タリーライトは、ライブ配信や収録の際に、どのカメラの映像が使われているのか、カメラマンや演者さんらに知らせるためのシステムで、スイッチャーと連動して動作する。演者さん以上に、カメラマンにとっては、いま自分の撮っている画が本線に流れているかを瞬時に確認できるため、カメラを振っていいかの判断をするのに大きく役に立つものだ。

ライブ配信の現場などで利用可能な市販のシステムとして、Blackmagic DesignのATEMスイッチャーとATEM Camera ConverterやATEM Studio Converter、Blackmagic Studio Cameraなどとの組み合わせであったり、ローランドのV-60HDのWi-Fiで接続したスマートフォンをタリーライトとする「スマート・タリー」のようなソリューションも存在するが、スイッチャーやカメラを選ばず、ライブハウスや会議室などの仮設の現場でも使いやすく、安定したシステムはなかなかなかった。

一部では、AliExpressなどで売られている日本国内では電波の帯域的には使用できないタリーを違法に使用している事例も見かけるなど、ニーズは大きいものの、これといった決定打に欠けているのがタリーシステムだ。

CerevoからはFlexTallyというシステムが販売されており、多くのスイッチャーに対応はしているものの、電波の到達性や通信の信頼性に改善の余地があり、大きく改良された後継機「FlexTally Pro」の発売への期待の声が聞かれるなど、安定したタリーシステムの登場は強く望まれていた。

今回紹介するタリーシステムのメーカーであるHollylandからも、ワイヤレスインターカムMars T1000のオプションとしてタリーシステムが提供されているものの、インカムの子機にタリーライトを接続するため、カメラとタリーではなく、スタッフとタリーが紐づいてしまう使いにくさもあった。T1000の親機ごとにスイッチャーとGPIO接続するためのオプションを要し、スイッチャー専用のケーブルが必要になる。1台の親機がサポートする4セットを超えるタリーを使うのも容易ではなく、手軽なものではなかった。

そんな中で登場したHollyland「Wireless Tally System」はタリーシステムの本命といってもよい製品だ。なんといっても、スイッチャーとの接続も容易で、無線ながらタリーライトとの接続性も、レスポンスも良好で、非常に使い勝手のよいものに仕上がっている。実際のライブ配信の現場での検証含めて、レポートをお届けしたい。

親機となる「タリーボックス」と「タリーライト」によるシステム

本製品はカメラごとに用意する「タリーライト」と、それに対する親機となる1台の「タリーボックス」によって構成されるシステムだ。1台のタリーボックスに対して、最大16台のタリーライトが接続できるが、後述するようにGPIO接続の場合は12台までしか実質使用できない。スイッチャーとの接続はタリーボックスが担う。タリーライトはバッテリー駆動で、タリーボックスはACアダプタによって給電される。

タリーボックスの正面にはカラーのディスプレイとメニューを操作するボタンが配置されており、本体のみで必要な設定が可能だ。メニューの構成も迷うことなく明快で、システムの仕組みさえ理解できていれば、容易に設定できるようになっている(GPIO周りの設定が若干ややこしいのだが、理解してしまえば簡単である)。

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2.4GHz帯ながら高い信頼性を実現したLoRaによる通信

本製品は2.4GHz帯を利用した製品であるが、同帯域はワイヤレスマイクやギターワイヤレス、Wi-Fi、スマホのテザリングなど、いまや混雑する帯域ではあるので、不安を覚える読者も多いだろう。筆者も実機をお借りして、実際に現場に投入するまでは不安を感じてはいたのが正直なところだ。

本機は2.4GHz帯を利用しているものの「LoRa(Long Range)」という方式を採用しており、通信に使う帯域幅を狭くして(単位時間あたりに送れるデータ量は少なくなる)、スペクトラム拡散の拡散率を高くすることで、より長距離への伝送を可能にするものだ。LoRaを採用した920MHz帯の日本国内向けの他社製品の例ではあるが、見通せない場所でも数kmの距離で通信できたという検証結果もあり、LoRaの優位性を示している。

本機の場合、2.4GHz帯を使用しているため、920GHz帯に比べると直進性が高く、人体などにより遮蔽されやすいなど、特性は異なるものの、同じ2.4GHz帯を利用する他の通信方式に比べて、安定した通信が期待できる方式となっている。後述するとおり、実際の利用でも極めて安定した接続が可能だった。メーカーの説明によれば、800mの到達性があるとされているが、後述したとおり、直接見通せない環境でも約160mの距離で安定動作するなど、高い信頼性を保っているといっていい。

速いレスポンスと安定した通信、長いバッテリーライフ

同社のワイヤレスインターカムMars T1000のオプションであるタリー機能では、スイッチャー側の切り替えから実際にタリーライトが切り替わるまでに、違和感を覚えるくらいのタイムラグがあったが、本機のレスポンスは速く、正確な測定はできなかったので、あくまで印象ではあるが、ほぼ瞬時に切り替わっているといっていい。最大でも遅延は120ms以内には収まっていたのではないだろうか?

スイッチャーによってはGPIOからのタリーの出力の遅延などがあるケースもあるので、システム次第ではあるものの、ATEM SDI Extreme ISOでの有線LAN接続やATEM Television Studio HDとGPI and Tally Interfaceでの利用例では違和感はなかった。

気になる通信距離についても、実際に筆者が弘前市民会館大ホール(客席1343席、客席奥行約35m)とZepp DiverCity(TOKYO)(スタンディング2473人、客席奥行約29m)でのライブ配信現場で利用した際には、客席最後部にスイッチャーと本機の親機であるタリーボックスを設置して、舞台面のカメラなどに装着したタリーも問題なく利用できた。タリーライトを最前列付近のドアから廊下に出してテストしたが通信は安定していた。

いずれの会場でも親機を高い場所に置くなどはせず、普通の長机に置いていたが、オールスタンディングのZepp DiverCityでも問題はなかった。

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今回実際に利用した弘前市民会館大ホール

2.4GHz帯は電波の直進性が高いため、野外フェスの会場など何もないひらけた屋外では、途中に遮蔽物があると通信できないことも多い。屋内であれば、天井や壁面に反射した電波によって通信できるが、周囲に建物もなければ、そうした期待もできないからだ。そうしたひらけた場所でのテストは今回はできなかったが、建物の密集するエリアとそれに隣接する広場のある都市部の屋外でもテストを実施してみた。

親機であるタリーボックスは広場からやや離れた建物の窓に面した屋内に設置し、タリーライトを外に持ち出してテストを行った。電波の到達性はタリーライトの切り替え(ON/OFF)がないと検証できず、切り替えたという情報の受信漏れがないかを確認するにはいつタリーが切り替わったかがわかる必要があるので、タリーボックスのGPIO端子にスイッチャーの代わりに検証用の機器を接続して、0.5秒ごとにタリーが切り替わるようにして実施した。

結果としては、親機を設置した窓の反対側で建物も直視できないが、周囲にビルが多い場所で直線距離で約60m、親機のある窓側で付近の建物1棟による反射波が期待できるが、親機とタリーライトは別の建物に遮られて直接は見通せない広場からでも直線距離で約160m程度の距離で安定してタリーの切り替えが受信できたのは驚きだ。これだけ到達するのであれば、アリーナクラスの会場であっても問題なく使えそうだ。

バッテリーは、最近多くの現場で使われているヘッドセット型ワイヤレスインターカムである、同社のHollyland Solidcom C1、C1 Proと同じで、午前中入りの音楽ライブ(本編約2時間)のリハーサル~本番までバッテリーの交換は不要だった。夜の撤収時にチェックしても、バッテリー残量表示LEDは4つのうち3つが点灯した状態で、バッテリーの持ち時間にまったく不安はなかった。

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バッテリーはHollyland Solidcom C1、C1 Proと共通
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スイッチャーとの接続は有線LANないしGPIO

気になるスイッチャーとの接続方法であるが、Blackmagic DesignのATEMシリーズの一部対応機種やvMixの場合は有線LANでのIP接続、他のスイッチャーの場合はDB25(D-Sub 25ピン)端子を利用したGPIOとなる。

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有線LAN接続の場合は「Tally IN」に、GPIO接続時は「Tally」に接続する

今回お借りした評価機では、ATEM SDI Extreme ISOでは有線LAN接続で問題なく利用できたが、ATEM Television Studio HDでは利用できなかった。有線LAN接続に対応したATEMとの接続の場合、本機のメニュー上で本機のIPアドレスとATEMのIPアドレスを設定するだけと設定は容易だ。LANケーブルで直結するかスイッチングHUBなどを経由して接続すればよい。

本機の初期設定のIPアドレスは、ATEMの出荷時のものに合わせた設定となっているので、ATEMのIPアドレスが出荷時のままであれば、ケーブルを接続するだけでよい。

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タリーボックスが利用するIPアドレスを設定
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タリーの情報を得たいATEMのIPアドレスを設定。サブネットマスクとデフォルトゲートウェイの設定が、タリーボックスの設定画面と双方にあるのは謎だ
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有線LANでの接続時は、本体ディスプレイ左上にRJ45ジャックのアイコンが表示される
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ATEMへの接続はスイッチングHUB経由でも直結でもよい
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残念ながら、現時点ではATEMシリーズで対応する製品は限られる模様で、メーカーのWebサイトに動作確認済み機種の一覧がある。最近の製品でも、記載がないものでは動かないものも多いようだ。ATEMシリーズの制御は製品によっていくつか方式が提供されているのだが、筆者が確認した限りでは本機はTCP接続で行っているようであり、UDPでの制御にのみ対応している古いATEMシリーズなどには現時点では対応していない。

GPIO接続の場合だが、本機の親機であるタリーボックスにあるDB25(D-Sub 25ピン)の端子を使う。GPIOでのタリー信号のやりとりは、端子の1つのピンにつき、1つのプログラムもしくはプレビューに対応しており、共通する「GND端子」が最低1つ必要である。

25ピンのうち最大24ピンがタリーの信号のやりとりに使えるため、プログラム・プレビューそれぞれ最大12入力、合計24入力に対応している。本機のGPIOはもちろん、ほとんどのスイッチャーでは、タリーの状態をタリーシステムに伝えるのに、オープンコレクタという方式を採用している。そのため、ピンアサインさえ適切に接続されれば動くことが期待できる。タリーシステムからみれば、オープンコレクタとはトランジスタを利用した外付けのスイッチのようなものと考えてよい。製品によってはトランジスタの代わりにリレーを採用してスイッチャー側とは電気的に完全に分離されたスイッチとなっているものもある。

有線LAN接続での対応が一部機種に限定されているATEMシリーズも、GPIOでタリーの状態を外部に伝える手段が実は用意されている。Blackmagic Design純正の「GPI and Tally Interface」を利用すると、同Interface 1台あたり最大8入力分のタリー信号(プログラムのみでプレビューには非対応)を出力できるようになっている。ATEMとの通信は有線LANで、ATEMから得られたタリーの情報をGPIOで出力するかたちだ。2台のGPI and Tally Interfaceを用意すれば、最大16入力分のタリーを出力でき、本機にはそのうち12入力分を入力できる(ただし、2台のGPIO端子を1つのGPIOに集約するケーブルを自作する必要はある)。

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Blackmagic Designの「GPI and Tally Interface」

本機のGPIOの対応は自由度は高く、親機のDB25端子のピンアサインは固定されておらず、本機とスイッチャーを接続した状態で、本機のメニューにある「DB Sequence Matching」を利用して、画面の指示に合わせて接続したスイッチャー側のプログラム・プレビューの切り替えをしていくことで、ピンアサインが自動的に検出される形となっている。筆者が検証した限りでは、親機であるタリーボックス側のDB25端子の17番、13番、25番のいずれかのピンがGND端子となっていれば、それ以外のピンアサインはどうであっても、DB Sequence Matchingの機能で適切に設定できるような賢い仕様となっている。

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まず、スイッチャーの入力1以外をプログラムアウトとして選択する。1以外を選択するのは、この後1から順番に設定していくからだ。この段階で、GND端子がどれなのかが検出され確定されるようだ
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スイッチャーのプログラムバスを1から順に2、3……と切り替えていく。間違えた場合「Cancel」を選択すると、1から順に入力し直せる。すべての入力を設定したら「Save」を選択するとプログラムバスの設定が終わり、続いてプレビューバスの設定に移る
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プレビューバスの設定も、同様に「1以外」を押すところからスタート。ここで「Return」を選択すると、プログラムバスの設定のみで終了する。プレビュータリーを使わない場合や、GPI and Tally Interfaceのようにプレビュータリーの出力がない場合はここで終了する
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プレビューバスの設定もプログラムバスと同様だ

この仕組みによって、スイッチャー側のGPIO端子がDB25端子であり、GND端子も上記のいずれかであれば、ケーブル両端のDB25端子の同じピン同士が接続されたケーブル(いわゆるストレートケーブル)を用意すれば、おおよそどんなスイッチャーでも対応できるという恐ろしいメリットがある。これまでの多くのタリー製品は、この部分に専用のケーブルが必要であり、専用品ゆえのケーブルの価格の高さや入手性がネックとなっていた。

現場によって、違うスイッチャーを使うようなケースでも、用意すべきケーブルは最小限で済むのがすごい。中には、GPIOのピンアサインをカスタマイズできるスイッチャーもあるが、そうしたスイッチャーでもスイッチャー側の設定は変更せずに、本機の設定で対応できる余地があるなど、非常にすぐれた仕組みといえる。

なお、GND端子がなぜ上記の3つかはあくまで想像ではあるが、ローランドのV-60HDやV-600UHDなどDB25コネクタのGND端子が17番ピンとなっている少数派に対応しつつ、パナソニック、Datavideoなどのスイッチャーを含む、多くの製品が採用している、下段の一番端のピンとなる25番ピンをGND端子とする仕様に対応すれば、ほぼカバーできるからといったところだろうか?

なお、Hollyland T1000用の「Hollyland Tally Signal Universal Converter」では、13番ピンがGNDとなっていることから、それに対応したケーブルを流用できるよう、13番ピンもGNDとして使えるようになっているものと思われる。また、Blackmagic DesignのGPI and Tally Interfaceも25番がGND端子である(それ以外にも13番ピンも含む複数ピンがGNDとなっている)。

また、これらの3つのGND端子として使われるピンがタリーの信号用に使われていても、ピンアサインの検出は問題なくできるようになっていて、極めて優秀だ。スイッチャーによっては、GPIO端子を利用して、スイッチャー側の操作も可能となっているが、一般的なスイッチャーのGPIOでの入力端子の設計では、全端子が結線されたケーブルでも問題が起きることはないだろう。

なお、評価機の出荷時設定でのピンアサインは以下のようになっていた(Mars T1000用の「Hollyland Tally Signal Universal Converter」をベースにプログラム・プレビューそれぞれ8入力から12入力に拡張したピンアサイン)。GND端子の位置などの都合で、本機のDB Sequence Matchingで使用できないスイッチャーでも、このピンアサインに合わせたケーブルを自作するなどすれば、使える可能性は高い。

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以下は、実際にATEM Television Studio HDとGPI and Tally Interfaceと本機を利用した例ではあるが、入手の時間がなく急ごしらえの自作ケーブルで接続している。1980年代~90年代なら、PC-9800シリーズなどのモデム接続にDB25のストレートケーブルが使われていたため、PC関連のショップなら必ずあったものだが、最近は秋葉原でもなかなか見かけず、DB25コネクタとフラットケーブルを買って自作した。

市販のケーブルを流用される場合、コネクタ部分の固定ネジがインチネジのものとミリネジのものがあるので、実際には、Hollylandの純正のケーブルを買うのがよいだろう(本機のDB25コネクタの固定ネジのピッチについては、未確認のまま返却してしまったのでどちらか不明)。

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ATEM Television Studio HDとGPI and Tally Interfaceと本機での利用例
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Blackmagic Design GPI and Tally Interfaceとの接続のために製作したケーブル。本来であれば9ピン分接続すればよいが検証の目的もあり10ピンを接続している

プログラム・プレビューに対応

本機のタリーは、通常プログラム(本線)への出力を示す「赤」での点灯と、通常次にテイクするカメラを選択するプレビューバスの選択を示す「緑」の点灯が提供されている。ATEMシリーズへ有線LANで接続した状態では、自動で入力1~16に対応した、プログラム・プレビュー表示が行われる。GPIOの場合は、使用するスイッチャーやケーブルによって異なるが、本機(Wireless Tally System)のGPIO端子でのプログラム・プレビューの入力は、プログラム・プレビューそれぞれ最大12入力が可能になっている。

音楽モノやスポーツなど、速いスイッチングが必要な現場では、プレビューバスはディゾルブなどのエフェクトを利用するときしか使わず、プログラムバスを直接切り替える場面も多い。また、演者さんによっては、プレビュータリーがあると混乱されるケースや、ATEM Miniシリーズで「カットバス」モードで操作する場合など、プレビューのタリーは使いたくない場合もあるが、現状では、有線LAN接続でプレビュータリーを無効にする方法はない。

GPIO接続の場合は、前述のDB Sequence Matchingの設定の際に、プレビュータリーの設定を行わないことで、プレビュータリーを使わない設定も可能である。

なお、現時点でWebサイト上で公開されている取扱説明書の記載はDB Sequence Matchingではなく「Sequence Learning」となっており、有線LANに対応しているような記述があるので可能かもしれないのだが、今回お借りした評価機では、同機能はGPIO接続時のみ有効であった。

現場によっては、ライブ会場のLED・プロジェクタなどに映す会場にいるお客さま向けの生カメラ映像(サービス映像)と、ライブ配信のために2台のスイッチャーを用意する場合もある。そうしたシステムの際にも、GPIO接続でスイッチャーとの接続ケーブルを工夫すれば、赤タリーは生カメ映像用のスイッチャーのプログラムアウト、緑タリーはライブ配信用スイッチャー用のプログラムアウトの表示といったことも可能だろう。

ただ、両方が同じカメラを選択している場合にオレンジ点灯にするなどといったことには対応していない(赤か緑点灯しかできず、赤タリーが優先される)。

欲を言うなら、有線LAN接続でもプレビュータリーを無効にしたり、2台のスイッチャーに対応して赤・緑タリーを点灯させるなどとった自由度の高い設定が可能だと、より多くの現場のニーズに対応できるので、今後の対応を期待したい。

ペアリング・タリーの番号の設定は極めて容易

ペアリングについては、セットで購入した場合は不要だが、タリーライトを追加する場合に必要となる。ペアリングは付属のUSB Type-A to Type-Cケーブルでタリーボックスとタリーライトを接続すれば、タリーボックス側にペアリングするかのメニューが表示されるようだ。お借りしている評価機では、すでにペアリングが完了しているためか、そうしたメニューは表示されなかった。

タリーライト側の番号の設定は親機であるタリーボックスではなくタリーライト側で行うが、タリーライトの「番号コントロールダイヤル」を回して設定するだけと極めて簡単だ。たとえば、タリーライトは4台しかないが、スイッチャーには8台のカメラを接続しているなどといった場合に、一部のカメラにタリーライトをつけたいという場面でも簡単かつ直感的に設定できる。ディップスイッチなどと違って、手で簡単に操作できるのはすばらしい。

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ただ、操作が楽なのが仇となることもあり、利用した現場では初めて利用するスタッフが「明るさの調整」と勘違いして、設営時に「絞られ」てしまうという事故も起こってしまった。事前にスタッフにダイヤルの機能と自分のタリーに設定すべき値を説明するとともに、テープなどを貼って誤操作を防止するようにしておくほうがいいかもしれない。

暗い会場で重要な明るさの調整

筆者がライブ配信で入る現場は、ライブハウスなどが多く、演出を妨げないためにはかなり光量を抑えたい場面が多い。本機の場合、4段階で輝度を調整できるようになっていて、そうしたニーズに対応できるようになっている。ただし、評価機では、メニューを開くと現在の設定値に関係なく、常に「25%」のところにフォーカスがあり、現在の設定値はチェックマークが入ったところとなっているのだが、これは少々直感的ではなく現場での混乱を招くため、現在の設定値にフォーカスがあるようにするなどの改善を期待したいところだ。

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25%に設定すると、暗いライブハウスのフロアでも明るすぎるということはない。以下の例では、カメラのケージのハンドル先端のコールドシューにマウントしていて、ステージ側を向いているが、演出を妨げることはない。

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逆に晴天時の野外では、最高輝度に設定しても点灯しているか確認するのが難しく、演者さんに見てもらうのはほぼ不可能といってよい。カメラマンに返すために利用するとしても、フードを用意しつつ設置方法の工夫が必要だろう。

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日陰であれば視認することはできるが、晴天の屋外ではやや厳しい

輝度の調整は親機側で一括で行うほか、タリーライト側でも電源スイッチのダブルクリックで輝度を個別に変更できる。ステージから遠いフロア後方は明るく、演出の妨げになるステージ近くは暗くなどといった調整も可能だ。

音楽系のイベントでは演奏・歌唱中とMC中で照明の明るさが大きく変わることも多く、可能であれば周辺の明るさに合わせて輝度が自動調整されたら……というのは欲張りすぎだろうか?

ある程度会場が広いと、本番が始まってしまうと、スイッチャー側にいるスタッフが個々のタリーライトの輝度にまで気を配ることはできなくなるので、タリーライトが手元にあるカメラマンが判断して変更できるのはありがたい。欲をいえば、ダブルクリックではなく、ボタンのプッシュで変更できるほうがありがたいのと、場合によっては、25%より暗くできるのがいいかもしれない。

【お詫びと訂正】初出時タリーライト側で輝度の調整ができない旨の記事となっておりましたが、仕様と異なるため訂正いたしました。

改善を期待したいカメラなどへの固定方法

カメラなどへのタリーライトの固定方法だが、基本的にはタリーライト下部にあるクリップによる。クリップの断面は、カメラのアクセサリーシューにちょうどフィットするようになっていて、カメラやケージのコールドシューに装着できるようになっている。

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タリーライト底面にある固定用クリップ
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クリップはカメラのアクセサリーシューに刺さるようになっている

簡単に装着できるのはメリットだが、ねじ止めの機構などもないので容易に脱落する恐れがあるほか、固定方法が限定されるのはデメリットでもある。

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たとえば、鏡筒の大きめのレンズを装着しフォローフォーカスや外部モニターを使っている場合、カメラ上部ではカメラマンの立ち位置的に見にくく、もうちょっとレンズ側に寄せてタリーライトをつけたいこともある。また、演者さんにタリーを見せる必要はないが、カメラマンが撮影時に見ている外部モニターに近い位置に固定したい場合も多いだろう。

幸いなことにタリー本体が軽量であるため、今回利用した現場では、養生テープでレンズ鏡筒に貼り付けたり、モニターにテープで固定するなどした。タリーのケースの構造上、1/8インチのネジ穴をつけるのは難しいのは理解できるものの、なんらかの改善ができたらうれしいポイントだ。現状では、コールドシューをネジ止めなどで増設できる製品などを使って固定方法を工夫するのがよいだろう。

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タリーライトは実測でバッテリー込み103.0gと、極めて軽くて小型であるため、手持ちのカメラなどでもカメラマンの負担を大きくは増やさずに導入できるのはすばらしい。バッテリーなしでUSB Type-Cからの給電でも動作するが、バッテリー抜きで実測86.2g、バッテリー実測16.8gというのと、長いバッテリー駆動時間を考えると、外部給電とするメリットは常設のスタジオでない限りほとんどないといっていい。

満足度の高いタリーシステム

評価機自体が初期ファームウェアであるせいか、ATEMシリーズでの有線LAN接続での対応機種が限定されているなど、個人的にも強く改善を望みたいポイントもあるものの、広めの会場でもまったく問題なく使えるなど、この価格帯で導入できるタリーシステムとしては、現時点での決定版といっていいのではないだろうか? Hollylandは、Solidcom C1 Proなどでも我々ユーザーの声を製品開発にフィードバックしてくれているメーカーとして知られているが、本タリーシステムの今後のアップデートにも大きく期待したい。

加賀誠人(Project92.com)|プロフィール
PC/IT系雑誌の編集者、Webのシステム開発などを経て、ライブ配信・撮影、DJI RS 2などに対応したPTZリモコン開発・販売などを手がける。最初のライブ配信は、1997年にRealVideoで。最近は主にインディーズアイドルのライブ配信・撮影現場に生息


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