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パネル上でカメラ映像を確認できるタッチパネルを搭載

キヤノンは、マルチカメラ運用向けのコントロールシステム「RC-IP1000」(以下、IP1000)を2023年12月中旬に発売する。ハイエンドの映像制作ニーズに対応するコントローラーで、大規模なイベント配信をこれ1台で対応できる仕様を備えている。一足先に実機を体験することができたので試用レポートをお届けしたい。

まずは外見から見ていこう。箱から開けて取り出した第一印象は「RC-IP100(以下、IP100)とはまったく違う」だった。右手側にジョイスティック、左手側にレンズ操作部があることや液晶部分のサイズは変わらないが、カメラ設定やカメラ選択のボタンの追加、タッチフォーカス対応など、明らかに最上位クラスのコントローラーに生まれ変わっている。

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ハイエンドコントローラーのRC-IP1000
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IP1000(左)とIP100(右)の比較

IP100を使っている際に、ズームとレバーを握りながらタッチパネル右下にある「プリセット番号/プリセットグループ」ボタンの操作に戸惑ったことがあったが、IP1000では触りやすい位置に物理ボタンを配置している。パン/チルトSPEEDダイヤルやズームSPEEDダイヤルなどのスピード調整ダイヤルも使いやすい位置に配置されていて、操作性は大幅に向上している。

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手元のポジションにスピード調整のダイヤルを搭載

本機最大の注目は、中央部の7インチタッチパネルで映像が見られるようになったことだ。タッチパネルは映像表示と設定/メニュー表示を切り替えて使うことが可能。従来のリモートカメラオペレーションは、コントローラーと確認用モニターを組み合わせて、カメラの動きや画角を確認しながら操作を行うのが当たり前だった。さらにマルチカメラの場合はマルチビューモニターを用意するか、カメラの台数分だけディスプレイを用意する必要があり、機材の準備や運搬に悩まされてきた。

そんな苦労を経験してきた人なら、誰でも一度は「コントローラーにモニターを付けて欲しい」と思ったことがあるはずだ。そんな夢をついにキヤノンが実現してきた。

7インチの液晶パネルは、十分な明るさもあってモニタリングが可能

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IP1000はタッチパネルの液晶モニターが少し起き上がった角度になっており、明らかにIP100よりも見やすくなっている

本機のもう1つの特徴は、IPからのカメラ映像入力に対応している点だ。対応カメラは「CR-N700」「CR-N500」「CR-N300」「CR-N100」「CR-X300」で、最大200台のリモートカメラを制御可能としている。さらにSDI経由、IP経由のカメラモニタリングも可能で、マルチカメラの場合は、2×2や3×3という具合に必要に応じて最大9台までのカメラ映像を表示できる。

マルチカメラ入力の場合は、本体のカメラ選択ボタンだけでなく、タッチパネルの映像から操作したいカメラを切り替えることも可能。最小の手順でリアルタイムな操作性を実現している。これまでIP映像の確認はコンバーターやモニターを別で用意しなければできなかったが、IP1000のようなデバイスで確認できるのは筆者の知る限り初めてである。

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タッチパネル上に映像入力の表示が可能。一画面表示に加えて、マルチ表示にも対応する。写真は2×2の場合

インターフェースは、リアパネルに12G-SDI入力と出力を搭載する。スルーアウトの出力に対応するので、リモートカメラとスイッチャーの間にIP1000を入れて使用できる。分配器をわざわざ別で用意せずにコントローラー側でスルーアウトを出せるのは素晴らしい。モニター映像は、HDMI出力からも可能。IP映像はSDIまたはHDMI出力できるので、現場で大型モニターで確認するなんてことも実現可能だ。

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左から、DC入力、LAN端子、シリアル端子が5つ、拡張用USB端子、HDMI-OUT端子、SDI-IN端子、SDI-OUT端子、D-SUB 25 pin×2

以下の動画は、最初はSDIで次にIPの映像を表示した様子をまとめてみたものだ。SDI映像は遅延なしで表示が可能で、IP映像はわずかな遅れがある。IP映像は若干慣れが必要かもしれないが、それでもSDIやIP入力を本体で確認できるのは画期的な機能だと言える。

IP1000実践投入レポート

ここからは富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」と富山県をテーマとした映像作品を上映する「とやま映像祭2023」の映像制作業務でのIP1000実践投入レポートをお届けする。主にIP1000とCR-N700を組み合わせてテストを行った。

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「しあわせる。富山」の現場でIP1000を使用した様子

まずは設営時の様子から紹介すると、IP1000はコントローラーとモニターがまとめられているので、スペースの限られた配信卓には最適だと思った。設営時間が限られている中、オペレーター用モニターの設置や分配作業を省けるのは非常にありがたいところだ。

例えば、これまではモニターなどを繋ぐ作業で30分ほどとられていたが、IP1000はコントローラーとネットワークスイッチ、カメラを繋ぐだけなので10分もかからず完了できた。

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「とやま映像祭2023」での現場でIP1000を使用した様子
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「とやま映像祭2023」での現場でCR-N700を使用

LANケーブルを使って電力を供給するPoE+入力対応にも助けられた。姉妹モデルのIP100は未対応なので、これは大きな特徴だ。今回2つの現場では、リモートカメラからコントローラーまですべてをPoEで稼働させることによって、セットアップ時間をさらに短縮させている。電源ケーブルから解放されるメリットは絶大だ。

ちなみに、DCで運用したいという場合はXLRジャック(4ピン)も使用可能(AC-DCアダプターは別売)。PoEは給電パワーを超えて落ちる可能性もあるし、コンセントだって間違って抜けることもある。どちらも稼働させて冗長性を担保する方法もアリだろう。

IP1000のプリセット機能は、名称付きでタッチパネル上に表示されるように改善されたのも嬉しいポイントだ。下の写真を参照してほしいのだが、「1」は「home」でホームポジションに戻る。「4」は「Center」でセンターのポジションに戻る。登壇者の名前を設定しておくといった形で、名称をわかりやすく付けることが可能だ。

これまでのコントローラーはプリセット機能が使えても、プリセット番号だけで何の機能かわからなくなることがよくあった。コントローラーや画面にメモ書き入りのマスキングテープを貼って対処していたが、そんな作業を省けるようになる。

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プリセット機能はタッチパネルだけでなく、タッチパネル下の物理ボタンを使用して実行することも可能だ。このタッチスクリーンと物理ボタンの両方で使い分けられるのも利点だ。

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映像モニタリング中にも物理ボタンのプリセット機能がわかるようマスキングテープでメモ書きをつけて使用した

トレース機能は実際に動きを記録することができる強力な機能だ。ボタンを押すだけで実行可能で、頻繁に使う機能だ。IP100でも使える機能であったが、名前を付けることはできなかった。IP1000ではトレース機能の各設定に名前がつけられるようになっており、利便性がさらに向上している。

テキスト
カメラ操作を記録、再生するトレース機能の設定にも名前がつけられるように改善された
※画像をクリックして拡大

モニタリング状態では、人物を認識してフォーカス枠が表示され、フォーカスコントロールが可能になる。IP100では本体に搭載されている機能だけでは対応できず、リモートカメラコントロールアプリを使わなければAFのコントロールはできなかった。一方、IP1000はタッチパネルで登壇者のAF選択ができたのは非常に便利だった。

最後に今回のテストでは試せなかったので紹介のみになるが、RC-IP1000はタリー端子としてD-SUB 25ピンを2つ搭載する。他社のスイッチャーと接続して、タリー信号を表示、さらにそれをカメラ側に送ることも可能だ。通常はGPI変換ボックスのようなユニットを使って実現するが、RC-IP1000自体がタリーランプ信号を出すためのハブになってくれるのも利点だ。

今回のレビューではまだまだIP1000の機能を使い切っていないものの、そのポテンシャルを感じていただけたのではないかと思う。IP1000の登場によって、IPベースの映像制作やマルチカメラ、タリー対応によるカメラワークが可能になる。今後はテレビ番組の生放送や大規模ライブイベントなどの現場でも活用が増えてきそうだ。

泉悠斗|プロフィール

神成株式会社、AVC事業部 部長。マルチカムでの収録および配信をはじめとする映像制作全般を得意とし、最新の機材を取り入れた映像制作に取り組む。近年では、西日本一の長さを誇る水上スターマインを打ち上げる「福山あしだ川花火大会」の生中継をはじめ、「TOYAMA GAMERSDAY」などのe-Sports映像制作まで幅広く手掛ける。また、高校放送機器展事務局長として、学生の映像制作活動支援を行う。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。