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第二四半期に発表されたATEM Constellationシリーズ等にベストマッチなATEM Micro Panel。この手にできるのを今か今かと待ち望んでいたが、この夏が明けようとしている9月上旬よりいよいよ日本国内での出荷が始まった。

その価格は11万円強と円安の厳しい昨今では若干の割高感を感じつつも、Constellation 2 M/E所有の自身としてはその到着を心待ちにしていた。今回はその有用性と、想定できるシーンを探っていこう。

そもそも、Constellationに見合うコントローラーは割高

コンシューマー向けに販売されているATEM Miniシリーズであれば、コントロールパネルとスイッチャー本体が一体型であるので運用については問題なかったものの、そこから一体型のスタイルで業務に使うとなればTelevision Studioシリーズを選択する人が多かったように感じる。

その理由はなんと言っても価格で、Constellationシリーズのようなラックマウント型のスイッチャー機を購入した場合には、もれなく50万円以上もするハードウェアコントローラーを購入せねばならなかったからだ。

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スイッチャー本体よりも高いコントローラーというのは探せば他にもあるかもしれないが、Blackmagic Design社のユーザーの層を考えるとおいそれとは手が出ない。仕方なしにサードパーティ製のスイッチングパネルやMIDIコントロールによるオペレーション。またはMixEffectなどのAppに頼っていた部分がある。

私もサードパーティ製のATEMコントローラーを10万円前後で購入をしたものの、若干の接続の不安定さなどもあり、実は現場ではおっかなびっくりな感じでオペレーションに当たっていたのは他の方々にも経験があるかもしれない。

今回登場したMicro Panelはそうしたサードパーティ製の不安から解放される品であると考えれば、一つの価値であるように感じる。

1Uラックとほぼ同じぐらいの占有幅で痒い所に手が届く!

さて、いよいよその本体に触れるが、まずはそのコンパクトさに可搬性能の良さを感じる。これまで販売されてきたAdvanced Panelは最も軽量なものでも5.5kgを超えてきたが、Micro Panelは1kgに抑えており、軽量スーツケースの中にもすっぽりと収まってしまう。専用のハードケースを用意してうやうやしく運んでいたこれまでを考えれば圧倒的なアドバンテージである。

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Micro PanelにはTバーではないロープロファイルのトランジションフェーダーが設けられているが、むしろこれがいい。自身はサンワサプライ社で販売しているキーボードケースIN-C8をよく使用しているのだが、これがまさにシンデレラフィットするのでMicro Panelを運搬する際には参考にしてほしい。なお、Advanced Panel用のTバーとは互換がないので交換はできないようだ。

一般的なエアキャップにくるんでも十分ケース内に収まるので、キャリーケース内に収納した運搬でもおそらく問題ないだろう。にもかかわらず、Micro Panelはその大きさの中に必要最低限の機能が十分に備わっている。

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まずは、スイッチングする際のPRG/PRVの2列配置。トラジション不可欠の現場の場合このレイアウトは必須で、ATEM Miniのような1列構成だとオペレーションに不安を感じている方々はこれに安堵する。この部分はATEM Setupからのコンフィグで変更が可能でA/B切り替えに設定することもできる。

1列10個のボタンで、押した感じはAdvanced Panelと変わらず、これまでのATEM Miniシリーズのようなグニャッとした押し心地や、スイッチングミスを最大限抑えてくれる。「これだよ、これ。」という感じだ。

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ハードウェア的には1列10個のボタン配列だが、SHIFTを押すことでその数は20までアサインすることができ、これについてもATEM Setupから変更が可能だ。そして色も4色と無灯の5つから選ぶことができ、ボタンアサインもCAMやMedia Player、Super Sourceなどの種類に合わせて運用できるのはとてもありがたい。

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また、これらの設定は保存・読み込みが行えるようになっているので、環境に合わせたセッティングをあらかじめ作っておけば、久しぶりの現場でもすぐに運用ができる。

ATEM Miniシリーズにも勧めたい

ちなみにこのMicro PanelはATEM Miniシリーズでも使用することができるのだが、そのような現場でも使用できるように、Media Playerに読み込んでいた静止画などを一発で表示できるような機能を持たせてくれるとさらに利便性が増すと思うので、ぜひとも今後のアップデートでお願いしたいところでもある。

現状ではMacroを組んで表示させるという流れになりそうだが、本機にはMacroボタンのアサインは10個までとなっている。静止画ぽん出しのためにMacroを使用するのはもったいないし、若干操作の煩雑さが増すのでできれば指一本で対応できたらと願わずにはいられない。

またこれはATEM Mini Extremeシリーズのユーザーに限定される話になるのだが、Extremeには4つのキーヤーと2つのDSKがありながら本体にはKEYボタンとDSKボタンがそれぞれ1つしか実装されていない。つまりKEY2〜4をスイッチングで選択するためにはATEM Control上、または外部コントローラーから行わねばならず、ユーザーは様々な選択を強いられた。

今回、Micro Panelには4つのキーヤーと2つのDSKがネクストトランジションと共に備えられているので、そうした操作の悩みから解放してくれる。このほか、本体にはMIXやWIPEといったトランジション切り替えのボタンもあり、これはATEM Miniシリーズなどと同様に操作をすることができる。

気になるのはAdvanced PanelにもあるARMボタンだが、現状ではまだ有益な情報は得られておらず、今後のアップデート情報に期待したいところである。

このサイズで4 M/Eまでのオペレーションに対応!?

なんと言ってもありがたいのは、このサイズ感でありながら4 M/Eまでのコントロールに対応していることである。これは私の持つサードパーティ製のコントローラーでもできなかったことなので、とてもありがたい。

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M/Eというのはミックスエフェクトの略で、端的にいえば4 M/Eのモデルであれば、スイッチャー4台分の映像処理を1台の中で行うことができる。噛み砕けば、ATEM Extreme4台それぞれでKEYやDSKを用いて様々なレイアウトを作っておき、それをシームレスに切り替えることができるという感じだ。

もちろん、それらはPROGRAMを切っていない時には自由にレイアウトの変更ができる。

ただ、この4 M/Eまでのコントロールを1台で集約させてしまうことは、本機での慣れがない限り現場でのオペレーションが煩雑になる可能性があるので、しっかりと予習をさせておきたい。

自身の場合はMacroを組んでなるべく操作系を簡素化させているのだが、前述の通りMicro PanelにはMacroが10個までしかアサインできないので、STREAM DECKなどを用いてコントロールパネルの拡張を図ったほうがよさそうだ。

ワイヤレスでセルフオペレーションも!

これまでになかったワイヤレスでのオペレーションは本機のちょっと面白いポイントだ。例えば、少し離れた場所でリハーサル時に映像のルーティングや切り替えの確認をするときなど有効的に活用でき、ワンオペで人手が足りないときなどに重宝する。

接続は簡単でPC本体をBluetooth接続待ち受け状態にし、Micro Panel本体背面のBluetoothボタンを長押しすればペアリングまで進めることができる。

ただ、その接続距離は弊社事務所環境では壁一枚を隔てて10m弱であったので、大規模会場などでは大々的な信頼をおいて本番運用するのは避けたほうがいい。ちなみに、Bluetooth接続が途切れてしまった場合はMicro Panel自身のLEDが消灯するので、疎通トラブルが起きた場合にはすぐに対応できそうだ。

また、本機はIP接続でコントロールするものではなく、あくまでPC上のSoftwere ControlをMIDI接続で操作するような仕組みになっているので、ソフトウェアを閉じてしまったりすると同じように、PanelのLEDが消灯しコントロールはできないようになっている。

なので、Bluetootheを用いた接続はあくまで補助的な役割上だ。メインスイッチャーはエンジニアが管理し、登壇者が任意で映像を切り替えたいとき。または、ワンオペ時において映像の疎通確認の際に用いるなどすればその恩恵を受けることができそうだ。

あとは10インチ前後の極めてコンパクトなPCを用いて接続する際には、USBインターフェースが1つしかないような場面もあるので、その際には本機が大活躍しそうである。ただし、USBチャージしながら運用してほしい。Panelには内蔵バッテリーがあるが、その持続時間はおよそ6時間である。

ただ、物足りない部分ももちろんあって

私の感じるConstellationシリーズの魅力はレイアウト能力というよりも、入出力端子の多さだ。2M/Eモデルであれば20入力12出力の端子が備えられており、リアルカンファレンスや音楽ライブ会場などでは多方面に向けて映像を出すことができ大変重宝する。

いうなれば、VideoHubのような役割を果たすことができ、過去の大規模現場では安定した映像ルーティングという実績を残している。

おそらく配信や大規模カンファレンスの現場では、スクリーン上や登壇者ミニモニター、クリーンフィードの収録など各方面に向けて映像を出し分けする必要があったりする。このような場面ではAUX OUTの多さは大変便利なのだが、その切り替えなどはPanel上で行うことはできない。そこまでできたらこれ以上言うことはないのだが…。次世代のMicro Panelも検討しているのであれば、実装していただきたい部分である。

現状ではPC上のSoftwere Controlか、STREAM DECKなどでAUXの切り替えをすることになりそうだが、先日1Uラック型のSTREAM DECK STUDIOの発表もあったので、組み合わせると力強い。

学生に使わせてみた

ここからは余談になるのだが、自身は洗足学園音楽大学で配信のレッスンを担当する講師を務めているのだが、今回発売されたばかりのMicro Panelを学生に使わせてみることにした。

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というのも、学内にはConstellation の1M/EモデルはあるもののオペレーションするためのPanelがなく、せっかくの機材が運用できずにいたためである。運用シーンはカメラはPTZ3台、業務用カメラ2台の5カメスイッチングの音楽ライブ配信。

接続についてはスムーズで、ATEM のファームウェアを9.6以上にアップデートさえすればすんなりと完了した。セットアップ中に興味深そうにしていたのはボタンのカラー切り替えで、ある男子学生は「ああ、こんなこともできるんですね!」と嬉しそうにいじり倒していたのが印象的だった。

例えば、今回のようなPTZと有人カメラの運用などの場合は、カメラ種類によってカラーを変えるなんていうこともでき、スイッチングをする上でちょっとしたミスを防ぐことができそうだ。

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また、別の女子学生にもオペレーションしてもらったところ、「これまで使っていた(国内他社)スイッチャーに比べると、ちょっと押しづらいかも」といった声もあり、Micro Panelの少し硬めのスイッチ感覚は慣れが必要なのかもしれないとも気づかされた。

ただ、フェーダーによるコントロールはスローな切り替えでも映像がコマ送りのようなトランジションになることはなく、学生らは戸惑うことなく積極的に運用していたので、とっつきにくさ等はなかったようである。

Constellation選択の一歩になる一台

以上のことから感じたのは、このMicro Panelの登場はConstellationを選択する足掛かりになるのは間違いない品であるということである。

コロナ禍という言葉すら聞かれなくなった昨今、リアルカンファレンスの需要拡大や、Zoomの並行利用、クライアントへのモニター出しなどのサービスなどにより、映像ルーティング機能は多いに越したことはなく、その場合の第一選択としてConstellationは大いに活躍してくれる。

音響周りの設定やAUX出力の切り替えなどはできないものの、ある程度設定の決め打ちをした現場であれば、これまで通りの運用を低コスト、省スペース、そして手軽に運用することができるのは確かな優位性である。

ATEM Miniではスペック不足、しかしTelevision Studio HD8を持ち出すにはヘビーすぎる。そんな外部会場多めの映像オペレーターには、是非とも一度利用してほしい機体である。

前田進|プロフィール
1980年生まれ。CATV局キャスター出身のライブ配信エンジニア。2021年に株式会社映像制作MOTIONを設立。現在は数多くの映像制作現場に関わるかたわら、洗足学園音楽大学 非常勤講師として映像・配信に関する後進の指導にあたっている。
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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。