日本SGI東芝フジテレビジョンの送出系放送基幹システムを構築して納入したと、共同プレスリリースが配信されてきたのは2008年12月25日のことだ。放送局における基幹システムには、マスター、回線センター、スタジオ(番組収録)、編集などがある。今回のシステム構築は、番組を最終的に放送するためのシステム部分だ。送出系基幹システムは、全体のインテグレーションと全体設計、素材管理、送出サーバーを東芝が担当。日本SGIが、コンテンツサーバ部分のインテグレーションを担当している。

フジテレビの送出系放送基幹システムでは、MXFフォーマットが採用されている。日本SGIのデジタル・アセット・マネージメント事業本部システム・インテグレーション第一課の中村哲志課長は、今回のシステムの特徴について次のように話した。

「フジテレビは、送出時に入れる字幕をどのように管理していくかということを考え、MXFフォーマットに字幕をどう組み込むかという部分に力を入れて開発を行いました。フジテレビは当初から、マスターサーバ設備の運用において、コンテンツサーバ部と送出サーバに分けて運用すると考えていました。それは、送出サーバにはできるだけ負荷をかけずに、負荷がかかるものについてはコンテンツサーバで行うというものでした」

今回の送出系放送基幹システムは、コンテンツサーバ、送出サーバ、素材管理からなる番組送出システムと、CM送出システム、提供送出システムなどのサブシステムと番組表に基づいて番組・CM・提供・スタジオなどを切り替えて放送するためのマスターAPCやスイッチャーなどのコアシステムにて構成されている。マスターサーバ設備と地上波用マスターAPC設備は2008年12月から稼働し、BS用とCS用のマスターAPC設備については順次稼働させるという。

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今回導入したフジテレビジョンの地上波マスターAPC設備

今回導入したフジテレビジョンの地上波マスターAPC設備


MXFのチェック、字幕の追加に対応するコンテンツサーバ

送出系放送基幹システムで採用しているMXFフォーマットはOP1aだ。このOP1aに「字幕」を追加していることが特徴だ。ここで言う「字幕」とは、テロップとして映像に含まれるものではなく、障害者向けの字幕放送に対応するためのものである。

マスターサーバ設備のなかでもコンテンツサーバは、番組素材の完パケテープからMXFフォーマットを作成してサーバに蓄積し、さらに送出サーバへと送る重要な部分を担っている。地上波・BS・CSの番組送出をマスターサーバ設備一元管理するために、これまで以上に安定した運用を実現する必要も生じていた。コンテンツサーバの核となる部分には、オムネオン・ビデオネットワークスのOmneon SpectrumメディアサーバーとOmneon MediaGridアクティブストレージ・システムを採用しているほか、日本テクトロニクスのコンテンツ検証システムCertify、アイ・ビー・イー・ネット・タイムのトランスコーダーなどを使用している。字幕をSMPTE 436Mの形式でMXFに含めるための機能は、日本SGIが自社開発して組み込んだ。

「フジテレビでは当初、字幕用のファイルを別で管理するかどうかを悩まれていたようです。しかし、MXFフォーマットでファイルを管理していくのであれば、字幕も一緒に含んでいた方が良いと思いました。この検討を行っているときに、SMPTE 436M(*1)のドラフト仕様が確定しつつある状況でした。これは、SDI信号に含まれているアンシラリ情報を、フレーム単位でMXFのデータとしてもたせるものです。この方式を利用すれば、アンシラリ情報部分に含められた字幕をMXFに入れることが可能になりました。これは、世界でも初めての取り組みではないでしょうか」(中村氏)

(*1)SMPTE 436M:全米映画テレビジョン技術者協会が策定した標準規格の1つで、「MXF Mapping for VBI Lines and Ancillary Data Packets(VBIおよびアンシラリ・データ・パケットをMXFに同梱する方式)」を規定したもの。

(*1)SMPTE 436M:全米映画テレビジョン技術者協会が策定した標準規格の1つで、「MXF Mapping for VBI Lines and Ancillary Data Packets(VBIおよびアンシラリ・データ・パケットをMXFに同梱する方式)」を規定したもの。

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コンテンツサーバ部分の動作は次のようになる。コンテンツサーバの入口にあたる素材ゲートウェイで完パケ素材を受け取る。素材ゲートウェイは、MXFフォーマットの完パケ素材を受け取る場合にはFTPサーバとして見えるが、ここで完パケ素材からメタデータを取り出し、素材管理部に送っている。素材管理部で、そのメタデータがフジテレビのファイル搬入基準に沿ったものであるかどうかをチェックしている。番組が完パケテープで搬入された場合は、Omneon Spectrumにベースバンドで入力してエンコードし、MXFフォーマットへと変換している。Omneon MediaGridに置かれた番組素材は、Certifyにより、MXFエッセンスデータ部分である映像データのチェックを受けた後、送出用に待機することになる。素材を格納しておくストレージであるOmneon MediaGridは、グリッド型ストレージだ。24時間365日安定して動作すること、ドライブの一部に不具合が発生してもバックアップされていること、トラブルが発生した時はドライブ交換がしやすく復旧までの時間も短くて済むこと、負荷分散がなされていることなどから選択したという。

東芝が構築した、送出サーバ、CM送出システム、提供送出システムには、東芝製ファイルベース送出システムVIDEOSを活用。コンテンツサーバで待機している番組素材は、MXFフォーマットのまま送出サーバのVIDEOSに送られ、ここでベースバンドにデコードされてマスターへと送出されている。

「同じMXF OP1aフォーマットであっても、各社がSMPTE 436M仕様を使う段階での解釈が微妙に異なり、メタデータの記述が微妙に異なります。それを許容できるMXFフォーマットの自由度の高さというメリットでもあるのですが、エンコードとデコードで機器が違うとうまくいかないというデメリットも生じてしまうのです。こうした解釈の違いによる不具合が生じないようにしてスムースな運用ができるようにするため、コンテンツサーバ部の素材ゲートウェイでは、ファイルを受けつつ、メタデータの細かい修正を同時に行うようにインテグレーションしました」(日本SGI第二営業本部第一営業部第三課 加藤健太郎氏)

1年間をかけてMXFフォーマットへの理解を深める

フジテレビがMXFフォーマットの活用に着目したのは5年以上前になると、日本SGI第二営業本部第一営業部第三課の石津暁史課長は話した。

「フジテレビは、今回の送出系放送基幹システムで初めてMXFフォーマットを採用したわけではないんです。2005年から稼働しているデジタルアーカイブシステムで、日本で初めてMXFフォーマットを採用しています。当時、今後の放送システムをネットワークを使ってどう結びつけていくかというプロジェクトがありまして、この一環で、デジタルアーカイブシステムを構築する構想が出た際に、有力フォーマットの一つとしてMXFが候補になったわけです。当時、コンサルティングを含めてフジテレビへのシステム構築の支援もさせていただいておりましたが、その頃は、MXFフォーマットが提唱された段階で、海外放送局で事例が出始めた時期でもありました。MXFはベンダーやメーカーを越えた受け渡し用の標準フォーマットに成長していくとフジテレビは考え、デジタルアーカイブシステムに採用したというわけです。これが最初ですね」

このデジタルアーカイブシステム構築後、MXFフォーマットの基本構造をはじめ、技術的に深い部分までを1年間かけて、月に1~2回のペースで「MXF勉強会」を実施したのだという。これは、放送局内の共通ファイルフォーマットとしてMXFフォーマットを使うために、MXFフォーマットの技術的な可能性を調べる趣旨で行われたものだという。この勉強会により理解を深めながら、放送局の核となるラッパーファイルとして採用していこうという方向性が見えてきたようだ。

「勉強会により、フジテレビも当社も、お互いにMXFの基礎の共有ができていたことで、今回の送出系放送基幹システムについては、MXFフォーマットをどのように応用するかというところからスタートすれば良かったので助かりましたね」(中村氏)

MXF OP1aのデータ構造は、ビデオ1フレームごとに、ビデオ映像のエッセンスデータと、8chの音声エッセンスデータ、およびアンシラリー・パケット・データが付加するものだ。この構造を利用して、送出系放送基幹システムでは、アンシラリー・パケットに入れられた字幕データを8chの音声データに続けて固定長で付加するものとなっている。字幕データを別に持たせると再ラッピングが必要になってしまうため、全フレームをコピーする必要が生じてしまう。これでは、サーバ負荷もかかり、コピーの時間もかかることになる。字幕データを1フレームごとに固定長で持たせれば、フレームごとに差し替えもればよいことになり、再ラッピングも不要になる。今回のシステムでは、一部分のフレームだけの書き換えには対応しなかったようだが、全フレームを書き換えても、映像データに比べて字幕データはかなり小さいことから、素早い字幕変更が可能になったという。

自由度の高さから、メリットもデメリットもあるMXFフォーマット。しかし、ファイルフォーマットの構造を理解して運用すれば、その活用範囲は広く、可能性もかなり高いものと言えそうだ。