OnGoingReView_cinemamaster_top

SLIK シネママスター274。重量1.98kg、最大高161cm(雲台の上まで)。プロの要望で作られた放送局仕様の小型三脚だ

  • 希望小売価格:税込66,000円
  • 発売日:2023年5月19日

触る前「このような三脚、求められているのだろうか?」
触った後「メーカーさんごめんなさい、この三脚以外、使う気が起きません!」


ケンコー・トキナーから、プロ仕様の動画用三脚「SLIK シネママスター274(以下:シネママスター274)」が発売になる。DAIWAの名ビデオ三脚VT-551II(現行機種)の後継にあたる。

放送局でのサブ三脚としての用途で、価格を抑えつつ、プロの要望に応えられる仕様が盛り込まれた。

前身のVT-551はプロ用のトラベルビデオ三脚として使っているカメラマンが多い。今でこそ中華製のトラベル三脚はカーボン製で1kg前半になっているが、かつてトラベル三脚と言えばDAIWA。スーツケースに入る本格的なビデオ三脚として、多くの撮影現場を支えてきた。筆者もVT-551(初代)の愛用者だ。今でも映画の撮影現場でVT-551を使っているのをよく見かける。

そして、今回は多くの改良が加えられて、SLIKブランドで登場する。

小ぶりな雲台は、斜めパンもとても楽にできる

まず、ビデオヘッドは、一言で言えば、これまで使ってきたザハトラーの数十万円の三脚を除けば、圧倒的に使いやすく滑らかだと評価できる。

実はケンコー・トキナーから触ってみてほしいと言われた時に、正直なところ、このクラスの三脚としては高価過ぎて魅力を感じなかった。むしろ、誰がこれを買うの?という印象しかなかった。

ところが実際にカメラを載せて使ってみて、筆者はメーカー担当者に詫びを入れたくらい、恐ろしく滑らかで扱いやすいビデオ雲台であった。

「もう、古いザハトラーの出番はない」と思っている。

OnGoingReView_cinemamaster_01
OnGoingReView_cinemamaster_02

特殊な樹脂で作られたビデオ雲台。このサイズでは無理だと思われていた滑らかさが実現されている。

ちなみに、ビデオ三脚の良し悪しを簡単に見分けるには斜めにパンするといい。良い三脚は動き出しから斜めにパンができる。ところが、ダメな雲台だと縦か横のどちらかが先に動き出してしまう。そして、もっとダメだと階段状にパンしてしまう。

このシネママスター274は、簡単に綺麗な斜めパンを提供してくれた。自分の腕が上がったのではないかと勘違いするほどだ。

開発者によると、このシネママスター274は、パンとチルトの機構は全く違うのだが、オイルの粘性で動作の粘りを作り出す部品の接触面積を揃えることで、2つの方向の動作が全く同じフィーリングになるようにチューニングされているとのことだ。これまでのDAIWAとSLIKの技術を注ぎ込んだ結果だといえよう。

ちなみに、最近ネットで数多くみられる1万円~3万円程度の安いカーボン三脚は、どれも斜めパンが非常に難しいか、全くできない。海外製のビデオ雲台で滑らかな斜めパンができる雲台は5万円程度だと筆者は思う。

そういう意味では、このシネママスター274は、脚とのセットで税込66,000円なので、価格のバランスは、実は悪くない。

また、このビデオ雲台は、新開発の樹脂基材を用いることで非常に軽く仕上がっている。ボールレベラーは60mmと小さいが、ミラーレス一眼であれば、大きなレンズを付けても2kg程度のため、水平出しには何の支障はない。事実、筆者がFX30に1.2kgの標準ズーム、モニターを載せても問題なかった。

アルミ脚ながら、軽くて素早いセッティングができるのが魅力

脚には、SLIKの技術がたくさん持ち込まれた。開発者によると、

放送局のベーシック三脚といった位置づけから、価格が高くなりすぎないようにカーボンではなく、金属脚パイプで検討しました。一方で2kgを切りたいというところもあり、SLIKの独自技術の軽合金である「A.M.T.合金」を採用しています。

OnGoingReView_cinemamaster_03
脚を全部伸ばした状態で、身長170cmの筆者

A.M.T.合金はアルミとマグネシウムとチタンを絶妙なバランスで混ぜ合わせることで、高い強度のままパイプの厚みを0.8mmまで落とすことに成功。

普通のアルミ三脚である現行のダイワVT-551 IIが3段、1960gで全高1380mm(雲台なし)、畳んだ状態で680mm(雲台含む)であったのに対し、シネママスター274は4段、1980gで全高1510mm(雲台なし)、畳んだ状態が610mm(雲台含む)という、持ち運びしやすい重さ+長さで、高い全高を実現している。

実際に使ってみると、非常に背が高い三脚だと驚かされる。エレベーターなしで165cmくらいまでレンズが上がってくる。雲台部分が11cmほどあり、脚部が前述の150cmから11cm上がって161cmがクイックシュー(アルカスイス準拠)の高さになる。ここにカメラを載せると身長170cmの筆者の顔の高さにカメラがくるわけだ。通常の撮影で必要十分な高さだ。

脚を全部伸ばした状態では、やはり強くパンした時に脚がわずかにしなる。しかし、雲台の性能が高いので、素早いパンで脚がしなったとしてもパン棒を握って動きを抑止してやると素早くしなりが解消され、手を離してもカメラが揺れ戻ることはない。これは三脚の付け根の構造や強度がしっかりしていることを示している。

アルカスイス互換プレートで素早く設置。3段階に広がる脚でベビー三脚としても使いやすい

そのほか、クイックシューとしてアルカスイス互換プレートが採用された。付属のプレートのほか、汎用のプレートが使える。もちろん、滑り落ち防止のプレートネジにも対応している。

また、このプレートは前後にズラすことができるので、レンズ重量に合わせてバランスをとることが可能だし、付属の短いプレートでは足りない場合には、汎用のアルカスイス互換のロングプレートも使える。チルト方向には固定強度だがカウンタースプリングも内蔵されているので、ネジの締め忘れでカメラが前後へ倒れ込むような時に、かなりそれを抑止・もしくはショックの軽減をしてくれる。

一方、脚は3段階ロックで開閉量が変えられる。この機構は、今の三脚では当たり前になっているが、実際の運用時に片手で角度調整のノブを操作できるか、脚を閉じる時にどれだけ簡単かということが気になる。普通の三脚は、ノブを引き出すことで、通常よりも広い角度で脚が開く。

ところが、シネママスター274の開閉ノブは押し込むことでロックが外れて広く脚を広げることができる。つまり、引き出し式の場合には最低でも2本の指でノブで摘んで引き出す必要がある。これが意外に厄介で、引き出す時にその脚をもう片方の手で掴む必要がある。すると、三脚重量を支えつつノブを引いて脚を開くということになって、実際には三脚を抱える姿勢でないとうまくできないことが多い。

ところが、シネママスター274は親指などで指一本で押し込めばいい。これは非常に便利で、三脚の残りの脚を地面につけたまま、つまり重量は残りの脚に残したまま、ノブを押して脚を広げることができる。実際に使うと、もう、引き出し式の三脚には戻れない気がする。

トラベル三脚としてのスペックはクリア

プロ用のビデオ三脚としては、前述のように非常に小さく軽いが、最近はもっと小さな三脚も多い。

ただ、実際にどのサイズがロケで必要になるかというと、筆者は飛行機での機内持ち込み制限範囲以内を目安にしている。航空会社によって若干の差はあるが、格安航空機の場合、全長52cmだ。スーツケースの長辺の長さ規制なのだが、筆者の場合スーツケースに斜めに入れてあった三脚が規制の長さを超えるのではないかと疑われたことがあった。つまり、スーツケースに収まるからといって、実際の長さが規制を超えると手荷物にならない可能性がある。

さて、この雲台を付けたまま三脚の場合畳んだ状態で61cmだが、雲台を外すと51cmになる。つまり、格安航空を使える。これはありがたい。

一方、持ち歩く場合はどうか?重量約2kgを重いと感じるか軽いと感じるか。これだけ滑らかに動くプロ用ビデオ三脚としては、驚くほど軽い。山歩きを想定した場合はどうだろうか?

正直に言えば、1.5kg以内の三脚が欲しい。ただ、この素晴らしい雲台と扱いやすい三脚の組み合わせは、この上のクラスのザハトラーAceクラスに匹敵する。Aceは4.1kgということを考えると、半分の重量で同じような滑らかなパンができるのだから、やはり、画期的な軽さだと言えよう。

仕様

全高 1510mm
縮長 610mm
地上最低高 325mm
重量 1980g
段数 4段
パイプサイズ 〇26.8mm
最大搭載重量 3kg

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。