Xムラだけでなく、色の変化がほぼない可変NDを使ったことがあるだろうか?

筆者は仕事で可変NDを使うことはまずないが、このKenko「バリアブルND-W」は、そんな概念を吹き飛ばした!今回は、このND-Wをレビューしながら可変NDの正しい使い方を解説したい。

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  • 77mmモデル:税込49,800円
  • 82mmモデル:税込52,800円

可変NDはLog撮影の必須アイテム
しかし画質低下の犯人でもある

多くのクリエーターがLog撮影をしていると思う。しかし、Log撮影はISO感度が高くなり、特に動画では絞りきれずにシャッター速度を上げざるを得なくなる。Log撮影だけでなく、絞りを開けて背景ボケを使いたい時も、屋外では明る過ぎるのでシャッター速度を触ることになる。しかし、動画の場合には、なるべくシャッター速度は低いまま触らずに使いたい。

そこで必要になるのがNDフィルターだ。特に、1枚で濃さが無段階に変えられる可変NDフィルターは、フィルター交換することなく、まるで絞りを変えるように簡単に光の調整ができる。可変NDフィルターは特殊な偏光フィルター(C-PL)の二重構造になっていて、絞りリングのように回すと濃さが無段階に変化するのだ。確かに便利なフィルターだ。

多くのクリエーターが、この可変NDを安易な調光の道具として使っていることだろう。ところが、可変NDは、その性質や仕組みを知らないと恐ろしく画質を落とすことになる。いやいやXムラのことではない。Xムラとは、可変NDを濃くしすぎた時に生じる光の濃淡で、偏光フィルターを2枚重ねで作られているNDフィルターが必ず出てしまう性質だ。

作例:Xムラ

「いや、俺の可変NDはXムラが出ない、と箱に書いてあったぞ!」

「Xムラなし」と書かれている製品でも、広角レンズに付けるとXムラが出ることが多い。[作例:Xムラ]は、そのような謳い文句の1万円ほどの可変NDフィルターだ。FX30に11-28mm F2.8で撮影している。Xムラは端に行くほど強くなるのがわかる。標準レンズよりも狭い画角の場合は、作例の中心付近しか映らないのでXムラの影響が少ない。ところが広角レンズだとXムラが見えてくる。このXムラの出る方向は、可変NDの回転に伴って向きが変わる。

一方、これでおわかりだと思うが、Xムラがないとされる可変NDでも広角レンズで使うときにはXムラの影響を考慮しなければならない。製品の注意書きをよく読むと、広角レンズではムラが出ると書かれていたり、MINとMAXではムラなどが出ると記載されているはずだ。

また、作例からは可変NDを使うと発色が変わることも確認できるだろう。作例では空なので青の濃淡が違うだけにも見えるが、実際には全体の発色傾向とコントラストが変わる。

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作例:色被り(某社の可変ND)
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この[作例:色被り]は、可変値をメーカー推奨の外側である「MAX」にした場合の色被りである。これは極端な例なのだが、通常の可変NDは色がおかしくなることがあるのだ。これは、カメラのガンマ設定やサチレーション(彩度)によって強く見えたり見えなかったりする。

筆者はLog撮影には否定的なのだが、実は可変・固定に限らずNDを使うと色が変わってしまうのだが、LogにLUTを当てて現場で見ても、この色の変化に気づけないことが多い。言い換えると、可変NDのかけ具合で発色やコントラストが変わってしまって、オリジナルLUTを使ってしまうと、同じLUTなのに全然違う結果になり、LUTが悪いのか、何が悪いのか判断しにくくなり、悲惨な結果になることがあるのだ。

可変NDは発色とコントラストを変えてしまう
グレーディングが上手くいかないのはNDが原因かも

可変に限らずNDフィルターは色が付いたガラスを使うために、前述のように発色が変わってしまう。これはレンズのコーティングにも同じことが言えるのだが、全ての色(波長)で同じように減衰させるのは難しい。レンズのメーカーごとに発色傾向が異なるのは、実はコーティングの違いによると言っても過言ではない。つまり、固定でも可変でも、色がどの程度に変わるかどうかが製品の良し悪しを左右する。

つまり、NDフィルターは、固定NDであっても発色傾向が変わってしまう。このことはカメラマンなら知っておかなければならない。特に可変NDではND値(フィルターの回転量)によって色被りの強さや傾向が変わってしまう製品も多い。このことを知らずに使っているか、知っていても変化は軽微だと無視している人が多いようだ。

しかし、実際にはかなり大きな影響がある。特に可変NDは偏光フィルター(PLフィルター)の性質もあるため、被写体の色やコントラストが変わることがある。というか、ほとんどの可変NDが後のグレーディングに悪さをする「色の変化」をもたらしていることに気づいていないクリエーターも多いだろう。

作例:可変NDの比較

実際にテストしてみたが、ホワイトバランスを固定(作例は5300K)してチャートを撮ると、安い可変NDでは、これほどまでに差が出る。正直に言えば汚い!

某社製品では、全体に緑がかっているのがおわかりだろう。彩度も下がっているのだが、チャート最下部右端の黄色だけは彩度が上がっている一方で、下から2段目の6色はNDなしとほぼ同じなのに、特定の色に影響が出ている。これはグレーディングが難しい素材になっていると言える。

一方、今回の主役であるND-Wはどうか。明るさが若干変わっているが(筆者のミス)、発色はほとんど変わっていない。ちなみにニュートラルグレー付近(2段目右から3つ目)のRGB値は、

  • NDなし(138、142、142)
  • 他社の従来製品(144、148、138)←Bが下がっている
  • ND-W(132、134、134)

ND-Wは若干の露出不足だが、フィルターなしとほぼ同じ発色となっている。ハイライトとシャドーも同様で、某社の従来製品はGが強くBが弱くなっている。背景の白っぽい台の色では、その違いがもっと顕著で、

  • NDなし(224、230、230)
  • 他社の従来製品(220、221、210)←完全に色が変わっている
  • ND-W(238、243、243)

まあ、ハイライト付近はカメラの補正が入りやすい(ソニーではDR Optimizerの効果)ので明るい部分の描写に関してはNDの性能だけとは言えないのだが発色傾向は作例の写真を見ても違いがわかるだろう。

さらに、チャートの周りのプラスチック枠を見ていただきたい。樹脂やガラスを反射した光は偏光フィルターの影響を受けてコントラストが変わる。他社の従来製品では枠の左右でかなりコントラストが違っている。これは可変NDの調整角度(および取り付け角度)による偏光の影響が大きいことを示している。

ただし、偶然ということもあるので、良し悪しで評価するのは難しい。ただ、ND-Wはほとんど偏光の影響がないように見える。これはありがたい。

ISO感度オートが発色を変えてしまう
カメラ設定の意外な落とし穴

さて、NDフィルターが重要だということのもう1つのカメラ特性を解説したい。特に動画の場合はシャッタースピードと絞りをマニュアルで設定し、ISO感度をずらすことで適正露出を整えたくなるのではないだろうか?

ところが、ISO感度が変わると描写の特性が変わることがあるというのはご存知だろうか?極端な例で言えば低感度のISO125と超高感度のISO12600ではノイズ特性も全体の感じも違うということはわかるのではないだろうか?ソニーのBase ISO感度の考え方は、実は低照度の特性だけでなく、発色にも影響があるということだ。

[作例:ISO感度違いの描写]

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ISO125 1/30 F2
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    241119_Ongoing_KenkoND_05
ISO250 1/30 F2
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    241119_Ongoing_KenkoND_06.
ISO500 1/30 F2
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    241119_Ongoing_KenkoND_07
ISO640 1/30 F2
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これはND-Wを使って減光していった時のISO感度別の描写の比較だ。露出や、若干だがコントラストや色被りが違っている。実は、これはNDが原因なのかカメラ側の問題なのか、無段階のNDの減光に対して階段状のISO感度の微妙な露出のズレの影響なのかは判断できない。

いずれにせよ、ISO感度が変わると露出や描写に結構な影響がでるのは事実だ。

そういう様々なことを考慮すると、ISO感度も固定で撮影するのが、狙った描写をさせるのには有効だろう。

実際にND-Wを使ってみた
室内から屋外まで付けっぱなしOKな自然な描写

では、実際のレビューに移ろう。長年、映像の仕事をしていると、現場の光を見て(光を作って)、それに最適なカメラ設定を行うのがワークフローになっている。もちろん、最終的にはカメラを覗いて最終調整をするわけだが、現場の光以上のクオリティーをグレーディングで作るのは至難の業だ。

言い換えると、目で見た通りの映像がカメラで撮れることが重要になるわけだが、可変NDを使うと、前述のようにコントラストと発色傾向が変わってしまう。ところが、ND-Wはコントラストに若干の影響があるものの(素材の性質)、発色はフィルターがない場合とほぼ同一だ。

ちなみに、ND効果の範囲は、MIN(使うことは推奨されない)、2、3、4、5、6、7、MAX(Xムラが出る)で、有用な露出倍数では2倍(目盛2)〜128倍(目盛7)と非常に調整範囲が広い。最小が2倍なので、室内と屋外をこの1枚で対応可能、つまり、つけっぱなしでいいフィルターだと言える。

さて、実際の作例をみていこう。

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作例:ND-Wあり
レンズRemaster Slim 28mm F3.5:ND-Wあり:ISO125 1/400 F3.5
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周辺に減光がみられるが、これはオールドレンズ特性を持ったRemaster Slimの描写だ。ISO125 1/400 F3.5(開放)で、NDは3絞り分入っている。動画の場合、あと2絞り分だけ減光すればよいので、ND-Wが1つあれば、動画も低いシャッタースピードで撮影可能なわけだ。

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作例:ND-Wの天測シャッター
レンズRemaster Slim 28mm F3.5:ND-WありISO125 1/50 F3.5
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こちらは走行中の車内からの写真だ。絞り開放でもシャッタースピードは1/50まで落とすことができ、路面が流れているのがわかる。特に動画の場合にはシャッタースピードを適切にすることでパタパタした見苦しい映像を避けられる。

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作例:順光の風景1
レンズRemaster Slim 28mm F3.5:ND-Wあり
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作例:順光の風景2
レンズRemaster Slim 28mm F3.5:NDなし
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もっともNDの影響が出やすい条件で撮影してみたのが[作例:順光の風景1・2]である。NDなしでわかるように、レンズ自体のビネット(周辺光量の低下)が大きいのだが、ND-Wを使ったときにはコントラストが若干上がっているために、それが顕著に見えている。オート・ホワイトバランスにも若干の影響がある。

筆者の経験上、ND-Wが描写に与える影響は非常に少ないと感じた。青空の描写は可変NDにとっては非常に難しい状況だし、レンズの周辺光量の低下なのかXムラなのかの判断も簡単ではない。特に今回のようにビネット(周辺光量の低下)が大きい超広角レンズの場合、可変NDとの組み合わせは本当に難しい。

まとめ

筆者は映像制作を30年以上やっているが、とにかくフィルターには苦労させられてきた。特にプロ用のフィルターは高価で、他人の評判を聞いて買ってみたものの、実際にはダメだったものも多い。

そんなフィルターだが、特に可変NDは厄介である。色が変わってしまう製品がほとんどなのだ。ホワイトバランスで調整すればいいじゃないか、いやいや、可変NDの色への悪さは、そんな単純なことじゃない。極端に言えば、赤だけくすんでしまったり、緑だけ暗くなったり、そういうことが起きるのが安い可変NDだ。

ホワイトバランスを固定して撮ると一発でわかるのだが、某メーカーの製品だと、曇りの昼間に撮っているのに、なぜか夕方に見えた。もちろん、ホワイトバランスをオートにすれば全体的には実物に近づくが、夕方のような色から補正されるので赤がくすんでしまう。そのくらい、可変NDの影響は大きいのだ。

さらに、一定の色被りなら、我慢して(やりたくないけど)グレーディングで調整することもできる。だが、待て待て、可変NDの回転量を変えると、色被りの量も変わってゆく。動画の場合、致命的になる。

例えば、正面から会話のシーンを撮っていて、次に横から撮ろうとした時に光が違う。そこで明るさを整えるために可変NDを回したら肌色が変わってしまう。安い可変NDでは、そういったことが起きる。

グレーディングで肌色を同じにするには、カラーバランスを変えることでは対応できず、カラーカーブをいじることになる。なぜなら、特定の色だけ変わってしまっているからだ。そうなると、再現曲線(トーンカーブ)が違うので肌の質感が違ってくる。大きく色を変えた方の質感が失われがちになるのだ。色が悪い方を色が良い方へ近づけると、どんどん質感が落ちる。そこで、良い方を悪い方へちょっとだけ近づける。結局、2つのカットとも質感が悪くなるのだ。

まぁ、最近は映画でもテレビドラマでも、あまり質感を求めないのでそれで良いのかもしれないが、実は、狙いじゃなくて、結果的にそうなってしまっていると、筆者は思う。

それもこれも、安い可変NDを使ったが故の事故だと言える。

さて、そんなふうに可変NDが大嫌いな筆者だが、今回レビューするKenkoバリアブルND-Wはプロ用フィルターの中でも群を抜いて高価だ。1枚なんと6万円クラス。輸入品の映画用の角型フィルターも高価だが、このKenkoバリアブルND-Wは、異次元の値段だと言えるのではないだろうか。

しかし、フィルターの老舗であるKenkoが筆者に「とにかく使ってみて欲しい」ということで使い始めたのだが、こりゃびっくり。思わず叫んでしまったほどだ。

言ってしまえば、この製品は単なる可変NDの丸型フィルターでしかないのだが、結論を先に言えば、「最高画質を求めるなら、買い」である。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。