ついに独立したジンバルフォーカスシステム
今までのRSジンバルシリーズでは、同梱のフォーカスモーターはあくまでジンバル本体での操作が前提で、外部制御にはRonin 4D用のハンドグリップと高輝度遠隔モニターが必要でした。
このフォーカス操作は、グリップ上のダイヤルを左右にグリグリ動かすもので、ジンバル操作と同時並行のフォーカス操作が難しいことはもとより、フォーカスプラーのオペレーションとしても、決して使いやすいシステムとは言いにくいものでした。 また完全にフォーカスプラーに任せる撮影で、三脚などへのカメラの載せ替えが発生する場合は、社外のワイヤレスフォーカスシステムに換装する必要があり、フォーカスモーター用のバッテリー追加で重量級装備となったジンバルは、よりオペレーションしにくくなり…とシステムの構築に苦労された方も多くいたことでしょう(私もその一人です)。
しかし今回登場した新しいFocus Proモーターは、ハンドユニット・グリップ・LiDARと連携し、ジンバルからほぼ独立したシステムとなり、マニュアルフォーカスレンズの撮影において、革命を起こすと言っても過言ではない進化を遂げました。
筆者はRS 4・RS 4 Proのレビューも書かせていただいたのですが、この時点ではまだそこまでの進化を感じられず、マイナーチェンジと言ってしまいました。 しかし、今回Focus Proシステムを触ってみて、フォーカスシステムがフルモデルチェンジした!という感動に変わりました。
キーワードはシネマレンズ・ジンバル・ハンドヘルドです。全てが新しくなったFocus Proシステムを、じっくりとご紹介したいと思います!
Focus Pro ラインナップ
今回のラインナップは以下の4つです。
DJI Focus Pro
- LiDAR
- フォーカスモーター
- ハンドユニット
- グリップ
セットでは、「クリエイター コンボ」「オールインワン コンボ」から選択可能です。違いはハンドユニットの有無だけで、両方にキャリングケースが付きます。
- クリエイター コンボ 税込:127,600円
- オールインワン コンボ 税込:261,800円
前情報の写真と金額だけ見たところ、思ったより少し高い?と感じたのですが、実機を触ってみてあっさり納得しました。
これらは個別に良く作り込まれてはいますが、特筆すべきはフォーカスシステムの一歩進んだビジョンを元に、独自の連携を生み出したことです。
ワンマンオペレーションとフォーカスプラーの2パターン、ないしはその両方の連携を非常に意識した構成になっています。その連携については後半でお話ししますので、まずは個別に見ていきたいと思います。
LiDAR&フォーカスモーター
Focus Proシステムの中心となる、新しくなったLiDARとフォーカスモーターです。
LiDAR
- 外観は赤いラインが少し加わってカッコよくなったことと、背面にLED表示のガイドが表記されたくらいで、大きさやデザインはほぼ変化なし。
- AMFモードの追加(これについては後述で詳しくレビューします)。
- 測距点が43,200箇所から76,800箇所へ増加し被写体検知精度が向上。
- 人物の最大検出距離が14mから最大20mと拡大し、より望遠レンズでの使用も可能に。
※スタビライザーの画面表示が1倍で10m、2倍ズーム表示で20mに対応。
フォーカスモーター
- デザインが変わりアンテナを装備。
- 12mmから15mmロッドへ仕様変更。汎用ロッドサポートで使用可能に。
- モーター速度が30%向上。
- 制御可能なモーター数
RS 4:1台
RS 4 Pro:最大2台(ダイヤルとジョイスティックで同時制御可能)
グリップ:1台(FocusかZoomを選択可能)
ハンドユニット:3台(全て独立操作可能)
LiDARはスペック上は、測距点の大幅増加や最大撮影距離の拡大がメインに謳われています。
筆者はLiDARユーザーではなかったので、あまり細かい使用感の違いを指摘することは難しいのですが、両モデルを撮り比べた感じでは動体のAF追従性と正確性が上がったなと感じました。
これはモーター速度が前モデルから30%向上しているためです。
実は、よくよくスペックを比べてみると、モータートルクは1N・mから0.6N・mに下がっていました。恐らくモーター速度を上げたからだとは思いますが、余程ギアが硬すぎるレンズでなければ、どのシネレンズでも問題なく使用できるトルクは確保されています。
至近距離からかなり正確に追従してくれ、被写体の動きに応じてトラッキング感度の変更もできます。
追従範囲も最大20mに拡大したようですが、複雑な背景環境や被写体の動き方によっては、前モデル同様迷う場面は多少あるなと感じましたが、ジンバル装着時のアクティブトラック機能との連携は秀逸で、動き回る対象を綺麗に追従してくれます。広くなった追従範囲がここで生きてきますので、クリエイティブの幅を大きく広げてくれると思います。
このレベルのAFなら、マニュアル操作に苦手意識のある方でも安心して任せることができそうだと感じました。
また、スマホアプリと繋げばあらかじめ用意されたレンズブランドのプロファイルがインストールでき、登録すればレンズキャリブレーションのみ行うことで、すぐAFが使用可能になります。
現在インストールできるレンズブランドは中国系のみとなっておりますが、今後のアップデートでメジャーブランドも含め増える予定だそうです。
フランジバック調整機能もあるので、しっかりと事前準備しておけば撮影中のレンズ交換作業が劇的にスムーズになることでしょう。
ハンドユニット
フォーカスプラーが安心しそうな外観をしておりますが、機能も必要十分に揃っております。
特徴
- 3モーター同時制御可能。
- ワイヤレス通信範囲は、最大100m(日本)。
- バッテリーは汎用性の高いNP-F550バッテリーを採用。
- タッチ操作対応の液晶モニターを装備。
- 天面と底部にアクセサリー用の1/4ネジ穴を一か所ずつ配置。
- フォーカスマーカーリングが交換用に合計5本付属。
フォーカスプラー用に設計されているため、ホイールによるフォーカス操作に加え、親指部分のズームスティックでZoom操作、中央のスライダーでIRIS変更(もしくはVNDなど)、カメラとBluetooth接続で外部REC、が1台で同時操作可能です。
ズームスティックの動きは少し硬めの印象ですが、結構繊細に反応します。細かな設定については、液晶モニターのタッチ操作で変更可能です。タッチ操作感は、画面が小さく若干反応がモタつく感じです。
そして、Focus Proシリーズの真骨頂はここにありました!電源を入れてレンズキャリブレーションをするとすぐにわかる、ホイール部の挙動です。ブンッ!と機敏に動作し、モーターギアとのスムーズな連動はもとより、キャリブレートした始点・終点でピタッとブレーキがかかります。
しかも、レンズによってこれらの始点・終点位置は個別に変化します。
とても機敏に反応し、減衰量やブレーキのかかる位置まで自由に変更することができる、優秀すぎるホイールですが、内蔵されている動力が何なのかとても気になりませんか?
この挙動は、ジンバルを使っている人ならピンとくるかもしれません。
電源が入っていない時はスカスカで、通電すると程よい粘りが発生するこの感じは、まさにジンバルと同様、ブラシレスモーターが内蔵されているからです。これなら、フォーカス終点が都度変更できるのも納得がいきます。
A/B点の設定でもこの機能は有効で、綺麗にストップしてくれますので、ハイエンドのフォーカスシステムに十分匹敵する精度でフォーカシングが可能です。
ジンバル開発で培ってきた技術が生かされた、素晴らしい発想だと思います。これは他機種ではなかなか真似できない、ありそうでなかったポイントです。
※挙動については言葉ではなかなか伝わりにくいかもしれませんが、この感動は是非実機で体験していただきたいです。
フォーカスモーターとの接続も、非常に簡単・スピーディで、流石ドローンやジンバルの世界的シェアを誇るDJIだけあって、無線通信技術も遺憾なく発揮されていると感じます。
また、別売のケーブルを介してLiDARと高輝度遠隔モニターをリンクさせると、レーダーによるフォーカス波形が表示され、Ronin 4Dを繋いだ時の様なマニュアルフォーカス操作が可能になります。
グリップ
ワンマンオペレートをサポートする、ハンドグリップシステムになります。
特徴
- ジンバルなしでLiDARフォーカスシステムの制御が可能。
- ジンバルと同じタッチ操作モニターを搭載。表示順など全く同じ操作感。
- LiDAR・フォーカスモーターに給電しながら、2.5Hの継続使用が可能。
- 付属のBG21バッテリーで動作。RS 4 Proなどに同梱のBG30バッテリーは互換性がなく、装着すると電源は入るがエラーメッセージが出る。
- ハンドユニット同様のブラシレスモーターを内蔵したダイヤルを装備。
動作速度や減衰量も設定可能。
LiDARシステムをジンバルから独立して給電・操作するためのオプションです。モーターとは有線接続になり、ワイヤレスでのモーター制御はできません。カメラへの取り付けはNATOポートを採用しているため、カメラケージがあると取り付けがスムーズです。また補助パーツも2種類同梱されています。
磁気技術を使ったダイヤルを装備しているため、フォーカス操作は非常に滑らかで、フォーカスモーターとのギア比(回転範囲)も変更可能です。ただハンドユニットのように動作の終始点でダイヤルはストップはしないので、A/B点の設定もできません。フォーカスの操作感はジンバルのそれとほぼ同じ感じです。
不満点としては、バッテリーがBG21にしか対応しておらず、長時間の使用の場合は追加のバッテリー購入が必要になることです。
Pro系ジンバル標準のBG30にも対応してもらいたかったところです。
また、有線でのみ動作可能な仕様も、せっかくのワイヤレス化されたモーターの恩恵が享受できないので、少し中途半端な感じはします。
あくまでメインは、「LiDARをジンバルから独立して制御」するための機材という位置付けになります。
ただ、このグリップにも大きなメリットがあります。
LiDARをグリップに接続時、レンズプロファイルの登録数が通常3本のみだったものが、トータル15本に増え、C1~3まであるチャンネルに各5本ずつ登録可能になりました。
※ジンバル接続時は通常の3本のみ。
レンズ交換を多用する撮影においては、これだけでもこのグリップを装備する価値がありそうです。
AMF機能
そして、ここまでいろいろご紹介してきましたが、今回私が最も驚いた新機能が「AMF」モードです。
名前から推察できる通り、AFとMFの両方を併せ持つ、いいとこ取りな機能です。 これは、LiDARのAF動作中もハンドユニットのホイール・グリップのダイヤルからいつでもマニュアル操作で介入できるというものです。
※細かい仕様としては、グリップとハンドユニットを同時接続した状態だと、ハンドユニットの操作が優先されます。ジンバルのダイヤルでも同様です。
ハンドユニットとグリップを接続した状態でAMFモードに切り替えると、AFの動きに合わせてハンドユニットとグリップが連動してグリグリ動きます。これは前述した各部内蔵モーターのお陰で、リアルタイムに動作しながらも、必要な時に手でダイレクトに操作できます。
具体的な場面だと、AFが最も苦手な画角をシャッターする(横切る)対象物があるとそちらにフォーカスが取られてしまうことが多いですが、フォーカスを指でロックしている間は動作しないため、被写体に合わせ続けることができます。また、通常AFでは絶対できないアウトフォーカス表現なんかもできてしまいます。
※AMFモードはハンドユニット・グリップいずれかの接続が必要で、ジンバル単体では動作しません。
動こうとするモーターの動作を手で止める感覚は結構新鮮な体験なので、初めはちょっと戸惑うかもしれませんが、うまく扱えば今までAFやMFのみでは難しかった表現が可能になります。
これは、フォーカス操作に革命的な機材となり得るのではないでしょうか?
まとめ
いろいろと比較してきましたが、システムとしてはジンバル用のフォーカスデバイスという立ち位置というより、そこから飛び出してLiDARとモーターの制御を中心とした、シネマスタイル撮影のトータルソリューションであると言えます。
これで、フォーカス、トランスミッター、ジンバルに関する一通りのオプションが出揃ったことになり、Ronin 4Dやドローンも含めると、撮影に関するほぼ全てをDJI製品で固めることができてしまう状況になりました(しかも、全て高品質です)。
RS4システムをはじめ、一気に全て揃えるのは中々高額ですが、今回のFocus Proは完全に独立したシステムになったため、前モデルのジンバルに組み込んだり、ジンバルなしでLiDARのフォーカスシステムだけ個別に導入していくだけでも、アップデートの恩恵を受けることができます。
特にホイールのモーター動作やAMF機能は本当に素晴らしいので、是非一度体験していただいて、DJI Focus Proシステムの導入をご検討いただければと思います。
北下弘市郎(株式会社Magic Arms 代表)|プロフィール
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター。大阪生まれの機材大好きっ子。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。