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長年にわたり、リーズナブルかつ高性能なマイクを数多くリリースし続けている大定番メーカーのRØDE。近年は、小型かつPCやスマホとの連携性も高いワイヤレスシステム「Wireless GO」などデジタル系のアイテムも多い同社の新製品が「RØDECaster Pro II」だ。
同機は、シンプルに言えば「デジタルオーディオミキサー」だが、Webサイトで「オールインワン音響制作スタジオ」と呼称されているように、単なるミキサーを超えた実に様々な機能を備えている。
今回は、RØDECaster Pro IIの仕様・機能をご紹介すると同時に、老舗を含めたライバルも多いこのジャンルにおいて、ミキサー系製品としては比較的「新顔」である同社のこの製品がどんな特徴やアドバンテージを持っているかを含めて検証して行こう。
シンプルさと質実が同居した本体デザイン&仕様
本体パネルは、ストロークの長い6本のフェーダーや素材出し用のパッドといった操作子が存在感を放つ一方、ミキサー系製品としては比較的シンプルな構成になっている。情報や設定の多くは、パネル上部に備えられた5.5インチのタッチモニターに多くが委ねられており、そうした点で非常に「イマドキ」なデバイスと言えるだろう。
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パネル上のボタンやノブ類は、電源を投入するとカラフルに色分けされて自照するものが多い。それぞれかなり高輝度になるので、暗い場所はもちろん、明るい場所においてもそれぞれのボタンやノブをしっかり見分けられ、高い視認性を発揮する。ミキサーは「裏方」的な機材であるが、このカラフルさは配信の画面やイベントのステージ上に見切れる形で設置しても「映える」ものと言えるだろう。
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本体サイズのイメージ用に、14インチのMacBook Proと並べてみた。備えている機能と比較するとコンパクトでありつつ、フェーダーやボタン類は操作しやすいサイズ感や密度がキープされており、両者のバランスはかなり優れていると感じられた。
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電源は、専用のType-C端子からUSB PDでの給電が行える。製品に付属するACアダプターを使うのが原則だが、標準以外のバッテリーやアダプターにも柔軟に対応できる汎用規格などは嬉しい。
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そして電源とは完全に独立した形で、PCとの接続用のUSB Type-C端子が2つ(この意味については後述)、そして録音データの記録などに使えるmicroSDカードスロット、LAN端子などが備えられている。
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オーディオ入力は、XLR・フォンの両方が使えるコンボジャックを4つ装備。信頼感の厚いNEUTRIK社製のコネクタが使われ、かけるべき所にしっかりとコストをかけた造りがうかがえる。すべての入力はマイク・LAN以外に、エレキギターなどの電気楽器を直に接続できるHi-Z仕様となっている。多くの製品では、多数の入力があってもHi-Z仕様は1~2個だけという場合が多いので、全ての端子での対応は嬉しい。また、上部からのぞき込んだ際に認識しやすいよう、逆さ表示の番号も用意するなど「考えられた」製品であることが随所で感じられる。
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出力は、モニタースピーカーへのステレオのほか、内容や音量をそれぞれ変えられるヘッドホン端子を4つ装備。複数の出演者がいたり楽器演奏などを伴う複雑な形態の配信では、最終の出力とは別に状況に応じたモニターをヘッドホンに返すのがとても重要で、単なる小型ミキサーではなく「オールインワン音響制作スタジオ」という名称に説得力を持たせている一番のポイントは、実はこのあたりの仕様の的確さであると感じられる。
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各ヘッドホンの音量は、専用ノブが用意され、さらにLEDで「色分け」されるなど徹底してこだわって「わかりやすく、便利に」設計してある。
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フェーダーの下部にあるミュートとソロのスイッチは、それぞれアイコンだけで表現。「MUTE」「SOLO」等の言葉による記載が一切ないのは好みが分かれるが、予備知識のない初心者でも認識しやすいケースは確実に多いと思われる。
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効果音やジングルなどの音素材を「ポン出し」できる機能を持った機材は多いが、RØDECaster Pro IIでは音楽制作に使われるサンプラーなみの大型パッドを採用し、それが明確に色分けされるなど、配信や収録を主な目的とする製品としては稀有と言えるこだわりを見せている。
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多くの設定や操作をタッチパネルに頼る一方、本体内での音声録音に物理スイッチを用意し、動作状態で明確に色分けしたのは個人的にポイントが高い。位置も、他のボタン類(特に勢いをつけて叩くことも多いパッド)から離すなど、可能な限り「設計でミスをしない」という良心的な哲学が感じられ、複数の候補から製品を選択する際などにアドバンテージの一つになりそうだ。
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マニュアルなしで多機能を操れるタッチディスプレイ&インターフェース
RØDECaster Pro IIの電源を投入すると、数十秒の起動プロセスを経た上で、モニター上で操作可能となる。頻繁に電源を入切する機器ではないので時間の長さは許容範囲内だが、検証時のバージョンではRØDEのロゴが静止して表示されるだけで一瞬フリーズを疑うようなこともあったので、バーやパーセンテージの表示で起動処理中である旨が示されるとベターだと感じられた。
5.5インチのタッチパネルは、高コントラスト・高精細でとても見やすく、設定やメーター類などの認識にも優れている。タッチ操作は、多くの人がiOSやAndroidのスマホに慣れている状況下では「そちらの癖が出て」戸惑う可能性があるが、数十分ほど操作していると十分に慣れることができるはずだ。
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フェーダー上に設けられたボタンでの選択とも連動し、各チャンネルの設定画面に移動できる。本体のパネルや端子はシンプルだが、ここで非常に多くの機能や項目にアクセスすることができ、しかもそれをまるごと保存できるという、デジタル制御の恩恵を大きく受けることができる。
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各チャンネルの設定は、接続する機器の種類に応じたプリセットも用意され、特に同社製マイクは製品名を選ぶだけで最適な設定が呼び出される。とても便利な一方、例えばコンデンサーマイク系のプリセットを選ぶと、確認なしに48Vのファンタム電源が流れる設定となるのは、ミスや経験不足によるトラブルが心配なので確認を出すなどの対策が必要と感じられた。そうした細部の希望はあるものの、ゲインの上げ幅なども大きく、あらゆるマイクや楽器などに対応できるポテンシャルを持っており、「実」の部分でも着実な性能を持った機器であると実感できた。
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各チャンネルおよびマスターの出力には、イコライザーやコンプレッサー、およびリバーブといったエフェクト類を適用でき、タッチパネルを使って直感的な設定が行える。「専用機」は、性能が高くてもダイヤルやカーソル移動による設定が面倒という弱点があったが、ここではパソコン上のプラグインソフトなどと同じ感覚で扱え、編集ソフトなどを使っていればその延長線上で戸惑わずに使うことができるだろう。
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各チャンネルだけでなく、システム全体に関わる部分もタッチ操作で設定可能。これらの大部分は日本語表示にも設定でき、音響機器にある程度接している人であればほとんどマニュアルを読まなくとも大部分の操作を推測しながら設定できると思われる。
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フェーダーには本体の外部入力以外に、USB接続したパソコンの音声といったソースも割り振りが可能で、そうした細かい設定が見やすいGUIで行えるのは大変ありがたい。
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RØDECaster Pro IIは、初心者でも比較的扱いやすい「直感的な」表示や操作が多くの部分で優先されているが、設定をつめると、数値などをきちんと把握したいベテランの要求にも応えられるようになっている。
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パッドを使った音声再生は、素材のアサインや再生形式の設定が特に複雑だが、画面表示とタッチ操作の併用であれば、波形表示も頼りにかなり直感的に行える。機能数だけを見ると、近い仕様でさらに低価格なライバル製品もあるが、本体上の入り組んだ操作もわかりやすいのは、本機の大きなアドバンテージの一つと言えるだろう。
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PCとの連携でさらに利便性アップ!
RØDECaster Pro IIは本体のみでもかなり直感的に多くの機能を使えるが、パソコンと併用するとさらに一つ上の領域の便利さを体感することが可能だ。まず、RØDE製品共通の管理ユーティリティ「RØDE Central」をインストール・起動後、パソコンにRØDECaster Pro IIをUSB接続することで、本体よりもさらに見やすい表示のパソコン画面上で様々な設定を行うことができる。
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パッドへの素材アサインも、RØDE Centralからパソコン内のオーディオファイルを直接転送することができ、操作と素材管理の両面で格段にスピードアップできる。
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また、本体でSDカード内に録音した素材も、RØDE Centralで形式の変換やラウドネスの自動調整を行って書き出すことができ、本体の機能よりさらに幅広い利便性を得ることが可能だ。
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そうした管理のほか、RØDECaster Pro IIはUSB接続で特別なドライバーのインストール等なしにパソコンの「オーディオデバイス」として使うことができる。まず本体のUSB1に接続すると、メインの音声のほか、配信時にZoom等の会議ソフトから「配信に流れない、指示などの音声」を別個に流せるよう、2つのオーディオデバイスとして認識される。
またUSB2の接続は「別のオーディオデバイス」として認識されるので、1台のパソコン内で配信とレコーディングを他のソフトに割り当てることもできるほか、2台の別々のパソコンにつないで役割分担するといった、一般的なオーディオインターフェースでは不可能なセッティングも行える。
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パソコンへの接続時、メイン(USB1)からの入力は、それぞれの端子やパッドからの音出しなどを個別に扱うマルチチャンネルでの使用もできるので、最終的に細かなミックスを行う前提で、パソコン内のDAWと連携させた本格的なレコーディングを行うことも可能だ。
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まとめ
オーディオミキサーは、数々の定番が存在する「枯れた」分野で、特に安定度を重視する配信などの用途では(特にベテランほど)目新しいアイテムの投入に慎重な面がある。その点おいて、RØDECaster Pro IIは初心者の入り口にも向いている一方、細かな部分にまで施された気遣いとアイデアの豊富さは、それらを活かしたシステムやワークフローを構築してみようという気持ちになる魅力も大きい。
構造上、システムのアップデートによる改良や機能追加もかなり期待できるので、小回りのききやすい配信システムのオーディオ周りを考えている方にとって、有力な選択肢の一つになるだろう。
大須賀 淳|プロフィール
映像作家・音楽家 「スタジオねこやなぎ」代表 Adobe Community Evangelist
映像・音楽の制作、テクノロジーの研究・執筆、大学やeラーニング等での講師をしています。近著は「Adobe Premiere Pro超効率活用術」(玄光社)「YouTuberの教科書」(インプレス)ほか。Twitter:@jun_oosuga
WRITER PROFILE
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