなのだろうか。編集でのノイズリダクションが必要ないレベルだ。今回の作品ではハイスピード撮影はもちろん、全編において編集でのノイズリダクションをかけていない。
今回は撮影前に監督からハイスピード撮影を多用したいとオーダーがあったので、とても良好なハイスピード撮影ができ満足している。また、今回は使用しなかったが、HDで最大300コマのハイスピード撮影ができるというのも、今後使用してみたい機能だ。
ダイナミックレンジはフルサイズ機に軍配
ダイナミックレンジはフルサイズ機には及ばないようだ。通常モードのV-Log撮影で3絞りオーバーの白が飛び、ダイナミックレンジブーストモードで4絞りオーバーの白が飛んでいる。ダイナミックレンジブーストモードにするとハイライト側で1絞り程度ダイナミックレンジが広がっている。ただ、もちろん通常のテレビカメラに比べるとダイナミックレンジは広いので映像のリッチさが違う。
長時間の撮影も安心、本体USBポートから直接充電
本体USBポートから直接充電できる仕様になったため、専用バッテリーがなくなってもモバイルバッテリー等で代用可能だ。夜から朝までの六本木のタイムラプスを撮影したが、従来ならバッテリーを外しAC用のカプラーを介しての給電だったが、GH6はバッテリー内蔵のままUSB-C端子から給電できるため、不慮の電源ケーブル抜けなどの不安要素もなくなり、長時間撮影も安心して臨むことができた。
LEICA DG VARIO-SUMMILUX 25-50mm/F1.7のズームレンズは最短撮影距離(MOD)が約30㎝なので、被写体がかなり近くてもフォーカスが合う。現代のドラマではスマホの画面を撮影することはよくある。今回もスマホの画面を撮影したが、従来ならマクロレンズを使うか、あるいはプロクサーをつけての撮影になるが、今回のレンズはMODが短いため、カメラを被写体に近づけて撮影したらそのまま撮れてしまった。
また、このレンズシリーズは開放1.7というのもうれしい。今回は通常F2を基準として撮影していて絞りで明るさの微調整のマージンがとれるからだ。開放でもピントの芯があり、開放値が明るいが全体が甘くなってしまうので結局F2くらい絞らないと、となるレンズがあるがこのレンズは開放でもしっかりと使える。
スムーズなワークフローを実現するGH6
一眼写真カメラで動画を撮影できるようになりずいぶん経ったが、普段プロの動画撮影機をベースに撮影をしていると、どうしても一眼写真カメラの信頼性や使いづらさ、ワークフローの悪さを先に感じていたが、最近では年々進化していく一眼写真カメラの方が良い部分もあり、選択肢として悪くないと思っている。
特に、プロの現場で使われている有効な機能がふんだんに搭載されているGH6は、メインカメラとしても不都合なく使える。プロのワークフローは、ただ良い映像だけを撮影することだけでなく、「編集や音のワークフローにも対応できるか」、ということも大切になる。撮りっぱなしで編集に負担を強いてはワークフローが破綻してしまう。
納期に間に合わせるということもプロとして大切なことなので、スムーズなワークフローを実現する機能のあるGH6は、トータルバランスとして使い勝手が良い。あるいはサブカメラとして、ジンバル撮影の軽量化や、動きのある映像だと被写界深度が深いほうが使いやすいことなどの利点、LUTの読み込みによるメインカメラとのトーンの統一など柔軟に対応することができる。今回のGH6での撮影は、また新たな選択肢としてのカメラが増えたことを確信した。
今回GH6を使用した作品
「ブラック/クロウズ」フジテレビ前編 6月28日(火)24:55~25:55 TVer、FODにて見逃し配信中
後編 7月5日(火)25:05~26:05(関東ローカル)
放送終了直後~TVer、FODにて見逃し配信開始
貝谷慎一|プロフィール
パナソニック映像 テクニカルグループ カメラマン
「世にも奇妙な物語 ’22夏の特別編『なんだかんだ銀座』」(フジテレビ)、「今夜、わたしはカラダで恋をする。」(ABCテレビ)、「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ)他、ドラマ、プロモーション映像などを中心に撮影を行う。