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はじめに

筆者が「LUMIX S9」をお借りしてから一週間が経過しようとしている。しっかりと手に馴染み、もう「自分のカメラだ」と言わんばかりに触れるようになった。

最初はEVFがないなど違和感もあったが、今ではS9が当たり前のように使えている。そんなS9との生活も今日が最後。返却するのが惜しい。また買えばいいとわかってはいるが、そうじゃない愛着感が湧いている。このLUMIX S9とは使い手にそんな感情をも沸かせてくれる、憂い奴なのだ。

特徴

LUMIX S9の性能・機能を語る前に、まず見てもらいたいのは外観だ。右手で掴むグリップ部をなくし、さらにメカシャッターを排除して得られた薄型コンパクトなボディサイズ。EVFを排除したことで得られたフラットなカメラ上面。外装にまとう高級感ある革調のカバー。結果このカメラはスマートかつ上品なカメラとして生を受けた。一言で言えば「カッコいい」。

このデザインはかつて人気を博しつつも生産終了となったLUMIX GX7MK3を彷彿とさせるものであり、世界中のLUMIXファンが待ち望んだ形そのものだと思う。

その優れたデザイン性が、LUMIXファンだけならず多くのカメラファンに刺さった。この大きさ・軽さ・デザインがLUMIX S9最大の性能であることを先に伝えておきたい。

筆者もこのカメラを引っ提げ、作例作りに各所を回らせてもらったが、どこに持っていっても評判がいい。構えられずに撮らせてもらえる感を、これまでのLUMIXより遥かに強く感じた。気軽に撮らせてもらえるのも、このフレンドリーなデザインの強みなのかもしれない。

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筆者行きつけのカットサロンのマスター。照れくさそうにしながらも笑顔で1枚

主要スペック

ここに比較対象となりやすいLマウントミラーレス一眼二機種との外形寸法と重さ、主な機能の違いなどを書き記す。

SIGMA fp L LUMIX S5II LUMIX S9
112.6×69.9×45.3mm 134.3×102.3×90.1mm 126×73.9×46.7mm
427g 740g 486g
手ブレ補正なし 手ブレ補正 5軸5段 手ブレ補正 5軸5段
EVF外付け EVF内蔵 EVFなし
Wi-Fiなし Wi-Fi内蔵 Wi-Fi内蔵

この中で目を引いたのは幅寸法。LUMIX S9は、S5IIより8.3mm小さくなっていた。LUMIX S9はグリップを排除した関係から、S5IIと同じバッテリーを横向きに入れている。カメラの機構部品を収めるスペースはS5IIより狭くなっているにも関わらず、さらに幅寸法を小さくするには、相当な苦労をされたのではないかと推測する。

重量もS5IIから大きく軽量化されており500gを切る486g(バッテリー・メモリーカード込)。最終的な総重量は装着するレンズにも左右されるが、レンズキットの20-60mmや、LUMIX S 24-105mm F4を装着した場合も、バランスの悪さを感じることはなかった。

ただし、今回筆者が作例撮りに使用したSmallRig LUMIX S9用L型グリップを装着した上での話であることをつけ足しておきたい。大型のレンズを装着する場合はぜひオススメしたい逸品だと思う。

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SmallRig LUMIX S9用L型グリップ。大型レンズを使用する場合にボディを保持しやすくなる。指がかかり、持ち運びにも便利

LUMIX S9と同様小型のLマウント一眼として、fp Lの比較寸法を載せておいたが、筆者個人としては全く別のカメラであると思っている。ただLUMIX S9の登場で筆者所有のfp Lの登板回数は激減するだろう。

リアルタイムLUT

リアルタイムLUTとは、LUMIX S5IIやG9IIから搭載された、カメラにLUT(ラットと読む)オリジナルの「フォトスタイル」を入れて、好きな色味で撮影してしまうというLUMIX独自の機能。

※ LUMIXに搭載されている撮影前にカメラ内で好みの色味や画質(コントラスト・彩度など)を調整できる機能

筆者が試用中には残念ながら間に合わなかったが、LUMIX S9に合わせて「LUMIX Lab」というスマホ用アプリもリリースされ、誰でも簡単にLUTが作れるようになった。今回の試用中は、以前からよく使わせてもらっている照山明氏とクマザワコータロー氏のLUTを使わせていただいた。

LUMIX S9にはこれまでの機種にはなかった「LUTボタン」が「AF-ONボタン」の左隣という一等地に存在する。

このボタンを押すと、それまでどのフォトスタイルで撮影していたとしても、一発で「リアルタイムLUT」に変更することが可能となる。そして十字キー(もしくは上下どちらかのダイヤル)で使用したいLUTを選んで決定ボタンを押すことで、すぐに色味を変更できる。

LUMIX S9からは39個ものLUTを登録しておくことが可能となったため、いちいち十字キーで選ぶのが面倒な場合、「DISPボタン」を押すことで従来の一覧表示から選択するといいだろう。一覧表示にした場合、ベースとなるフォトスタイルが確認できるのも良い点だ。

ここまで詳しくリアルタイムLUTを紹介した理由として、筆者はこのLUMIX S9をリアルタイムLUTを使って撮影を楽しむことを前提にして作られたカメラだと考えているからだ。

デジタル一眼レフ創世記の頃から、カラーリングは自宅に帰ってからRAWデータ(現像されていない生の状態のデータ)を使ってじっくりやるものだというのが定説だったと思う。実際、筆者も四半世紀前からそうしてきた。しかし、リアルタイムLUTを使い始めてから、その場でカラーリングされた結果を楽しみながら撮影する喜びを知ることができた。好きな色味を選択し、それにあった構図で撮影する。そういった撮り方は、帰宅後にカラーリングする従来の撮影方法ではなし得ない。

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同じ場所・時間でも両氏のLUTの違いでここまで色の変化が見て取れる。この選択こそがリアルタイムLUTの醍醐味と言えよう

また、好きな写真家(映像作家)さんのLUTを使うことで、その人になりきって撮影するなんて楽しみができるのも、このリアルタイムLUTの楽しみ方のひとつだと思う。現在でもLUMIX Color Lab上に多くのLUTが公開されているが、アプリ「LUMIX Lab」がもっと多くのユーザーに広まれば、多くのLUTが共有し合え、写真家・映像作家の垣根なく楽しめる日が来るのを、楽しみにしたいと考えている。

リアルタイムLUTを使用する上で便利な小技をひとつ。他のフォトスタイルからリアルタイムLUTに変更する場合は「LUTボタン」一発で変更が可能だが、逆にリアルタイムLUTから元のフォトスタイルに戻る場合は、「LUTボタン」を押した後に「Q(クイックメニュー)ボタン」を押すと、元のフォトスタイルに戻れる。

メニューからフォトスタイルを選択して目的のフォトスタイルを選択しがちだが、この方法だと2PUSHで戻れるので、ユーザーはぜひ覚えておいてほしい。

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コントラスト高めの明暗がハッキリとしたモノクローム。これで撮るだけで上手くなった錯覚すら起こす
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LUMIX S9から粒状感を足すことができるようになった
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ハイブリットズーム

LUMIX S9には、ハイブリットズームという機能が搭載された。この機能は光学ズームとデジタルズームを融合させたような機能で、ユーザーは光学ズームを使っているだけなのに、違和感なくデジタルズームも併用する機能である。

ズームレンズ広角側の場合は、デジタルズームはOFF。そこからズームしていく量により、合わせてデジタルズームをかけていき、最終的な望遠端側に到達した時点で、設定した最大倍率のデジタルズームが効く機能となっている。

つまり自分の持っているズームレンズの望遠側が伸びるという便利機能である。キットレンズの28-200mmが最大28-600mmのレンズとして使える訳なので、まさに夢のような機能ではあるが、いくつか注意点もあるので、ここで紹介しておく。

  • フルHD60Pでは使えない
  • 純正レンズとそれ以外のレンズだと、デジタルズームの滑らかさが違うように感じる
  • 「ハイブリットズーム(写真)」の「下限画像サイズ」(M1.4倍 S2倍 XS3倍)だが、XSだと200万画素になるので実質使用は難しい。S以上をオススメしたい

ハイブリットズームの設定の中に「広角端のクロップズーム」という設定がある。筆者が複数のレンズで検証した結果、本機能をONにすると、ワイド側20%はハイブリットズームにならないことがわかった。

「広角端のクロップズーム」は、動画と静止画でON/OFFが分けられている。動画時はズームのカクツキを抑える効果があるらしいが、筆者が使う分にはそこまで変化を感じられなかった。 どちらかと言うと静止画の方が重要で、本機能がOFFの場合、広角端から1mmでもズームさせた時点で画質がMサイズになる。広角側で撮る場合にLサイズ画質を担保したい場合は本機能をONにしておくことをオススメする。

なお、以下がアスペクト比3:2時の記録画素数である。

  • Lサイズ:6000×4000 3:2
  • Mサイズ:4272×2848 3:2
  • Sサイズ:3024×2016 3:2
  • XSサイズ:1920×1280 3:2
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ハイブリットズームは「クロップ」なので、レンズのマクロ性能に準じてさらに寄れる
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動画撮影について

今回の寄稿にあたり、三重郡菰野町にある「湯の山 保護猫かふぇ またたび庵」さんにて、作例を撮影させていただいた。店内は猫が落ち着けるようかなり暗めにしてあったが、ノイズ感も少なく撮れていたのではないかと思う。LUMIX S9は動画の連続撮影時間に制限がかかっているが、1シーンが短めの映像を繋ぎ合わせるのであれば、時間制限も問題ないと感じた。

LUMIX S9にS 24-105mm F4 MACRO O.I.S.をつけて、全て手持ち。手ブレ補正ブーストまで使用しました(電子手振れ補正はOFF)


ホットシューとフラッシュ同調速度

SNS上でLUMIX S9には「ホットシュー(電子接点を備えるシュー)」がなくストロボが使えないという嘆きに近い反応も見受けられた。LUMIX S9はメカシャッターを廃止し電子シャッターとしたため、ストロボとの同調がとりにくくなっている。

最近の主な電子シャッター搭載機種のフラッシュ同調速度を挙げていく。

  • fp 1/30
  • fp L 1/15
  • Z9 1/200

価格帯から考えれば、fpと同等の1/30くらいになるかもしれないが、それでもホットシューを付けてほしかったという要望は(カメオジ界隈では)多かったのかもしれない。

しかしLUMIX S9のキャラクターやコストを考えると、電子接点を持たないコールドシューを選択したのは、やむを得なかったのではないだろうか?筆者個人としては、それでもホットシューが欲しかったと思うが、コールドシューを選択した思い切りがあったからこそLUMIX S9が誕生したのだとあえて称賛したい。

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LUMIX S 26mm F8

今回LUMIX S9をお借りするにあたり、同時にLUMIX S 26mm F8もお借りしたので、使ってみた感想を書き留めておく。

箱から出してまず驚いた。レンスキャップなし。フィルター取付用ネジなし。なので、外玉の方は常に外気にさらされた状態になる。まさにボディキャップレンズという作りである。

写りはピントが合えば良好ではあるが、意外とピントを合わせるのが難しい。LUMIX S9の背面液晶を睨みながら撮るレンズなのか?と疑問に感じてしまう。そんな筆者が考えた撮り方は、ピントリングを無限遠に合わせて、テープで固定して使う方法。あとはボディキャップとして装着し、被写体に向けてモニターも確認せずにシャッターを切る。

すると「写ルンです」で撮ったかのようなピントが微妙に甘い写真が量産される。しかしそれも味があって良い。筆者がまだ小学生の頃だった、昭和末期の写真を見るかのような映像にノスタルジーを感じてしまう。

そういう楽しみも許容させてくれるのが、このレンズとLUMIX S9の組み合わせではないかと思わせてくれる一本だと思っている。

ちなみにこのレンズはLUMIX S9発売記念キャンペーンのプレゼント品となっており、2024年9月15日までに購入し、応募すると無料でもらうことができる。ぜひこの期間中にLUMIX S9を購入、応募して、手に入れたい逸品である。

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総括

完成度としては初代LUMIX S5を彷彿とさせた、非常に高い完成度でありながらも、いまひとつ足りないと感じるもどかしさを兼ね備えたカメラ。それをデザイン性が補って余りある。そんな印象を受けた。

業務など機能的に全てが揃ったカメラが必要なら、LUMIX S5IIを選択する方法がある。しかしLUMIX S9には魅力的なデザインと、多くの遊び心があり、僕はこのカメラを初心者、熟練者にかかわらず、多くのユーザーに手に取ってもらい、写真や動画を撮る楽しみを味わってもらいたいと考えている。

特に往年の写真・カメラファンには言いたいことも多くあると思う。しかし、とにかく一度使ってほしい。使ったら手放せない楽しさと満足感が得られるカメラだと思うから。

あきあかね

1977年生まれ。本業の傍ら2020年よりYouTubeにて映像作品や製品レビュー等を発信している。
近年では副業として企業VP制作や自治体からの依頼で映像制作や配信業務を請け負うサラリーマン映像作家として活動中。

WRITER PROFILE

編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。