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Appleのデベロッパー向けイベント「WWDC23」が6月に開催された。今年のWWDCでもっとも注目を集めたのが空間コンピューティングのApple Vision Proだったが、他にも多く新製品の発表があった。その中で映像制作に関わるものはMac ProとMac Studioだ。

筆者はここ2年ほどMacBook Proで編集を行っており、デスクトップ型のMacが気になっていたところだった。とは言え現在使っているMacBook Proに大きな不満があるわけでもなく、気になっていたという程度だったのだが、良いタイミングでお話があったので今回はMac Studioのレビューをお届けする。

Mac Studioスペック

今回レビューするのはMac Studioの中でもM2 Ultraを搭載した全部盛りの最上位モデルだ。

  • 24コアCPU、76コアGPU、32コアNeural Engine搭載 Apple M2 Ultra
  • 192GBユニファイドメモリ
  • 8TB SSDストレージ

開封

箱へのこだわりもAppleらしい。梱包材にも一切の手抜きを感じず開封だけでドキドキさせてくれる。

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付属品は電源ケーブルと説明書ととてもシンプル

外観

19.5cm×19.7cm×9.5cmととてもコンパクトだが、重量は3.6kgあり見た目に反してずっしりしている。前面にはThunderbolt 4(最大40Gb/s)×2、SDXCカードスロット(UHS-II)がある。背面にはThunderbolt 4(最大40Gb/s)×4、USB-Aポート(最大5Gb/s)×2、HDMIポート、10Gb Ethernet、3.5mmヘッドフォンジャックがある。

前後合わせて6個のThunderbolt 4のポートは複数のSSDなどのメディアや周辺機器を繋ぐためにありがたい。ThunderboltポートだけでなくUSB Type-Aのポートもある。最近はUSB-Cの出番が多くなったがまだまだ使用する機会が多いType-Aを変換せずに使えるのは嬉しい。普段筆者が使用しているMacBook Proの一番ストレスになっていた部分がクリアされている。

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見えない底面が一番美しいデザインなのもAppleらしい

Appleシリコンの特徴

M2 Ultraチップは現在のAppleシリコンの中では最も処理能力が高い。Appleシリコンの特徴はCPU、GPU、メモリが1枚のコンパクトなチップの中にまとめられている点だ。CPUやGPU、メモリが一体化したことで、情報伝達の距離が短くなり処理速度が速くなる。また発熱も抑えられるらしい。現に2年近くM1 Maxを搭載したMacBook Proを使っているが、今までのPCに比べて熱くなることもなく、ファンも本当に重い処理をする時以外は回らない。

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M2 Ultraチップを搭載したMac Studioのパフォーマンスは如何に?

ベンチマークソフトなどで速度を計測してみた。どの程度の性能かは筆者が普段使用しているM1Maxを搭載したMacBook Pro(2021)と比較をしてみた。まずGeekbench 6を使いCPUとGPUの性能を測定した。

CPUスコア比較

シングルコアはM2 Ultraを積んだMac Studioの方が121%高速、マルチコアの場合184%高速だった。

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GPUスコア比較

GPUのスコアはM2 Ultraを積んだMac Studioの方が182%高速だった。

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本体内蔵SSD速度

内蔵のSSDの速度は映像編集には直接関係ないかもしれないがBlackmagic Disk Speed Testを使って計測してみた。読み込み速度はどちらも5500MB/s前後でほぼ同じだったが、書き込み速度は7252MB/sとMac Studioの方が176%高速だった。

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映像制作においてどのような差が出るか?

ここからが今回の検証の本題だ。CPU、GPU、SSDのスペックを計測しMac Studioのスペックが優れていることがわかったが、実際の映像制作においてどのような差が出るか?DaVinci Resolveを使って検証をしてみた。

DaVinci Resolveを使った8K映像制作で検証

まず編集環境だがDaVinci Resolve Studio 18.5 Public Beta 4を使って編集。編集素材はニコン Z 9で撮影をしたN-RAW 8.3KのクリップをThunderbolt 3接続のM.2 NVMeのSSDに入れ、実際に編集、カラーグレーディング、出力などを行った。

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編集

タイムラインの動作を検証。8K60Pタイムラインでタイムラインにクリップを並べ、何もエフェクトやカラーグレーディングを行わずに再生をしたが、Mac Studio、MacBook Proどちらも60fpsで再生ができた。ノイズリダクションなど重い処理は加えずに、一般的なカラーグレーディング(コントラストや彩度の調整、パワーウィンドウを使った部分補正)でもMac Studio、MacBook Proどちらも60fpsで再生ができた。MacBook ProのM1Maxは一世代前のチップだが、なかなかがんばっている。

パフォーマンスモードをオフに

DaVinci Resolveには使用するPCのスペックに応じて解像度などを自動に調整して表示してくれるパフォーマンスモードがあり、デフォルトでオンになっている。あえてこのパフォーマンスモードをオフにすることで本当の力量がわかる。Mac Studioはパフォーマンスモードをオフにしても60fpsで再生をすることができた。MacBook Proは19fpsだった。もちろんエフェクトやカラーグレーディング処理を加えるとフレームレートは下がるがここまでスムーズだとは思っていなかった。

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Fusionタイトル

少し複雑なFusionタイトルを乗せるとMacBook Proは8.1fpsまで低下し、再生がカクつく。しかしMac Studioはスムーズに60fpsを保っていた。

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ノイズリダクション

DaVinci Resolveの中でも重い処理の代表格「ノイズリダクション」を使って比較をしてみる。一番重い処理を加えてもよいが、実際の編集環境に合わせ筆者がよく使う設定で行った。

ノイズリダクションだけをかけた場合は60fpsで再生ができたが、他の処理を加えた場合は少し落ち57fpsとなった。処理によっては少し落ちるかもしれないが、これは8Kタイムラインでの結果でありMacBook Proでは5fpsほどまで落ちるので十分な性能は有している。

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映像の出力

ノイズリダクション、Fusionタイトルなど処理の重いグレーディングをした2分30秒のタイムラインを8K60Pで出力してみた。コーデックは映像制作の現場でよく使われるH.264、H.265、ProRes 422の3つを試した。結果としてはMac Studioが2倍以上の速さで出力を終えた。M2 Ultraの優秀さがとてもよくわかる。H.264の出力がどちらも極端に時間がかかっているのはH.264の規格が本来4K60Pまでのためかもしれない。

コーデック Mac Studio MacBook Pro
H.264 54:08 1:55:35
H.265 13:22 32:53
ProRes422 13:11 34:50

ファンの音は気になるか?

M1以降のAppleシリコンを搭載したMacは普通に使っている分にはほぼ無音だ。今回のテストで使用したタイムラインは結構重めの処理を施しているので、ファンが全開で回転し処理中はそれなりに音がする。全力でファンが回っている時は後部ファンからは温風が出ており、M2 Ultraがしっかりと働いていることがうかがえる。普段は静かで本体に熱を持たないMacががんばっているのを感じるとちょっと嬉しくなってしまい「がんばれー」という気分になる。

Lightroom Classicで大量の写真を書き出す

筆者はタイムラプスの撮影もするのだが、Lightroom Classicを使って大量の写真を書き出すにはそれなりに時間がかかる。8256×5504Pixの300枚の画像をJPGで書き出し時間を測定した。3倍以上の速度で書き出すことができMac Studioの優秀さがわかった。

  • Mac Studio:1分15秒
  • MacBook Pro:3分56秒
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Apple Studio Display

今回のレビューに際しStudio Displayもお借りしたのだが、実は筆者はStudio Displayを所持しており、昨年の12月からMacBook Proと組み合わせて使用している。せっかくなのでデュアルディスプレイにしてみたがとても良い。Studio Displayのいい点は、普段使用しているMacBook ProのディスプレイやiPhone、iPadと色味が近い点である。

もちろん別途カラーマネージメントディスプレイも使用しているがAppleの色味が見慣れているので違和感なく使えるのがとても良い。今回はせっかくお借りできたのでデュアルディスプレイにしてみたがとても快適だ。最大輝度が600nitsだが、欲を言えば1000nitsの明るさがあればHDR編集をする際嬉しい。Pro Display XDRを買えればいいんですけどね。

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これからの映像制作のスタンダード

MacBook ProとStudio Displayという組み合わせで映像製作をしてきて8K編集もできていたので満足していたのだが、さらに処理能力が速いMac Stadioに触れてみるととても魅力的で、入れ替えではなく追加の導入を検討し始めている。

Windowsでハイスペックな映像制作PCを組むことも可能だ。筆者もそれなりの、むしろ性能的には今使っているMacBook Proより高性能なWindows機を持っているが、正直出番は少ない。それはなぜか?

Macのいい点はAppleのエコシステムにある。特に複数の機器を組み合わせた使い勝手は優秀で、Air DropやiCloudのおかげでシームレスに作業ができる。ちょっとした写真などの素材をAir Dropでかんたんに送受信ができ、思いついた時にiPhoneのメモに書き留めた文章をMacで開く。などちょっとした所でストレスが無い。もちろんWindowsでもやろうと思えばできるが、特に設定もなしにできるAppleのエコシステムはとても優秀だ。

WWDC23ではついにAppleシリコンを搭載したMac Proも発表された。PCI Expressによる拡張が必須の人はMac Proの方が良いが、筆者のようないわゆるビデオグラファースタイルの場合、Mac Studioの方がコンパクトで使い勝手が良いと思う。今までは「いつかはMac Pro」だったがMac Stadioが映像制作のスタンダードになると感じた。

井上卓郎(Happy Dayz Productions)|プロフィール
北アルプスの麓、長野県松本市を拠点に、自然やそこに暮らす人を題材とした映像作品を自然の中にゆっくり溶け込みながら作っている。現在は企業や自治体のプロモーション映像や博物館などのコンテンツを中心に、映像作品を手がけるかたわら、ライフワークとして自然を題材とした作品を制作しています。一応DaVinci Resolve認定トレーナー。
代表作:ゴキゲン山映像「WONDER MOUNTAINS」シリーズ、「くらして歳時記」など

WRITER PROFILE

編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。