G9PROIIが動画RAWデータ出力に対応
「LUMIX G9PROII」は、写真撮影のフラグシップ機であったG9 PROの後継機として発売。
LUMIXシリーズのマイクロフォーサーズ機では初の像面位相差AFを搭載、5軸8段の手ぶれ補正を搭載、S5IIで初登場のリアルタイムLUTを導入、などスチル機としての着実な進化を遂げた。
一方、動画撮影機能も、冷却性能の問題から撮影時間に制限があるものの、GH6並の機能を備え、長時間の動画撮影でなければ十分に利用できる仕様となっており、もはやなんでも来いなカメラとなっている。
そんな、G9PROIIに2023年12月、新ファームウェアが公開された。なんと、動画RAWデータ出力に対応したとのこと。これは、LUMIXファンとしてはぜひ使ってみたい、ということで機材をお借りして年末年始触ってみた。
動画RAWデータって何?
動画RAWデータは、撮影素子から出力した未現像の映像データをほぼそのまま保存したもので、情報量が豊富なので、撮影後にとても細かく編集ができる。
今回のファームウェア更新では、5.7K、C4K、5.8K、4.4Kの12bit動画RAWデータをカメラから外部出力ができるようになった。
しかし、この動画RAWデータは、カメラ内部では保存ができないため、HDMIを経由して外付けのレコーディング機を接続し記録する必要がある。
G9PROIIから出力される動画RAWデータのフォーマットは、Apple ProRes RAWもしくは、Blackmagic RAWの2種類となっており、それぞれATOMOS社製のNINJAシリーズ、Blackmagic Design社製のVideo Assist 12G HDRシリーズのいずれかに接続することで利用可能。
今回は2023年11月に発売されたATOMOS社の最新フィールド・レコーディング・モニター「NINJA ULTRA」を組み合わせて、ProRes RAWを試してみた。
なお、ProRes RAWは、Apple社製の動画RAWフォーマットであり、編集は同社が発売している「Final Cut Pro X」でのみ行うことができる。
双方のファームウェア更新が必要
G9PROIIでProRes RAWを使用するためには、G9PROIIと、NINJA ULTRAの両方のファームウェアをアップデートする必要がある。
G9PROIIはVer.2.0、NINIJA ULTRAは11.04.00へ更新すると、NINJA ULTRAのInput画面のDeviceに「DC-G9M2」と表示される。
接続してみる
まずは、G9PROIIに、NINJA ULTRAを接続してみる。G9PROIIのアクセサリーシューにアタッチメントをつけて、NINJA ULTRAを設置。
HDMIケーブルで接続したのがこちら。
…頭が…重そう…笑
NINJA ULTRAは本体にLバッテリーを装着して使用。そのため、手持ちしていると少しずつ緩んでしまうことがあり、落下の危険性がある。
また、カメラにある唯一のアクセサリーシューを利用するので、マイクや手持ちのためのハンドルを設置することできず不便である。
長期的に利用をするのであれば、G9PROII用のケージを利用して設置位置の調整や締め付けの強化などの対策をした方が良さそうである。
また、初日の撮影ではトラベル三脚を持って行ったが、安定せず大失敗だった。できるだけしっかりした三脚を利用すると良いだろう。
G9PROIIで、HDMI RAWデータ出力をONにすると、NINJA ULTRAでカメラを認識する。カメラの動画画質を変更するとNINJA ULTRAで各フォーマットで記録することができる。ファームウェアの更新さえ正しく反映されていれば、設定は比較的簡単に行うことができる。
水族館で撮影
まずは、水族館で撮影してみた。筆者は、かねてよりLUMIXシリーズで水族館を撮影してきた。三脚の利用が難しい水族館では、手ぶれ補正が強力なLUMIXシリーズを使用することで、安定した撮影がしやすいからである。
しかし、これまでは像面位相差AF非搭載であったため、広い水槽を泳ぐ魚やクラゲを追いかけながら撮影していると、しばしばピントを外しベストショットを狙えないこともあった。
そのため、筆者はマニュアルフォーカスで撮影することが多い。
そこで、5.7Kで撮影を行い、編集時に4Kサイズにクロップすることで、ベストポジションに切り出したりズームすることができるのではと考えた。
さらにG9PROIIのオートフォーカスを組み合わせることにより、撮影自体に集中することができ、より素晴らしいシーンに恵まれるのでは、と期待した。
撮影は手持ち撮影のみ、C4Kでの撮影を行った。
1つの水槽で、30秒~3分程度に小刻みに撮影している。
写真は、ProRes RAWで撮影したデータをFinal Cut Pro Xで編集した4K動画から切り出した画像である。クラゲの触手や口腕が細部まで撮影されており、ゆらめく姿が綺麗に収められている。
レンズは、LEICA DG VARIO-SUMMILUX 25-50mm / F1.7 ASPH.を使用。
様々な魚が泳ぐ姿がしっかりと撮影できており、気泡の細やかさやヒレの細やかな筋などが表現できている。
水族館の水槽は分厚い特殊なアクリルで作られており、くっきりとした撮影が難しいが、使用したレンズの明るさと、高画質撮影のおかげで縁線が細く繊細に撮影できた。
レンズは、LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.を使用。
景色を撮影
江ノ島水族館の外からの情景と鎌倉にある鶴岡八幡宮にて撮影を行った。特に夕景の撮影では、高画質で撮影したデータは有効だと感じた。
江ノ島の海沿いの夕景がとても綺麗だったので、撮影してみた。三脚は使用せず手持ちのみで撮影。絶妙な空のオレンジ色が鮮やかに表現できていると思う。
C4Kで撮影して、ポストプロダクションした映像からの切り出しである。
レンズは、LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.を使用。
5.7KとC4Kで鶴岡八幡宮で鳩が飛び立つシーンを手持ちで撮影した。飛び立つ瞬間の羽や水飛沫がしっかり捉えられている。特に、編集でホワイトバランスのコントロールを行う際にメリットを感じることができた。また、一部、119.88pで撮影した。一部クロップ拡大して特に見せたい部分をセンターに配置、スローにすることで、ダイナミック感が増し、映像に素晴らしい演出が加わった。
レンズは、LEICA DG VARIO-ELMARIT 35-100mm / F2.8 / POWER O.I.S.を使用。
気になるポイント
さて、これまでの撮影で映像作品のクオリティーアップを十分に楽しむことができた。
しかし、いくつか気になるポイントもあったので、対策も含めて書き出してみた。
ファイルサイズが大きい
ProRes RAWのデータはファイルサイズがとても大きくなる。そのため、大容量のSSDを付属の「マスターキャディー」に装着し、本体に差し込んで使用する。
目安として今回の撮影では、5.7K/60pのPro Res HQでの撮影で500GBのSSDを利用して25分弱の撮影ができた。実際の撮影では、500GBを2つ以上準備するか、1TB以上のSSDを準備する必要があると思った。
※ATOMOS社の製品ページでは、Nextorage AtomX SSD Miniを推奨しており、その場合、500GBまたは、1TBの選択肢しかありません。互換品の使用について今回は詳しくは触れませんが、使用には十分な検証が必要かと思います。
編集機材のマシンパワーが必要
ProRes RAWデータは編集時の負荷が少ないと言われているが、データ量そのものが多いため、それなりのマシンパワーを必要とする。筆者は、Mac Studio(M2 MAX/メモリ32GB)を使用しているが、ノイズリダクション処理以外とレンダリングを除けば、編集に大きな不満を感じることはなかった。
プロキシを利用することにより編集速度を早めることはできるが、プロキシを生成するだけでも相当な時間がかかり、色調整などの細かな作業はオリジナルデータで行う必要がある。そのため、ProRes RAWを取り扱う際には相応のスペックを備えたパソコンを準備する必要がある。
熱停止
今回撮影をした数日間、1度だけ熱によりカメラが停止した。C4K / 119.88pで録画を回し続け、20分ほど経った頃にカメラの方でアラートが発生した。
G9PROIIは、冷却ファンが内蔵されておらず、そのため長回しの動画撮影には向いていないと言われているが、カメラ単体使用時には、普段使いをして停止をしたことはなかったので、高解像度、高フレームレート時にまれに熱停止が発生する可能性があるということなのかもしれない。その後、撮影時間を細かく区切るなど気をつけて撮影するようにしたので、熱停止もなく、スムーズに撮影を続けることができた。
なお、以前NINJA Vを使用していたころは、レコーダーの熱停止に見舞われたことがあったが、今回NINJA ULTRAでは、熱停止するという現象は発生しなかった。
バランスが悪くなる
カメラのアクセサリーシューに直接装着すると頭が高くなり、バランスが悪くなる。できれば、カメラにケージを装着し、しっかりと固定できるようにすると良いと思う。
また、全体的に重量が重くなる。手ぶれ補正に優れたLUMIXといえど、重さでプルプル震える腕では揺れも増えるので、極力しっかりした動画用三脚を利用するか、ハンドルを装着するなどして使用する方が良いだろう。
機材が増える
当たり前のことだが、NINJA ULTRAの分だけ荷物が増える。本体の他に、Lバッテリー(2~3本)、SSD、HDMIケーブルを持ち歩く必要がある。
軽装備での手持ち撮影が多い筆者は普段使いのデイバッグに入れることもしばしばあるが、さすがにNINJA ULTRAは収まらなかった。機動力は少々落ちるが、使用するカメラバッグを変更するなどの必要があるかと思う。
ノイズ除去処理に工夫が必要
ProRes RAWはノイズリダクションがかからない生データであるため、映像のディティールは撮影したまま残る。一方で、暗所ノイズもそのまま保存されるため、撮影方法やポストプロダクションでのノイズ除去処理に工夫が必要になる。
今回、水族館でも暗めのクラゲ水槽や、日が落ちかけているポートレートなどを撮影してみたが、特にノイズの除去処理については、もう少し研究が必要だなと感じた。なお、今回はFinal Cut Pro Xに搭載の「ノイズリダクション」機能をデフォルトのままかけている。
こんな撮影におすすめ
今回試してみて感じたことは、比較的短い記録時間で高画質な撮影を必要とし、そして、撮影後に様々な編集により、さらに品質を追い込むことが有利になるシーンでの利用におすすめできるということである。
例えば、以下のような撮影である。
素敵な景色を撮影する
広大な大地、マジックアワーに染まる情景、豊かな自然など、ため息がでるような景色を高画質で撮影する、といったシチュエーションに良いだろう。
その一瞬を失敗なくしっかりと撮影し、自分が感じたイメージを伝えれるよう、グレーディングなどをしっかり行いたいという方針であれば、ProRes RAWでの撮影はとても有効である。
ポートレート動画撮影
被写体の表情やしぐさをより美しく、カッコよく撮影したい、という場合、もちろんロケーションや作品に沿ったモデルの選定、使用するレンズなども重要だが、撮影後のポストプロダクションも重要である。
そのため、後編集がしやすいProRes RAW撮影であれば、肌の質感や背景とのバランス調整など細かく仕上げることができる。
また、髪のなびいた瞬間、一瞬の表情変化などを綺麗に捉えることで、これまで写真でポートレートを楽しんできた方にもその延長線として新たな作品を生み出すきっかけとなるだろう。
特に、LEICA DG VARIO-SUMMILUX 25-50mm / F1.7 ASPH.との組み合わせはマイクロフォーサーズとは思えない上質なボケ感とProRes RAWによる高解像度での収録が非常に相性が良いと感じた。
ジンバルを別途準備すれば、さらに動きのある素敵なポートレートを作ることができるのではないかと思う。
最後に
G9PROIIのみでも、高画質な4K撮影ができ、V-Logで撮影することにより、ある程度のポストプロダクションが可能。
しかし、素敵な情景を動画RAWで撮影することにより、さらに美しくベストな形に細かく編集・調整ができる体験は、ぜひ写真で普段からRAWで現像をしている方々に使ってみて欲しいと思う。
だるま
ルミトモ管理人。Webシステムやスマホアプリの開発、小規模ライブ配信業務を行うかたわら、写真や動画撮影を楽しむ会を主宰。会員数500名を超え、撮影の楽しさを普及すべく各地で撮影会や交流会を開催している。