カメラの収録環境のテープレス化、編集・フィニッシング環境のファイルベース化移行にともなって、昨年あたりから「MXFファイル」という言葉がよく聞かれるようになってきた。すでに、パナソニックP2、ソニーXDCAM/XDCAM EX、池上通信機GFCAMといったカメラの標準ファイルフォーマットとしても採用され、この収録メディアを扱うノンリニア編集システムやメディア管理ソリューションにおいても、メタ情報を用いて制作効率化をするために利用が始まっている。MXFファイルはもはや、テープレスカメラやノンリニア編集に不可欠なファイルとしてだけではなく、ファイルベースワークフローを構築するうえで欠かせないものになってきているとも言える。

さて、実際のワークフローを構築する段階で、MXFをサポートしている機器だからといって安心できないのも、MXFを扱う際の特徴でもある。同じMXFファイルを扱いながらも、そのMXFファイルを扱う機器が異なっただけでデータが読めないなんてことが起こってしまうのだ。読者の皆さんは、文書をやりとりするのにマイクロソフトOfficeのWordファイル(.doc)やテキストファイル(.rtf、.txt)をやりとりしたことがあるだろう。それらのファイルは、WindowsであろうがMacであろうが、ソフトウェアで対応してさえいればファイルを開くことができるはずだ。しかし、MXFファイルにおいてはこうはいかない。拡張子が同じファイルであっても、使うソフトウェアによっては開けない、つまりデータの互換性が取れない可能性があるわけだ。ここに、通常のアプリケーションファイルの動きとは異なるMXFファイルの難しさがある。

なぜこんなことが起こってしまうのか。詳しくは、次のセクションでアイ・ビー・イー・ネット・タイムの竹松昇氏に解説してもらっているが、簡単に言ってしまえば、MXFファイルは、データを包み込む包装紙のようなラッパーファイルにすぎないのだ。中に包むデータそのものは、各社それぞれのコンセプトに基づいて、標準規定に沿った形でファイルを扱っている。中身に包み込むデータ形式はさまざまな方式を許容しているため、ファイルとしての見た目は同じでも中身は異なるものが存在してしまうわけだ。

今回の特集は、こうしたMXFファイルフォーマットの基礎を理解しつつ、カメラやノンリニア編集以外の部分でもMXFファイル扱われ始めた事例として、日本テレビをはじめNNN系列局間で、素材映像や関連ファイルをやり取りするために運用が始まったMXF局間IP伝送システムを紹介する。制作ワークフロー全体で利用が始まったMXFファイルの広がりを感じ取ってもらえたらと思う。さらに、制作ワークフローで活用が始まった事例として、MXFファイルを制作ワークフロー全体で活用を始めたフジテレビについても、現在取材を進めている。こちらは、取材を完了しだいレポートを掲載する予定だ。