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■RF100-300mm F2.8 L IS USM
- キヤノン公式ストアの販売価格:税込1,504,800円
- 発売日:2023年5月26日
今回はイベント撮影の実践レビューベースとして紹介できる機会に恵まれた。まずはイベント興行主であるCHIMERA GAMESに心からお礼を述べたい。個人的に感じたのは次世代を担う子供たちの創造性を養うにはこれ以上ないコンテンツだと思う。
[2023年5月]巨大アミューズメントパーク「CHIMERA GAMES」とは、スポーツ・カルチャー・音楽が融合した日本最大級の体験型エンターテインメントフェス。スケートボード、BMXといったアーバンスポーツを始めとした様々なカルチャースポーツから、国内ではなかなか見ることのできない、圧倒的なエクストリームスポーツなどのショーパフォーマンスを、観て楽しみ実際に体験することができます。
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驚愕のサンニッパズーム
「EF300mm F2.8L IS II USM」(以下:サンニッパ)がリリースされた2011年から12年の時を経て登場した「RF100-300mm F2.8 L IS USM」。まずはこのレンズの特徴をおさらいしておこう。
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- F2.8通し100-300mm全域高画質
- ボディとレンズの組み合わせで最高8.0段の「協調制御IS」
- 高性能RFエクステンダー対応140-420mm/F4、200-600mm/F5.6
- 大口径蛍石1枚UDレンズ4枚ガラスモールド非球面レンズ採用の豪華光学設計
- 2つのナノUSMによる俊敏かつ正確かつ滑らか(動画対応)なAF
- デュアルピクセルCMOS AFIIの性能を最大限化
- フォーカスブリージング補正に対応
- ズーム操作時のフォーカスずれ制限
- レンズファンクション/フォーカスプリセットボタンを搭載
といった具合で、すでに上記テキストだけで想像にたやすいモンスターレンズである。
そんなキヤノンの最新技術を惜しみなく詰め込んだフラッグシップレンズだが、国内最大規模のアーバンスポーツ+音楽が融合するイベントはEF300mm F2.8L IS II USMの真価を証明するにはうってつけの現場であったので期待してほしい。
それでははやる気持ちを抑えて、恒例の外観から確認しよう。
外観
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赤枠部分に今回初採用となったフォーカスプリセットボタンが配置されていて、新たに増えた切り替えスイッチで5つ目のレンズファンクションとして動作させるか、プリセットモード/リコールモードを切り替えることが可能となっている。
オフィシャルサイトの説明にもある通り、ちょうどカメラをグリップしたまま中指で押しこめる位置設定だ。
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お馴染みファンクションボタンは横位置でも縦位置でもアクセスが容易となるようレンズ外周に4箇所配置、RFの特徴であるコントロールリングも搭載。
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特大口径の前玉すぐ2枚目に大きな蛍石を採用している。斜め上方向からのぞき込むと美しく吸い込まれるようなグラデーションが形成される。
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キヤノンの100-300mmと言えば、EF 100-300mm F4.5-5.6 USMまたはEF100-300mm F5.6 Lといったフィルム時代の便利なズームレンズの存在を知っているコアなユーザーもいるかも知れないが、この焦点距離でF2.8通しのレンズが登場するだなんて誰も想像し得なかっただろう。
こうなってくると、焦点距離を全域カバーしつつ描写性能にも一切の妥協をしないといった思想で24-100mmのF2.8通しレンズが欲しくなるのは筆者だけではない筈だ。
さて、夢に夢を重ねるのはこれぐらいにして、筆者のメイン機であるEOS R3と合わせて大規模なイベントスペースで2日間がっつり撮影を行ってきた。実際の撮影素材を参照しながら、レビューしていこう。
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アーバンスポーツ(CHIMERA GAMES Vol.8)実践レポート
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2日間のイベントのうち初日は生憎の雨だったが2日目は快晴で迎えることができた。
BMXのネクストジェネレーションステージから松浦葵央選手のトリックが図らずとも200mmジャストで青空を背景にとても印象的に撮影することに成功していたので、こちらを冒頭へ持ってきた。
以下、撮影設定は全て写真内にそのまま記載していくので参考にしてほしい。
なんだ200mmでもこれだけ撮影できるなら十分ではないか。そう思った方もおられるかもしれないが、結論から言うとBMXぐらいまでのステージ規模で観覧席ではなくステージ内に入れるオフィシャルカメラマンならRF70-200mmF2.8で十二分だ。
むしろ取り回しの関係で70-200mmであるべきシチュエーションだと断言できる。
通常であれば加えてRF24-70mmF2.8との2カメラ体制、攻めた撮影を行えそうであればRF15-35mmF2.8との併用がほとんどのプロにとっての最善策として選択されるであろう。
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しかしFMXやドリフトの規模感になると話は全く別である。
ステージの規模がまるで異なるばかりか危険性を伴うため、オフィシャルカメラマンであってもステージ内にはおいそれと入ることは叶わない。入れたとしても端へ寄る必要があり位置関係で言えば一般観覧席とほとんど変わらない。
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そんな訳で今回サンニッパズームが大活躍する訳だが、機動性の欠如は撮影高の損失に直結するため全て手持ちでの撮影を行った。
軽量性、扱いやすさ
レンズに付いているストラップフックを使用して、ショルダーストラップで肩から下げて自転車で移動しながら広大なイベントスペースで適宜撮影を行ったが非常に快適な撮影が行えた。
それもそのはず、サンニッパ並みの高画質を実現しつつ3倍のズーム性能に進化しているにも関わらず、240gしか増量していない。むしろ1D X MarkIIIに対してR3の軽量化分でお釣りがきてしまう計算となる。
往年のスポーツ撮影フラッグシップの組み合わせより実質200g近くも軽くなってしまうから驚きだ。
■一眼レフ+EFレンズ時代の重量
ボディ:EOS-1D X Mark III(約1448g)+レンズ:EF300mm F2.8L IS II USM(約2350g)
=約3798g
対する今回の装備では、
■ミラーレス+RFレンズ時代の重量
ボディ:EOS R3(約1022g)+レンズ:RF100-300mm F2.8 L IS USM(約2590g)
=約3612g
このように適宜立ち位置を変え、ゲストの間を抜いたり歓声を上げるゲスト越しのカットを3倍ズーム全域が単焦点クオリティを誇るサンニッパズームで撮影した。
因みにRF24-105mmF4を取り付けた2カメ構成で焦点距離の欠損が生じないようにしている。
AF速度、精度
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広大なFMXのステージにおいて後方から迫って来るバイクを迎え撃つ位置で撮影。こちらは着地までもう僅かのタイミングなので距離も近くなり300mmでフルフィギュア付近まで寄れた。
AFエリアは全域、AFサーボ設定で急に現れる被写体への対応モードで撮影したがAF合焦精度、トラッキング精度と申し分ない。
続いてエクステンダー1.4×を装着して同じ位置からトリックの最高到達点付近での撮影を行った素材をご覧いただこう。
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420mmといった焦点距離もそうだがRFエクステンダーの高精細な描写が印象的だった。そして何よりEFのエクステンダーに比べてAF速度や精度の劣化がほとんど見られない点が印象的であった。
今回はエクステンダー2.0×の使用機会はなかったが、描写が向上しAF性能の劣化もないとなるとそれぞれサンニッパズームと合わせての運用は非常に有効的であると判断できる。
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より広大な敷地に作られたドリフトエリアにて420mmの撮影。EFエクステンダーでは装着時にAF挙動速度が1/5程度に減退してしまうとメーカーからの発表があったが、RFではその心配はなさそうだ。
ズーム操作時のフォーカシング
今回特筆したい点としてフォーカスの引きずれがない(正確には少ない)点を挙げておきたい。
これはムービーレンズとして長回しの撮影を行う際には非常に有効なシネマズーム規格にあたる仕様となるが、スチル撮影においてもズームワーク中に安定的なトラッキングができることを意味する。
以下の素材を見てほしい。
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ご覧のとおり233mmから175mmまで手早くズームを行いフレーミングしながら連射をしているが、確実に被写体をトラッキングし続けているのがわかるかと思う。
静止画、動画ともに極めて高いAF性能
動画モードでも極めて静かで高速かつ滑らかなAFトラッキングを実現している。
流石にテレ側からワイドまで一瞬でズーミングを行うとフォーカスは一瞬迷ってしまうが、120fpsの素材でやっと気になるぐらいなので通常の撮影では問題にはならないだろうし、この辺りはシチュエーションでカメラの設定を見直すことで改善が期待できるだろう。
動画撮影用レンズとしての評価と要望
2日間フルで使用してみて感じた感想を率直に述べるとするならば、これまで筆者が手にしたどんなレンズよりも圧倒的なパフォーマンスを有しているとなる。報道からスポーツ、ポートレートはもちろん舞台から映画やドラマ、MVまでその魅力が光るシーンは多岐に渡るだろう。映像で使用する場合は大口径のNDを各種揃えるのがやや大変なぐらいだろうか。
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またブリージングに関してもただでさえ全域で抑えられている印象だったが最新のブリージング補正にも対応しているため、超望遠レンズ特有の「背景を圧縮しつつ」被写体を浮き出立たせる被写界深度での撮影に加え、映画やドラマにCM、MVの演出にも耐えられるクオリティでのフォーカスワークによる演出も可能となる。
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ミュージシャンKenKenのリハーサルを420mmで撮影
もはや非の打ちどころがなく素晴らしいレンズではあるが、それ故の要望が浮上した。ただでさえ大きなレンズ、2カメラ携行が限界であることを考えると構成上24-100mm F2.8で通しのレンズが必要になる。
今回はRF24-105mm F4を携行したがやはり解像感からボケみの質感、ディテール感などが全体的に見劣りしてしまうのは否めなかった。それであればRF24-70mm F2.8とで70-100mm域は割り切ってしまった方が良いのかもしれない。
特に70-100mmといった領域は日本国内の区営ホールで最後部席から舞台全域を納められるギリギリの「美味しい画角」でもあるため悩ましいところではある。
まとめ
総評として写真、映像両方を考慮し熟考された非常に完成度の高いフラッグシップレンズであると言える。対応レンズラインナップからRF70-200が含まれないために脚光こそ浴びる機会の少なかったRFエクステンダーの描写性能、AF性能を改めて見直す機会となった。
新型エクステンダーのリーク情報なども話題だが、それが本当なら100-300は圧倒的ゲームチェンジャーとして長期に渡りカメラ史に名を残す銘玉となることは確実だろう。
Nick Tsutomu|プロフィール
レストランシェフ引退後、IT系制作会社を経て2022年で個人事業10年目を迎える撮影監督兼カメラマン。ホテル、レストラン、ウエディング、不動産、舞台、イベント、芸能、映画、CMなど多ジャンルにて商業記録問わず小中規模の撮影をメインにスチルからムービー空撮までフレキシブルかつ的確な監修を強みとしている。美容学校写真講師を兼任していた経験やブライダルメイク室との人脈から各ジャンルに適したヘアメイクの斡旋なども行っている。サウナとビールが好き。
WRITER PROFILE
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