- atx-m 11-18mm F2.8 E:税込93,280円
はじめに
ケンコー・トキナーから、ソニーEマウント(APS-C)用広角ズームレンズ「atx-m 11-18mm F2.8 E」が登場した。同社のatx-mブランドのレンズで、コンパクトで動画でも問題なく使える高速で静かなAFを搭載している。
筆者は、atx-mシリーズの単焦点レンズを3本所有しているが、キレがよく背景のボケが自然なレンズで、映画の現場でよく使っている。そのシリーズに広角ズームが加わったことは、非常にありがたい。
映画製作者としての目線で、このレンズをレポートしてみたい。
軽くてコンパクトだが、シネマレンズっぽい描写が特徴だ
まず、基本スペックから見ていこう。焦点距離は前述のように11-18mm(16.5-27mm相当)で、絞りは全ズーム域で開放F2.8というハイスペックレンズだ。
絞りはF2.8-F22、11群13枚のレンズ構成となる。撮影最短距離はワイド端で19cm、テレ端で30cmと近接撮影が得意なレンズだ。後述するがワイド端であっても歪みがほとんどないので、最短距離に近寄って撮影した時でも自然な形になる。実際のマクロ倍率はワイド端1:9.92、テレ端1:12.4とマクロレンズ的ではないが、被写体にグッと近づいた時の超広角レンズ的な迫力は十分にある。
絞り羽根は9枚で構成され、ほぼ真円に近く、それがボケにも反映されて非常に上品な描写をするレンズだと言える。前述したが、筆者が映画などの撮影でatx-mシリーズを使う理由が、ボケの美しさ、背景光源の玉ボケの自然さにあるのだが、このate-m 11-18mm F2.8 Eも、この点は非常に良いレンズだと思う。
サイズは非常にコンパクトで、全長全幅とも7.4cm程度、重量はわずか335gと超軽量だ。明るい広角ズームがこのサイズと重さなのは、実は非常にありがたい。フルサイズのレンズの場合、1kg近いレンズになってしまいがちなので、さすがAPS-Cフォーマットはサイズ面で有利だ。
高級感のある外装と非常に使いやすいズームリングが特徴だ
全体はプラスチックボディーなのだが、非常に高級感のある梨地の表面塗装が施されている。このややザラつく感じのある表面は、見た目に美しく、実際に使うと滑りにくく非常に使いやすかった。
操作リングはカメラボディー側にズームリング、そこからやや太くなってピントリングとなっている。絞りリングは搭載されていない(カメラ側で制御)。この2つのリングとも、回した感じが心地よかった。もちろん、マニュアルレンズのオイルによる抵抗感ほどの良さではないが、特にズームリングは重過ぎず軽過ぎずで、動画時のズーミングでも使えるレベルだと評価できる。
非常に素直で歪みのない超広角ズーム
さて、実際の画質だが、同社のatx-mのブランドだけあって、非常に高画質だ。11mm側でも歪みはほとんど感じられない。自撮りをした場合でも、顔が丸くデフォルメされることがないので、Vlog用レンズとしてもお勧めできる。
AFは高速で迷うことがない。音もほぼ聞こえないレベルで、動画用レンズとして使える。また、フォーカスもズームも全長が変わることがないインナー方式である。軽量でもあり、ジンバルに乗せて使うにも適したレンズだと言える。
なお、ソニーのダイレクトマニュアルフォーカス(以下:DMF)に対応しており、DMF設定時には、シャッター半押しの状態でピントリングを回すとMFでピントを合わせることが可能だ。
なぜAPS-Cなのか?
時代はフルフレームなのだが、依然、プロの現場でAPS-C(スーパー35)が使われるのはなぜか?ちなみに、映画やCMなどの制作が多い当社では、APS-Cとフルフレームは8:2くらいでAPS-Cが多い。
まぁ、フルフレームとAPS-Cの違いといえば、技術的には1絞り分のボケ量の差があるというだけなのだが、現実問題、フィルム映画ではスーパー35が主流で半世紀以上もノウハウがあり、実際の画質もスーパー35のシネマレンズが非常に良いものが多い。同じ画質でボケ量だけ大きいフルフレームレンズは、サイズも重量も2倍くらいになってしまい、価格は1本数百万円、実用上のメリットが少ない。
一方、APS-C(スーパー35)のシネマレンズは、さまざまなバリエーションや価格帯があり、選択の範囲が広いのが特徴だ。1本数万円から数十万円と幅があるが、今回紹介したatx-m 11-18mm F2.8 Eは、マニュアルフォーカスレンズではないが、画質としてはシネマレンズだと評価できる。もちろん、メーカーがシネマ仕様と謳っている訳ではないが、筆者としては、他のシネマレンズと一緒に使えるレンズだと思う。