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はじめに
数多の現場にて、逃れられない宿命とも言える存在…それは伝送ケーブル。大なり小なりはあれど、生放送の現場においては、カメラ台数の如何によって、無数のケーブルが床を這う状況になりがちである。
本番後の疲労困憊の体に鞭を打ちながら行う撤収作業において、ふと、こう思った諸氏も多いのではないだろうか?「ケーブル、もう巻きたくない…」と。
そんな、悲痛な叫びを解消する…かどうかは分からないが、光明をもたらしてくれそうな機材が、この度発表された。Hollylandの「Mars 4K」である。
Hollylandは2013年頃に設立された、中国・深圳にある電機メーカー。ワイヤレスデータや伝送ソリューション、インターカム製品に特化し、開発から生産、販売をトータルで行なっている。安価で高品質なビデオ伝送システムのMarsシリーズや、無線インターカムのSolidcomシリーズが話題を呼び、近年、一躍有名になった企業である。
そんなHollylandは今年の9月に開催された、国際放送機器展「IBC 2022」にて、新製品の「Mars 4K」を発表した。それまでのMarsシリーズは最大解像度1080P 60fpsが限界だったが、それを上回る、驚異の4K 30fpsまでの伝送を本機では可能にした。
約10万円相当で、ここまでの製品を世に送り出す、Hollyland社には脱帽である。
汎用性の高い構成
Mars 4Kは送受信機がセットになったタイプと、個別になったタイプが発売されていて、4Kマークが赤いのが送信機、青いのが受信機となっている。
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電源供給はDC、USB-C給電、NP-Fバッテリーの3タイプから選択可能(NP-F970バッテリーの場合4-5時間稼働可能)。
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入出力端子はそれぞれHDMIと3G-SDIの2端子が用意されている(4K 30Pの入出力はHDMIのみ。SDI入力のみドロップフレーム(DF)をサポート)。
側面には電源スイッチとジョイスティックボタン、小さなLED画面という構成になっている。本機には技適認証情報が表記されていないが、専用アプリ「HollyView」と接続することで、スマホやタブレットで確認することができる。また、「HollyView」上にてモニタリングすることも可能である。
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側面の電源スイッチをONにすると、小さいLED画面にお馴染みのHollylandのロゴが出てくる。
受信機側のジョイスティックボタンを長押しで、メニュー画面が表示。CH-Scan(チャンネルスキャン)という項目を開くと、選択可能な1~8チャンネルの状況が分かるようになっている(緑色の丸の番号が干渉のないチャンネルで、赤色の番号が干渉する恐れのあるチャンネル)。
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干渉のないチャンネル番号を確認して、最初の画面に戻り、送受信機両方を同じチャンネル番号に指定。メニュー画面の「Setting」項目から「Pairing」を送受信機同時に押し、しばらくするとリンクが完了する。
メーカー発表によると、データーレートは8Mbpsから20Mbpsに対応で、デフォルトは12Mbps。LOS範囲(送受信が可能な直線距離の範囲)は150m(障害物がない場合)とされている。
本当に4K伝送できるのか?
ここまでは機材情報について記してきたが、果たして本当に4K伝送は可能なのか。半信半疑の中、テストを行うことにしてみた。
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HDMI出力設定を4K30Pにしたカメラと送信機を繋ぎ、受信機をATOMOS NINJAVと接続。カメラからの伝送をNINIJA Vにて収録してみた。
Hollyland Mars4K 4K 30P test
ちゃんと4K 30Pの動画が収録されており、ノイズもなく綺麗な画がNINJA Vに送られていた。
48秒あたりに若干のノイズがあるが、これは撮影している1階スペースから2階へ移動した際に発生したものだ。基本室内で同じフロアであれば、多少の壁があっても途切れることなく安定した映像伝送が行えることが判明した。
テストを終えて実践投入…
テストもそこそこに、実践投入をしてみることに。以前の記事でも紹介した、弊社が担当している月1レギュラーの音楽ライブ番組にMars 4Kを持ち込んでみた。
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音楽番組では映像と音の同期(リップシンクや演奏)が重要のため、遅延のある無線伝送を行う際は、音響側で遅延分のディレイをかけたりすることが多い。
しかし、今回は出演者が歌唱せず、演奏に合わせてダンスをするという演出パートがあると聞き、遅延の懸念をひとまず置いておいて、ダンスパートのみをジンバルで撮影してみようと考えた。
「DJI Ronin-SC」にソニー「FX3」を搭載して、送信機をHDMI接続。有観客イベントのため、ある程度の混線があると予想して、受信機は客席後方のオペ卓側ではなく、ジンバルのワーク範囲である、ステージ前付近に設置。そこからSDIケーブルを引いて、後方のスイッチャー側と接続するという形にした。
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Mars 4Kは一度電源を落とすと、ペアリングに時間がかかるため、待機中は送信機本体をUSB-Cにて給電を行い、バッテリーの消耗を防いだ(受信機側はDC電源で給電)。
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リハーサルの際に挙動を一通りテストしてみて、いざ本番。多少の遅延はあれど、番組上違和感なく見ることができた。伝送中に派手なノイズや途切れはなく、高画質な映像がスイッチャー側に送られていた。
ジンバルを使った縦横無尽なカメラワークに喜ぶ視聴者のコメントも見受けられ、視聴者の反応も良かった。
まとめ
Mars 4Kはこの価格帯ではトップに入る無線伝送機材だと思う。少し前までは1080P60fpsでも感嘆の声を上げていたが、予想を遥かに超えた4Kへの領域へと足を進めている。4K60fpsへの対応も時間の問題だろう。
また、HOLLYLANDは伝送型高輝度モニター「Mars M1」を9月下旬に発売。送信機、受信機、モニター機能を1つに統合したワイヤレスモニターで、Mars 4K同様、4K30Pの入出力(HDMI)に対応。本機との組み合わせも、もちろん可能とのことだ。機会があれば「Mars M1」のレビューも行ってみたい。
今回は室内だけの使用に止まったが、「Mars 4K」はもちろん屋外にも対応している。広場でのLOS範囲のテストも行ってみたかったが、諸事情により断念することになった。いつか別の現場にてリベンジをしてみたい。
この先、無線伝送機材は更なる進化を重ねて、完全ワイヤレスの撮影現場というのも夢で無くなるのかもしれない。そんな希望を胸に抱きつつ、今日も明日も、せっせとケーブルを巻いていこうと思う。
海老名芳明|プロフィール
アサカヤデジタルポート代表取締役。
企業VPから政治家関係映像、ロケDVD、MV、イベントムービーといった、守備範囲の広い映像制作を担当。2019年より配信スタジオ「アサカヤ要町スタジオ」を運営。トーク番組や音楽ライブ番組、イベントやウェブセミナーといった配信案件の技術協力を担当。趣味はフィルム撮影(スチールから8mm、16mmなど)。
WRITER PROFILE
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