先日Ustreamに関する書籍を上梓し、数多くのUstreamで生中継を行うUstreamerの株式会社ヒマナイヌ川井拓也氏に話を聞いた。ヒマナイヌ社は、映像をベースにした会社である。取り扱う映像は、WebカムからHD映像まで様々だ。その中でいち早くUstreamを企業のプロモーションなどに取り入れて業務として、日々Ustreamを取り扱っている。しかし川井氏は、「Ustreamは、確かに映像メディアですが、実はこれまでのメディアとは違いますよ。似て非なるものなんです。そこに気づけばビジネスにもつながります。我々は映像の世界にいる分、アドバンテージがあります。」という。急速に広まるこのUstreamについて、「映像」の前にそのメディアの特性とビジネス化について解説してもらった。

Ustreamは、全く新しいメディア

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Ustreamer養成講座中の川井氏

Ustreamは、何を持ってブレイクしたのでしょうか?

Ustreamが何を持ってブレイクしたのかという事になりますが、2つの状況があります。まず、出資をしたソフトバンク社長の孫正義氏が株主総会や新商品発表会で実際に中継し、自らメディアを持って、企業自身が演じていくというお手本を示したことによって、他の企業が興味を持ち始めたことは確かです。実際にプロモーションなどで採用されている事例も多くなっています。そしてもう一つはUstreamの構造そのものです。今、ビジネスユースでTwitterが良く取り上げられます。TwitterのタイムラインにUstreamのURLが、ここ半年でよく見受けられるようになりました。まずTwitterのユーザーには、認知されています。コメントやURLがタイムラインに流れてくることで、いろんな生中継が日々行われているという事が実感できます。新しい中継を知る手段としてTwitterで知り、拡散していくという構造そのものが、隆盛の大きな要因だと思います。

ビジネス勝機であるUstream

Ustreamは、ビジネスチャンスなのでしょうか?

これはある意味イエスと言えます。Ustreamは、「誰でもできる」のですが、あるクオリティーを超えるものは「誰でもできない」のは周知の通りだと思います。プロのクオリティーで実際に行う際に、そのネット生中継に対して誰がお金を発生させ、支払うのか?を明確にさせないとビジネスにはなりません。その部分のコストが必要不可欠であるとそれぞれの役割をプレゼンする必要があります。Ustreamは、自分でiPhoneでもWebカムでもできます。しかしやってみると、やはりクリアな音声や映像にするには機材が必要だと感じます。クオリティーの高い映像や音響で、ライブ中継を行うにはやはり、ある程度の機材とスキルが必要になります。

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昨年のPRONEWSにも参加しているそらの女史→こちら

では、お金を払うクライアント側で考えてみましょう。まず考えられるのはタレントを起用する。著名人だから映像のクオリティーは必要だということで映像チームが招聘される事もあります。実際にUstreamで生中継するためには、最後の出口にインターネットとパソコンがあれば完結します。それをわかっているクライアントの場合には単に機材とオペレーターで呼ぶという事は少ないと思います。

では何でお金をとるのか?これまでの映像メディアとは違います。違う要素が必要です。端的に言うと、その生中継に多くの視聴者を呼べる力があるか?ということです。現在でいうとダダ漏れで一世風靡をしているそらのちゃんは、そのよい例です。彼女が一年積み上げたアカウントの強さ、パーソナリティーの強さがあるので、彼女に生中継を依頼すると、中継だけではなく、人を連れてきてくれます。そこが彼女のパワーです。彼女は十分ビジネスとして成立しています。

Ustreamは確かに映像メディアではあるんですが、厳密に言うとそうではなく、全く別物なのです。生中継の存在時代を生中継しながら伝えなければならないその部分を理解しておく必要があります。それと映像技術があれば今はビジネスとして成立しますね。

あとは、番組自体を商店や企業の人が行う場合についてお話しましょう。よくUstreamをやれば儲かるのですか?と聞かれます。答えはイエスでありノーです。ビジネスチャンスではありますが、Ustreamが即ビジネスに繋がるわけではありません。そこは少しばかり考えないといけません。Ustreamが特別なものではなくて、電話やFAXなど、商売の一つの回路でしかないんですね。Ustreamは、生中継という一つの回路として風穴があけられると思います。

例えば商店街のそば屋であれば、実演のそば打ちがあります。実演は、ビジュアルや匂いを商店街の通行人に見せて、誘導するも一つのライブサイネージです。既にやっているデモンストレーションや営業をさらに生中継をすることによって、その場所にいない人に知らせることができます。人気を集め全国に知れ渡るという事があるかもしれません。

例えば、最近ではハヤブサの中継をしていた和歌山大学。この生中継をのべ60万人の視聴者が見ていました。この生中継で一気に和歌山大学の名前は知れ渡りました。これまで和歌山大学ができなかった認知の方法でもある訳です。こういう事は面白いですよね。ちょっとした事が話題になって広がっていく面白さ。意図しないブランディングだったと思います。媒体価値として名前を売るとしたらこれは大変ですよ。マーケティング、ブランディングなど広報IRにUstreamは使えますね。

映像メディアの雄テレビは、Ustreamと邂逅するのか?

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Ustream生中継の現場から

川井さんは、テレビのまねをすると劣化するとよくいいますが、それはどういうことなんですか?

テレビは偉大なる映像メディアです。まず技術的なところは先達のメディアとして学ぶところは多く、大いに取り入れるべきだと思います。テレビにおける映像の完成度は非常に高く、その映像だけで完結できます。エンターテインメント性を持ったものです。

完璧な映像、構成台本を見るのは楽しいですが、そのため突っ込む余地がない、その点Ustreamの良さは、何か中継をしている人が何か視聴者に手助けしてほしいムードがあったり、コメンしやすいムードがあります。基本コメントする事によってコミュニケーションをとる文化があるんですね。

これは、私の持論ですが、視聴者がコメントできない生中継はUstreamではないという前提にあるんです。それは、コメントがされない限り新しい視聴者が増えないということですから。コメントによって生中継されているURLがタイムライン上に拡散することは前記した通りです。

ただ単に生中継できる技術では埋没してしまいます。100人見ていても、そこでつぶやきがない場合は、101人目の登場はないわけです。コメントしてくれる視聴者が多いほどより多くの視聴者を獲得してくれます。そこから逆算すると多くの人がコメントしたくなるような番組作りを考える必要はあります。その部分が提案できると十分ビジネスとして成立します。

ではどんなものがコメントしやすいのか?それは、そこに映っている状況が、何か奇妙なものが映っていたり、かわいらしい女の子が映っていたり、何か突っ込みたくなるような状況が映像にある事です。完全に完結した映像だと突っ込みようがないんです。先日から始まった作家の倉本美津留氏が始めたホワイトボードTVはまさにその辺を逆手に取ったTV番組です。

Ustream誘導テレビプログラムと銘打れ、テレビ放送とインターネット動画配信を連携させています。TVチャンネルに流れるのはホワイトボートに書かれたお題のみ、本編はすべてUstream側で進行されています。これは面白い状況です。今様々な状況で起こっている事ですが、物事の境目があいまいになってきています。つまりプロとアマとの境目がなくなってきたといってもよいでしょうか。Ustreamの世界はまさにその風穴をあける存在であると思っています。

これまでの映像の世界と違って、総合格闘技的な要素があるところなんです。音声、映像、ネットという三要素が融合するという交差点みたいな存在で、音楽、サウンドエンジニア、ラジオ、Youtubeの人たちなど、それらの分野からいろんな人が参入してくることは非常に面白い状況だといえます。これまで自分たちがやってきた事をここに持ち込んで、何ができるのかな?と試行錯誤しているのが今の状況ではないでしょうか?

今後ヒマナイヌが取り組むUstreamとは?

今後のUstreamについて教えてください。

我々は今地域活性化に興味があるんですね。これまで大企業やマスメディアからしか発信できなかった情報のルートからとはちがうルート、それがUstream、そしてネット生中継ではできますね。すべてが1万人を目指す必要はないんです。毎週何かやっていて、毎回100人の視聴者がいる一種のファンクラブ、コミュニティーができていくと面白いと思っています。1万人見るものが良いものでしょうか?それよりも必要な100人に伝わる事が大切です。たとえ数が少なくてもターゲットにあったモノが確実に展開できます。その辺りのサポートはしたいと思っています。もちろん大企業が求める技術とかノウハウというものを如何にコンパクト化して、安価にできるか?という事を考えています。