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はじめに

2023年1月に発表された「MacBook Pro 16 M2 Max」。M1登場時に比べて印象は薄いが、勢いのあるプロダクトであることは確かだ。M系のプロダクトの機能性は素晴らしく、速度/長時間のバッテリー持続力は特筆だ。筆者もM1 Pro 10コアのモデルで満足している。その新しい世代だ。

今回は映像編集の視点で最新のMacBook Pro 16 M2 Maxの評価をしたい。

今回お借りしたのはMacBook Pro 16インチ M2 Max RAM96GB SSD9TB。いわゆる「フルフルのUltimate」だ。約90万円。正直お借りしたものの金額にビビっていた。貸し出しいただいて到着3日ほどは開けずにしまっていたほどだ(立て込んでいたとはいえ、もったいない話だ)。予想ではコア数増加とプロセスルールの進化で20~30%の差とProとMaxの差を総合してM1 Proモデルの2倍高速化か。

検証

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図 比較機材システム表
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正直、MBP2018の掲載は躊躇した。あまりにも性能差がありすぎるからだ。これは、CPU/SoCの差の影響力もあるが近年の傾向にあるGPU依存の差が大きいと思われる。ただ、今も使用されている場面も見かけるので「参考程度」として掲載することにした。

なお、記事中に関しては「MacBook Pro 16 M2 Max 12(8+4)/38/16 RAM96GB」をMBP2023、「MacBook Pro 14 M1 Pro 10(8+2) /14/16 RAM16GB」をMBP2021、「MacBook Pro 13 Intel corei5/iGPU RAM8GB」をMBP2018と記す。

お断り(注意)

あらかじめ断っておくが、掲載内容は編集ソフトウェアの比較ではない。あくまでもM2 Maxの速度の確認だ。

比較のためのレンダリング速度を書いたが、書き出し時の速度だけの優劣の比較は危険だ。目的の結果が同じでも処理が違えば同じクオリティの映像ができるわけではない。平等な比較とはいえない。例えば、H.264の検証においてでも、できるだけそれぞれのソフトのデフォルトの設定を使用している。つまりそれぞれにパラメーターが違うということだ。決してフェアな状態ではない。同じソフトウェアがどのように変わるかを見る。それを心して欲しい。

書き出し内容が書いていないものは基本的にProRes 422での書き出し結果だ。

DaVinci Resolve

DaVinci Resolveは業務用の使用はもとより、制限の少ない無償版の存在が映像初心者にもうけている人気の編集ソフトウェアだ。多機能で高性能なソフトウェアで、筆者も検証の基準/計測によく利用する。

一般的な書き出し

H.264、H.265 10bit、MPEG2、これらの織り交ぜたシーケンスをH.264、H.265 10bit、H.265 4:2:2 10bit、ProRes 422で書き出し、時間を計測した。これらの条件は現在入手しやすいフォーマットを想定したものだ。

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図 DaVinci Resolve書き出し
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考察としては、MBP2021の段階で実時間以下という元々速い速度ではあったので、MBP2021とMBP2023の比較では大きな高速化は見られない。これはメディアエンジンによる高速化と同時に、あるであろう制限によるものがあるのだろう。例えばメディアエンジンの対象ではない(と思われる)、XDCAMで利用されるMPEG2では、メディアエンジンの支援がない代わりに、制限のないスペックにあったより高い高速化が見られる。

ノイズリダクション

負荷の高い処理なのでベンチマークにもよく利用される機能の速度比較。正直、この機能はあまり利用してなかったので、とりあえず最も負荷の高い設定で試した。MBP2021に比べても2倍以上早い。素晴らしい結果だ。

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図 ノイズリダクション
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HDR表示

DaVinci Resolveでは装備されたLiquid Retina XDRの性能を最大に利用できる。DaVinci ResolveのHDR表示はトーンマップを使わず、再現性を優先したタイプ(ネイティブ表示)のようで、1600nitsまでの性能を持ったPro Display XDR(以下:Pro XDR)の性能を良い意味で使い尽くす感じだ。

ver17.4でMBPのLiquid Retina XDRの対応がされており、主流になるであろう1000nitsまでのコンテンツをできるだけ正確に再現する。すでにDaVinci ResolveでHDR作業をされている方は「エディット」ページのジェネレータでグレースケール(&複合クリップ化も)を作り、「カラー」ページで表示と波形を確認してほしい。「自動カラーマネージメント」で設定されたHDRなら1000nitsピークとなっており、波形モニターのカーブと同じ感じ(画面と同じ割合の個所で1000nitsの場所でピーク)になるだろう。スペックの足りないモニターだと画面に表示されるグレースケールが早めにピークし波形のカーブと異なる形になるだろう。

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図 Pro XDR
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サポートコーデック

M系対応の初期のものは、対応していないコーデックのものもあった。これはコーデックを提供していたメーカーのM系への対応が遅れたためと思われるが、それも解決している(作業前に事前に確認してほしい)。

REDベンチ

フルクオリティでREDの素材を再生するテストをした。素材はKOMODOの6K(6144×3240/24P) R3Dを使用した。また書き出しも確認した。

※R3Dに関しては世代があるので収録したカメラの世代によって違いが出る場合もあると思う。

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図 DaVinci Resolve RED書き出し
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MBP2021ではフルクオリティでのコマ落ちなしの再生は難しかった。しかし、MBP2023ではコマ落ちなしの再生が可能だった。これはM2 Maxの処理速度の影響が大きいがRAMの量も関係しているように見える。レンダリングもMBP2021の2倍と素晴らしい結果を出している。もちろんRED Rocketはない。

BRAWの再生

Blackmagic Designの魅力の一つに挙げられるBRAW。この再生パフォーマンスを見てみた。ちなみにこれらの内容はあくまでも検証の内容であり、現実的ではない。あくまでも「参考」としてほしい。

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図 同時再生ストリーム数
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DCI4K/60P/Q5の素材をマルチカムクリップとして再生させた。MBP2021では3ストリームまでだったが、MBP2023では14ストリームで確認したが、これ以上の数はあまりにも現実的ではなかったのでここで止めた。だが、まだまだいけそうだった。

正直言うと検証中、原因不明の不安定な現象に悩まされた。しかし、再生フレームカウントの数がぶれなかったので、再生数が落ちない限りOKとした。

この結果に関していえば、BRAWの素晴らしさはもちろんだが、DaVinci Resolveでの再生に相乗的な要素があると思われる。これは別に行ったPremiereでのBRAWの再生には同様な傾向が見られないからだ。なにか仕組みがあるのだろう。

興味深かったのはMBP2021との差だ。コア数の違いがあるとはいえ、あまりにも差がありすぎた。ふと思いつき、RAMを見ると普段RAMをあまり使用しないDaVinci Resolveが19GBほど使用していた。ストリームの差はメモリの差の要因が大きいのかも知れない。

まとめ

個人的にはDaVinci ResolveユーザーにはMacBook Pro 14/16は強くお勧めだ。高速性はもちろんだが、DaVinci Resolveといえば「色」な訳で、そのためのPro XDRもある。DaVinci Resolveを楽しむには最高だ。これからHDRに取り組み始める方にも最高のリファレンスになるだろう。

Final Cut Pro

Final Cut Proは多くの方が知っている定番のソフトウェアだ。ただし、Final Cut Pro Xを期に大きく方向性を変え、主にYouTuberに好まれるものになった。大きく変わりはしたが、一方で「いろんな人が使える」というコンセプトがぶれていないことも気づかされるソフトウェアだ。

一般的な書き出し

H.264、H.265 10bit、MPEG2、これらの織り交ぜたシーケンスをH.264、H.265 10bit、H.265 4:2:2 10bit、ProRes 422で書き出し、時間を計測した。

※H.265 4:2:2 10bitはMBP2018では対応していなかった。

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図 Final Cut Pro 書き出し
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軒並み想定に近い数値が出ているがDaVinci Resolveが出した数値付近に止まっている。これは先に出たメディアエンジンの「高速化と制限」が見えるところなのだろう。

HDR表示

従来から続く機能だが、搭載されるLiquid Retina XDRによって1600nitsの余裕をもった性能でHDRを綺麗に映し出す。基本性能が高いためトーンマップに頼らず表示していることだろう。

マルチカム編集

ProRes RAWでのマルチカム環境を確認した。これもBRAWの時と同様、あくまでも「検証」の内容であり、現実的ではない。あくまで「参考程度」だ。こちらもマルチカムクリップでの同時再生数を確認した。これも向上は見られたが劇的なものではなかった。

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図 同時再生ストリーム数
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Neat Video

Neat VideoはRAW素材を扱う方が大好きな定番のデノイズプラグインだ。Final Cut Pro用しか用意できなかったが、いろいろな編集ソフトに対応しているものだ。

処理に時間がかかるプラグインだったが近年に、GPU対応、M系への対応などによって、高性能な処理の割には速い速度で処理ができるようになった。これも想定通りのMBP2021の2倍近い速度になっている。

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図 Neat Video
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REDベンチ

Final Cut Proはドライバーを入れることでREDでのR3Dをサポートしている。KOMODO 6K/24PのR3D再生はDaVinci Resolve同様に、MBP2021には難しかったがMBP2023にて「高画質」でもコマ落ちなしで再生できるようになった。レンダリング速度もDaVinci Resolve同様2倍速以上でており、有益だ。

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図 Final Cut ProでのRED
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まとめ

正直なところ、MBP2021に比べて大きな変化は体感では感じられない。これは編集スタイルと、元々軽快な動作をしていたので「感じにくい」という部分があるだろう。もちろん、ベンチ結果を見るとスペックにあった高速化をしている。

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図 エフェクトを多用したシーケンスの書き出し
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Premiere Pro

Premiere ProはFinal Cut Pro 7に入れ替わって放送業務の定番の1つとなった編集ソフトウェアだ。性能的には良い意味で枯れた感があるが、XDCAM HDベースの放送制作業務において定番のポジションとなっている。ここ2~3年は強豪の台頭により、それにあわせるように基本的な性能も向上している。

一般的な書き出し

H.264、H.265 10bit、MPEG2、これらの織り交ぜたシーケンスをH.264、H.265 10bit、ProRes 422で書き出し、時間を計測した。「H.265 4:2:2 10bit」はサポートされていなかった。
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図 Premiere Pro書き出し
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マルチカム編集

Premiere ProはProRes RAW、BRAW(ドライバーが必要)の両方に対応している。今回も試したのはそれぞれDCI4K/60Pのもの。しつこいようだがあくまでも「検証」だ。

MBP2021ではタイムライン上の1ストリームでもフルクオリティでのコマ落ちなしの再生はできなかったが、MBP2023ではそれぞれ2ストリームまで確認できた。ただ、初期に対応したバージョンよりレスポンスが良くなっていることは間違いない。

他の2つの編集ソフトウェアよりそれぞれのストリーム数は劣るが、編集作業中ならフル解像度での表示は(表示するスペース課題もあり)必要ないので実際には問題ないだろう。

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図 Premiere Pro 再生ストリーム数
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REDベンチ

他のソフトウェアと同様にPremiere ProでもRED KOMODOの6K/24Pをフルクオリティでの再生をすることを試みた。が、コマ落ちなしの再生は無理だった。とはいえ、編集中は必ずしもフルクオリティである必要はないため作業には問題ない。レンダリングもまずまずだ。

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図 Premiere ProでのRED
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HDR

実は、私の記憶では、今回取り上げた編集ソフトたちで最も早くHDRへの対応を表明したのがこのPremiere Proだ。

CC 2015の頃だったと思う。最速はDaVinci Resolveと誤解している人がいると思うがこれは違う。むしろDaVinci ResolveのHDR対応は遅く、この3つの中では最下位だ。これはもっともな理由があって、DaVinci Resolveは元々シネマ系の生まれなのでHDRとは縁遠いバックグラウンドがあるためだ。」HDRを必要としていなかったのだ。ただ現在のDaVinci Resolveは最高のHDRツールと言っても過言ではない。

さて、そのPremiere ProのHDRに関してだが、試用期間中に23.2アップデートが出て、やっと他の2つの編集ソフトウェアの基準に機能的に追いついた感がある。実は対応の表明こそ早かったが、今までは機能的には疑問符が付くものばかりで、「暖簾が出てるだけ」の状態感があるものだった(制作できなかったわけではない)。

その上で肝心のMBP2023でのHDRの編集機能は無難にこなしており、Pro XDRの画面で美しいHDRを表示する。

XDCAM HD 4:2:2(MPEG2)

「らしい」検証もした。放送用途によく使われるXDCAM HD 4:2:2だが、同じコーデックなら書き出しに想定通りのMBP2021の2倍近い書き出し速度がでた。一方、AVCHDで使われるようなH.264からは先のメディアエンジンの高速化と同時に起こる制限からか伸び悩みを感じる。とはいってもかなり高速であることは確かだ。

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図 XDCAM
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今や多くの放送映像制作現場でもファイルベースの制作になり、テープデッキも減りXDCAM U(x)ドライブが多く利用されており、その光景にはPremiere Proも一役買っている。ただし、U(x)ドライブは現在(2023年2月20日)、Venturaの正式対応は表明されていない。MBP2023の出荷OSのバージョンはVenturaなので、注意が必要だ。

M1当時に見受けられた傾向

以前M1を評価した当時はまだすべてがM系に移行期間中だった。Premiere Proでも異なる素材のクリップ間のレスポンスの悪さなど、最適化されていないからであろう挙動が見られたが、もうその心配もない。

M1に移行始めの際に一部業務で話題になったのは、M1環境で動作させた際のAAFのサポート停止だ。それも動作確認はとれていないがAAFのサポートも復活した。多くの必要な環境が用意された。

まとめ

主要な活躍の場がXDCAM HD 4:2:2が多いので性能の持て余し感が危惧されたが、ベンチ結果を見るとMBP2023でもその性能を活かせるように思える。業務で使う場合、なかなか機材の更新がなく現在もIntelベースの機器が多いと思われるが、ベンチを見ればその差は明らかなのでM系を検討するのも良い。

モニターの性能

割と軽んじられる要素だが、M1/M2 MacBook Pro 14/16の最大の魅力はLiquid Retina XDRモニターだと思っている。個人的にM1 Pro MacBook Pro 14を買った際の大きな理由の一つである。

その目的は「きれい」だからではなく、「表示する必要性」があるからだ。今後増えてくる、広色域&HDRに対応できるようにするためだ。

参考:ゆるっと解説 MacBook Pro 2021についたLiquid Retina XDRモニターについて(HDRでの視聴を強く推奨)

リファレンスモード

「リファレンスモード」はモニターの動作を直接制御して表示を変えるものだ。それぞれの規格に合わせてプリセットが用意されており(調整も可能)、輝度&トーン、ホワイトポイントを変えて「リファレンス」表示にする。

ちなみに登場した頃にはまだ外部カラープロファイルを受け付けない仕様だったが、macOS12.3から受け付けるようになった。キャリブレーションソリューションを利用されている方は販売元に仕様を確認した方がいい。

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図 リファレンスモード
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AI機能

現代のソフトウェアを語る上で必ずといっていいほど出てくるキーワードは「AI」だ。編集ソフトウェアにも当然のように見られるキーワードだ。M系のSoCにはAI処理向けに「ニューラルエンジン」と呼ばれる機能がある。M2の売りに「ニューラルエンジンの40%高速化」が挙げられている。これらも見ていこう。

実は比較としての計測には悩まされた。観測には「ASITOP」を利用した。ニューラルエンジンの稼働率を表示できるツールだ。

DaVinci Resolve、Premiere ProともにそれぞれのAI基盤があるためか基本的にニューラルエンジンを利用していない。おそらく、すでに学習データを保持しているか、GPU/クラウドベースなのだろう。Final Cut Proは利用しているものの、瞬間的なものなのでなかなかその意義を証明できないものだった。

Premiere Pro

Adobe社では早い段階から「Sensei」と呼ばれるAI技術を導入してきた。ただM1登場以前に確立したもののためか、先の通りニューラルエンジンを使うものではない。

DaVinci Resolve

独自のAI基盤「DaVinci Neural Engine」が用意されているためか、ほぼニューラルエンジンを使用することはなかった。ただし、「SuperScale(超解像)」の機能に関しては動きがあった。正直これは意外だった。ただ、ややこしい現象があり、MBP2021ではニューラルエンジンを使用するが、MBP2023では使用しなかった。

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図 ニューラルエンジンの動作
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結果的にMBP2023が高速な結果を得られたのでいいのだが、おそらくこの辺は「DaVinci Neural Engine」で処理方法がハンドリングされているのだろう。

Final Cut Pro

主に対応した機能に「スマート適合」「オブジェクトトラッキング」がある。Final Cut Proのトラッキングはニューラルエンジンで画像を解析して検出されたオブジェクトを、ガイドとして提案する。

ただ、ほとんどが1秒未満の内容なのでこの間で性能向上を感じるのは難しかった。自社のソフトウェアだけに大きな結果を期待したが、残念ながら印象に残るような結果を得られなかった。

「スマート適合」の結果を見る限りは、MBP2018と比較してニューラルエンジンのある/なしでは差が出ているが、MBP2021とMBP2023では大きな差を検出できなかった。

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図 スマート適合
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考察

映像編集においてニューラルエンジンは、まだ有効な活用法は確立されていないのかも知れない。Final Cut Pro以外は、マルチプラットフォームということもあり特定のハードへの依存を避けたいということもあるかも知れない。

本体の使い勝手

さて、本体周りの機能など、その他の部分を見ていこう。

マルチチャンネルオーディオ出力に対応するHDMIポート

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図 マルチチャンネルオーディオ
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正直、M2 MacBook Proの発表された内容を見るまで知らなかったのだが、本体のHDMIを使ってマルチチャンネルオーディオ出力(仕様書には8チャンネル/24ビットオーディオ 192kHz)ができるのだ(ここは本来なら8K映像と言うべきだろうが、機材がないので確認できなかった)。DaVinci Resolve、Premiere Proで動作を確認した。

ATOMOS NINJA Vで信号を見たところ、実現されている。実はこの機能はMBP2023だけの機能ではない。MBP2021でも確認した。

興味深いこの機能だが、実は活用どころが悩ましい。これは筆者の想像力がないためもあるがあまり思いつかない。簡単なアナログオーディオ変換があればいいが、多くはニッチそうな高額なものだったり2chアウトのみのものだったりするのでその性能を活かせない。

強度

MBP2023は先代(MBP2021)と同じ形状のものだ。スタイリッシュで格好いいのだが、MBP2021の経験的にいうと若干、強度が不安だ。別にMBP2021&2023が脆いと言っているわけではなく、これまでの「クサビ形」といわれていた形状が頑丈だったのだ(それでも歪ませた実績があるが)。

筆者は以前、長期の出張が多く、カバンに大量の荷物を詰め込んでいた。その中にMBPを押し込んで出かけていた。そんな扱い方がクサビ形ではできたが、今のMBP2021&2023の形状ではその勇気はない。同じような使用経験があるのなら気をつけた方がいい。

MagSafe 3

MagSafeは以前にも使用しており「3」も同様にMBP2021でも扱っている。その使用経験から非搭載時は悲しみ、再搭載になった際は喜んでいたのだが、実際使用していた経験からは現在における存在は微妙で、どちらかというとその分のUSB-Cポートが欲しいと思ったのは正直なところ。勝手なものでUSB-Cの方が望ましい。

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図 MagSafe 3
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最近ではUSB-Cハブが充実し、所有している方も多いだろう。それらの多くにはPD供給のできるものも多いだろう。欲しい機能が1つのUSB-Cハブ1つにまとめることができる。それがあるためにMagSafe 3は確かに便利なのだが、どうしても「余計に持っていく」という感覚が出てしまい、印象が良くないのだ。

まとめ

検証中、映像処理がI/Oの速度を上回ったのを感じる場面が多かった。それだけM2 Maxの処理が速いのだ。今回の検証で感じたのは、I/O接続の種類の検討だ。今回のような検証の場合、いつもはUSB-C接続のSSDをメインに利用していた。それで充分だったからだ。500MB/sほどが出るため、一昔前までならCPU/GPUなりが先に音を上げ、ことが足りたからだ。

しかしM系の世代になって状況が変わり、USB3.xでもボトルネックになるようになってきた。検証時も仕方なく内蔵SSDを利用することが多かった。幸いM系のMBPはThunderBolt 3 or 4が使えるので、それらを利用するのが良いだろう。

発熱について

確かにこれまでのM1系に比べてファンはまわる。しかしIntel時代は当たり前のことだし、それに比べても圧倒的に熱問題は軽減されている。

登場してしばらく発熱の話題が出たが、その多くはレビューのための普段行わないような高負荷レンダリングを行ったためじゃないだろうかと思う。ただM1系より発熱の課題があることは確かだ。気温の関係もあるだろう。

移行は必須か?

多くのレビュアーが書いているかと思うがM1世代を利用される方には「必須」ではない(M1 Proでも2倍ほど差があったが…)。しかし、Intel世代を使用の方には強く「お勧め」だ。

速度はもちろんだが、「H.265 4:2:2 10bit」のエンコードのようにM系しかできない機能が今後つく場合が予想される。そうなった場合、「できない」といった選択しかできない場合があるだろう。

今回はRAM96GB、SSD9TBといった構成だったが、必ずしもここまである必要はないと思う。もちろんあるに越したことはないが。ちなみに使用期間中でのRAMの最大使用量は30GBもいかなかった。より良い環境を望まれる方は、検討されたい。

コラム
~チェックして欲しい「HEVC 4:2:2 10bit」~

「H.265 4:2:2 10bit」はM系のモデルとVenturaの組み合わせで使用できる動画形式だ。明確な表記はないが、メディアエンジンを使用するようで、高速にエンコード処理する。

私は映像をストックする場合、これまでProRes LTを使用してきた。これは4:2:2であることと、HDRに対応するためのビット数のためだ。これらの条件を満たし、サイズがコンパクトにできる「H.265 4:2:2 10bit」に切り替える予定だ。画質の評価はそれぞれあると思うが、コストバランスを考えて選択した。皆さんも「H.265 4:2:2 10bit」を一度チェックされてはどうだろうか?

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図 H.265 4:2:2 10bitのデータ量
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WRITER PROFILE

高信行秀

高信行秀

ターミガンデザインズ代表。トレーニングや技術解説、マニュアルなどのドキュメント作成など、テクニカルに関しての裏方を務める。