2023年のNABにて初出展されたパナソニックのコンパクトスイッチャー「AV-HSW10」。HDベースのスイッチャーだが、製品発表以降の注目度は非常に高く、PRONEWSのようなプロメディアだけでなく、IT・PC系のメディアでも盛んに報じられた。それだけネット配信系機材も市民権を得てきたということだろう。
発売時期は2023年度第3四半期とされていたが、いよいよ発売が迫ってきている。今年8月に開催された九州放送機器展(QBEE)では、動作実機が公開されていた。
パナソニックでは2010年に、コンパクトスイッチャー「AW-HS50」をリリースしている。リモートカメラ「AW-HE50」、カメラコントローラ「AW-RP50」と組み合わせ、イーサネット接続だけでワンマンでフルオペレーションできるシステムとして人気を博した。筆者もネットライブ配信向けスタジオで使ったことがある。
ただAW-HS50は2021年に生産完了しており、長らく後継機が待たれていた。そしてようやく登場したのが、今回ご紹介するAV-HSW10というわけだ。今回は発売に先がけて、動作実機をお借りすることができた。「今」の技術をフル装備して生まれ変わった新コンパクトスイッチャー、AV-HSW10の機能を一足先に体験してみたい。
B5ボディに放送レベルの機能を凝縮
AV-HSW10のポイントは、やはりそのコンパクトさだろう。フットプリントがB5サイズとなっており、場所が取れない会議室やウェビナースタジオ、ホールステージ脇、あるいは仮設配信現場にも楽に設置できる。
ただ小さいからといって機能が少ないわけではなく、だいたい2倍ぐらいのサイズのスイッチャーと同等の機能があると思っていただければいいだろう。
ボタンレイアウトとしては前作のAW-HS50に似ているが、フェーダーがTバータイプとなっており、一般的なスイッチャーオペレーションに近くなった。クロスポイントボタンは幅の広いシリコン製だが、グニャグニャした感じがなく、斜めに押しても確実に「入る」。このスイッチなら納得する人も多いだろう。
入力信号としては、3G-SDI 4系統、HDMI 2系統。ただしプライマリ入力1はSDIとHDMIの排他切り替えになっている。そのほかIP入力として、SRT/NDI|HX入力が2系統、High Bandwidth NDIが2系統となっている。端子としてはLAN端子1つのみだ。リファレンス入力もあるが、全入力にフレームシンクロナイザーが内蔵されているので、外部同期なしでもスイッチングできる。
静止画スチルストアが2系統あり、ビデオ信号からのキャプチャのほか、USBメモリーからの静止画ファイルもロードできる。またバックグラウンドカラー2系統、ブラック、カラーバー、テストパターンも出力できる。クロスポイント数は12。RCAステレオオーディオ入力も1系統ある。
出力としては、3G-SDI2系統、HDMI1系統、IPとしてHigh Bandwidth NDI/SRT/RTMPが2系統のほか、ネット配信用としてUSB Video Class出力が1系統。これにPGM、PVW、AUXバス2系統、マルチビュー、クリーンフィード、キーアウトを割り当てる。
キーヤーが2つあるのでキーバスも2系統あるわけだが、さらにAUXバスまで2系統あるというのはなかなか凄い。さらにこのAUXバスはカットチェンジだけでなく、MIXトランジション切り替えもできる。本線以外にもう2系統演出スイッチングラインが持てるのは、強い。
また入出力がフレキシブルなので、マルチビュー画面もシンプルな4分割から最大16分割まで、10パターンのレイアウトが選択できる。ウィンドウアサインも映像入出力だけでなく、キーソースやクリーンフィード、さらには「時計」もアサインできるなど、多くのソースを一元的に把握できる。
放送用スイッチャーに近い設計
ではコントロールパネルの操作性を見ていこう。クロスポイントはPGM/PVWの2列で、表面的には1~6だが、SHIFT押しで7~12までアクセスできる。バスオペレーションはP/Pタイプだけでなく、A/Bバスタイプにも変更できる。
その上の中サイズのボタンがバス列だ。上段の左から4つがデリゲーション、下段がクロスポイントとなる。上段の右2つは、AUXバスに対する追加出力で、マルチビューのほかPGMとPVWも選択できる。
最上段の小さいボタンのうち、6個のUSERボタンがライブ・オペレーションを強力に支援する。KeyのプレビューやAUXバストランジションのON・OFFなど、すぐに切り替えたい機能をアサインできる。
キーヤーは2系統。クロマ信号有り無しで2系統のルミナンスキー、リニアキー(エクスターナルキー)、クロマキー、フルキーが使える。なおクロマキーが使えるのはKey1のみとなる。
また本機のNDI入力は、αチャンネルにも対応している。PCでテキストグラフィックスを作成し、NDIで本機と接続すれば、フィルとキーの2つがクロスポイントにアサインできる。それをエクスターナルキーで合成すれば、ハイエンドなテロップ合成が可能になる。
【NEW】CG素材が利用しやすい「NDI αチャンネル入力」(説明動画)
フルキーは若干わかりにくいが、これはキー信号が画面全体を埋めるキーで、いわゆる「フタ絵」を表示させるときに便利だ。この間A/Bバスで映像確認ができる。
また各キーでは、フィル信号にバスの映像のほか、マット(カラー)も使える。白文字のテロップに色を付けたりする、アレである。またボーダーやシャドウ、ドロップといったエッジ処理やキーワイプもあり、いわゆる放送用スイッチャーのキーヤーと同じ機能が使える。放送用サブスイッチャーとしても使いやすいだろう。
また2つのキーヤーは、PinPにも切り替えることができる。サイズやアスペクト比が自由に設定できるだけでなく、PinPの設定を相互にコピーできたり、座標軸に対して一発で対称の位置に配置するなど、カッチリした作り込みが求められるコンテンツにも対応できる。
これらはすべて、HD 10ビットで内部処理される。放送用スイッチャーのクオリティをグッと凝縮した機器というのが垣間見える部分である。
ライブオペレーションの質を上げる機能
ここまでご覧いただいたように、本機は少ないボタン数ながら多彩な機能を提供する、マルチファンクション型スイッチャーとなっている。コントロールパネル部にはディスプレイがないので、現在の設定をどう把握するのかがポイントになる。
設定変更はすべてOSDメニューで行なうわけだが、短くMENUボタンを押すことで、スイッチャーステータス画面に切り替えることができる。クロスポイントやユーザーボタンのアサイン、各トランジションタイムなど、通常は設定画面へ行かなければ確認できないところだが、ここで現在の設定を一覧で確認することができる。表示を消すのはMENUボタンの長押しだ。
またライブオペレーションの強力な武器として、ショットメモリー機能がある。これはキーヤーの設定を含めた現在の状態をスナップショットとしてメモリーできる機能だ。最上位にある「SHOT MEM」ボタンを押して、AUXクロスポイント部の12個のボタンいずれかを長押しすると、そこへ記憶できる。呼び出しは「SHOT MEM」を押してAUXクロスポイントボタンを短押しだ。
メモリーにはクロスポイントの選択状態も記憶できるが、呼び出し時に現在のソース選択を壊さないよう、クロスポイント読み出しを無効にする設定もある。またショットメモリーの読み出しもカットチェンジだけでなく、ディゾルブ/トランジションでチェンジすることもできる。PinPのポジションやボーダーカラーは、規定の秒数で滑らかにトランジションする。これを上手く使えば、2DのDVEのようなアクションも作ることができる。
使い込むほどに奥が深まるスイッチャー
AV-HSW10は、コントロールパネルがシンプルなので、一見簡単なネット配信用スイッチャーのように見える。実際簡単に使うこともできるのだが、「AW-HS50」から12年が経過し、「今」の機能を取り混んだ結果、このサイズながら本格的なライブスイッチャーに生まれ変わった。
入力はIPも取り入れ、映像9入力12クロスポイントを実現。カラーバーやテストパターンも内蔵しており、周辺機器の調整にも便利だ。出力はUSBからのライブストリームも含め、全6系統出せる。ショットメモリーも搭載し、複数のセッティング間をトランジションで繋ぐこともできる。
複雑な表現が可能だが、ライブオペレーションではショットメモリーボタンを押すだけといったシンプルなオペレーションにもできるので、ウェビナーで講師が自分で操作する際にも便利だ。キーヤーはエクスターナルキーにも対応するので、外部テロッパーと組み合わせてもいいだろう。
AV-HSW10はオールインワンという方向性ではなく、周辺機器と組み合わせて幅広いシステムが組めるスイッチャーとなっている。インテグレーターにとってはまさに腕の見せ所だろう。
名機AW-HS50の後継機として、次の10年を戦えるスイッチャーだといえる。