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Hollylandのワイヤレスインカムシステム

この1~2年、映像業界を中心に話題になっているワイヤレスインカムがHollylandのシステムだ。従来、プロの現場で使用できるデジタルワイヤレスインカムといえば、最低でも100万円オーダーだったのが、HollylandからエントリークラスはMars T1000、アッパーミドル以上はSolidcom M1といった100万円未満のシステムが登場し、私の周りでも導入する業者や個人が増えてきた。かくいう私も、Mars T1000を2021年4月に導入し、主にマルチカメラで撮影する現場でスイッチャーやカメラマン間でコミュニケーションを取るために運用していた。

個人や街のビデオ屋さんクラスだとMars T1000、大規模なシステムを運用できる映像制作会社ならSolidcom M1という棲み分けになるかな…と思っていた矢先、Hollyland自らその勢力図を塗りかえてしまったのが、2022年春に登場したSolidcom C1だ。

Solidcom C1

今回のレビューはその新機種にあたる「Solidcom C1 Pro」に関してなのだが、基本的なスペックは従来のSolidcom C1と共通のため、まずは従来のSolidcom C1についておさらいしていこう。

Solidcom C1は母艦となるインカムステーションを必要としない、ヘッドセット単体で機能するワイヤレスインカムシステム。ヘッドセット本体にバッテリーを入れて、電源をONにし、マイクアームを口元に倒すだけで2~8人の同時通話が可能になる。

また、Solidcom C1はスケーラビリティのあるシステムになっており、親機となるマスターヘッドセット1台に対して、子機(リモートヘッドセット)が1台から7台まで接続が可能で、ヘッドセットのみの運用で最大8人のコミュニケーションが可能。ヘッドセットは単体でも販売されており、最初に4人用セットを購入してから、規模が大きくなってきたらヘッドセットを買い足して6人や8人セットへとスケールアップすることもできる。

さらにSolidcom C1はヘッドセットの運用だけではなく、HUB Baseというステーション機器を組み込むことも可能。クリカムなどの有線インカムシステムとの接続を可能にしたり、コミュニケーショングループを2つに分けることができる。またHUBに繋ぐ専用の有線ヘッドセットとの組み合わせで9人での通話が可能になる。

そして、HUB Baseは3台までカスケード接続が可能であるため、1台のHUBにつき9人通話×3セットで、最大27人通話が可能になるという拡張性を持っている。最少2人~最大27人、加えて既存の有線インカムとの接続も可能というとんでもない拡張性を持っているワイヤレスインカムがSolidcom C1という訳だ。そのため、様々なクラスのユーザーに対応でき、システム規模や予算に合わせた導入が可能になっているのも製品としての特徴だろう。

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Solidcom C1用のHUB Base

Solidcom C1は、1.9GHz帯の電波を使うDECT6.0規格に準拠。これは主にデジタルコードレス電話などに使われている技術で、電波干渉の低減や省電力などが特徴になっている。通信距離は見通しで約1000ft(約350m)を謳っている。

ヘッドセットは片耳式で、交換可能バッテリーを使用。ヘッドセットのヘッドパッド部分にバッテリーを装填する。バッテリー込みでのヘッドセットの重量は170g以下。バッテリーによる稼働時間は、子機が約10時間、親機は接続する子機の数によって稼働時間が増減し、子機5台接続(6人通話)で5時間となっている。

肝心の通話の音質だが、大変にクリアで聞き取りやすい。ノイズが少なく、またマイクの感度が高いため、ささやき声でもしっかりと伝えることができる。

私は、Solidcom C1を2022年の3月から使っているユーザーで、当初は4人セットを使っていたが、2022年6月にリモートヘッドセットを2機追加して6人セットへ拡張。さらに2022年9月頃にHollylandが全世界対象に行ったVIPモデルキャンペーンに当選し、リモートヘッドセットがさらに1台追加され、7人対応できるセットで運用している。

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当ラボのSolidcom C1セット。黄色いのがVIPモデル

ヘッドセットの数を増やす一方で、ミニマムな2人使用の現場にも積極的に持ち出した。とにかく親機と子機を1台ずつ現場に持って行くだけで、コミュニケーションが可能になるのが便利だ。機材バッグの隙間にヘッドセットだけを放り込んでやれば良いし、予備のバッテリーを含めても500gも機材重量が増えないのだから、持っていかない手はない。

この1年ほど、様々な現場に持ち出しているが、音質・飛距離・バッテリー持続時間・運用のしやすさの点から、Mars T1000や私が所有している他のインカムセットを持ち出すことがほとんどなくなった。

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Solidcom C1はこの一年様々な現場で活躍

Solidcom C1 Pro

一通りSolidcom C1のスペックを確認したところで、いよいよSolidcom C1 Proの話だ。従来型C1の性能に加えて、ノイズキャンセル機能が追加されたのが最大の特徴となる。

ENC(Environmental Noise Cancellation)とHollylandが呼ぶ環境ノイズキャンセリング技術を搭載し、雑音・騒音があるような環境でも、クリアに通話音声を伝えることができるようになる。

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Solidcom C1 Pro4人用セット
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Hollylandの製品はいつもアクセサリー類が充実

新ヘッドセットにはデュアルマイクが搭載され、ノイズキャンセル専用のマイクが周辺のノイズを拾って、通話に余計な音を低減してくれる。

ノイズキャンセル機能は、ON/OFFが可能で、マイクヘッド部分にあるスイッチをスライドさせることで切り替えられる。

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ENCのON/OFFスイッチはマイクヘッド部分にある

スイッチが黄色い場合がノイズキャンセル有効である。

またマイクヘッド部分にあるLEDパイロットランプの色でも状態を判別でき、青く光っている時はノイズキャンセル有効、緑の時はノイズキャンセル無効となっている。

マイクの通話のON/OFFにも新しい操作方法が追加された。従来だとマイクアームを頭の方に跳ね上げると通話OFF、口元に降ろすと通話ONというシンプルな仕組みのみだった。Solidcom C1 Proではその方法も引き継ぎながら、新たにTALK/MUTEボタンも搭載。PTT(Push to Talk)機能として働き、ボタンを押している間だけトークや、押す毎にトークのON/OFFが切り替わる。そのため、マイクアームを下ろしたままでも通話を切ることが可能になり、慣れればアームの上げ下げよりも素早くトークのON/OFFが可能になる。

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コンソール中央のグレーのボタンがマイクMUTEボタン。その左下に見える銀色の丸い部分がノイズキャンセル用のセカンダリーマイク

ちなみにマイクを下ろした状態でMUTEボタンによって通話をOFFにし、そのままアームを跳ね上げても、次にアームを下ろした時は通話がONの状態で始められる。

なお、トークのON/OFF状態もマイクヘッド部分にあるLEDランプの色で確認でき、赤く光っているとトークはOFFになっている。

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マイクヘッド部分のLEDランプで状態が確認できる

さらに細かな変更点だが、マイクヘッド部分に風音低減用のFelt Paperが追加され、加えてウレタン風防の厚みが大きくなっている。屋外での使用の場合、ボボボボという風切り音が鬱陶しいという声を従来型Solidcom C1の他のユーザーから聞いたことがあったので、それに対する対策も行われている。これは話者による「吹かれ」も低減されることだと思われるので、屋内利用のユーザーにもメリットありだ。

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マイク風防が大きく厚くなっている。左が従来型Solidcom C1、右がSolidcom C1 Pro

また、ノイズキャンセル機能が追加されたにもかかわらず、バッテリーの持続時間に増減がない。これはバッテリーが大容量化されたわけではなく、Solidcom C1 Proのヘッドセット自体が約20%の省電力化に成功した賜物である。

他にも細かな変更点や改善点があるのだが、従来型Solidcom C1とSolidcom C1 Proの全体的な見た目はほとんど差がなく、違いが目立つのはヘッドバンドのレザーの色ぐらいだろう。

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パッと見た目は従来型と新型の外見の際は小さい
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ヘッドアーム内側のブラウンのレザーがSolidcom C1 Proの目印

そして、先述した従来型Solidcom C1において"他のインカムセットを持ち出すことがほとんどなくなった"と記したが、Solidcom C1使用が100%にならなかった理由が「周りのノイズまでよく拾う」という点だった。マイク感度の良さが災いして、特に音楽系の発表会などは、演奏や再生される音楽がインカムのマイクへ回り込み、従来型Solidcom C1ではコミュニケーションが厳しい時があった。

今回の新型Solidcom C1 Proがどの程度、そうした外来ノイズを低減させてくれるのか、大変に興味があるところだ。

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マスターヘッドセットは赤いプレートが目印

現場での使用感

さて、Solidcom C1 Proを導入した翌日から早速現場に持ち出してみた。

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Solidcom C1 Proのキャリングケース

まずは、比較的静かな会議室での運用シーンだ。従来の Solidcom C1はマイクの感度が高くクリアで、小声で話してもしっかりとコミュニケーションが取れる点が大きな評価ポイントだ。このような性能は、例えば今回の会議室での撮影では大いに役立つ。セミナー系の配信は講師や登壇者、その聴講者、そして我々映像配信業者が同じ部屋に居ることが多い。そのような環境では、例えばスイッチャーからカメラマンなどへの指示は、セミナーの妨害とならないように小声で行う必要がある。ささやき声といって良いほどの小声をSolidcom C1はしっかりと拾い、インカムをしているスタッフと問題なくコミュニケーションを取ることが可能だ。

まずは、そうした従来のSolidcom C1の性能をSolidcom C1 Proは引き継いでいるのかが気になる所だ。結果は、当然問題なし。Solidcom C1 Proは小声での話し声もしっかりとマイクが拾い、コミュニケーション可能だった。

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配信の現場でスイッチャーからの指示などをクリアに伝えられる

一方で、こうした小声での話し声はノイズキャンセラ―機能で消されてしまうのではないか?という心配もあった。消えないまでもキャンセリング機能が悪影響をして、聞き取りづらいものになるのではないか…という不安だ。

そこで今回の会議室での運用では、あえてノイズキャンセル機能を有効にして使ってみた。部屋には、登壇者の声と空調の音のみがしている、どちらかといえば静かな環境だ。

結論は、そうした環境での小声トークでも問題なく声を聞き取ることができた。まずは空調の音が完全にといって良いほど消える。当然、ヘッドセットをしていない片耳から環境音が入ってくるので、無音の世界が広がるわけではないのだが、ヘッドセット側の耳は完全な沈黙といえるほどに静かだ。静かすぎてヘッドセットの電源が入っていないのかと思ったほどで、何度もマイク部分のパイロットランプの点灯を確認した。

インカムのマイクが拾ってしまうであろう登壇者の声はというと、適度に音量が低く抑えられている。Solidcom C1 Proのヘッドセットのメインマイクは指向性が高く、使用者の声をしっかりと捉える一方で、ヘッドセットのコンソール部分に備わっているセカンダリーマイクが周囲の音を拾って、メインマイクが拾っていない外来の音をしっかりと抑制してくれているのだ。

次に大規模な式典配信の現場で使ってみた。全国展開されている学校法人様の卒業式映像配信のお仕事で、各都市の国際会議対応クラスの会場で数百人~二千人の生徒を入れて行っている。私はそのうちの3~4都市の配信ツアースイッチを担当している。式典中は、BGMとしての音楽が流れ、在学中の振り返り映像上映、そして最後に生バンドとアンサンブルによる歌唱が行われる。先ほどの会議室とは打って変わって、大変に賑やかな…インカムにとってはうるさい現場である。

そうした中で、どれほどノイズキャンセルの効果があるのか実践で確認してみた。

私はスイッチャーを担当して、カメラマンは各現地の方になるのだが、いずれでも好評だ。会場のざわめきや演奏されている音楽などは低く抑えられ、トークを妨げられることはない。この現場でも常にノイズキャンセル機能をオンにして使用したが、誰からも一度もノイズキャンセルの影響で声が聞き取りづらい…といった不満は出てこなかった。

それゆえ、反対にヘッドフォンスピーカーに対しての要望は出て来た。こちらの話し声は明瞭なのだが、カメラマン自身の周りの環境がうるさいと聞き取れない…というのだ。

確かにカメラマンはステージ前のスピーカー付近やバンド演奏の近くでカメラを構えていたりと、音源に最も近いポジションにいる。

そのため、どれだけ優秀なノイズキャンセルを施して声を伝送しても、聞き手が騒音・爆音の中にいると、聞き取れないということだ。

こうした聞き手側の聴取環境を改善していくには、オンイヤータイプのクッションよりはオーバーイヤータイプのイヤーマフ。片耳ヘッドセットよりは両耳ヘッドセット。そしてヘッドフォンスピーカーよりは、カナル型のインナーイヤホンとなるだろう。

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オンイヤー用のウレタンとオーバーイヤー用のイヤーマフが付属

Solidcom C1が登場した当初から、イヤホン利用のスタイルはユーザーから声が上がっており、首掛けにした上で自分が使いやすいイヤホンを利用したいという声も方々から伝わってくる。

こうした騒音対策だけでなく、例えばショルダーマウントカメラ(ENGカメラ)を担いだ状態でインカムを利用する場合でも、ヘッドセット式は邪魔になる。Solidcom C1 Proの片耳ヘッドセットでも担ぐカメラ機種によってはヘッドパッド部分がカメラに当たって邪魔になるだろう。そのため、首掛けでのイヤホン仕様は切望されるところだ。

さて話をSolidcom C1 Proの使用感に戻すが、大きな会議場や宴会場などで会場の端と端で使っても全く途切れたり接続が不安定になることはなかった。スペック上は見通し距離で350mであるため屋内施設の同一空間内であれば、圏外になるということはほとんどないだろう。

Solidcom C1シリーズは、母艦となるインカムステーションが不要で、ヘッドセットのみで通信が可能。例えば会場入りして、セッティング開始から機材撤収の最後までインカムが使えるため、スタッフとコミュニケーションを取りながら設営や片付けができる点もメリットが大きい。

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ヘッドセット2つ持ち出すだけで、コミュニケーションが確立できるのは便利

ステーションが必要なタイプだと、たとえ仮設でも何処にステーションを設置するか?電源はもう来ているのか?撤収時も、いつステーションを片付けるか?電源を残してもらえるのか?ということを考えながら使わないといけないが、Solidcom C1シリーズはそういうことを考えなくても良い。

従来のシステムだとインカムを使ったコミュニケーションの確立は設営の中では結構最後になるけれども、Solidcom C1シリーズを使えば真っ先にコミュニケーション環境を立ち上げることができる。

また、ベルトパック式と比べて完全なケーブルレスになるため、カメラマンなどは身動きが取りやすい。例えばカメラを離れたい時にも、ヘッドセットだけを三脚などに引っかけて離れられるので、ベルトパック式のようにベルトパックとヘッドセットと両方外して…帰ってきたらベルトパックを腰に付けて、ヘッドセットを被って…というアクションをしなくても良いのは、考えている以上に快適だったりする。

ヘッドセットの機能自体もシンプルなため、初めて使うスタッフにもほとんど説明要らずなのも、現場をスピーディーに進められるので助かっている。

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Solidcom C1 Proはカメラマンにも好評

まとめ

今回は従来型のSolidcom C1と新型のSolidcom C1 Proの両方をレビューするような形になった。Solidcom C1を使い始めて約1年、Solidcom C1 Proを使い始めて20日ほどだが、今の私の現場では手放せない機材になっている。

Solidcom C1は手軽に買える価格帯のワイヤレスインカムでありながら、音質が大変に良く、システム構築もシンプルで、現場に気軽に持ち出せるのが大変にありがたい。

Solidcom C1 Proはそれに加えてノイズキャンセル機能が搭載されたことにより、さらに使える現場の幅が広がった。2022年までは「環境ノイズ的にSolidcom C1ではこの現場は厳しいな…」と考えていた現場にでも、2023年からはSolidcom C1 Proで対応できそうだ。

今後さらにいろいろな現場で使用して、Solidcom C1 Pro の得手不得手を確認しながら、現場のコミュニケーションシステムの最適化を図っていきたい。

なお、従来型のSolidcom C1と新型のSolidcom C1 Proは接続互換性があるため、既存のSolidcom C1ユーザーもSolidcom C1 Proを買い足すことで、インカムシステムを拡張することができる。

Solidcom C1 Proの親機にSolidcom C1の子機、逆にSolidcom C1の親機にSolidcom C1 Proの子機という組み合わせでも問題ないし、親機を中核にして、Solidcom C1 ProとSolidcom C1の子機間での通話も問題ない。

Solidcom C1 Proは従来型Solidcom C1の登場から1年経たずして発売となったため、つい最近に従来型のSolidcom C1を買ったばかり…というユーザーでも必要に応じてSolidcom C1 Proを買い足すことができる。もちろんノイズキャンセル機能が使えるのはSolidcom C1 Proのヘッドセットのみだが、システムのスケーラビリティはここでも健在だ。

Solidcom C1シリーズの進化と拡張性に引き続き期待したい。

WRITER PROFILE

宏哉

宏哉

のべ100ヶ国の海外ロケを担当。テレビのスポーツ中継から、イベントのネット配信、ドローン空撮など幅広い分野で映像と戯れる。