![Vol.231 「Roland VR-6HD」レビュー。配信エンジニアにも、インハウス担当者にも、ハイブリッドイベント時代のオールインワンAVミキサー登場[OnGoing Re:View]](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2023/04/ongoing_231_VR-60HD_top.jpg)
オンライン配信需要と配信現場の変化
ここ数年、需要が大きく拡大したオンライン配信。最近は、企業のブランディングや製品のプロモーションにも積極的に用いられている。とくに、イベントのオンライン化(もしくはハイブリッド化)は加速の一途をたどり、かつてはプロの専門領域だった配信業務をインハウスの企業担当者が担うケースも増えてきた。
様々なメーカーがオンライン配信向けの機器を展開する中、ビギナー層にも扱いやすいと評判の製品が、映像及び音声をワンストップでミキシングできるオールインワンAVミキサー「Roland VRシリーズ」だ。中でも、2016年登場のRoland VR-4HDは、多種多様な配信現場に広く導入されている。
複数台のカメラスイッチング、PowerPointスライドとのPinP合成、BGMや効果音のミキシングなど、「まるでテレビ番組みたいな表現ができる!」「はじめてでも直感的に操作できる!」というユーザー・エクスペリエンスは、専門機器の扱いに不慣れな企業担当者に大きな感動を与え、日々の配信業務を支えている。
しかし、最初はそれだけで充分だった満足も、慣れるほどに「もっと凝った演出をしたい」という欲が芽生えてくる。そのリクエストに応えるのが、今回紹介する新製品「Roland VR-6HD」だ。
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「使い勝手×多彩な表現」を両立するRoland VR-6HD
VR-4HDのユーザーフレンドリーな操作性はそのままに、機能性が大幅に向上。映像及び音声のスイッチング&ミキシング、ムービーやサウンドファイルのポン出し、配信管理やレコーディング、さらにはPTZカメラの制御まで。オンライン配信の現場に求められる機能を一台にギュッと集約しており、まさに「使い勝手と多彩な表現」を両立する真のオールインワン製品といえる。
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ルーティングの自由度が高まる入出力系統
映像入力は、6系統。すべてのHDMI入力がスケーラー内蔵のため、解像度がまちまちなPCやタブレット、またゲーム機など幅広いフォーマットに対応する。
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音声入力は、6系統のXLR(マイクプリアンプ/ファンタム電源内蔵)に加えて、ステレオRCA入力を1系統装備。また、USB経由のPCの音声もインプット可能、リモートゲストの音声をオーディオソースとして扱うことができる。さらに、Bluetooth接続したモバイル機器の音声をインプットできるのも便利なポイント。
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続いて、アウトプット周り。VR-4HDでは2系統だったHDMI出力が本機では3系統に増えた。これらは、オペレーター用のマルチビューモニターや演者への返しモニター、さらに、会場スクリーンへの映像送出などに活用できる。また、USBストリームに加えてLAN経由のダイレクトストリーミングにも対応している。
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アナログ音声出力は、XLRとRCAがそれステレオで計2系統。内部処理のオーディオバスが3系統用意されているため、用途に応じた個別ミックスを設定して各アウトプットから出力できる。これにより、ハイブリッドイベントの会場PAへの送出も簡単にできるだろう。
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動画と静止画の読み込みに対応
本体前面のSDカード・スロット及びUSB HOST端子から動画(1点)と静止画(16枚)を読み込み、インプットソースとして扱うこともできる。オンラインイベントの開始前の待機画面でカバー画像(蓋画)を表示したり、休憩中にCMムービーを流したり、終了後にアンケートの誘導案内を表示したりと幅広く活用できる。
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静止画はPNGフォーマットのアルファチャンネル(透過)にも対応しているため、画面上のオーバーレイ要素としても使用可能。配信中に「トークテーマをテロップ表示」といったケースにも活用できる。
配信中のファイルレコーディングも可能
ストリーム配信とは別に、後編集やバックアップの目的で「動画ファイルも残したい」というニーズは多い。
これまでのVR-4HDの運用では外部レコーダーを必要としていたが、本機は単体でのファイルレコーディングに対応。ストリーム配信と並行して、SDXCカードに収録できる。これにより、外部レコーダー用のアウトプットを確保する必要がなくなるので、その分を別の用途に回せる。
サンプラー感覚のオーディオプレーヤー
本体パネルには、サウンド再生用の「オーディオプレイヤー」を搭載。6つの物理パッドに各種音声ファイルを割り当てて、音響効果(効果音、BGM、ナレーションなど)をワンボタンでポン出しできる。
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セットアップ画面では、各パッドの音量調整、LEDカラー(複数色から選択)、プレイモード(SE、BGM、SOLO)、ループ設定などの他に、フェードイン/アウトやオフセットタイムも調整できる。この辺りのアプローチは、音楽系の電子機器を数々手がけてきたローランドならでは技術があらわれている。
PTZカメラのリモートコントロールに対応
本機は、LAN経由で接続したPTZカメラの制御にも対応。
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カメラアングルや画角のリモートコントロールはもちろん、(後述する)シーンメモリーやマクロとの連携も可能な上、異なるメーカーのPTZカメラやプロトコルを混在させた制御もできる。
一台のカメラから複数のショットに対応できるフレキシブルなオペレーションは、カメラの設置場所が限定されるカンファレンスや、多数の出演者が登壇するセミナーなどで大いに力を発揮するだろう。
これまでのVRシリーズの常識が覆る?!多彩な映像合成
これまでのVR-4HDは、オールインワン製品ならではの「使い勝手のよさ」が大きな魅力だった。その反面、「凝った演出には不向き」という認識をもっている人は多いだろう(筆者もそのひとり)。
しかし、その後継機となるVR-6HDは、これまでの前提認識を覆すレベルの映像合成ができる。
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映像ソースは、最大5レイヤーまで重ねることが可能。例えば、PowerPointスライドの上にPinPを2つ重ねて、さらにDSKでテロップも合成できる。キー合成は、クロマキーやルーマキーのほか、アルファチャンネルやエクスターナルキーにも対応しており、多様なミキシング演出を本機のみで構成できる。
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ワークフローを効率化する、3つの機能
本機は多機能でありながらも、現場オペレーションのワークフローを効率化する超便利な機能が多数盛り込まれている。
シーンメモリー:画面構成やオーディオ設定状態の保存
マクロ:一連の操作の自動化
シーケンス:一連の動作の簡略化
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「シーンメモリー」は、ミキシングの状態を保存する機能。あらかじめ設定しておけば、本番中にワンボタンで呼び出すことができる。
例えば、オンラインイベントの開演と同時にPowerPointスライドと司会者のカメラ映像を表示(シーン1)、次にゲスト紹介のタイミングで司会者とゲストのスプリット表示に切り替えて(シーン2)、トークの進行を見計らってPowerPointスライドの上にPinPを重ねて表示(シーン3)、といった一連のワークフローの場合、事前にシーン1~3のミキシング状態を保存しておけば、瞬時に呼び出すことができる。
「マクロ」は、連続する一連の操作を自動化できる機能。シーンを繋ぐシームレスな切り替えはもちろん、テロップの出現タイミングやオーディオバランスなどの変化も仕込めるので、時間軸をもったオートメーションを手軽に導入できる。
「シーケンサー」は、一連のオペレーション動作をワンボタンで順送りできる機能。その操作感はまるで「PowerPointのスライド送り」のような感覚。定形的なイベントの現場オペレーションをマニュアル化したり、複数の担当者が持ち回りで対応する場面に最適。
足も使える外部コントローラー
本番中のオペレーションは時に複雑化する。例えば、左手でオーディオバランスを調整をしつつ、右手でカメラスイッチングしている状況下で「ムービーを再生したい」や「マクロを呼び出したい」という時、おすすめなのが足を使った外部コントロール。
別売のフットスイッチやエクスプレッションペダルを接続して、任意の操作を割り当てることができる。
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また、別の活用例として「フットスイッチに全景カメラ(=逃げのソース)を割り当てる」のもおすすめ。本番中、オペレーターがテンパった時(どのショットを選べばよいか迷った時)の対処として、「いざって時の逃げのボタン」を本機から物理的に切り離された位置に用意しておけば、有効なリスクヘッジにもなる。
ハイブリッドイベント時代のリモートゲスト対応
最近は、ネットワーク経由のリモートゲストを交えたオンライン配信が主流になってきた。しかし、その音声周りのルーティングは悩ましい課題のひとつ。本機はその点もしっかりサポートしてくれる。
PCとUSB接続するだけで、テレビ会議ツールの音声をオーディオミキサーに立ち上げることができる。また、その音声を会場PAに送ることも可能。もちろん、会場側の音声を(マイナスワン状態で)リモートゲストに返すこともできる。
悩ましい課題を解決できる本機は、まさに「ハイブリッドイベント時代のAVミキサー」にふさわしい存在といえる。
テザリング回線も使えるダイレクトストリーミング
本機は、映像及び音声のミキシングだけではなく、2ストリームを同時出力できる配信エンコーダを内蔵している。背面パネルのLAN端子にインターネット回線を接続して、各種プラットフォームへのダイレクトストリーミングが可能。
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ネットワーク接続状況をバックグラウンドで常時監視して、ストリーミング・データを自動調整してくれるアダプティブ・ビットレート機能を搭載しているので、回線影響によるトラブル対策も万全。また、セーフティー・ディレイ機能を用いることで、最大60秒間のバッファ時間を設定することもできる、万が一のアクシデントにも対処しやすい設計だ。
さらに、USB端子にスマートフォンを接続すれば、テザリング回線を用いたストリーミングもできるので、いざって時のバックアップ回線に活用できるだろう。
オールインワン製品ならではの恩恵
今回紹介したVR-6HDをはじめとするローランド株式会社のオールインワン製品の魅力は、なにより「これ一台で完結できる」という点にある。
事前準備~リハーサル~本番までのセッティング時間の短縮、オペレーション上のストレス軽減、また、他周辺機器との相性問題の回避など、様々な恩恵を配信現場にもたらしてくれる。
直感的かつユーザーフレンドリーなインターフェースで「使い勝手×多彩な表現」を両立したVR-6HDの登場は、インハウスの企業担当者の配信業務を効果的にサポートしてくれるだろう。
WRITER PROFILE
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