はじめに
Hollylandは、ラベリアマイクを接続することができるワイヤレスマイクのフラッグシップモデル「LARK MAX」を2023年6月28日に発売する。
発売に先立ち、LARK MAXの実機に触れることができたので、すでにHollylandから発売されているLark 150やLark M1との違いも少し混ぜつつ、新しく発売されたLARK MAXを紹介していく。
なお、機能や仕様については執筆時点のものであり、将来ファームウェアアップデートによって変更される可能性があることを、あらかじめご理解いただきたい。
パッケージは「Duo」「Solo」の2種類
LARK MAXのパッケージは"受信機と送信機が2つ、チャージングケースがセット"の「LARK MAX Duo(希望小売価格:税込47,300円)」と、"受信機と送信機が1つのみ"の「LARK MAX Solo(希望小売価格:税込31,900円)」の2種類がある。
このほか、DuoとSoloのそれぞれのパッケージには、
- クリップマグネット×2(Duo)OR×1(Solo)
- ウィンドシールド×2(Duo)OR×1(Solo)
- 3.5mm TRS to 3.5mm TRSケーブル
- USB-C to Lightningケーブル ※MFI認証を取得
- USB-C to USB-Cケーブル
- USB-C to USB-Aケーブル
- ストレージケース
が含まれる。なお、ラベリアマイクは別売。
デジタル音声出力が可能となった受信機
受信機は DSLRカメラやミラーレスカメラなどと接続する3.5mm TRSオーディオ出力と、適切に収音ができているかをイヤホンやヘッドフォンで確認する時に利用する3.5mm TRSヘッドフォンに加え、新しくUSB Type-Cのインタフェースが備わっている。
付属のUSB-C to USB-CケーブルでAndroidスマートフォン、MFI認証を取得した付属のUSB-C to LightningケーブルでiPhoneやiPadをつなげば、デジタル音声出力が可能。
そして、LARK MAXはUSB Audio Class(UAC)規格にも対応。スマートフォンのみならず、高品質の音声を送るオーディオインタフェースとしてパソコンにも接続して利用することもできる。
受信機の稼働時間は約9時間、充電時間は2時間未満とされている。
送信機にクリップマグネットが新たに付属
送信機にもラベリアマイクをつなげられる3.5mmオーディオ入力に加え、新しくUSB Type-Cのインタフェースが備わっている。
なお、送信機には「送信機単体でレコーダーとして使用可能な録音機能」(後述)があり、内蔵ストレージへ記録されたオーディオデータを取り出すときにUSB Type-Cのインタフェースを利用する。
また、デザインが長方形となり(=Lark 150では正方形のデザイン)、話し手の胸元につけた時の印象がよくなった感じがする。
送信機の稼働時間は約7.5時間、充電時間は2時間未満、送信距離は最大250m(=Lark 150では最大100m)とされている。
なお、LARK MAXの送信機にはクリップマグネットが付属。
私が試した限りでは、Tシャツなどの夏場の洋服だけでなく、フリースなどの冬場の洋服でもクリップマグネットで送信機を取り付けることができた。激しく動き回ることがなければ、送信機が落下する恐れは今のところはなさそうだが、あらかじめ装着具合をチェックした上で活用したほうが良いかもしれない。
気を抜くと、マグネットを紛失してしまいそうなのが心配だが、このクリップマグネットは使ってみるととても便利である。なくしてしまわないように注意をしつつ、できるだけ口元へ近づけて適切な収音ができるよう、うまく活用したいところだ。
チャージングケースは送信機2台と受信機1台を約2回充電
先にも紹介した通り、Duoパッケージに含まれるチャージングケースは2つの送信機と受信機が収納できるケースであると同時に、送信機と受信機の充電をする充電器としての役割も担う。
チャージングケースのバッテリー容量は2800mAhで、送信機2台と受信機を約2回充電することができる。充電時間は2時間未満とされている。
なお、Lark 150のチャージングケースには短めのUSBケーブルを1~2本収納できそうなスペースがあるが、LARK MAXのチャージングケースにそのスペースはない(付属するストレージケースのポケットへ収納する)。
USB Type-Cによる送・受信機本体の充電も可能に
LARK MAXでは送信機と受信機それぞれにUSB Type-Cのインタフェースが備わっている。
これにより、チャージングケースが手元になくても、USBケーブルを用いて送信機や受信機を直接充電することができる(=Lark 150ではチャージングケースがないと充電ができなかった)。
送信機と受信機が収まったチャージングケースはLark 150のときと比べれば格段に重さが抑えられたものの、LARK MAXを(Lark M1/C1のように)いつでも使えるようバッグへ忍ばせておくことは、なかなか気が重いかもしれない。
そんな時、上の写真のような小さなポーチに送信機と受信機のみ、そして充電をするためのUSBケーブルとUSB充電器を忍ばせ、外出先でバッテリーが心もとなくなってしまった場合はUSB Type-Cのインタフェースを通じて直接充電をする。
そして、自宅や事務所へ戻ったら、チャージングケースへ送信機と受信機を収めるとともに、改めて充電しなおす、というオペレーションもできそうだ。
この場合、送信機と受信機は電源ボタンを押して明示的にON/OFF操作をしなければならないが、送信機と受信機もUSB Type-Cインタフェースによる直接充電ができるようになったことで、必ずしもチャージングケースを持ち出す必要がなくなった。
LARK MAXをあらかじめスケジュールされた撮影などで使いたい時は送信機と受信機をチャージングケースに収めて持ち運ぶので良いが、いつ使うかわからないけれども持っておきたい時は必要な充電手段だけを準備して、思い切ってチャージングケースは置いて行くという割り切りもありだと感じた。
受信機にはカラーの1.1インチAMOLEDタッチスクリーンが搭載
LARK MAXの受信機にはカラーの1.1インチのAMOLEDタッチスクリーンが搭載。
Lark 150と比べるとメニューの視認性、設定をする時の操作性が向上し、メニューも直感的に入っていけるように感じる。
チャージングケースに受信機が収まっている時は「送信機と受信機、チャージングケースそれぞれのバッテリー残量」を表示。
受信機の電源が入ると「現在設定されている録音モード」「ノイズキャンセリング状態」「3.5mmオーディオ出力、USB、ヘッドフォンの接続状態」「送信機の接続状態や信号強度」などを視覚的に確認できるようになっている。
左にある(MENUと書かれた)コントロールノブを回すと、受信機の出力音量設定画面となり、LチャンネルとRチャンネルの出力音量(Left Output / Right Output)の調整ができる。
コントロールノブを押すと、録音モード(REC Mode)、送信機のマイク(Mic Settings)、EQやシステムの設定ができるメインメニューへ移る。
右にあるホームボタンを押すと、受信機のクイック設定画面となり、送信機1と送信機2のミュート、ノイズキャンセリング、録音のON/OFFを操作できる。
Lark 150に続き、録音モードは3種類
LARK 150と同様に、受信機の出力を設定するRECモードは「Stereo」「Mono」「Safety Track」の3種類。
「Stereo」は送信機1の音声がLチャンネルに、送信機2の音声がRチャンネルに出力され、「Mono」はLチャンネルとRチャンネルの両方から送信機1と送信機2両方の音声が出力される。
「Safety Track」は「Mono」と同じようにLチャンネルとRチャンネルの両方から送信機1と送信機2両方の音声が出力されるが、RチャンネルはLチャンネルよりおよそ6db低いレベルで出力されるモードである。
Mic Gain、EQが設定可能に
LARK MAXで新しく調整が可能となったMic Gain設定。
コントロールノブを押し、受信機のメインメニュー画面から「Mic Settings→Mic Gain」と進むと、送信機1と送信機2の入力ゲインを調整できる。
また、EQも新たに設定することができるようになった。
設定はHi-Fiオーディオの録音を高い再現性で実現するとされる「Hi-Fi」、低音が減衰される「Low Cut」、そして音声の明瞭度が良好になるとされる「Vocal Boost」の3種類。
デフォルト値は「Hi-Fi」で、個人的には人の声に厚みが増すような印象を受ける「Vocal Boost」が今のところ気に入っている。
使うシーンに応じてEQの設定を切り替えて、その時々に応じて設定を使い分けてみるのが良いだろう。
送信機単体でレコーダーとして使用可能な録音機能
LARK MAXでもっとも注目をしたいのは「8GBの内蔵ストレージを搭載し、送信機単体でレコーダーとして使用可能な録音機能」である(=Lark 150にはなかった)。
送信機1/2のRECボタンを押すか、受信機のクイック設定画面から録音の開始と停止を操作する。
送信機と受信機のどちらでもON/OFFがコントロールできるので、マイクをつけた話し手自身に送信機側で録音を開始してもらうことも可能であり、撮影者自身が受信機側でコントロールすることも可能。
また、録音の開始と停止のタイミングは送信機ごとに独立しているので、例えば「送信機1は録音の必要はないけど、送信機2だけ録音をしておく」という運用もできる。
録音フォーマットはロスレス48kHz/24bitのモノラルWAV(のひとつのみ)で、内蔵ストレージには14時間の録音が可能。
ただし、ストレージがいっぱいになると「新しく録音された音声で古い録音が自動的に上書き」され、録音が長時間継続する場合「ファイルは30分ごとに自動的に分割される」仕様であることに、念のため、注意が必要かもしれない。
パソコンに送信機を付属のUSBケーブルで接続すれば、USBメモリをパソコンへ挿した時と同じようにドライブのひとつとして認識され、特別なアプリケーションを必要とせずに、送信機1/2それぞれの内蔵ストレージから録音されたWAVファイルを取り出すことができる。
なお、LARK MAXには受信機メニューのMic Settings→Auto RecordをONにしておけば、送信機の電源が入ると、送信機は自動的にストレージへの録音を開始するメニューも備わっている。
どちらの送信機の録音がまわっているかをAMOLEDタッチスクリーンにより一目で確認可能であり、さらに、あらかじめAuto RecordをONにしておけば自動的にストレージへの録音を開始できることも、録音のし忘れを避けるための一助となってくれるだろう。
音質が強化!特にノイズキャンセリング機能
LARK MAXでは、音質の強化がはかられた。それを特に実感したのは「ノイズキャンセリング機能」である。
送信機1/2どちらかのペアリング/ノイズキャンセルボタンを押すか、受信機のクイック設定画面から送信機1/2どちらかのノイズキャンセリング機能のアイコンをタッチすると、送信機1/2"両方"にノイズキャンセリング機能のON/OFFが反映される(=片方の送信機のみにノイズキャンセリング機能をONすることは不可)。
なお、Hollylandから発売されている Lark M1と Lark C1はANC(Active Noise Cancellation)によるものだったが、このLARK MAXのノイズキャンセリング機能はENC(Environmental Noise Cancellation)方式となっている。
人によってその音質の感じ方は異なるかもしれないが、LARK MAXでノイズキャンセリング機能をONにした時の音質は「ノイズキャンセリングが程よくかかりつつも、もともとの音に近い音」の印象を受けた。
そして、その時の周りの環境(音)にもよるかもしれないが、特に室内で動くサーキュレーターや扇風機のようなモーター音に対して有効的で、その一方で、人の声やスマートフォンから流れる楽曲の音はノイズキャンセリングによる影響を大きく受けないようになっているように感じる。
個人的には、LARK MAXのノイズキャンセリング機能はバランスの良い感じになっていて、積極的にONにして使っていけそうだ。
というのも、私が普段使っているLark M1は、ノイズキャンセリング機能をONにした時、自分自身の声の高域が抑えられたような、鼻をつまんで話しているような、そして、声がこもるような音の印象を感じていた。その結果、Lark M1のノイズキャンセリング機能はできるだけOFFにして使うことも多かったのだ。
いくつかのWebサイトによれば、ANCは「ノイズの波形と逆位相の波形を電気回路で作り出し、ノイズの波形にぶつけて相殺する」仕組みとのことで、おそらく相殺をされた時に、音声エフェクトを必要以上にかけたかのような音質となり、結果的に、違和感を覚えることとなったのかもしれない。
今回、このレポートを書くにあたり、Lark M1とLARK MAXの双方のノイズキャンセリング機能がONになった時の音質も聴き比べてみたところ、Lark M1で感じたような違和感はLARK MAXでは感じることがなかった。
これはノイズキャンセリングの方式がANCからENCへ変わったことが、要因のひとつにあるのかもしれない、と推測する。
LARK MAXはどんな人に向くのか?
もともとLark 150は主に「DSLRカメラやミラーレスカメラを用いて撮影をする動画クリエイター」に向いた製品という印象があり、もちろん、LARK MAXもそうしたタイプのユーザーからの支持を引き続き集める製品となるだろう。
しかし、私がこのLARK MAXを推すならば、以下の2つのタイプの人たちかもしれない。
まずは「ATEM Mini Proのようなビデオスイッチャーを使い、企業内でライブ配信の内製化を推進している人」である。
付属の3.5mm TRS to 3.5mm TRSケーブルでATEM Mini ProとLARK MAXをつなげば、よりコンパクトなライブ配信環境を構築することができ、LARK MAXにラベリアマイクをつけることで演者の胸元をよりスマートにみせることができるだろう。
また、こうした現場ではなんらかの理由でライブ配信にトラブルが発生した時のために、別途、レコーダーを用いて同時収録をすることがあるが、さらなるバックアップの手段として、LARK MAXに新しく備わった録音機能で、独立した音声録音もあわせてしておくという用途にも活用できるはずだ。
そして、LARK MAXをもっとも推したいのは「iPhoneなどのスマートフォンを用いて撮影をするクリエイター」で、そのなかでも「FiLMiC Proのような動画撮影に特化したアプリケーションを使って、よりクリエイティブな動画を作るエキスパート」である。
LARK MAXに新しく備わった「USB-Cによるデジタル音声出力」は、先に挙げた録画機能と同様に、Lark 150から大きく変わったことのひとつと言える。
付属のUSB-C to USB-CケーブルやMFI認証を取得したUSB-C to Lightningケーブルを用いることで、アナログからデジタル、デジタルからアナログへの変換が減り、結果的に、劣化をできるだけ抑えた音声が収録可能であることにも期待ができるだろう。
今回Hollylandから新しく発売されるLARK MAXと、すでに発売されているLark 150やLark M1を使い比べてみて感じたのは、LARK MAXは外観的にも、機能的にも、バランスよく作られた製品であるということである。
メインターゲットとなる動画クリエイターたちがこのような超小型マイクを搭載したワイヤレスマイクロフォンに対してこれまで感じていた「こうなったらいいのにな」が、うまくLARK MAXへ反映されて送り出された製品となっていると思う。