1.33xリアアナモフィックアダプターで味わうリアルなアナモフィックルックの世界
「LAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapter」は2020年、リリースアナウンスがなされた製品。その後世界はコロナ禍となり、実際に供給が始まったのはいつなのか定かではない。
このアダプターはLAOWA 25-100mmシネマズームレンズのオプション品扱いとしてリリースされたものだが、PLマウント→PLマウントの構成のため、原理的には物理的干渉がなければどのレンズにも装着ができることになる。ようやくデリバリーが始まったことを知り、いてもたってもいられず、早速1つ購入してみたわけだ。
アナモフィックについての原理は読者の皆様であれば解説するまでもないかと思うが、フィルムカメラにおいて限られたフィルム面に対して光学的に横軸方向に映像を圧縮して記録し、映写時にまた伸展するよう映写機レンズで引き伸ばすことで1:2.4画角での映写を可能とするための技術として生み出された。
その根底にはカメラボディ、光学系に対して大きな変更を加えることなくレンズの変更のみで実現することができるというメリットがあったわけだが、現代のデジタル化によって本来の意義というのは薄くなっている側面もあるかも知れない。しかし、横方向に圧縮し伸展することによるアナモフィック独特の「絵の質感変化」は一種の「映画らしさ」を見る者に与え、ファンタスティックな試聴体験を与える一助になっていることは明白な事実だ。
アナモフィックを実現する光学系としてのアナモフィックレンズはこれまでは高価な専用レンズしかなく、ごく一部のトップエンドの制作者でなければ使うことは事実上できなかった。それが昨今のミラーレスブームに乗って手の届く程度のリーズナブルなアナモフィック単焦点レンズがいくつかリリースされてきている。
今回のLAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapterは、PL to PLマウントという業界標準のシネマレンズに対してリア側に装着することでアナモフィック光学系を実現するというアイテムだ。普通のシネマレンズがアナモフィックレンズとして使える衝撃と共に、半信半疑な側面も否めない。果たしてどのような描写をするものなのか、いくつかのPLレンズを使用して「勉強」してみたのである。
LAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapterの外観
LAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapterは全体が金属製の強固で、ぱっと見ただけでも精密な作りなのが見て取れる。付属品としてフランジバック調整用のシムが同梱されており、こだわりが感じられる。
アナモフィックエレメントが突出しているので、マウント装着時にエレメント表面をカメラマウント部に当ててしまうと傷になると思われるため、装着には細心の注意が必要だ。また、実際に運用してみて思うことは、このエレメント部にホコリがつくと絵に出てしまう。レンズ交換時にはマウントアダプターは外さず、レンズ自体を交換して運用するのが良いかと思う。
また、LAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapterはハードケースに入って納品され、運搬時や保管時も安心であり、この辺りの心遣いが嬉しい。
ZEISS CP.3 50mm単焦点レンズと組み合わせてみた
まずは標準的な画角のZEISS CP.3 50mm PLマウントレンズとの組み合わせを試してみよう。LAOWA公式として装着できるサードパーティーレンズ一覧がWebサイトを通じて公開されているが、ZEISS Compact Prime PLマウントシリーズは対応レンズとして公表されている。
対応リストにないレンズの場合、LAOWAが提供するクリアランスチェックツールを使用することで、自分自身でテストすることができる。Webサイトからダウンロードできるので、対応可能かどうかのチェックを事前に行っておくことが可能だ。
対応レンズであることが事前にわかっていながらも、一番初めに装着する時は本当に大丈夫か、内部が当たらないかと非常に心配だった。恐る恐る装着してみて、その「対応リスト」がおそらく正確なのだろうという認識にやっと変わった。後玉に傷でもつけた日にはしばらく立ち直れないだろうと思うわけで。
CP.3は35mmフルフレーム対応のレンズではあるが、LAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapterは公式としてはスーパー35センサーに対応と記載されている。よって、実際のところフルフレームモードにすると両サイドにケラレが発生する。
今回のテストではキヤノンCINEMA EOS SYSTEM「EOS R5 C(以下:R5 C)」を主に使用して撮影してみることとした。R5 Cにはアナモフィック・ディスクイーズ表示機能があり、執筆時点ではx1.33とx2の2つのディスクイーズファクターに対応しており、EVF、リアモニター、HDMI出力それぞれにディスクイーズ表示をするかどうかを別々に設定することができる。
筆者は外部モニターを接続して撮影することにしたため、HDMI出力に対してディスクイーズ表示設定を行うこととした。他にもキヤノンであればEOS C500 Mark II、EOS C300 Mark III、EOS C700、EOS C70にも搭載されており、他メーカーであればソニーFX3、FX30、もちろんながらVENICEシリーズにもディスクイーズ機能は搭載されており、パナソニックGH5IIやGH6、S1H、S5などはさらに多種のディスクイーズモードを搭載している。今や数多くのボディでディスクイーズ表示運用が可能となっており、外部レコーダーとしてBlackmagic DesignのVideo Assistなどでもディスクイーズ表示が可能なものもある。いかにアナモフィック撮影への関心が高いかが伺える状況だ。
R5 Cでのスーパー35モード、XF-AVC 24P、Wide-DRでのストレートな映像フッテージをそのままコラージュして繋いだだけの映像サンプルを見てほしい。DaVinci Resolve 18での編集だが、グレーディングは一切行っていないので光学系そのままの特性が強い素材だが、ZEISS CP.3のクリアで素直なルックに対してほのかにアナモフィックルックが乗った描写をしていることが見て取れる。決して誇張された描写ではなく、アナモフィック特有の両サイドのほのかな減光、横に引き伸ばすことによるボケの拡大、独特のボケ感が加わっている。
通常、単焦点アナモフィックレンズは主にフロントアナモという構造をとっており、レンズに対しての入射入口から絵が圧縮されることを意味する。この構造の特徴としては玉ボケ形状も大きく圧縮され引き伸ばしたとしても縦形状になる特徴があり、よりアナモフィック感の強い誇張されたような映像になるが、リアアナモフィックの場合は玉ボケがそのままの形状となることから縦長の玉ボケにはならず、いわゆる「ストリークフレア」という横方向へ伸びる派手なフレアも基本的に発生しにくい特徴があることを知っておくと良い。この特性により、リアアナモフィック構造のレンズではややおとなしい、素直なアナモフィック描写となる。
ここでふと思うことは、それであれば16:9画角で撮影し、後からの編集時に上下に黒帯を入れることと大して変わらないのではないか、という思いが込み上げてくるわけだが、その疑念はいい意味で裏切られることになる。単純に切り取るのではなく、あえてリアアナモフィック光学系を加えて撮影することにより、自然なトンネル効果が映像フッテージに生まれ、独特のボケ感に変化することでアナモフィックルックとも言える効果が感じ取れる。物理的な効果としての絵の質感はグレーディングでは得難いものとして、表現の幅を広げてくれるように感じたのだ。
PLマウントズームレンズと組み合わせる面白さ
アナモフィックレンズは主に単焦点レンズがリリースされているわけだが、マウント形状さえ合えば運用できるリア型アナモフィックアダプターであれば、ズームレンズとも組み合わせることができる。そこで手持ちのZEISS CZ.2 28-80mm、70-200mm、そしてキヤノンの広角端50mmから望遠端1000mmの焦点距離を持つ20倍のズームレンズCN20×50 IAS H/P1(以下、CN 50-1000mm)なども装着可能かどうかを調べてみると、これらズームレンズにはなんと装着することができたのである。
今回の勉強ではせっかくなのでCN 50-1000mm CINE-SERVOズームレンズで技術チャレンジをしてみることにした。
他にリリースされているアナモフィックズームレンズもいくつかあるが、たとえばアンジェニューのアナモフィックズームレンズシリーズはリアアナモフィック構造をとっていることで知られている。とするならば、ZEISS CZシリーズもリアアナモ構造として運用できることになるわけで、このアダプターに大きな可能性を感じ、興奮の中テストへ向かう筆者であった。
今回、個人的にとにかく試してみたかったのが、キヤノンCN 50-1000mmのアナモフィック運用だ。そもそもアナモズームとして50-1000mmというレンズはこの世に存在せず、この組み合わせは唯一無二の存在と言っていい。ワクワクする他ない、という心境だ。
まずは装着してみる。特に問題なくキッティングができてしまった。CN 50-1000mm シネズームレンズはスーパー35イメージサークルのレンズだが、ちゃんとカメラ側にてスーパー35モードにしておけばケラれることなくアナモフィック運用ができることがわかった。サーボズームと超望遠を活かせる被写体ということで伊丹空港近辺でのテスト撮影をしてきたので、映像サンプルとして提示する。
まさにアナモフィックルックを帯びた超望遠映像になっていることに筆者は大きな感動を覚えてしまった。単純な映像からの切り出し、黒帯入れの映像ではなく、リアルなアナモフィックルックを帯びた映像となっている。
LAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapterではフレアについてはおとなしいという話をしたが、超望遠になると少し状況は変わってくるようだ。特にサイドエッジ部に強い光が入射すると比較的大きめの独特の形状のフレアが発生した。これには好き嫌い、作品へのマッチ性はあるものの、こうした独特のキャラクターが見て取れることはレンズ光学系ルックとして面白いではないか。
様々なPLレンズでリア形状さえマッチングすればアナモフィック化が可能なこのLAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapter、その可能性は無限大だ。
グレーディングなしの状態
DaVinci Resolve 18によるカラーグレーディング
DaVinci Resolve 18によるカラーグレーディング
最後に
決して派手なアナモフィックルックではなく、レンズそのものの特性が活かされたアナモフィックルックになるようなイメージなので、ベーシックに使用できることが好印象だった。強いストリークフレアが欲しいシーンなどについてはやはりアナモフィック単焦点レンズを使うなど、どう組み合わせていくかが制作者の腕の見せ所だ。
筆者は手元にあるPLシネマレンズ資産を活かして、より魅力的なアナモフィック映像制作に積極的に取り組んでいくため、LAOWA 1.33x Rear Anamorphic Adapterをもう1つ購入し、2cam体制でアナモフィック撮影ができるようにした。それぐらい楽しいアダプターだという、この熱い思いが伝われば幸いである。
田中誠士|プロフィール
2002年に株式会社フルフィルを創業し、グラフィック関連業務の拡張として2010年ごろより映像業界へ携わる。2023年現在、大阪中央区および東京銀座にてフルフィルスタジオを運営し、年間50作品内外の企業系VP制作を行う。昨今では自らシネマトグラファーとして撮影を行い、プロデュースするスタイルでの作品も多く、医療系分野の外資系企業顧客が多い。
https://fulfillstudio.com