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VRシリーズは、「楽器メーカー以外のローランド」を我々に印象づけた、重要なシリーズである。スイッチャーだけでなくミキサーも内蔵することで、映像配信の全てが1台で扱える。このためVRシリーズは、「AV Mixer」と呼ばれている。
今年6月に発売が開始された「VR-400UHD」は、VRシリーズの中で初めて4Kが扱える製品となる。2018年に4K対応スイッチャー「V-600UHD」、2020年にビデオスケーラー「VC-100UHD」が出ているが、それに続く4K製品となる。
シリーズ最上位機種として多彩な機能を搭載するのはもちろんだが、コントロールパネル自体はシンプルだ。それは、従来型のオペレーションとは全く考え方が異なる設計だからである。今回は、VR-400UHDの新オペレーションに注目してみた。
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ユニークなハードウェア
始めに、ハードウェアでのポイントを押さえておこう。映像入力はすべてHDMIで、チャンネル数は4。ただし4入力目は、さらに4つの入力に分かれている。つまり入力4の下には、もう一段4入力のセレクターがぶら下がっているという理解でいいだろう。
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例えば4人の演者が各自持ち込んだ機材から映像を出したい(ただし同時に使うことはない)というケースでは、これまでは前段にV-1HDのような4入力スイッチャーをかませたり、あるいは強引にケーブルの抜き差しで対応していたことだろう。だがVR-400UHDでは、全ての機器を入力に立ち上げた状態でスタンバイしておける。さらに全入力4K対応で、入力フォーマットは自動認識される。映像ソースとしては、ほかにも8枚のスチルストアを内蔵している。
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音声入力は、XLRのマイク入力が4、TRSのマイク入力が2の合計6入力。LINE入力はRCAステレオで2系統。さらに背面のUSB-C端子に接続したパソコンからのループバック再生にも対応する。映像入力のHDMIからは、どれか1系統を選んで使用できる。一方「VR-6HD」に搭載されていたBluetoothからのオーディオ入力機能はない。
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スイッチャーとしては、バックグラウンドに対してレイヤー1、レイヤー2、DSKが載る、合計4レイヤースイッチャーとなっている。レイヤースイッチャーは、上に重なる映像がすべてPinPで乗ると考えればいいだろう。ビデオ編集ソフトの、映像トラックの重なり方のようなイメージである。
映像出力としては、4K HDMIが2系統。従来のようにPGM/PST出力と、2つの出力から別々の合成画面が出力できる、デュアル・モードを備えている。デュアル・モードは、ネットライブ用と現場ステージ用を1台でまかなうといった使い方になる。なぜこのような使い方ができるかという点に関しては、「シーン」という考え方をご紹介したあとのほうがわかりやすいだろう。
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そのほか、本体ディスプレイ画面がそのまま出力できるHDMI出力も備えている。こちらはHD解像度となる。
音声出力は、XLRのステレオペアが1系統、RCAのステレオペアが1系統。それぞれに別のバスの音声を出力できる。モニター用ヘッドホン端子は、背面のみだ。ローランド映像機器の中では、コントロールパネル前面にヘッドホン端子がない機器は珍しい。
ネット配信用としては、Type-Cの4K Streaming端子がある。LAN端子は、ターミナルアプリなどを使ってネットワーク経由で制御するために使用する。VR-120HDやVR-6HDのようなダイレクトストリーミング機能は搭載していない。
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コントロールパネルは、非常にシンプルに見える。ハードウェアスイッチを減らし、2つのタッチパネル式のモニターで多くの情報を表示、コントロールするという作りだ。
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ミキサー部は、マイク入力4系統とマスターにフェーダーを用意。つまみは5つだけと、入力ソース数からすれば少ないが、タッチパネルですべての入出力が一覧できるようになっている。
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スイッチャー部は8つのシーン/バンクボタンがある。これは従来型スイッチャーのクロスポイントボタンではないところに留意してほしい。トランジション部はMIXとWIPEのみで、シンプルだ。テイクボタンはCUTとAUTO、その上にDSKと、お馴染みの配置。その上のLOGOボタンは、今回新しく加わった機能だ。USB-C端子からのストリーミング映像出力に対してのみ、特定のロゴを合成できる。
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右上にはジョイスティック型のポジショナーが付いた。加えてサイズ変更のためのつまみも追加されている。
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すべてがシーンになる
VRシリーズは元々スイッチャーのVシリーズと違い、映像入力のクロスポイントを上下のA/Bバスでトランジションをかけるという作りにはなっていない。今回のVR-400UHDは、一見4入力の上下A/Bバスのように見えるが、実際には8つのボタンが2行になっている。本機にはクロスポイントボタンはなく、シーンの読み出しに使用する。
シーンとは、バックグラウンドとレイヤー1、レイヤー2が合成された状態を指す。必ず合成しなければならないというわけではなく、バックグラウンドだけでレイヤー1と2はOFF、という状態でも1つのシーンとみなす。
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パネル上の8つのボタンで、8つのシーンに切り替えるわけだが、この8つを1セットにまとめたものがバンクだ。このバンクも8つあるので、8×8で64シーンを切り替えることができる。
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例えばシーン1~4は、単純に4入力を割り振っただけのシンプルなシーンにしておき、5~8で3画像合成のシーンを仕込んでおく。こうすれば、シンプルなカメラスイッチングは1~4でこなし、合成画面に行くときは5~8を選ぶというオペレーションになる。
シーンの切替はボタンでもできるし、右画面のサムネイルタッチでも可能だ。画面タッチではカットチェンジ、ボタン操作ではオートトランジションのディゾルブで切り替えるといった使い分けでもいいだろう。
特筆すべきは、合成シーン同士のトランジションも可能になっていることだ。なぜそんなことができるのかといえば、内部にシーン合成エンジンが2系統あり、シーンを交互に出しているからである。
この2系統のシーン合成エンジンを独立して動かせば、2つの異なるシーンを2つの出力から同時に出すことができる。これがデュアル・モードの正体だ。従ってデュアル・モードで動作中は、シーン感の切り替えは「フリーズカット」となる。カット変わりの際に一瞬だけフリーズするが、全然違うセッティングのシーンをガバッと切り替えられるのは、凄いことだ。
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大きく変わったUI
VR-400UHDは、マニュアルオペレーションとは真逆の方向へ振り切った「仕込み型スイッチャー」だと言える。そこでポイントになるのは、いかにシーンが簡単にエディットできるかというところだ。
ユーザーが最もアクセスする機能が、右画面の中央部にある「SCENE EDIT」というメニューだろう。ここでバックグラウンド、レイヤー1、レイヤー2を合成していく。
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バックグラウンドには静止画、レイヤー1と2には映像入力を選択。すべてのレイヤーをONにすると、3つが重なった状態が左側の画面に表示される。ここでSETUPに進むと、レイヤー画面のサイズ、ポジションなどが設定できる。これには複数の方法がある。
一番直感的なのは、左画面を直接タッチしてサイズやポジションを動かす方法だろう。画面上のアイコンが何もない場所を動かすとPinP全体のポジション、虫眼鏡アイコンで中身だけ拡大し、十字矢印を動かすと中の映像のポジションが変更できる。4K入力からHD出力する場合は、いわゆるROI(Region of Interest/拡大切り出し)が簡単にできる。
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もう1つの方法は、コントロールパネル右上にあるジョイスティックとズームノブを使う方法だ。ハードウェアのDVEなどを使った経験がある人は、これが早いだろう。
さらに微調整としては、右側パネルに表示されるそれぞれのパラメータに直接数値を入力する事もできる。レイヤー1と2のサイズをピッタリ同じにしたり、アスペクト比を規定の値に一発変更するなど、目的に応じて使い分けができる。
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DSKとLOGOレイヤーはシーンには含まれないが、UIは似ているのでついでにご紹介しておく。DSKとLOGOはアルファチャンネルにも対応しており、静止画にアルファチャンネルがある場合、マスクに応じてキーイングできる。ポジションやサイズの調整方法は、レイヤーの時と同じだ。キーをOFFにすれば静止画像が上に乗るだけなので、いわゆる「フタ絵」の挿入ができる。
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本格派ミキサーが簡単に
VRシリーズの半分は、ミキサーが占めている。入力数は多いが、すべてがディスプレイ上でコントロールできる。つまみ部分をタッチして上下に動かせば、フェーダーと同じ動作になる。もちろんメインマイクの1~4はホンモノのフェーダーがあるので、瞬時の判断はそちらでやるわけだ。
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リバーブ機能も付いており、音声がドライすぎる場合に便利だ。4ポイントのパラメトリックEQも備わっており、ディスプレイでグラフィカルに設定できる。
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これだけ多くの入力があると、ワンマンオペレーションは難しそうに見えるが、ローランド独自のAUTO MIXINGが助けてくれる。これは音声レベルを自動的に最適値に揃えてくれる機能だ。
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また過去のVRシリーズで好評だったFOLLOW機能も搭載している。Audio Follows Videoは、映像に合わせてオーディオが自動的に追従、Video Follows Audioは反対に、音声が入ってきたのに反応して映像を切り替える機能だ。
ただ本機の場合、映像ソースと連動するのではなく、シーンとの連動となる。例えばAudio Follows Videoでは、シーンごとに「スナップショット」機能でミックスバランスを記憶できるので、司会者のワンショットの時はマイク1だけONであとは絞る、PinPで対談シーンになったら登壇者のマイクを生かすといった設定を覚えさせることができる。
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このように、本番中でもシーンをどんどん成長させていくことで、イベント後半ではほとんどシーンボタンを叩くだけといったオペレーションが可能になる。
ワンマンオペレーションの救世主
イベントの現場はもちろん、ネット配信においても、最近は映像や音声ソースが増え、ホントにこれライブでやるの?といった複雑なオペレーションが求められるようになっている。それはクライアントも視聴者もだんだん目が肥えてきて、ハードルが高くなってきているところもあるようだ。
VRシリーズは元々映像も音声も1台・ワンマンでといったコンセプトだったが、こうした要求の高まりから、次第にワンマンオペレーションが難しくなってきたという現実がある。しかしスイッチャーとミキサーを分けてしまうと、映像と音声が連動して動くFollow機能が使えなくなる、機材搬入が大変になるといったデメリットもあり、実に悩ましいところであった。
だがVR-400UHDでのシーンオペレーションでは、多くの設定をすべてシーンの中に覚え込ませてしまうことで、複雑なオペレーションも再びワンマンでこなせるようになっている。最初は覚えることが多くて大変かも、と思われるかもしれないが、一通り触ってみた感触では、理解が難しい部分はほぼなく、単純な機能の組み合わせであることがわかる。
やはりシーンをいかに育てるかがポイントになるわけだが、そうなるとシーンの場所入れ替えや別バンクへのコピーなど、シーンデータそのものを編集できる機能が欲しくなってくる。シーンコピーはEXITを押しながらシーンを選択することで可能だが、シーン入れ替え機能は未搭載だ。このあたりは今後のアップデートに期待したい。
UIも大幅に変わったが、最初から日本語対応されており、英語メニューと格闘する必要もない。デュアルタッチスクリーンで一度に把握できる情報量が飛躍的に増えたことで、別途PCやiPadなしでも十分オペレーションができる。
今後はこうした仕込み型スイッチャーが、ライブオペレーションを席捲するのかもしれない。
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