Vol.196 Cerevo「LiveShell W」実機レビュー

切望された配信マシン?

「インターネット配信業戦国時代」(?)とも言える昨今、様々なメーカーがしのぎを削って、日夜画期的な新製品を世に送り出している。そんな中、最近の配信界隈のトレンド(?)と言えば、「オールインワンの配信マシン」というのが一つ挙げられる。

スイッチング機能が搭載されて、かつ高スペックの配信PCを必要とせずに本体をLANやWi-Fiに接続するだけで手軽にライブ配信できる(欲を言えば録画機能も付いている)というのは、快適かつ安定なワークフローを構築しようとすると周辺機器が増えがちな配信業者にとって、まさに切望されたマシンとも言えるだろう。

そんな「PCレスで配信を」という誰もが願うテーマを先取り、約10年前より開発に挑んできた会社がある。東京都千代田区にある株式会社Cerevoだ。

2008年設立、従業員30数名という新進気鋭の会社でありながら、自社ブランドにこだわった製品の企画・開発・製造に携わり、配信デバイス機器や低価格な無線タリーランプなど、常に挑戦的な機材を生み出している。

その姿勢は大手メーカーではできない、どこか町工場的な雰囲気を醸し出している(ような気がする、勝手なイメージ)。配信業に関わる人間なら、誰もが一度はお世話になっているはずだろう。

「LiveShell W」発売

Cerevoが開発したライブ配信デバイス「LiveShell(初号機)」は、2011年に発売。「HDMI一本、PC不要でUstream(今となっては古のライブ動画配信サービス)配信」を謳い文句に、その姿勢はシリーズを重ねても変わらず、より高画質&安定化という形で進化していった。

そして2021年のInter BEEにて、新型「LiveShell W」初出展。当時は2022年の春発売としていたが、夏季の8月19日にずれ込んだ形だ。間近の旧型「LiveShell X」から6年ぶりの新型で、期待が高まっている…。

とまあ、講釈を垂れてみたが、筆者は実際に「LiveShell」シリーズを使用したことはなく、存在を知ってはいたが残念ながらこれまで使う機会に恵まれなかった。CerevoがLiveShell Wの試用サービスを積極的に行っているので、またとない機会ということで実機評価を行った次第だ。

Vol.198 Cerevo「LiveShell W」実機レビュー。オールインワンの配信マシン[OnGoing Re:View]
本体前面
Vol.198 Cerevo「LiveShell W」実機レビュー。オールインワンの配信マシン[OnGoing Re:View]
本体後面。2系統のHDMI入力と1系統のHDMI出力

今回はLiveShell初心者として率直な使用感をまとめてみた。すでにこれまでのLiveShellシリーズを使ってきた諸先輩方には退屈かつ些末な内容かもしれないが、例によってご容赦いただけたら幸いだ。

ソフトウェアスイッチャー?配信デバイス?

ケースから取り出すと、まずそのコンパクトさに驚く。どこにそんなパワーがあるのかという疑念を持つが、それはすぐ後に喜憂だったと気づくことになる(というより、このサイズで詰め込みすぎと気づく)。給電はUSB Type-Cケーブルで行える。電源が確保できない場所ではモバイルバッテリーでも給電が可能だ。

本体の大きさ比較。コンパクトサイズ
モバイルバッテリー給電も可能

本機にLANケーブルを接続して電源ボタンを長押しすると、ディスプレイに会社ロゴと製品ロゴの表示(無線LANで接続する場合は、無線LANアダプタを挿入)。

本体の設定は、内蔵の操作用Webアプリケーション「LiveShell Studio」ですべて行う(このアプリはLiveShell Wより初導入)。

本体を操作してMAIN MENUからNETWORK→Web LOGIN画面に進むと、UserとPass、接続IPアドレスが表示。そのIPをPCやスマホ、タブレットのブラウザからURLを打ち込み、ユーザーネームとパスワードを入力するとLiveShell Studioの画面にアクセスできる。

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表示されたIPアドレス情報をPCブラウザに打ち込むと、専用アプリが開く

LiveShellシリーズ経験者の仕事仲間から聞いたところ、これまでのシリーズはインターネットに繋がったPCやスマホ、タブレットから公式サイトにある「Dashboard」というWebページにアクセスしなくてはならなかったという。それはつまり、公式サイトがサーバーメンテナンスになった際はログインできないという支障が発生することを意味する。

そんな現場の声を聞いてか、対策として本機より独立した設定アプリケーションが開発されたのだと予想される(LiveShell Studioへのアクセスは、本体と同じネットワーク上のPCもしくはタブレットにて操作可能)。

LiveShell Studioを開くと、そのUIデザインから単なる設定アプリではないことに気づく。

テキスト
LiveShell Studioの画面。今までのUIとは一線を画す
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旧型の入力系統はHDMI1つのみだったが、本機では「W」の名の通り、2系統のHDMI出力を有している(1系統のPGM OUTのHDMI出力を有している)。本機はvMixやTriCasterといった、いわゆるソフトウェアスイッチャーと同じ側面を持っているのだ。

Dashboardにはなかった、「スイッチング」項目では2つの映像ソースを交互に切り替えられ、「MIX」や「ワイプ」といったエフェクトも搭載している。「合成」では「テロップ」「P in P」「左右分割」「クロマキー」といった一通りの機能があり、個々の詳細な設定は下部のタブをクリックすることで行える。

テキスト
P in P合成やテロップ表示が行える
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オーディオミキサー機能も搭載され、入力チャンネルの設定も簡単に行える。また、ネット配信で起こりがちな映像と音の同期問題を考慮してか、音声の遅れ補正の設定も搭載している(マイナス値だと音先行、プラス値だと映像先行)。これは現場では地味にありがたかったりする。

テキスト
オーディオの項目で、音ズレ補正も行える
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「エンコーダ」画面では映像ビットレートやフレームレートの設定を行う。価格10万円台の配信デバイスにも関わらず、至れり尽せりな機能に少々困惑するくらいだ。

最大3チャンネルの配信が可能

配信先の設定は「PGM OUT」ウィンドウのタブから設定を行う。一度配信先を設定しておくと、保存されて選択できるようになる。本体設定画面の「システム映像フォーマット」から入力映像のフォーマットを設定。表示名を打ち込み(写真ではYouTubeと表記)、配信先のURLとストリームキーを打ち込むと設定が完了。

そして本機の最大の特徴は、1つはYouTube、1つはニコニコ生放送、1つはツイキャスといったように3チャンネル分の配信が可能であることだ。これまではサイマル配信の場合は各々3台分のパソコンが必要だったが、この小さいデバイス1台でサイマル配信ができるというパワフルさに驚愕である。

試しにYouTubeとニコニコ生放送のサイマル配信を行ってみたが、安定した配信が行えていた。その時のYouTubeのライブ配信がこちら。

LiveShell Wサイマルテスト

また、録画したい場合は1チャンネル分を使用するため、配信先は2チャンネルまでに限定される。メディアは主にSDHC規格のmicroSDカード(もしくはFAT32でフォーマットされたUSBドライブ)を使用するが、SDだと現状32GBまでの制限がある。これはのちのアップデートにて32GB以上に対応予定らしい(Cerevo公式Twitterにて明言)。収録コーデックはH.264限定。コンテナはMP4かMPEG2-TSのどれかを選択。

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収録はSDHC規格のmicroSDカード32GB限定
テキスト
サイマル配信時の画面
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テキスト
同時配信したニコニコ生放送の画面
※画像をクリックして拡大

現場にて投入

一通りテストを終え、近々で外現場の案件があったため、実際に投入してみることにした。

当社ではニコニコチャンネルで毎月音楽ライブ番組の技術協力を行っている。都内のライブハウスで、出演陣が演奏を担当して月替りのゲストが歌いたい曲を歌唱するという構成になっている。

この番組では、メインの生放送のチャンネルとサブチャンネル(旧チャンネル)、関係者閲覧用のYouTube限定公開と、計3チャンネル分の生配信を行っている。普段は配信用PCとしてMacBook Pro(Wirecast内蔵)とGALLERIAノートPC(vMix内蔵)を持ち込んで行っているが、今回は関係者閲覧用YouTubeの配信の1チャンネルを本機から行ってみることにした(残念ながら関係者閲覧用の限定公開のため、本記事内にてURLを共有することはできない)。

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音楽ライブ番組にて投入
Vol.198 Cerevo「LiveShell W」実機レビュー。オールインワンの配信マシン[OnGoing Re:View]
現場での配信ブース

映像ビットレートは約8,000Kbpsに設定。同時に録画も開始。

本番中、筆者はカメラマン担当のため、配信管理は別のスタッフにお願いしている。配信担当者は以前の「LiveShellシリーズ」の使用経験もあるため、設定アプリLiveShell Studioを見て、Dashboardとの違いに驚いていた。案の定、スイッチングと合成機能に興味津々だった。

番組は19時30分より約1時間半程度で終了。配信担当のスタッフに本番での状況を尋ねたところ、長時間でも安定した配信が行えていたとのことだった。

気になる点

今回テストと現場で使用したところ、少し気になった点があった。

まずは録画データの分割である。今回の現場にて収録時間が1時間10分ほど過ぎると、MP4のクリップが自動的に分割されていたのだ(これはSDHC規格のmicroSDカードの限界なのかもしれないが…)。

編集ソフト上で2つのクリップを繋げてみると、映像はコマ落ちしていないが、音が数フレ分欠落していた。これは仕様なのか設定ミスなのか分からないが、長時間配信を行う際は別途収録機を用意するか音をバックアップで録音することをお勧めする。

後日Cerevoに質問したところ、下記の回答を頂いた。

2022年10月上旬のファームアップデートにてexFAT対応で4G制限を撤廃。それに伴い以下での録画仕様となる。

  • MP4:3時間単位での分割
  • MPEGTS:分割なし

※MP4は、長時間録画において不測の事態で電源が落ちてしまった等でもそこまでの録画を残せるようにあえて分割する仕様。

※分割時の音声不具合についても、同アップデートで解消予定。

また、現状収録SDが32GBという制限(今後アップデート予定)があるので、1つ前の旧型「LiveShell X」同様、容量の軽いH.265も収録可能であればと思うが、こちらは対応予定はないとのことだった。欲を言えばmicroSDカードのフォーマット機能も本体で行えるとなおさらありがたい。

あとは本体がかなり熱を持つので、現場環境にて注意した方が良いだろう。

まとめ

収録面では色々記述したが、配信面では安定した動作を確認できた。配信現場では予測不能のアクシデントはつきもので、事前に事故を防ぐための準備が第一である。その点、最終端である配信部分の不安要素が解消されるのは気持ちの上でも楽だと思う。LiveShell Wは配信業に携わる人にとって、そういった安心材料をくれるデバイスになるだろう。

Cerevo曰く、今後はさらなるアップデートが行われ、2022年秋頃には「LiveShell W専用コントローラーユニット」が発売予定とのこと。LiveShell Wのさらなる進化に、今後も目が離せないだろう。

海老名芳明|プロフィール
アサカヤデジタルポート代表取締役。
企業VPから政治家関係映像、ロケDVD、MV、イベントムービーといった、守備範囲の広い映像制作を担当。2019年より配信スタジオ「アサカヤ要町スタジオ」を運営。トーク番組や音楽ライブ番組、イベントやウェブセミナーといった配信案件の技術協力を担当。趣味はフィルム撮影(スチールから8mm、16mmなど)。

アサカヤ要町スタジオ

協力番組:ニコニコチャンネル「鷲崎健のアコギFUN!クラブ」

執筆協力:霞健人、青井悠馬

WRITER PROFILE

編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。