BRIDGE CAST Xについて
「BRIDGE CAST」は、ローランドから発売されている、ゲーム配信向けのデバイスだ。バスパワーで駆動する高機能、高品質のゲーミングサウンドミキサーで、主にゲーム配信に必要な機能を手軽に操作できるとして、発売当初から人気を博した。
今回レビューする「BRIDGE CAST X」は、前機に映像機能をはじめ、大幅な機能追加によりゲーム配信者向けのオールインワンシステムとも呼べる機材へと進化している。
筆者は、本機を購入し暫く利用したので、そのレビューをさせていただく。
BRIDGE CASTとの違い
昨年発売されたBRDIGE CASTと比較すると価格が上がっているが、その分機能においても充実している。
- 筐体が全て金属製になった
- PADの追加
- HDMIキャプチャー機能
- USBを2基搭載
- バーチャルサラウンド機能を搭載
ざっと挙げただけでもこれだけの追加機能があり、特にゲーム配信者にとっては利便性が向上している。特にHDMIキャプチャー機能を追加したことにより、映像系の機材を設置する必要がなく、しかも配信したい時に即開始できる強みがあり使い勝手が良い。
筐体の安定性と質感が向上
BRIDGE CASTは、上面のみ金属製で他の部分は樹脂製であったが、本機は全面金属製となった。筐体が重くなったが、底面のゴム足の効果と相まって、机上において安定感が増している。また、質感も向上し、ガジェット好きにはたまらない見た目である。
HDMIキャプチャー機能
本機では、HDMIキャプチャー機能を搭載し、BRIDGE CASTから大きくアップデートされた点だ。HDMI入力端子を2基搭載、HDMIスルーアウトを1基搭載し、ゲーム配信時に、HDMIキャプチャーボードを接続する必要がない。機材が増えがちな配信者にとって、これはとても大きな魅力であろう。
ゲーム機を複数持っている場合、2台までであれば差し替える必要がなく、ボタンひとつで切り替えることができるのは便利である。スルーアウト機能もあり、外部モニターを接続し遅延のない映像でゲームをプレイできるので、まさにゲーム配信者向けのセッティングだと感じる。
筆者はゲーム配信はあまり行うことはないが、作業環境をゲームプレイできるようにセッティングしており、本機に接続しているモニタースピーカーの音質とも相まって快適なゲーム環境が構築できている。
なお、本機のHDMI切り替えは、HDMIセレクターのため切り替えに数秒の時間がかかる。映像スイッチャーのような使い方はできないのでその点は注意が必要だ。
USBを2基搭載、2PC配信ができる
本機はUSB-C端子を2基搭載している。USB I端子は、音声のみの入出力、USB II端子は音声の入出力と映像出力がそれぞれ可能だ(両端子ともMIDI CCの入出力用としても使用される)。
先述のHDMIキャプチャー機能と組み合わせて使用すると、2PCでの配信が実現できる。ゲームプレイ用のPCと配信用のPCの2台を分けて配信することで、PCにかかる負担を分散でき、ゲームプレイも配信も快適に安定して行うことができる。
これまでは複数の機材と、複雑な接続をしなければ実現が難しかったが、本機1台でとても手軽にできる。常時設置も可能なので、思い立ったらすぐ配信できるのが素敵だ。
本機はUSBバスパワーでの駆動が可能なので、USB II端子にPCを接続すれば別途電源を準備する必要がない。もしモバイル接続をしたい場合や共有電源が不足している場合でも、電源用のUSB端子が準備されているので、そちらから供給すればよい。
なお、USB II端子から映像を出力する場合、USB 3.2 Gen 1以上に対応したUSB-Cケーブルが必須となる。これ以下の規格のケーブルを利用する場合、音声しか出力できないので注意が必要だ。
充実した入力ソース、独立した出力音量調整
本機は、入力ソースが充実しており、それぞれ個別に入力音量の調整ができるのも魅力だ。USB端子からのオーディオソースは、CHAT、MUSIC、GAME、SYSTEMと名付けられたチャンネルに割り当てることができ、個別に音量調整ができる。USB以外では、HDMI音声入力、マイク入力、AUX入力、SFXの再生音がある。
本体の音量つまみは4つしかないが、BRIDGE CASTアプリ上ですべての音量を個別に調整することができる他、4つのつまみに任意に入力音を割り当てることができるので不便は全く感じない。
出力は4系統を個別にボリュームつまみで音量調整ができる。PERSONALとSTREAMで、USB端子の出力ソースの音量をシステム上での出力と配信向けの出力音を別々に調整可能。また、LINE OUTとPHONES端子の音量調整もつまみが独立しているので使いやすい。
バーチャルサラウンド機能を搭載
本機は、HDMI IN端子から入力される音声ソースを音像豊かなバーチャルサラウンドで聴くことができる。ローランドの独自の立体音響で、5.1ch/7.1chの音声ソースはもちろん、2ch(ステレオ)の入力ソースについても有効のため、立体音響に非対応のゲームでも臨場感のあるサウンドを楽しめる。なお、この機能は、ヘッドホンでのみ聞くことができる。
配信に華を添える機能
音質調整機能とエフェクトについても触れておこう。
本機用のソフトウェアBRIDGE CASTアプリで音質調整やエフェクトの設定を行うことができ、必要十分な機能を備えている。
EQ、ローカット、ノイズサプレッサーを使用して、自宅の生活音などを極力減らしたり、歯擦音(サシスセソなどの鋭い子音)を和らげるディエッサーまで搭載している。もちろん、ダイナミックレンジを調整できるコンプレッサーも搭載。さすがオーディオ機器をリリースしている会社ならではのこだわりを感じる。
マイクエフェクトは、リバーブとボイス・チェンジャーが設定でき、こちらも配信に必要な最低限の機能を揃えている。これらは設定を保存しておき、ボタンひとつで配信中にオン/オフすることができるので便利だ。
本機では、CONTROL PADも追加になった。
6つのパッドが付いており、BRIDGE CAST Appから効果音を設定し、パッドを押すと効果音が鳴る仕組みだ。割り当てる効果音は、プリセットで準備されている音の他、自身でサウンドファイルを準備して読み込むことで独自の効果音を設定することができる。
効果音は、「ONE SHOT(押すと最後まで再生)」「HOLD(押している時だけ鳴る)」のいずれかを設定できる。例えば、何かを発表する時の効果音として、ドラムロールをHOLDで再生し、タイミングを見て、ONE SHOTで割り当てたシンバルを押す、といった具合に使うことが可能である。
また、CONTROL PADは効果音を鳴らすだけではなく、各種機能を割り当てることも可能だ。例えば、任意のチャンネルの音をミュートしたり、あらかじめ割り当てたエフェクトをPADを押すだけで、オン/オフすることが可能だ。
配信では、効果的に声にリバーブを当てることがあるが、ワンタッチでこれが切り替えられるのは嬉しい。その他、キーボードショートカットを割り当てられたり、MIDI CC(MIDIコントロール)を割り当てることが可能。
配信でよく利用されている「OBS Studio」では、HOT KEYにキーボードショートカットを設定することで、配信開始などの操作が制御できるが、このHOT KEYに設定してあるキーボードショートカットを本機のPADに割り当てることで、手元でワンタッチで発動できるようになる。特にゲーム配信中には、キーボードやマウスを操作するのが難しいケースが多いので、これは大変ありがたい。
さらに、MIDI CCもPADに割り当てることができるので、MIDIコントロールによってさらに配信中のオペレーションを改善するのに役立ちそうだ。
ローランドでは、クラウドベースでプラグイン音源やBGMを提供する「Roland Cloud」というサービスを提供している。筆者は、普段Epidemic SoundやArtlist.ioといった楽曲提供サービスと契約しており、それらのサイトからMP3やWAVファイルをダウンロードして、音楽再生ソフトで再生するこことで配信中のBGMを流している。
本機では、「BGM CAST」機能を使用すると月額税込506円でRoland Cloudで提供中の曲をダウンロードすることなくBGM再生しながら配信が可能。もちろんあらかじめプレイリストを作ることも可能。
なお、BGM CASTではムードやジャンルを選択して曲が再生される仕組みだが、筆者はこの手法に少し煩わしさを感じた。確かに1曲ずつ選択するより手軽ではあるものの、必ずしもベストな曲が再生されるとは限らない。配信に合わせたBGMリストを作るためには少々不便さを感じた。ここはどちらの方法でも対応できるとなお良いだろう。
また、始まって間もないサービスのため、楽曲数もまだまだ少なく感じる。この点についてはこれからサービスが充実していくのが楽しみだ。
ゲーム配信以外での利用はできるのか
さて、ゲーム配信には最適な本機だが、ゲーム配信以外ではどうなのだろうか?答えは、「使い方による」だ。
私は雑談配信を行う際、カメラ1台、マイク1本でOBS Studioを使用して配信するが、その際には本機にマイクとカメラを接続し、配信している。配信前の準備はカメラとHDMIを接続するだけの数分だけ。それで、いつも変わらず安定した配信が可能である。
また、業務によって、MacとWindows PCを切り替えて使用しているが、USB端子が2つあるので、どちらでネットミーティングを開催しても接続を変更せずに同じ環境で即座に対応ができるのはありがたい。
一方、DTM機材や複数の音楽ソースを使用したり、マルチカムで配信する際には、別途機材を準備する必要がありそこまでメリットを感じることはなかった。利用シーンにおいて差はあるものの、デスク環境に置くオーディオインターフェースとして考えた場合、手軽に配信ができて普段使いもできる本機はゲーム配信者以外にとってもメリットが多いと感じた。
気になったところ
以上のように魅力的な機能をふんだんに搭載した本機だか、いくつか気になる点があった。
登録できる効果音が短い
私の個人的なライブ配信では、STREAM DECKにオープニングやエンディングで使用する定番曲を登録しておき、ボタン1つで再生できるようにしている。また、少し長めのジングルや効果音などもよく使うものも登録しており、いわゆる「ポン出し」をいつでもできるようにしている。
以前は、パソコンの再生ソフトウェアやiPodなどを繋いで音楽を切り替えながら使うようにしていたが、この方法を使用することでとても手軽になった。実は、本機導入時にもそれを期待していたのだが、登録できる音声ファイルの長さが最大で5秒と、とても短く、ジングルすら登録ができない。
これは、ライブ配信の内容に関わらず不便だと感じると思う。ファームウェアのアップデートでは難しいかもしれないが、改善をしてほしいところだ。
できればスイッチャーにしてほしかった
HDMIが2基ついており、便利な本機だが、切り替えについては残念ながら簡易なセレクターとなっている。2台のマルチカムにするだけで配信のバリエーションがグッと上がるので、これはぜひスイッチャー方式にしていただきたかった。もしくは、せめて切り替えの時に間に黒画面とのフェードを行うなどの処理があれば良いかもしれない。
96kHz対応
これはMacに限定した話だが、サンプリング周波数が48kHzまでしか上がらない。Windows機での利用の場合、96kHzまで上がるようなので、OS上の制限が考えられるが、DTMユーザーとしてはできればMacでも対応してほしいところだ。
かといって音質がすごく変わるかというと、普段使いで差を感じることはなかなかないはずなので安心してほしい。
グラウンドループ
筆者の環境のみの可能性もあるが、LINE OUT端子の音にグラウンドループによるノイズが発生した。
グラウンドループの詳細は割愛するが、複数の機器を接続した際にグランド(GND)がループ状態になり、ハムなどのノイズが発生する現象だ。オーディオインターフェースでは、接続環境によりまれに発生することがあるが、筆者環境では他の機器では今のところ発生していない。電源を変更したり、接続機材(DTM機材の音声入力など)をすべて外す、機材を交換するなど考えうることを試してみたが改善しない。
最終的には、LINE OUTからの出力をハムノイズ除去ボックスを仲介してモニタースピーカーに接続することで見事に解決した。あまりない現象ではあるが、もし本機導入時に同現象が発生した方がいたら参考にしてほしい。
さいごに
筆者は、DTMや作業中の音楽鑑賞を楽しむために、ワークデスクに複数のオーディオインターフェースをスタンバイしている。また、ライブ配信向きにオーディオミキサーも所持している。
しかし、本機を導入してからは、動画視聴やストリーミング音楽試聴、簡易なライブ配信は全てこちらで行うようになった。もちろんマルチカム対応ができないなどの不便さはあったり、オーディオ専用のインターフェースとは異なる点もあるが、特別な設定をしなくても普段使いできる強みは他機種に変えがたい魅力だと感じている。
ゲーム配信をしないユーザーでも、PC周りの環境だけでゲームを含めた環境統一を行いたい方であれば十分に導入する価値のある製品だと思う。
なお、本機はファームウェアおよびコントロールソフト(BRIDGE CAST App)のアップデートが頻繁に行われている。執筆時点では、BRIDGE CAST App Ver.3.02、ファームウェアVer.1.06を使用した。
使用する際には、是非最新版を利用していただきたい。