キヤノンから、ポケットサイズのVlogカメラが登場する。バッテリーとメモリーカード(microSD)込みで211gの超軽量でありながら1インチセンサーを搭載した、画質重視の小型カメラだ。
自立するスタンドがあり、チルト式のモニター、大きなステレオマイクと、超広角レンズを搭載している。アクションカムと似たスペックとも言えるが、1インチセンサー搭載のカメラとしては、非常に低価格に抑えられており、画質重視の時代にマッチしたカメラと言えるだろう。
ちなみに、1インチを搭載したアクションカムではInsta360 ONE 1インチ版が約7万円だが、この「PowerShot V10」(以下:V10)は6万円弱になると思われる。
10年前に一世を風靡したiVIS miniの再来か?
V10を見た時、2013年に発売されたiVIS miniと、そこからグレードアップされた2014年発売のiVIS mini Xを思い出す方も多いのではないだろうか。前者のiVIS miniは当時のYouTuber御用達のVlogカメラとして一世を風靡した。3万円を切る実売価格もあり、特に若いユーザーに受け入れられた。その後、音楽や自然の環境音まで美しく撮れる超高品質なステレオマイクを搭載したiVIS mini Xが登場したが、高価なカメラとなったため、前身のiVIS miniほどの人気は得られなかったようだ。
今回発売になる「PowerShot V10」は、iVISの冠ではなく、キヤノンのコンパクトデジカメのブランドであるPowerShotとして登場した。
ボディ側面(上面)に配置された2つの大きなマイクは、iVIS mini Xを彷彿とさせ、メーカーのリリースでもノイズリダクション搭載と音の良さが強調されている。詳しく後述するが、マイク音質は確かに素晴らしい。ただ、iVIS mini Xのような高度なマイクセッティング(ステレオ幅が変わるなどの機能)は搭載されておらず、Vlogの録音に特化した仕様になっている。
つまり、筆者の独り言としては、V10は人気を博したiVIS miniの系統のカメラだと言えるだろう。
簡単にVlog撮影 カメラ設定を気にせず、スマホのように簡単に動画が撮れる
さて、実際に使ってみた印象としては、スマホに似た操作だということだ。シャッタースピードとか絞りという概念が前面に出ず、画面にタッチして明るさや色を選んだりするというインターフェースだ。
レンズ自体もボディの広い面に配置され、スマホの自撮り感覚で撮影できる。アクションカムに比べてモニターが十分な広さなので、メニューも非常に見やすいしわかりやすい。
メニュー画面
筆者はサンプル版を使っているので製品版がどうなるか、どんな初期設定で出てくるかは不明だが、初めて電源を入れた時の印象は、普通のデジカメだ。使い込むうちに、ああ、ここもスマホっぽい、こっちもスマホっぽいというように思えてくる。
ただ、スマホ操作とデジカメの操作が混在しているような気もして、難しいとまでは言わないまでも、メニューがスマホに比べると多段階になっており、純粋なスマホユーザーとしては戸惑いがあるかもしれない。
Qメニュー
一方、PRONEWSをご覧になっている皆さんであれば、全く違和感なく、これまでのキヤノンのメニュー構成に準拠しているとわかるだろう。モニター上に「Q」とあるボタンでクイックメニューが出るなど、これまで通りの操作感なので、そこはXA20からのキヤノンのビデオカメラユーザーの筆者は安心して使うことができた。
色見本
一方で、V10にはInstagramのようなカラーフィルターが搭載されている。14種類から選べるのだが、その色付けが非常に魅力的だ。インスタを彷彿とさせるフィルターなのだが、非常にセンスが良く、おしゃれな感じや印象的な感じ、シネマチックなどと多彩だ。
いずれにせよ、カメラ任せで非常に高画質になるカメラだという点は強調しておきたい。アクションカムでは、暗所でノイズが目立つなど苦手な場面があるのだが、V10は人が生活する場所の明るさなら、非常に美しい映像・写真が撮れるカメラだと言える。
撮影機能も充実 自動水平機能が便利だ
アクションカムでは当たり前の機能なのだが、V10には自動水平補正が搭載されている。ミラーレスカメラには搭載されていない機能だ。
これが実に便利で、ミラーレスカメラの失敗撮影の典型とも言える傾いた映像になりにくい。アクションカムのように完全にカメラを横にしても水平が保たれるほどの補正ではなく、数度の傾きを補正する程度であるが、手持ち撮影のVlogだけでなく、車のダッシュボードにちょっと載せて撮影するような場面でも自動的に水平が出るので便利だ。
写真 手ぶれ3種のクロップ
一方、手ぶれ補正は2段階になっており、通常モードと強モードがある。強にするとかなり画角がクロップされるが、元が19mm相当の超広角なので、むしろクロップされた状態の方が標準画角の映像に近いので使いやすかった。
1インチセンサー&DIGIC Xの高画質 3絞り減光のNDフィルター搭載
作例
このクラスのカメラとしては異例とも言えるが、内蔵NDフィルターを搭載している。過剰な高速シャッターや絞り込みによる画質低下が避けられる。これは非常にありがたい機能だ。
一方、暗所でもかなり綺麗でノイズレスだ。FHDではISO6400、4KではISO3200までだがノイズが皆無で非常に上品な映像が暗所でも保たれる。
4K動画でも動作する美肌モードが搭載されているのも特徴だ。ただし、撮影時間が5分となっていて、YouTubeのショートなどの短い動画向けの機能だと言えるだろう。
一方、iVIS miniにはなかったAFが搭載されたのも特筆に値する。人物を自動検出してピント合わせをするし、モニターをタッチしてのトラッキングAFも搭載されている。また、最短撮影距離がなんと5cmまで寄れる。ただし、超広角なのでマクロ倍率は高くない。
スマホと連動することで、YouTubeとFacebookのライブ配信ができる。iVISシリーズからライブ機能は搭載されていたわけだが、V10ではより簡単にライブ中継が可能になった。
1週間使った感想「とにかく手軽で高画質」
1週間ほどサンプル機をお借りして撮影してみた印象だが、アクションカムよりも安く、AFとNDの搭載で高画質だと思った。カラーフィルターの出来も良くて、気分や作風に応じて14種から選べるのも楽しかった。そして暗い室内でも非常にいい画質で撮れたのは驚いた。
屋外ではNDフィルター搭載で高画質を得られやすいが、超広角レンズということもあって、遠景よりも近距離撮影が得意なカメラと言えるだろう。自撮りの美しさは特筆に値する。
一方でスマホとどちらが良いと聞かれた場合に答えに困ったのも事実だ。ただ、自立スタンドが搭載されているし画質がいいので、実際にV10を使ってみると、動画はスマホで撮る気になれなくなる。
ただ、iVISシリーズのようなバッテリー交換式ではないのは残念だ。まあ、モバイルバッテリーで給電すればいいと割り切れる。
さて、もっとも筆者が気になっている音だが、これはとてもいい。ノイズリダクションが搭載されていて、人の声がどんな場面でも非常にクリアになる。もっとも驚いたのは走行中の電車の中でVlog撮影をしたのだが、非常にクリアな声で撮れた。
実はソニーのVLOGCAM ZV-E1と比較したのだが、圧倒的にV10の音が良かった。惜しいのはiVIS mini Xのような音像を変える機能を搭載してほしかった。筆者はいまだにiVIS mini Xを現役で使っているが、それはあらゆる場面で最適な音作りができるからだ。V10の音がいいのは認めるところだが、音で楽しむレベルになっていないのは残念でならない。
あ、もしかしてV10 Xが登場するのだろうか?それも期待したい。